専門編

国際関係学の学び方

1. 国際関係学とは

国際関係学(International Relations, IR)とは、一体いかなる学問なのでしょうか。「国際」とは、もともとは国と国とが出会うところを意味します。英語のInternationalという語も、同様に国(nation)と国(nation)の間(inter)のという意味です。しかしながら、現在、国際関係が、「国と国の間の関係」にとどまらないことは言うまでもありません。複数の国から構成される国際連合のような国際機構や、非政府組織(NGO)、多国籍企業、時には一人の個人さえもが国際関係に影響をあたえるようになってきています。国際関係学は、「国と国の間の関係」にとどまらない、世界の諸現象・諸問題を対象にした学問であるということができます。

国際関係が複雑化し、また対応を誤ると大きな惨禍をもたらすことが第一次世界大戦の勃発によって明らかとなりました。この第一次大戦の衝撃を受けて、国際関係学が発達してきました。第二次世界大戦、冷戦、グローバリゼーションの進展などにより、国際関係の複雑さは増す一方です。また、そうした国際関係が私たち一人ひとりの生活に与えるインパクトも大きくなり続けています。国際関係学を学ぶことの重要性は、ますます大きくなってきているといえるでしょう。

しかしながら、このような複雑性を増す一方の国際関係について学ぶことは容易なことではありません。国際関係学といっても、そこには、法学や政治学、経済学、社会学、人文諸科学といった専門分化した各分野と同様の意味での、独自の方法や独自性があるとはいえないからです。むしろ、複雑で多様な国際関係の諸現象を対象とする様々な学問の総体であるという理解がなされることが一般的です。このことは、国際関係学が、専門分化した既存の学問の寄せ集めである、ということを意味するわけではありません。これまで専門分化していた各学問が相互作用し、時には協力し合い、様々な角度からある現象を眺めることによって、複雑な国際関係の諸現象をよりよく理解しようとするのが国際関係学という学問なのです。

2. 学習の方法

以上のような国際関係学という学問の性質を踏まえると、国際関係学を学ぶことがいかに困難なことであるか分かります。国際関係学は、既存の学問が寄り合って国際関係をよりよく理解しようとするものですから、一つの方法は、伝統的な学問のなかから国際関係を扱っているサブカテゴリー(たとえば国際政治学、国際法、国際経済学、国際社会学、比較文化論など)を勉強して行くという方法があります。これは大変時間のかかる方法かもしれませんが、国際関係学の基礎をしっかりと固める上では効果的な方法であるともいえます。

しかし、既に述べたとおり、国際関係学は決して既存の諸学問の寄せ集めではありません。国際法を理解し、国際政治を理解し・・・と積み重ねていっても、それだけで国際関係学が理解できるということにはなりません。国際関係学は、諸学問の並列や総和ではなく、そうした学問を総合することによって複雑な国際関係の諸現象をよりよく理解しようとするものであるということを忘れてはいけません。例えば地球環境問題は、国際政治、国際経済、国際法などが対象とする問題であり、様々な角度から眺めることの出来る複雑な現象です。異なる学問を通して見た複数のイメージを自分の中で再構成し、総合的に理解することが、国際関係学の本質なのです。

そうした国際関係学の特質を踏まえると、既存の学問を個別に学ぶのではなく、その相互作用や統合をはかるという学び方も考えられます。国際政治と国際経済を絡み合わせて国際政治経済を考えるというのは、こうしたやり方の一つです。実際、国際政治経済学は一つの学問領域として認知されるようになりつつあります。このような学び方を実践することは少し困難かもしれません。しかし、例えば国際協力や地球環境といった特定の問題領域に特化して、その問題領域を扱うさまざまな学問を学ぶことを通して、国際関係学への理解を深めるという方法もあります。

いずれにせよ、既存の学問の枠組みに沿ったままでは現代の国際関係を正確に理解することはできないという認識こそが、国際関係学を生み出し、また発展させ続けている動力源です。国際関係が常に変化し続ける以上、国際関係学も常に変化し続ける学問なのかもしれません。それだけに、既存の学問の枠組みにとらわれることなく、国際関係の複雑な諸現象を解明しようとする心構えが、国際関係学を学んで行く上では大切なのです。

