テクニック編

ディスカッションの方法

1. ディスカッションとは

(1) 定義

ディスカッション(discussion)とは「討議・討論」と訳される。日本語訳から推察すると、「相手を打ち負かすために議論を戦わせる」ことがディスカッションであり、「相手を論破する」ことがその目的のように思えるかもしれない。しかしながら、ディスカッションとは、決して勝敗を決するために行うわけではない。むしろ、ディスカッションは、参加者が積極的に意見を交換し、意見の相違点や新たな課題を確認することを通じて、正しい結論やより良い解決策を見つける共同作業である。そして、大学で取り組むディスカッションは、「報告を作成し、その報告を聞き、意見を出し合い、より良い結論を導き出す」というプロセスを重視した「技能のトレーニング」を意味する。

なお、ディスカッションの一つの形態として、「ディベート」がある。これは、一つの論題(テーマ)について、肯定側と否定側に分かれて一定のルール(制限時間や逆質問の禁止など)に従って討論する形式であり、最後に勝敗(優劣)を決するというゲーム方式で行われることが多い。

(2) 目的

そもそも、なぜディスカッションをする必要があるのだろうか? 一般的に、ディスカッションには、以下のような目的がある。

① 真理の追究

主として大学の授業(演習/ゼミなど)で行われるディスカッションの目的である。社会科学が対象とする様々な社会現象や既存の政策について、その是非を明らかにするための議論がこれに当たる。例えば「日本において集団的自衛権の行使は合憲か?」という問い(課題)に対して、日本国憲法の条文、これまでの裁判判例や政府・国会の答弁、学説などを参照して、「合憲説」と「違憲説」のどちらが正しいかを議論するような場合である。

② 合意の形成

目の前の課題を解決するために、問題点を洗い出し、現状分析や条件を整理しながら、参加者が互いに納得できる解決策にたどり着くために行う議論の手法である。例えば、地球温暖化を防止するための「パリ協定」や、裁量労働制を導入する「働き方改革法案」といった、条約作成や国会での審議など、主として交渉や会議の際に行われるディスカッションが代表例だが、サークルの中でのルール作りや家庭内の役割分担など、身近な集団の中でも行われる。

③ 説得の成功

自らの主張(意見や提案)を理解してもらい、相手からの疑問や要望を考慮しながら、最終的に自分の主張を支持してもらうために行う「話し合い」の作業がこれに当たる。主としてビジネスの場(プレゼンの質疑応答、営業での契約)で行われるディスカッションがこれに当たるが、アルバイト先や会社での待遇改善など、「説得したい」場面に活用できる。

(3) ディスカッション能力の必要性

大学だけでなく、社会人になれば、「家庭内の問題を解決する」「社内の意見をまとめる」「顧客に商品の利点を知ってもらう」など、目の前の人と話し合い、意見の違いを理解し、より良い解決策を見つけ出す作業が必要になる。つまり、社会人にとって、「ディスカッション能力」は必須のリテラシーと言える。

また、国際関係学科の多くを占める日本人学生は、一般にディスカッション能力が低いと言われる。これは、諸外国と比較して、学校教育の中で「討論」の機会が圧倒的に少ないことが理由の一つである。国際関係学部の学生として、留学先または国際学生との交流の場で、ディスカッションの機会に直面することが多くなる。加えて、今後は、さらに一層、外国籍のビジネスパーソンと一緒に働く機会が増えることが予想される。また、近年のAI技術の高度化や労働のオートメーション化の傾向に鑑みれば、自分の意見も持たずに(あるいはうまく説明できずに)上司の指示通りの仕事だけをこなす人材は、「必要ない人材」と見なされるかもしれない。すなわち、これからのグローバル時代を生き残るために、大学生の間にディスカッション能力を高めておくことが大切になってくる。

「高校生まで真面目に勉強してきたけど、人と意見を戦わせてきた経験もないし、ディスカッションなんて急に言われてもよくわかりません」と不安に思う人もいるかもしれない。しかし、ディスカッションは、学問でもなければ特殊能力でもない。スポーツやゲームと同じで、慣れてくれば誰でもできるようになるので心配は無用である(もちろん好き嫌いはある)。

2. ディスカッションを始める前に(前提作業)

