語学編

朝鮮語の学び方

1. 朝鮮語ってどんな言葉?

「学び方」についての手ほどきの前に、まず、朝鮮語とはどんな言葉か紹介する。

(1) 朝鮮語の話し手と名称

朝鮮語は、主として朝鮮半島の二つの国(大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国)で話される言葉であるが、その話し手は中国、日本、ロシア、アメリカなどにも多く、これを母語とする人々の数は7千万近くに達するといわれている。

言葉の名称は、朝鮮語のほかに、韓国語、ハングル、コリア語などさまざまですが、立命館大学では、"朝鮮半島"という言い方にあるように、地理的、歴史的名称として同地域を指して日本で言い習わされた呼び方にならって朝鮮語としている。もちろん、北朝鮮の言葉という意味ではなく授業では韓国の首都ソウルで用いられる言葉を中心に学ぶことになる。とはいえ、北朝鮮の平壌(ピョンヤン)で話されている言葉とソウルの言葉とは、表記や言い回しで若干の違いが認められるだけで言語としてはほぼ共通している。

(2) ハングルは難しい?

日本語を話す人にとって、アルファベットや漢字は慣れ親しんだ文字だ。フランス語やドイツ語はアルファベットで表記されているので、なんとなく発音の予想がつく。中国語ともなると、漢字で書かれているので、ある程度意味が分かることもある。

朝鮮語は、ハングルで表現される。「ハングル」というのは文字の名称で、「ハン」が「偉大な」という意味、「グル」は「文字、仮名」を意味する。丸や棒を組み合わせた例の文字をどこかで見たことがあると思うが、日本語を母語として育った者にとってまったく未知の文字で、その点が「朝鮮語は難しい」という印象を与えているかも知れない。

ハングルには母音字母が21、子音字母が19ある。しかし、「40種類も覚えなくてはならないのか!」と恐れる必要はない。実は基本的なものは6つの母音字母と9つの子音字母で、残りはそれらから派生したものや、いくつかを合成したもの。つまり、たった15の字母を習得するだけでよいのである。アルファベットよりはるかに少ない数の字母を覚えるだけで、理論上11,722字(実際よく使用されるのは2,000文字あまりにすぎないが)に及ぶ、朝鮮語の全ての文字を読むことが可能となる。

(3) 朝鮮語は簡単?

文字や発音はとっつきにくいかも知れないが、言葉そのものは、語順、助詞の使い方や活用など、文法の仕組みが日本語とよく似ていて、日本語を話す者にとってはとてもなじみ易い言語だといえる。たとえば「私は大学生です」という文章だ。英語の場合、これを頭から機械的に英単語に置き換えて"I university student am" とか言っても、正しい英語にはならない。ところが朝鮮語では「私」=「チョ(저)」、「は」=「ヌン(는)」、「大学生」=「テハッセン(대학생)」、「です」=「イムニダ(입니다)」と置き換え、「チョヌン テハッセンイムニダ(저는 대학생입니다)」といえば、完璧な朝鮮語の文章になる。文章構造が複雑になっても、これは同じだ。

さらに、朝鮮語が日本語とほぼ同じ意味を持つ漢字語を共有していることも、朝鮮語を学ぶうえでの大きなメリットとなっている。たとえば、上の「テハッセン」という単語は漢字で表記すれば「大學生」、つまり日本語の大学生と全く同じように用いられる、漢字語起源の単語なのである。 しかも大=テ、学=ハッ、生=センという、漢字と朝鮮語の読みの対応関係を覚えておくと、日本語の漢字語を思い浮かべ、それを朝鮮語読みしていくだけでほとんどの場合通じる。

ただ、朝鮮語の学習がすすみ、上級ともなると、後に述べるように、やはり日本語から離れて、朝鮮語独自の言い回しや発想を身につけなければならない。まさに「朝鮮語も外国語」であり、言葉の背後にある、日本とは異なる文化や慣習の理解が重要となる。

2. 朝鮮語習得についてのアドバイス(初級)

一つの外国語が「できる」ようになるためには、それなりの時間と経験が必要である。一般的に朝鮮語は日本語母語話者にとってもっとも簡単な、習得しやすい外国語であるが、それでもそれなりの労力と時間を要する。ここでは外国語としての朝鮮語の習得について、いくつかのアドバイスをしてみよう。

(1) 何のために朝鮮語を習得するのか

外国語の習得はそれ自体が目的ではない。文献を読んだり、外国人とコミュニケーションをとったり、外国語によるテレビや映画を視聴したり、はたまた通訳者や翻訳者になって生活したりなど、何か外国語を習得しなければできないことをするために習得するのである。

上でも書いたように、外国語の習得にはそれなりの労力と時間を要する。外国語の学習に時間と労力をかけるということは、その分ほかのことができなくなる、ということである。

したがって、自分は何のために外国語、ここでは朝鮮語を勉強するのか、ということをある程度明確にし、その目的の達成に必要な程度に勉強に時間を割く、とまず考えることが重要である。

(2) とにかく韓国に行け、留学をめざせ!

