専門編

国際協力の学び方

1. 国際協力を学ぶということ

国際協力を学ぶ学生の目的は様々であるが、ここでは将来国際協力、特に開発途上国への開発協力・援助関連の仕事に就きたいという学生のみならず、公務員、民間企業、NGOその他分野(起業するなど)へ進む学生も想定して、学びのための手がかりを紹介する。

まず、第一に、開発途上国への開発協力の理論と実践との関係について考える。国際協力の歴史を顧みると、およそ70年前の20世紀の半ばに多くの植民地が独立し、自国の運営を担ったとき、先進国と新独立国(開発途上国)との間の経済格差を緩和するために始まったのが今日で言う国際協力(援助)であった。従ってそれはまず実践があり、その活動が本格化することによって活動内容やその効果の理論化が開始された。ゆえに実践志向の強い分野であり、理論から実践を規定するだけではなく、現実を観察し、そこから理論を学ぶという姿勢が常に求められる。その意味で、大学の教室のみで学べることには自ずと限界があることを理解する必要がある。もちろん、歴史的経緯、文化的背景や理論的な知識を持たずに拙速に実践へと向かうことは、時として大きな失敗を招くことも認識する必要がある。

次に国際協力が西欧諸国から問題提起され、活動が開始され、方向性が決められてきた経緯を理解する必要がある。経済開発、社会開発、人間開発と言った用語あるいはスローガンは基本的に欧米的価値観に基づき組み立てられている。例えば開発、協力、貧困、参加などはまず英語にdevelopment, cooperation, poverty, participationといった用語と概念があって、日本語の用語はその翻訳である。オリジナルと日本語の翻訳の間には微妙な、時には大きな差があるので、国際協力を本格的に学ぼうとすれば、必ず英語その他の言語の文献に当ることが不可欠である。上に述べた実践の分野ということを併せ考えれば、実務、政策両面でこの分野をリードして来た世界銀行やIMF、国連機関などの文献は重要であり、批判的にという意味も含め検討することが必要である。

以上のように国際協力が欧米的価値観と概念、イニシアティブによって組み立てられているという事実を受け入れ十分その考え方を理解した上で、そこに留まることなく相対化し評価することが求められる。例えば日本の開発の歴史、実績、価値観に照らして開発課題を批判的に論ずることも開発協力を理解する手助けとなる。日本を含めアジア、アフリカ、中東、中南米といった地域の開発の歴史や経験について学ぶことは、開発協力に付加価値を付与する出発点を与えてくれる。その点で、中国あるいはインドといった「新興国」が、協力・援助をする側(ドナー)となって影響力を強めている点は注目すべき動きである。

さらに国際協力に直接、あるいは間接にでも関わる者は、異なる言語、文化、慣習、制度を持つ人々とのコミュニケーションが必要となり、多くの場合それは英語(あるいはアフリカでは仏語、中南米ではスペイン語、中東ではアラビア語,そして重要度を増す中国語)で行われる。そのため開発途上国の人々との交渉、他の先進諸国、国際機関とのやり取りにおいて、開発に関わる諸概念、日本の経験や価値観などを日本語以外の言語(上記以外の少数言語も含む)で理解、表現する能力を持つことが不可欠である。

なお国際協力の対象となる分野は政治、経済、法律、社会分野から環境、ジェンダー、難民問題、文化交流などと極めて広いが、国際協力に直接に携わるだけではなく、どのような道に進むにしても政治、経済、国際関係に関わる知識、さらに現地の情勢を理解する上では社会や文化への理解が求められる。それゆえ、政治学、経済学、社会学、法学、人類学さらに語学といった分野への理解をそれぞれの興味・関心にあわせて深めることも必要である。

2. 国際協力の目標(SDGs)と多様なアクターとの連携

今日、国際協力全般を理解する上で欠かせないフレームワークはSDGs(持続可能な開発目標)である。2015年の国連加盟国による合意の下、2030年を目標年限に17の包括的な目標を設定したこの目標達成のために、既存の二国間ODA(政府開発援助)、国連、世銀などの国際援助機関のみならず、NGOや民間企業の役割とそれらアクター間の連携が強く求められている。特に、民間企業によるCSR活動(企業の社会的責任)、社会起業家、フェアートレードなどは注目されている分野である。このように今後開発協力を進めるためには、資金や技術・経験を有する多種多様な組織、人材の参加が必要であり、それら様々なアクターによる実践的な取り組み、成功と失敗事例の積み上げと反省が益々重要になってくる。こうした新しい潮流にも関心を抱き、機会があれば大学内外で実施される海外および国内での活動への参加は貴重な経験となる。

3. 学習の方法

国際協力は幅広い課題に柔軟に対応することが求められる分野であるが、関連する文献の多くは経済、政治、社会といった既存の学問的切り口から現実を見るものとなる傾向にある。そのような前提のもと、学習の参考となりそうな近年に刊行された文献を以下に示す。また、国際協力の知識と経験は、実践の中で磨かれるものであることから、在学中、国内外の援助機関、NGO、民間企業が提供するインターンシップや課外のボランテイア活動などに参加することも意義がある。

<開発問題、国際協力全般>

  • 大塚啓二郎『なぜ貧しい国はなくならないのか 第2版』日本経済新聞社、2020年
  • 黒崎卓・栗田匡相『ストーリーで学ぶ開発経済学-途上国の暮らしを考える』有斐閣、2016年
  • ジェトロ・アジア経済研究所 黒岩郁雄・高橋和志・山形辰史編『テキストブック開発経済学 第3版』有斐閣、2015年
  • 下村恭民 他 『国際協力‐その新しい潮流』(第三版)有斐閣、2016年
  • Goldin,Ian, Development – A Very Short Introduction, Oxford University Press, 2018

<国際機関など>

OECD DAC, 世界銀行、アジア開発銀行、IMF、国連開発計画(UNDP)などの国際機関およびJICAのホームページ

毎年発行される世界銀行の『世界開発報告』及び国連開発計画の『人間開発報告』等は、国際的な援助や協力に関する重要な課題、新しい動向を紹介し解説しているため、初学者には参考となる。なお広い読者層を対象としているため平易な英文で書かれているので、英語で読むことで基本的な単語、用語の確認にも役立つ。

執筆者:嶋田 晴行
執筆日(更新日):2021年2月28日