地域編

アジアを知る

1. アジアとは/アジアを知るとは

地理的には、ボスポラス海峡でヨーロッパから、スエズ運河でアフリカから、ベーリング海峡により北アメリカから切り離された広大な範囲(ロシアはウラル山脈の東側)がアジアにあたる。大陸総面積の24.6%(2016年.ただし、ロシアのアジア部分は含まれていない。以下も同様)、世界総人口の59.7%(2017年)、人口密度は1平方キロメートルあたり145.2人(2017年)と、多数の人々が稠密に居住する地域であり、熱帯から寒帯まで広大な自然環境に富む地域でもある。

自然科学的にアジアのイメージを描けば、以上のようになるが、国際関係学部で取り上げるアジア像としては、この地域で暮らす人々が、共時的(現在)にどのような人々(人種・民族)で、どのような宗教を信じ、どのような生活・思考・行動の様式(文化)を持ち、どのような経済生活をして、どのような政治体制の下で社会を構成しているのかという具体像が必要になる。さらに通時的(歴史)な視点を加えると、現在この地域を構成する国々が植民地支配の下にあったのか否か、あったのなら宗主国はどこかといった視点も重要になる。言語や宗教など様々な点で、現在にまで影響を及ぼしていることが多いからである。

しかし、21世紀の現在、この地域の国々にも、経済的な発展の差異が顕在化し始め、それに合わせて、発展する国へ国境を越えて発展途上の国の人々が移動する事例も目立ち始めている。さらには、発展途上国同士での格差も拡がり、途上国間での労働力移動も増加してきている。同時に、近隣諸国間で政治経済的な結びつきを深める動きが盛んになり、一国レベルを超えた地域協力機構を形成し始めている。

人の移動という点に関しては、労働力移動だけに限られるものではない。国際結婚もその事例になろう。途上国から先進国への移動が中心になり、女性の移動が目立つ。とくにアジアでは男女の性比が他の地域とは異なって、男性が女性よりも際立って多いという特徴を示している。いわゆる男児選好が他地域よりも突出しており、そこに経済格差が移動を促進する要因となっている。また最近では、国際観光による移動者数(観光客)の増大や経済への貢献が目立つ国々も増えてきている。

この広大な地域を共通に把握する視角は存在するのか。たとえば、「漢字文化圏」、「儒教文化圏」、「インド文化圏」、「イスラム文化圏」など、特定の文化や宗教に焦点をあてて把握しようとする見方がある。たしかに、これらはある範囲のアジアの地域(前二者は東アジアと東南アジアのごく一部、「インド」では南アジアと東南アジア、「イスラム」では中近東、中央アジア、南アジア、東南アジア、東アジアの一部という広範な範囲)を包含してはいるが、アジア全域にまでは及ばない。

したがって、特定の学問領域(たとえば、政治、経済、社会、文化といった)をアジアという地域の国々に適用してこの地域を把握するか、または内部を地理的に近接した地域に区分して(先にあげた東、東南、アジアといった区分)、その地域や内部の国々の政治・経済・社会・文化の構造を把握するといったエリアスタディ(地域研究)の方法で分析するのが、アジアを知るには適合的であろう。

2. アジアの学び方

エリアスタディでアジアを学ぶ場合、たとえば国際関係学部のカリキュラムでは「東アジア地域」、「東南アジア地域」、「中東研究」という三つのアジアの地域が設定されている。それぞれの科目には、さらにいくつもの細分されたテーマが用意されている。したがって、これらの地域に関心があれば、講義を受講することでその地域のあるテーマを学ぶことができる。しかし、エリアスタディを志向する場合、ある地域の学習を深めることは大切なことであるが、それと並行あるいは先行して社会調査法の技術を身につける必要がある。当該地域の言語の習得も重要な要件ではあるが、適切な訓練や調査経験なしに、いきなり現地に出かけたとしても、得られるものは乏しい。この点は、すべてのエリアスタディに共通することである。