外国語が「できる」ようになるためには、その外国語が話されている国家ないしは地域に行き、そこで生活するのが最も早く確実で正しい方法である。「自分はまだまだ」とか「基礎を作ってから」とかぐずぐず言わずに、機会が与えられるのであれば早い段階で韓国に飛び出そう。

(3) 外国語習得、外国語上達のためのファクター

とはいえ、多くの学習者にとって外国に行ったり、留学したりすることは簡単なことではない。そこでここから、日本で朝鮮語を勉強、習得するためのヒントを紹介しよう。外国語が「できる」ようになるかどうかを左右するファクターがいくつかある。

  1. ① 動機
  2. ② 自分自身とその外国語との関連付け
  3. ③ 自分はこの外国語が習得できるようになるという確信
  4. ④ 外国語と接している時間の長さ
  5. ⑤ 学習途上で、実力が伸びているという実感
  6. ⑥ 「人」
  7. ⑦ 共同学習による相乗効果

⑥の「人」というのはあいまいな説明であるが、非常に重要である。まず、その外国語を話す友人や先生、恋人ができれば、外国語の習得に励みになるのは間違いない。もっとも、外国語の習得のために友人を作り、彼ないし彼女を外国語の習得のためだけに「利用」するのは人の道にはずれる。魅力的な友人を見出し、その友人との人間関係を維持するために外国語を習得する、というのが本筋である。

また直接の友人でなくても、好きな作家、学者や研究者、歌手や俳優であっても、外国語学習を促すファクターとなるであろう。

また、朝鮮語母語話者でなくても、朝鮮語の講師や朝鮮語の勉強仲間も「人」のファクターになりうる。講師や勉強仲間の魅力を発見し引き出すことができる能力を備えていれば、その人は優秀な外国語学習者であるとともに、優秀な「人」であると言えるだろう。

(4) 文字と発音の規則、必要最低限の文法をまず習得しよう

当たり前のことだが、文法を知っておいたほうが外国語の習得には便利である。本学の初修クラスのテキスト程度で必要にして充分である。

(5) 単語習得は音声とともに

日本で教育を受けた外国語学習者は、外国語を日本語に訳すことのみに重点を置き、音声の重要性をあまり認識していないように思える。しかし、単語の習得はもちろん、文献講読や作文にいたるまで、朝鮮語は特に音声を伴う学習が必須かつ有効である。

単語を覚えるときに、黙って何度もノートに書いて綴りだけを覚えるのでは、朝鮮語は決して習得できない。必ず発音しながら書いて覚えること。そうしないと朝鮮語によくある連音化や鼻音化などの音変化を認識できず、書くことはできるが発音したり聞いたりできないという、いびつな学習者になってしまう。朝鮮語は日本語と文法構造が似ているので、単語を習得すればするほど、表現できる内容は確実に増えていく。

また教科書の本文や、自分が書いた作文なども、音読を心がけよう。論文ですら、音読は有効である。韓国に留学することになれば、朝鮮語の授業や報告を聞いたり、朝鮮語で研究発表をすることになるのだから。

3. 朝鮮語習得についてのアドバイス(中・上級)

(1) テレビや映画を見るときも、つねに口を動かしてみる

「韓流」ブームのおかげで、数多くの韓国の映画やドラマを日本でも見ることができるようになった。これを活用しない手はない。漫然とテレビや映画を見ていて、「あ、今のセリフわかった!」とか、「授業に出てきた単語だ!」とか喜ぶのもいいが、同時にそのセリフや単語を、すぐに口の中で発音してみると、あまり苦労せずに単語や表現を習得することができる。

韓国で販売している映画やドラマのDVDは、聴覚障害を持つ韓国人のために、ハングルの字幕が表示できるものが多い。この機能を使うと、絶好のヒアリング教材になるが、その際にもただ感心するだけではなく、ひたすらセリフを発音してみる、登場人物と同じ速度でセリフを言うよう努力してみよう。そうすると楽しく朝鮮語のリズム、単語やフレーズを習得できる。

また、韓国の放送局のウェブサイトでニュースを見ると、ニュース映像とともにスクリプト(言ったことを文字化したもの)を提供しているものがある(KBSやYTNニュース)。リスニング、ディクテーション、シャドウイング、通訳の練習など、さまざまに活用できる。

(2) 漢字熟語の活用を

外国語が「できる」と確信できるのは、自分が日本語で表現したいかなりの内容を外国語で表現できるようになったときであろう。そうなるためには、おびただしい数の単語を覚えなければならない、ということになる。そう考えるとげんなりする。

