専門編

環境学の学び方

1. 環境学とは

環境問題は、1960〜70年代に顕在化した公害問題に始まり、1990年代以降のグローバル化の進展に伴い、地球温暖化、オゾン層の破壊、海洋汚染、生物多様性の減少といった地球環境問題が深刻化するに至った。公害問題では、原因及び加害者の特定は可能であり、影響も地域的であった。これに対して、地球環境問題では、原因の特定が困難で、加害者は不特定多数であることが多い。また、被害は全地球ならびに将来世代に及ぶ。複雑化し、深刻化する環境問題にどう取り組めばよいかを考えるのが、環境学である。

環境問題を扱う社会科学は経済学、法学、政治学、社会学等がある。これらの社会科学や、工学、物理学、生物学等の自然科学を含めて、環境に関連する科学は、「環境学」という幅広い学問体系に位置付けられる。

それでは、環境の社会科学と従来の社会科学との違いはなんだろうか。決定的な違いは、人間社会の内部の諸関係を明らかにすることが従来の社会科学の課題であったのに対し、環境学に位置付けられる社会科学は、これに加えて、自然と人間の諸関係を明らかにすることである。下の表でいえば、(2)、(3)の領域も分析対象としながら、(1)環境破壊の原因となっている社会内部の分析を行い、環境保全の立場から社会のあり方を根本的に改革することを志向する。

その意味で、環境学は、幅広い視点に立ち、環境保全のための社会の変革を目指すきわめて実践的な学問であると言えるだろう。

社会 自然
社会 (1)社会⇔社会 (2)社会⇒自然
自然 (3)自然⇒社会 (4)自然⇔自然
(出所)植田・落合・北畠・寺西『環境経済学』有斐閣、1991年、p.45の図2-6に加筆。
※(4)は自然の諸法則を明らかにする学問、すなわち自然科学の領域である。

2. 学習の方法

従来の学問領域からすれば、経済学、法学、社会学、政治学とほとんどすべての社会科学を含んでいることから、学ぶべきことは多い。経済学、法学、社会学、政治学等の基礎的知識は当然もっておくべきだろう。また統計処理の行い方、データの読み方などの修得、さらにフィールドワークに関する知見も必要である。

加えて、環境経済学、環境法学、環境社会学、環境政治学に関する基礎的文献を読んでおきたい。また、書籍、新聞、雑誌(各種のジャーナル)、インターネット、テレビを通じて、環境問題に関する感性を磨いておくことも重要である。環境問題の原因は多岐にわたり、一つの学問領域のみでは解決できないことが多い。環境学を学ぶ者として、専門性を深めると同時に、他の専門領域への好奇心を持ち続け、複数の領域を結びつける構想力を養う必要がある。

最も重要なことは、環境問題の現場に足を運んで環境破壊の現実に対する感性を磨くことである。機会を見つけてできるだけ現地調査をすることが望ましい。人によっては、なかなかそのような機会を見つけられない場合もあるだろう。そのような場合は、比較的しっかりしたNGOが主催する学習会に参加することも有効である。NGOにもいろいろあるので、これは個別に教員に相談することをお勧めする。

何より大事にすべきは、環境問題に対する感性である。みずみずしい感性がなければ、いくら机上の学問で成績がよくてもまったく意味をなさない。

環境学の学習法

  1. ステップ1:環境関連諸科学(経済学、法学、社会学、政治学等)の基礎を勉強する。
  2. ステップ2:環境問題に関する感性を醸成する。
  3. ステップ3:理性レベルでの問題意識の形成
    • ・ステップ2で得た感性レベルでの感覚を、理性レベルの自覚へと転化させる。頭で自覚する。
  4. ステップ4:関心を持った問題について調べる。
    1. 1)現場を見て回る。
    2. 2)手当たり次第に雑多な情報を収集する。
    3. 3)新聞・雑誌・映画・インターネット・テレビを通じた環境問題に関する知識の取得。特に新聞は最低毎日読んで関心のある分野は切抜きをしよう。
    4. 4)現地調査・見学(機会を見つけて積極的に足を運ぼう。)

3. 入門的な資料等の紹介

環境問題に関心を持っている(と自称している)学生にあっても、そのほとんどが全く本を読んでおらず、とても驚くことがある。地味ではあるが、学問を修めるには書籍を読むことをまずは薦めたい。