ディスカッションは、複数の「参加者」と話し合う「テーマ(議題)」があれば、すぐに始めることができる。しかし、実りある成果をあげるためには、一定の準備(前提作業)が必要になる。ここでは大学での少人数授業(演習/ゼミ)で行われるディスカッションに的を絞って、その役割ごとに、ディスカッションを始める前の準備作業について例示する。

(1) 報告者の役割

特定の問題について討論する場合、その問題の基本情報の紹介や論点整理を行う「報告者(グループも含む。)」を立てる。報告者は、与えられた、または自らが設定する議題について、事前に調べた結果を報告し、ディスカッションのための共通の情報や条件設定(議論する範囲)を設定する。すなわち、報告者は、ディスカッションのためにコーディネーターであり、議論のための先陣を切る役割を担う。

レジュメやパワーポイントなどの使い方を含めた効果的な報告の方法については「プレゼンテーションの仕方」を参照してもらいたい。ここでは、プレゼンテーションの後、参加者と一緒にディスカッションする場合に、報告者が行うべきことをあげておく。

① 基本情報の提供

ディスカッションをする上で必要な基本的情報(歴史的経緯、データ、論点整理など)を紹介する。必要であれば、事前に読んでおくべき文献や資料を参加者に提示する。

② 議題の設定

「何を議論するか=議題」を確定させる。ただし、「○○について議論して下さい」と呼びかけるだけでは、参加者の積極的な参加を期待することは難しい。報告者は、議題の設定に留まらず、後のディスカッションがスムーズに進むように、自ら主張を展開することが期待される。

(2) 参加者の役割

参加者は、報告者の報告を聞き、設定された条件に従って議題について意見を述べるという点で「受け身」の存在である。しかし、大学の授業の中で、ディスカッションをより実りあるものにするためには、圧倒的多数である参加者の「積極的参画」は極めて重要である。

本格的なディスカッションに入る前に、参加者は以下の作業を行う。

① 情報の確認

基本的な情報は報告者から提示される。しかし、議論直前の報告者からの説明だけで、すぐに自分の意見や反論をまとめることは難しい。したがって、報告者が予告したテーマについて簡単に調査し、事前に読むことを指示された資料に目を通しておくと良い。また報告者の報告には注意深く耳を傾け、疑問点や聞き漏らした内容があれば、ディスカッションが始める前に積極的に質問して確認しておくべきである。レジュメに目を通し、報告の際にメモを取ったり、疑問点をチェックしたりすると質問がしやすくなる。

これらの作業は、参加者が報告者(または司会者)に対して「質問」する形で行う。参加者の質問は、報告者に対して「この報告に真剣に取り組んでいます」というメッセージでもある。また、質問に答えることで、報告者が十分説明できなかった部分が補強され、後のディスカッションが効果的に進行することに繋がる。細かい箇所でも良いので、積極的に質問しよう。

② 議題の確認

ディスカッションの議題について、報告者の説明を踏まえて論点を理解し、自分の意見を組み立てる。グループで発言する場合は、全員が意見を出し合い、代表者がグループの意見をとりまとめて発表することになる。

また、議題を論じる上での条件や制限事項についても把握しておく。

(3) 司会者の役割

司会は常に必要ではない(報告者が兼務すれば良い)。また大学の授業では教員が司会を務めることもある。ここでは、ディスカッションを円滑に進めるために、進行役である司会者が注意するべきことをあげておく。

① 時間の確認

全体の時間の中で、ディスカッションのための時間がどれだけあるかを把握し、時間切れで討論が中途半端に終わらないように気をつける。

② 公平性の確保

特定の主張ばかりが時間を独占しないように、主張ごとに説明の機会を確保できるよう配慮する。また、特定の人が何度も長時間発言の機会を独占して、他の参加者の参加の機会を奪うことがないように気を配る。

③ 不規則発言や不適切発言の是正

後述の注意点にあるような発言について注意を促し、健全なディスカッションの場を維持する。

3. ディスカッションの進め方

報告者および参加者は、議題について自由に討論に参加できる。ディベートと異なり、時間や発言機会に厳格な制約はない(先述したように、極端な発言機会の独占は好ましくない)。しかしながら、ディスカッションを、単なる「異なる意見のぶつかり合い」ではなく、「建設的な討議」とするためには、「主張→反論→再反論」という流れを作る必要がある。