ある地域に関心が定まり、特定のテーマを調べようとすると、それに関する文献が必要になる。まず図書館の蔵書検索システム(RUNNERS)を利用しよう。かりに中国の都市に関心を持ったとすれば、中国と都市をキーワードにして検索すれば、立命館大学に収蔵されている多くの文献の存在がわかる。他大学の図書館にも同様の検索システムがあるので、オンラインでその大学所蔵の文献を検索することも可能である。そして、そこから選んだ文献を読んでみよう。いくつか読んで、自分自身の関心を深めることから研究が始まる。

日本がアジアとどのような関係を結んでいるのかということを知りたければ、政府や政府系機関のホームページにアクセスして、情報を得ることもできる。外務省(ただし、外務省はアジアを上記地域区分の東、東南、南アジアのみに限定していて、中東は別の地域に分類)や国際協力機構(JICA)、日本貿易振興機構(JETRO)、日本貿易振興機構アジア経済研究所(IDE-JETRO)、国際交流基金(THE JAPAN FOUNDATION)、国際協力銀行(JBIC)などから、日本(それぞれの機関の目的に沿ってという限定もあるが)がアジア諸地域とどのような協力関係にあるのかを知ることができる。20世紀の最後の四半世紀以降、日本のこの地域に対する影響力はとても大きいので、関心を日本と関わらせて考える視点も重要である。

また、地域別の諸国間の連合体である東南アジア諸国連合(ASEAN)や南アジア地域協力連合(SAARC)のホームページもあるので、直接にこれらの地域の状況を、インターネットからアクセスすることもできる。国連機関としては国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)がある。経済開発面では、アジア開発銀行(ADB)も参考になろう。

なお、日本のことにも触れてほしいとの要請があったので、近現代の庶民や女性の社会的な位置づけを扱った、主に民俗学や社会学の文献を若干提示している。階層的には低い層になるが(社会の中軸を担わないという意味で)、日本社会の分析に極めて重要な視点であった「家」規範の主流から外れた人々や女性の生き方が必ずしも社会に縛られたものではなかったことを読み取ってほしい。

3. 入門的な資料

  1. 1)『もっと知りたい』初版、第2版、弘文堂。初版は1980年代から、第2版は1990年代から刊行。
    • これは表題の後に具体的な国名が入るシリーズだが、各国の歴史、自然環境、民族、宗教、政治、経済、社会等の状況がまとめられているので、アジア各国の概観を知ることができる。
  2. 2)京都大学東南アジア研究センター編(1997)『事典東南アジア』弘文堂。
    石井米雄(ほか)監修(1999)『東南アジアを知る事典』新訂増補、平凡社。
    辛島昇(ほか)監修(2002)『南アジアを知る事典』新訂増補、平凡社。
    • これらは文献でわからない用語などに当たった際に役に立つ。これ自体を読むのも楽しい。これら以外に東南アジアの1国を扱う事典(インドネシア、タイ、フィリピン、ベトナム、1990年代に刊行)もある。最新のものとしては、桃木至朗(ほか)編(2008)『東南アジアを知る事典』新版、平凡社、日本タイ学会編(2009)『タイ事典』めこん、信田敏宏(ほか)編(2019)『東南アジア文化事典』丸善出版、があり参照されたい。
  3. 3)鶴見良行(1990)『ナマコの眼』筑摩書房。
    • ナマコという生物が食材として利用されるとき、それを通してどのような国際関係が見られたのかを考察している。東アジアと東南アジアとの結びつきがナマコから描かれる。同じ著者の(1995)『東南アジアを知る』岩波書店(新書)も参照されたい。
  4. 4)和辻哲郎(1935)『風土』岩波書店。
  5. 5)小林英夫(1993)『日本軍政下のアジア』岩波書店(新書)。
  6. 6)松本脩作・大岩川嫩(1994)『第三世界の姓名』明石書店。
  7. 7)ロン・オグレディ著、エクパットジャパン監修、京都YMCA訳(1995)『アジアの子どもとセックスツーリスト』明石書店。
  8. 8)アジア経済研究所編(1996)『第三世界の働く女性』明石書店。
  9. 9)桜井由躬雄(著)大村次郷(写真)(2000)『米に生きる人々』集英社。
  10. 10)石毛直道(監修)(2003‐)『世界の食文化』農文協。(アジアの部分参照)