しかし、朝鮮語はこの点において、日本語母語話者にとって、他の外国語と比較にならないほど楽である。なぜならば漢字起源の語彙がたくさんあり、その大半は日本語と共通だからである。つまり、朝鮮語の漢字音、漢字の朝鮮語の読みさえ習得すれば、語彙量が飛躍的に増えるからである。

上で書いた「外国語」「確信」「日本語」「表現」「内容」「数」「単語」「母語話者」「共通」「漢字」「習得」「語彙量」「飛躍的」という漢字熟語は、朝鮮語の漢字音で発音すれば、そのままほぼ同じ意味で朝鮮語として通じる。しかも朝鮮語の漢字音は日本語のように「訓読み」はなく、ほぼ1字1音なので、漢字音の習得は日本語よりも楽である。

ある程度の段階に達したら、市販の教材で漢字音が表記されているものを使って朝鮮語の漢字音を習得しよう。

(3) 朝鮮語で考える方向に

以上、朝鮮語独自の学習法をいくつか紹介してきたが、最後に確認しておかなければならないことがある。それは、「朝鮮語も外国語だ」ということである。最終的には英語を含む他の外国語と同じような苦労を経なければ、朝鮮語は習得できない。

ある段階まで行ったら、朝鮮語を日本語に翻訳する、あるいは日本語を朝鮮語に訳す、という作業はやめて、朝鮮語を朝鮮語として理解するよう、朝鮮語で思考できるような訓練をしなければならない。

まず、いろいろな物事を朝鮮語で説明する訓練をしてみよう。「日本の正月」「お盆」「梅雨」などを朝鮮語で説明することができるか。その際に日本語で文章を作って、それを朝鮮語に翻訳する、という過程をとらず、最初から朝鮮語で説明できるようにするのである。

できなければ日本語の上手な韓国人か、朝鮮語の上手な日本語母語話者に頼んで、お手本を作ってもらい、それをひたすら覚えるのである。自分でできなければ覚えるしかない。そうしなければ、日本語→韓国語の翻訳ソフトのレベルを超えることはできない。

4. 国際関係学部で学ぶ朝鮮語

国関で朝鮮語を学ぶための具体的な道筋をいくつか紹介しよう。

(1) 1回生:第二外国語(必修科目)

第二外国語として朝鮮語を選択すれば、1回生の春学期と秋学期の計1年間、授業で朝鮮語を学ぶことができる(秋入学の場合、次の春学期から履修)。既に独学である程度の基本文法まで学んだ人は、「既修者プログラム」を受講できる(要申し込み)。1回生の春休みには「異文化理解セミナー」(春休み4週間、全学部対象)があり、語学研修、文化体験、現地の学生との交流ができ、国際関係学部では海外留学プログラムとして2単位が認定される。もっと長期で滞在したければ交換留学(半期か通年)がある。

(2) 2回生以上:副専攻、その他外国語関連科目(選択科目)

1年間朝鮮語を学んだあと、より専門的で実践的な語学力と、歴史・社会・文化など、韓国・朝鮮に対する知識を身に付けていくために、いくつかの道が用意されている。

かなり究めたいなら「全学副専攻朝鮮語コミュニケーションコース」(副専攻)を履修するのがよい。個性的な教授陣のもと、「読む・書く・聞く・話す」の語学四技能を満遍なく伸ばすことができる。全学のプログラムなので、他学部学生と一緒に授業を受ける。副専攻を履修すると、2回生以降も多ければ週3回、朝鮮語の授業を受けられる。1回生のときに第二外国語として朝鮮語を履修していなくても、レベルチェックを受けてクリアすれば受講できる。

もう少しだけやりたい場合は国際関係学部の独自開講科目を選択すればよい。選択外国語「朝鮮語アドバンスト」(I・II)で基礎を復習しつつ応用表現を学ぶことができる。専門外国語「朝鮮語・国際関係」(I・II)では、朝鮮語の新聞・雑誌などの紙媒体、動画など多様なメディアを利用し、今日の朝鮮半島の現状や日韓・日朝関係など朝鮮半島をとりまく国際関係に対する理解を深める。年によって異なるが、韓国からの留学生の履修も多く、受講生相互の意見交換・議論が活発に行なわれる。これらの科目は第二外国語履修済みという要件がないので、レベルさえ合えば誰でも受講できる。

(3) その他

BBP(Beyond Borders Plaza)では、毎週1~2回、朝鮮語教員が待機し、学習相談に応じる「外国語コミュニケーションルーム」がある。時間割は学期始めに発表される。留学生が参加することもあるので、交流もできる。予約不要、出入り自由なので、空き時間に訪ねてみるとよい。

ハングル検定、TOPIKなどの検定を受検する際に大学が受験料を半額補助する制度がある。積極的に利用してほしい。

執筆者:松井 聖一郎、文京洙
執筆日(更新日):2012年2月29日
修正:金友子、2019年3月4日
修正・加筆:金友子、2020年3月6日