テクニック編

大学院進学の薦め

1. 大学院進学とは

現在すでに国際関係学部に所属し、新聞やテレビ報道を通じて日々揺れ動く国際関係の現実に接しておられる学生諸君ならば、痛切に感じておられることでしょうが、学部4年間をかけてみなさんが学んでいくべき諸問題の範囲は、近年大きな膨らみを見せています。その原因の第一は、1980年代末からの大きな世界政治の変動―社会主義諸国の政治体制の崩壊がそのもっとも端的な現われ―でしょう、また第二に、1980年代から急速に進行しつつある新たなグローバリゼーションの大波です。そして、2001年の9・11同時多発テロ以降の世界の激変と2008年世界金融危機、そして2020年に世界を襲ったパンデミックCovid-19です。

学部教学の限られた時間と資源のもとで、わたしたち教員もできる限りの努力を払ってはいるのですが、もはや4年間の学部教育だけで国際関係の高度な専門的知識を詳細かつ包括的に、みなさんにお伝えすることは、相当に困難になってきました。そこで、将来、大学や研究機関、シンクタンク等の研究者を志す諸君、国際連合等の国際機関への就職を目指している諸君、あるいは高度な専門知識を駆使した職業人として世に出て行こうとする諸君に、是非ともお勧めしたいのが大学院進学の道です。

今日の大学院教育は、日々変化しつつある世界情勢に対応すべく、つねに新たな研究課題、教育目標を設定していかなくてはなりません。わたしたちの回りを見回してみても、冷戦により二分されていた世界が、その終焉により文字通り「地球化」しつつあります。しかし、このグローバリゼーションは、平和の増進や富の拡大をもたらす一方で、地球規模の危機を発生させる危険性をも孕むようになってきています。金融システムの崩壊、核兵器の拡散と地域紛争の可能性の増大、環境や生態系の破壊、無差別テロ事件の発生等、枚挙に暇がありません。また、南北問題が叫ばれるようになって数十年を経ても、世界の貧富の格差はなくなっていないどころか、情報革命がそれをさらに拡大する可能性すら指摘されています。あるいはまた、民族対立や地域紛争の頻発、文化的な軋轢は世界中で数限りなく発生しています。人権、民主主義、市場、情報革命の浸透は、世界中の生活様式の統一を少なからず迫る側面を持っていますが、はたして世界は今後、多様な文化を共生させ、そのことによって人類共通の課題を解決することのできる知的・実践的な枠組みを創り出すことができるのでしょうか。

大学院で学ぶには、大きく分けて国内の大学院入学の道と、国外の大学院入学の道があります。国際関係に限ってみても、近畿では本学以外に神戸大学、中部には名古屋大学、関東には早稲田大学等に関連する大学院研究科が存在します。また、わが学部からも多数の卒業生がこれらの大学院へ進学しています。さらに国外となると、アメリカ、ヨーロッパを中心としてそれこそ無数の大学院が存在しています。これらに関する情報は、各大学のホームページを参照するほか、明学館1階にある国際課で提携校のシラバス等関連する資料を閲覧することができます。しかし、ここではまず、みなさんの多くの先輩たちが学ぶ、ここ立命館大学大学院国際関係学研究科について、詳しくご説明しておきましょう。

2. 立命館大学大学院国際関係研究科の特徴

1992年4月に設立された立命館大学大学院国際関係学研究科は、2022年には創立30周年を迎えます。本研究科の特徴は、その「国際関係」の名前に恥じることのないさまざまな国際提携関係を各国の大学や高等研究機関と結んでいる点にあります。このことは、ハーバード大学、ロンドン大学、シアンス・ポ・パリ等が所属する国際関係大学院連合(APSIA: Association of Professional Schools of International Affairs)に、日本から唯一の正規メンバー校として加盟していることに、もっともよく表れているといえるでしょう。また、日本で最初の―そして今でもなお、もっとも充実した内容の―デューアル・マスター・ディグリー制度をアメリカン大学とのあいだで開設していることは、みなさんもよくご存知のことと思います。これは、最短2年間で、本研究科とアメリカン大学SIS(School of International Service)の二つの修士号が取得できる画期的な履修プログラムです。現在では、このアメリカン大学以外にも、オランダのハーグにあるエラスムス大学ロッテルダム社会科学大学院大学など合計6校の間でDual Master's Degree Programが開設されています。この制度を活用することによって、国際関係全般だけでなく、開発問題や欧州連合に関する本格的な研究をそれぞれの本場で体験することができます。さらに、本研究科では毎年多くの客員教授を内外から招聘し、本研究科教員との研究協力を推し進めることによって、大学院生の教育研究指導にも多大の成果をあげています。