3. 入門資料の紹介

  1. 1)中西寛・石田淳・田所昌幸(2013)『国際政治学』有斐閣
    • 国際政治学をしっかりと学びたい学生向けに書かれた教科書。
  2. 2)ジョゼフ・ナイ/デイビッド・ウェルチ(2017)『国際紛争―理論と歴史』有斐閣
    • 国際政治学を理論と歴史の相互作用という観点から概観するアメリカの代表的教科書。2017年版は、原著第10版の翻訳。
  3. 3)山田高敬・大矢根聡編(2006)『グローバル社会の国際関係論』有斐閣
    • グローバル化が進む国際社会の現実を理論に基づいて分析・解説するコンパクトなテキスト。
  4. 4)田中明彦・中西寛編(2018)『現代国際政治の基礎知識』』有斐閣
    • 国際関係の勉強を進めて行く上で重要な用語、出来事を解説するハンドブック。
  5. 5)中西寛(2003)『国際政治とは何か―地球社会における人間と秩序』中公新書
    • 21世紀国際政治がどうあるべきかを論じるもの。新書だが読み応えがある。
  6. 6)渡辺昭夫・土山實男(2001)『グローバル・ガヴァナンス―政府なき秩序の模索』東京大学出版会
    • グローバル・ガヴァナンス論の諸相について検討するもの。
  7. 7)平野健一郎(2000)『国際文化論』東京大学出版会
    • 文化を正面にすえて国際関係を論じた数少ない文献。
  8. 8)サミュエル・ハンチントン(1998)『文明の衝突』集英社
    • 異なる文明間での衝突は不可避か? 大論争を引き起こした書。
  9. 9)エマニュエル・トッド、ユセフ・クルバージュ(2008)『文明の接近―「イスラーム vs 西洋」の虚構』藤原書店
    • 文明の衝突論に、人口統計や家族形態の分析を基に反論する書。『文明の衝突』と併せて読みたい。
  10. 10)アマルティア・セン(2002)『貧困の克服』集英社
    • 貧困克服にとって、民主主義や「人間の安全保障」がいかに重要かを説く講演集。
  11. 11)国連のサイト
  12. 12)立命館大学国際平和ミュージアム

4. 発展的な資料

  1. 1)岩田一政他編(2003)『国際関係研究入門 増補版』東京大学出版会
    • 大学院生向けのリーディング・ガイド。やや古くなったが、依然として、少し高度な学習に進むための便利な手引き。学際性を打ち出したのも特色で、国際文化論や国際協力論もカバー。
  2. 2)吉川直人編(2015)『国際関係理論 第二版』勁草書房
    • 大学院進学を考える人は一通り読んでおくと、国際関係の主要な理論が概観でき便利。
  3. 3)日本国際政治学会編『日本の国際政治学(1)~(4)』(2009)有斐閣
  4. 4)メアリー・カルドー(2007)『グローバル市民社会論―戦争へのひとつの回答』法政大学出版局
  5. 5)篠田英朗(2003)『平和構築と法の支配』創文社
  6. 6)篠田英朗(2012)『「国家主権」という思想―国際立憲主義への軌跡』勁草書房
  7. 7)吉川元他編(2014)『グローバル・ガバナンス論』法律文化社
  8. 8)メアリー・カルドー(2003)『新戦争論―グローバル時代の組織的暴力』岩波書店
  9. 9)最上敏樹(1996)『国際機構論』東京大学出版会
  10. 10)エマニュエル・カント(1985)『永遠平和のために』岩波文庫
  11. 11)ヨハン・ガルトゥング(1991)『構造的暴力と平和』中央大学出版部
  12. 12)エドワード・W・サイード(1993)『オリエンタリズム(上下)』平凡社
  13. 13)イマニュエル・ウォーラーステイン(1981)『近代世界システムⅠⅡ』岩波書店
  14. 14)エドワード・H・カー(1996)『危機の二十年』岩波書店
  15. 15)マイケル・ウォルツァー(2008)『正しい戦争と不正な戦争』風行社
  16. 16)ハンス・モーゲンソー(2013)『国際政治―権力と平和』岩波文庫
  17. 17)中江兆民(1965)『三酔人経綸問答』岩波書店
  18. 18)高坂正尭(1966)『国際政治―恐怖と希望』中公新書
  19. 19)高坂正尭(1978)『古典外交の成熟と崩壊』中央公論社
  20. 20)ケネス・ウォルツ(2010)『国際政治の理論』勁草書房
  21. 21)山本吉宣(2008)『国際レジームとガヴァナンス』有斐閣
  22. 22)大矢根聡編(2013)『コンストラクティヴィズムの国際関係論』有斐閣
  23. 23)足立研幾(2015)「国際政治と規範―国際社会の発展と兵器使用をめぐる規範の変容」有信堂
  24. 24)サンドラ・ウィットワース(2000)『国際ジェンダー関係論』藤原書店
  25. 25)イアン・クラーク、アイヴァー・B・ノイマン編(2003)『国際関係思想史―論争の座標軸』新評論
  26. 26)チャールズ・カプチャン(2016)『ポスト西洋世界はどこに向かうのか: 「多様な近代」への大転換』勁草書房
  27. 27)ロバート・カプラン(2014)『地政学の逆襲』朝日新聞出版社
  28. 28)(季刊誌)Foreign Affairs
  29. 29)(季刊誌)Foreign Affairsのサイト
  30. 30)(週刊誌)Economist
  31. 31)(週刊誌)Time
  32. 32)日本の外務省ホームページ
執筆者:足立 研幾
執筆日(更新日):2018年1月