以下に、「主張」と「反論」の基本的な枠組みについて紹介する。

(1) 「主張」の基本的枠組み

主張は、「結論」と「根拠」の2つの要素から構成される。さらに、根拠は、「理由」と「証拠」の2つの内容を含むことが一般的である。

「主張」の構成要素を図示すると以下のようになる。

※便宜上、根拠を2つ設定したが、1つの場合もあれば、3つ以上の場合もある。また、1つの理由に対して、証拠が1つとは限らない。

① 結論

「結論」とは、議題の論点について、発言者が最も強調したい主張の中核部分である。ディスカッションを効果的に進めるために、発言の中で結論を明確に提示することが必要となる。

結論はできるだけ簡潔に表明することが望ましい。例えば「〇〇は正しい」「△△するべきである」といった表現でまとめまると良い。

② 根拠

主張、特に結論には、それを導く根拠が存在するはずである。そして、根拠には、結論の「正しさ」や「説得力」を高めるために、それを正当化する理由(「なぜなら、・・・だから」)があるはずである。もちろん、結論と根拠の間には密接な関連性がなければならない(「この根拠が存在するから、私の結論は正しい」という形を作る)。

さらに、根拠には、理由を裏付ける客観的な「証拠」が必要である。証拠は、自らが調査した結果(アンケート、インタビューなど)や、図書館やウェブサイトで集めた資料(第三者が調べたデータや先例)などがあげられる。これらを補足・強化するものとして、先行研究の結果(研究者の学説など)を提示することもありえる。証拠は、正確な調査と適切な比較が行われていなければ意味がない。また、証拠と理由の間には密接な関連性がなければならない(「この証拠があるから、この理由は説得力がある」)。

以上のように、主張には結論だけでなく、根拠(理由と証拠)が含まれていることが前提となるが、逆に「根拠がなければ主張してはならない」ということになれば、特に報告者以外の参加者は、主張(または後述の反論)を展開することが困難になる。大学での授業でも、できる限り主張の中に根拠を含めることが望ましい(したがって、3回生の専門演習ではその要請が高くなる)が、「発言しないよりは発言した方が良い」ので、議論状況が許せば、根拠が不十分でも積極的に主張を提示するべきである。この場合、不確実でも根拠となり得るものを提示することが期待される(ex. 「記憶によれば、....のような統計があったので」「手元に詳細なデータはないが、それによると...なので」)。

(2) 「反論」の基本的枠組み

主張(およびその根拠)が出そろったら、自分の主張と相手の主張を比較し、その類似点と相違点を比較する。その上で、相手の主張・理由・証拠に対して、批判や問題点を提示する。

相手の主張に反論するポイントには、以下のようなものがある。

① 証拠の正確性

人間は「データ」を提示されるとそれが常に正しいという錯覚に陥る。しかし統計が常に社会の現象を正確に反映しているとは限らない。また、もっと新しいデータがあるかもしれない。結論を導く根拠は、妥当な理由と証拠によって支えられている。したがって、まず証拠が信頼できるものであるかどうかについて検証しよう。

② 証拠と理由の関係

①で検証した結果、データの数字は正しくても、データを使って資料を作成した人にミスや誤認があるかもしれない。また証拠として提示された学説が根拠と関係ない場合もある。そうすると、これらの証拠は理由を正当化できていないことになる。また、そもそも提示された証拠が、根拠として的外れであることもありえる。データや文献が、理由を正しく下支えしているかどうかを確認しよう。

③ 根拠と結論の関係

証拠と理由の関係と同様に、根拠が結論を正当化できていない場合がある。特に結論と根拠の間に相関関係がない(または関係が希薄である)場合がある。この場合は、参加者が「この根拠は、結論と関係がない(または関係が薄い)」と反論する。

さらに、結論を導くに当たり、根拠が不足している可能性がある。この場合は、参加者が「この結論を導くには根拠が不十分である」と反論する。

反論には、自らの主張を強調する「主張型反論」と、相手の説明の間違いを強調する「論証型反論」がある。「主張型反論」は、結果として、お互いの主張のどちらが優れているかを論じる。「論証型反論」は、相手の提示した根拠では主張が成り立たないことを証明する。どちらも大切だが、論証型反論ができるようになるとディスカッションの質がより深まる。