本研究科が取り組んでいる先進的な教育システムは、これだけにとどまりません。学部時代には数日から1ヶ月程度であったインターンシップ・プログラムが、大学院では 短期から長期まで希望に応じて実習に参加することができます。これまで派遣実績のある機関を見ても、国内では国際協力銀行、国際交流基金、国際連合人道問題調整事務所、日本・スペイン文化経済交流センター、在大阪・神戸アメリカ領事館など多数に上りますし、海外では、国際連合ボランティア計画(ドイツ)、日本貿易振興機構(各国海外駐在事務所)、朝日新聞社(アメリカ総局)、読売新聞社(アメリカ総局ワシントン支局)など、多種多彩です(最新の情報は、研究科のHPで確認してください)。ここからも、本研究科が、幅広い実務知識を持った高度職業人養成にまい進している姿をうかがい知ることができるでしょう。

3. 国際関係研究科のカリキュラム

このような知的課題に答えるべく、本研究科では2015年度から新たなカリキュラムを発足させました。それが、従来の「グローバル・ガバナンス」「国際協力開発」「多文化共生」「GCPプログラム(Global Cooperation Program)」という四つの基本プログラム、プラス GJP (Global and Japanese Perspectives Program)という新カリキュラム体系です。それぞれの詳しいカリキュラム体系は、当該のHPをご覧いただくとして(http://www.ritsumei.ac.jp/gsir/education/first/course.html/)、ここでは2015年に発足したGJPについて簡単に概要をご説明しておきましょう。

これまでGCPにおいては、すべての授業を英語で行なうことによって、高度な語学力と国際関係学にかかわる専門性の養成に力を注いできました。これに対して、GJPでは、日本語を母語もしくは第一外国語とする院生に対して、まずは日本語で国際関係の素養を身につける機会を提供し、その基礎の上に英語による履修を行なうというコンセプトとにもとづいてカリキュラムが編成されています。みなさんもこれまで経験があるように、学問コンテンツの基礎部分を習得するためには、母語で行なうのがはるかに効率的です。そして、国際関係的な思考方法の基本を身につけるためにも、それはきわめて有効な学習方法です。このように、おもに日本語で提供される「グローバル・ガバナンス」「国際協力開発」「多文化共生」の三つのプログラムと、英語で提供される「GCPプログラム」の利点を合わせもったものが、このGJPプログラムなのです。もちろん、英語を母語とし、さらに日本語で国際関係学を学ぼうとする国際学生のみなさんにも最適のプログラムとなるでしょう。

4. 院生として何を目指すか

最後に、学部学生としての学びと、大学院性としての学びの違いについて少し触れておきましょう。わたしが大学院に進学した 1980年代には、大学院に行くとはすなわち大学の研究者、つまりは「大学の先生」になることと同値でした。多くの大学では前期課程(修士課程)は後期課程(博士課程)と連結されており、ひたすら「研究論文」を執筆するための修行に日々勤しんでいたわけです。しかし、今日の状況は大きく異なります。ほとんどの前期課程(修士課程)院生は、2年の学修の後に卒業して民間企業や公務員(国内、国際)となります。つまりは、高度職業人として必要な基礎知識と経験を積むものとして、今日の大学院の位置づけが大きく変化してきたわけです。

しかし、そこで求められる資質と力量の本質は、あまり変わっていないように思います。学部学生時代のレポートや卒論では、事実やデータ、理論にもとづいて研究を行なうとは言うものの、データに関して元データにまで当たり、何冊もの文献によって事実を裏付け、理論についても原書に当たって訳文まで確かめるといった作業は、なかなか行なえないでしょう。しかし、大学院レベルの研究では、それが当たり前、すべての出発点なのです。たとえ2年の学修の後に研究者の道を歩まないとしても、やるべきことは同じなのです。まさに、研究の厳しさと醍醐味を実体験する場が大学院といえるでしょう。

もう10年もすれば、わたしたちが住むこの高度知識社会においては、多くの人が修士号、博士号をもっていても不思議ではないといった時代がやってくることでしょう。それだけ、現実社会は深い分析力・洞察力を備えた人材を欲しているのです。複数の言語を操りながら、豊かに知的コミュニケーションを展開できる力を身につけるために、どうか一度、大学院進学の可能性について検討してみることを心からお勧めいたします。

執筆者:板木 雅彦
執筆日(更新日):2021年1月8日