  1. 1)大島堅一(2011)『原発のコスト』岩波書店(岩波新書)
    • 2011年3月11日におきた東日本大震災をきっかけに福島第一原発でシビアアクシデントが起きた。これは、日本史上、最大級の環境問題となった。この問題に、社会的費用論から切り込んだもの。原発問題の全体像を知ることができる。
  2. 2)原田正純(1972)『水俣病』岩波書店(岩波新書)、同(2002)『金と水銀―私の水俣学ノート』講談社 その他原田正純氏の著作(多数)
    • 水俣病問題は日本の環境問題の原点であり、現在も続いている問題である。原田正純氏は1960年代以来一貫して水俣病問題にかかわってきた医学者である。ここであげているもの以外にも、原田氏の著作は環境学の入門時にできるだけ多く読む必要がある。
  3. 3)R.カーソン(1972)(青樹簗一訳)『沈黙の春』新潮社
    • 自然保護と化学物質公害を追求した、環境分野における先駆的な著作。
  4. 4)日本環境会議「アジア環境白書」編集委員会編(1997)『アジア環境白書 1997/98』東洋経済新報社、同(2000)『アジア環境白書 2000/01』、同(2003)『アジア環境白書 2003/04』、同(2006)『アジア環 境白書 2006/07』、同(2010)『アジア環境白書 2010/11』東洋経済新報社
    • アジアにおいて環境保全型社会を形成しうるかどうかが、21世紀の地球環境にとって決定的に重要である。本書は、アジアの環境問題について多方面から分析したものとして、世界的にも貴重である。
  5. 5)J.クラップ・P.ドーヴァーニュ(仲野修訳)(2008)『地球環境の政治経済学』法律文化社
    • 地球環境問題を政治経済学の視点から解説している。グローバル化と環境問題に詳しい。
  6. 6)石弘之編著(2002)『環境学の技法』東京大学出版会
    • 社会科学における環境諸科学についての紹介と、それぞれの視点と方法が解説されている。環境学とは何なのか、学問の概要を把握することができるだろう。
  7. 7)飯島伸子(2000)『環境問題の社会史』有斐閣
    • 環境問題は人々の生活に直接影響を及ぼし、長い歴史を持っている。しかし、体制の変遷についての記録は存在するものの、人々の生活についての記録は極めて少ない。本書では、江戸時代から現代まで、環境問題によって影響を受けた人々の歴史がどのようなものであったのかが解説されている。また、環境社会学についての入門にもなる。
  8. 8)寺西俊一・大島堅一・井上真編(2006)『地球環境保全への途』有斐閣
    • アジアの環境問題についての数少ない入門書である。

4. 発展的な資料等の紹介

分野によって読むべき書籍は異なるので詳しくは教員に相談されたいが、さしあたって読んでおくべき書籍をあげておく。

  1. 1)栗山浩一・馬奈木俊介(2016)『環境経済学をつかむ(第3版)』有斐閣
    • 環境経済学の理論と応用を簡潔に説明している。
  2. 2)除本理史・大島堅一・上園昌武(2010)『環境の政治経済学』ミネルヴァ書房
    • 具体的な環境問題を素材にしながら、環境経済学について解説した入門書である。
  3. 3)大塚直(2010)『環境法(第3版)』有斐閣
    • 環境に関する法体系をわかりやすく解説している。何より、公害問題から地球環境問題まで、環境問題の歴史に則して法律・訴訟について説明しているところが特徴である。環境政策の体系を学ぶ上でも必読である。
  4. 4)飯島伸子(1993)『環境社会学』有斐閣
    • 著者は日本の環境社会学のパイオニアである。本書は環境社会学についての日本最初の教科書といえるべきもので、環境社会学の理論体系がわかりやすく解説されている。
  5. 5)J.S.ドライゼク(丸山正次訳)(2007)『地球の政治学』風行社
    • 環境政治学の標準的テキスト。
  6. 6)高村ゆかり・亀山康子(2011)『気候変動と国際協調』慈学社出版
    • 気候変動問題をめぐる国際交渉について詳しく知りたい人向け。
  7. 7)季刊『環境と公害』岩波書店(年4回刊行)
    • 環境問題に関する日本でもっとも歴史のある専門誌の1つである。ある特定の環境問題について深く探求したいと考えた場合、本誌の過去10年分の目次から論文を探してみることをお勧めしたい。
  8. 8)岩波講座環境経済・政策学 第1巻~第8巻、岩波書店
    • 環境経済・政策学の基礎から最先端までが俯瞰できる。
  9. 9)環境経済・政策学会編『環境経済・政策学の基礎知識』有斐閣、2006年
    • 8)の文献よりも簡単にまとめられている。
  10. 10)淡路剛久・植田和弘・川本隆史・長谷川公一編『リーディングス 環境』第1~5集、有斐閣
    • 環境学を学ぶものが最低限読んでおくべき文献のダイジェスト版である。

その他、環境問題、環境関連諸科学についての書籍は数えられないくらいあるので、興味のある分野の書籍を片っ端から読むことをお薦めしたい。

執筆者:大島 堅一・林 大祐
執筆日(更新日):2018年1月31日