なお、主張と反論が繰り返される時、その根拠をどちらが証明するかという問題が生じることがある。裁判では、これを挙証責任と呼ぶ。原則として主張する側が挙証責任を負う。例えば、主張の中の結論を正当化する根拠(理由と証拠)は、主張を述べる側が提示しなければならない。逆に反論する場合、反論の根拠(「なぜ結論と根拠の間の関係が薄いと言えるのか?」「なぜ根拠が不足していると言えるのか?」)は反論した側が提示しなければならない。

(3) ディスカッションのまとめ(総括)

社会科学のテーマで設定された課題には、「完璧な正解」は存在しない。したがって、ディスカッションはどちらの主張が正しいかを探す作業ではなく、より良い解決方法を模索するプロセスを重視する。「主張」の勝者を決めるのではなく、それぞれの主張の問題点を共有したり、相互の弱点を補う新しい主張(の可能性)を見出すことができれば、ディスカッションの成果は大きい。したがって、「相手を言い負かすことができたか?」ではなく、「議題に対する解決を目指すために何が足りなかったのか(根拠不足?それともより良い主張?)」について反省して、次回のディスカッションに備えよう。

4. 注意点

ディスカッションは基本的に自由な発言の場でなければならない。しかし、「自由な発言」とはいかなる言動も許されているというわけではない。発言の「自由」を確保するために、参加者が守らなければならない最低限のルールがある。

① 発言者に対する敬意(リスペクト)

報告や主張は、必ずしも発言者の主義主張を反映しているとは限らない(自分の役割を踏まえて敢えて自分の考えと逆のことを話すこともありえる)。したがって、発言者の発言内容を批判することはあっても、発言者の人格を攻撃してはいけない。

② ディスカッションに対する真摯な態度

逆に、「友達だから」とか「徹夜して調べたみたいだから」といった理由で、証拠の不備を不問にしたり、主張の矛盾を見逃したりしてはいけない。そのような態度は、学問に対する冒涜であり、また仲間である参加者に対する侮辱である。情に左右されず、お互いの学問的向上のために自分の意見や批判を堂々と提示するべきである。

同様に、「先生が言っていることだから(従っておこう)」とか「後輩のくせに(生意気な発言だ)」といった立場(地位)に左右した言動は慎まなければならない。学問の前にすべての人は平等である。教員・先輩・後輩は、学問を始めた時期が異なるだけであり、蓄積する知識に違いがあっても、設定された課題について真摯に取り組むという点では誰もが平等である。

5. 参考文献

この解説をまとめるに当たり、以下の文献を参照した。それぞれの内容はかなり省略しているため、ディスカッションについて詳しく知りたい人は是非実際に手に取って読んでみてもらいたい。ただし、使用されている用語は、それぞれの文献で異なる(混同されている場合も多い)ので注意すること。

  • T/W/クルーシアス、C・E・チャンネル(杉野俊子他訳)『大学で学ぶ議論の技法』(慶應義塾大学出版会・2004年)
  • 小林康夫・船曳健夫編『新・知の技法』(東京大学出版会・1998年)
  • 小林康夫・船曳健夫編『知の論理』(東京大学出版会・1995年)
  • 小林康夫・船曳健夫編『知のモラル』(東京大学出版会・1996年)
  • 倉島保美『論理が伝わる世界標準の「議論の技術」』(講談社ブルーバックス・2015年)
  • 吉岡友治『反論が苦手な人の議論トレーニング』(ちくま新書・2014年)
  • 吉岡友治『だまされない〈議論力〉』(講談社現代新書・2006年)
  • 福澤一吉『新版 議論のレッスン』(NHK出版新書・2018年)
  • 岩田宗之『議論のルールブック』(新潮新書・2007年)
  • 斎藤孝『頭が良くなる議論の技術』(講談社現代新書・2013年)
  • 谷岡一郎『「社会調査」のウソ』(文春新書・2000年)
  • 狩野光伸『論理的な考え方伝え方-根拠に基づく正しい議論のために』(慶應義塾大学出版会・2015年)
執筆者:西村 智朗
執筆日(更新日):2019年2月28日(2024年2月22日更新)