4. 発展的な資料

  1. 1)アジア経済研究所『アジア経済』。アジア政経学会『アジア研究』。東南アジア史学会『東南アジア:歴史と文化』。西南アジア研究会『西南アジア研究』。京都大学東南アジア研究所『東南アジア研究』。
    • これらは論文集である。地域研究の文献には、これらの論文集に収録されている個別論文の収集も重要である。これら以外にも論文集は多々ある。ぜひ自ら調べてほしい。
  2. 2)東アジア地域研究会(2001‐02)『講座東アジア近現代史』全6巻、青木書店。
    • 第二次大戦後の東アジア社会をトータルにとらえて、東アジアの全体史の構築を目指している。
  3. 3)大阪市立大学経済研究所監修(1998‐2002)『アジアの大都市』全5巻、日本評論社。
    • 新工業化のなかで東、東南アジアの大都市が新しいパラダイム転換をきたし、機能、形態的に大きく変換する姿が描かれている。
  4. 4)尾本恵市(ほか)編集委員(2000‐01)『海のアジア』全6巻、岩波書店。
  5. 5)岩崎育夫・萩原宜之(1996)『ASEAN 諸国の官僚制』アジア経済研究所。
  6. 6)西川長夫、山口幸二、渡辺公三編(1998)『アジアの多文化社会と国民国家』人文書院。
  7. 7)田村慶子・篠崎正美編著(1999)『アジアの社会変動とジェンダー』明石書店。
  8. 8)重富真一編著(2001)『アジアの国家とNGO』明石書店。
  9. 9)村田翼夫編著(2001)『東南アジア諸国の国民統合と教育』東信堂。
  10. 10)服部民夫・船津鶴代・鳥居高編(2002)『アジア中間層の生成と特質』アジア経済研究所。
  11. 11)長崎暢子編(2002)『地域研究への招待』東京大学出版会。
  12. 12)篠崎正美監訳・監修(2002)『アジアのドメスティックバイオレンス』明石書店。
  13. 13)加藤剛編(2004)『変容する東南アジア社会』めこん。
  14. 14)北原淳編(2005)『東アジアの家族・地域・エスニシティ』東信堂。
  15. 15)末廣昭編(2006)『地域研究としてのアジア』岩波講座「帝国日本の学知」第6巻。
  16. 16)北川隆吉監修(2006)『地域研究の課題と方法アジア・アフリカ社会研究入門』実証編、文化書房博文社。
  17. 17)落合恵美子 /山根真理 /宮坂靖子編(2007)『アジアの家族とジェンダー』勁草書房。
  18. 18)佐々木衛編著(2007)『越境する移動とコミュニティの再構築』東方書店。
  19. 19)早瀬保子(2004)『アジアの人口―グローバル化の波の中で』アジア経済研究所。
    大泉啓一郎(2007)『老いてゆくアジア』中央公論新社(新書)。
    同(2011)『消費するアジア』同上。
    小峰隆夫(2007)『超長期予測 老いるアジア』日本経済新聞社。
    広井良典・駒村康平編(2003)『アジアの社会保障』東京大学出版会。
    菅谷広宣(2013)『ASEAN 諸国の社会保障』日本評論社。
    増田雅暢・金貞任編著(2015)『アジアの社会保障』法律文化社。
    • 世界で一番速いスピードで変容している少子高齢化の状況を把握してほしい。
  20. 20)佐竹真明・金愛慶編著(2017)『国際結婚と多文化共生』明石書店。
  21. 21)藤井勝・平井晶子編(2019)『外国人移住者と「地方的世界」』昭和堂。

5. 日本の資料

  1. 1)宮本常一(1984)『忘れられた日本人』岩波書店(文庫)。
  2. 2)宮本常一(2001)『女の民俗誌』岩波書店(現代文庫)。
  3. 3)野本寛一(2006)『民俗誌・女の一生』文藝春秋(新書)。
  4. 4)瀬川清子(2006)『婚姻覚書』講談社(学術文庫)。
  5. 5)内藤莞爾(1973)『末子相続の研究』弘文堂。
  6. 6)前田卓(1976)『姉家督』関西大学出版・広報部。
執筆者:竹内 隆夫
執筆日(更新日):2019年3月23日(2021年2月1日)