アフリカを知る「百聞は一見に如かず。
百見は一食に如かず。」
1. 未来の大陸・現在の大陸:アフリカは最後のフロンティアか?
国内外のメディアによって、アフリカが世界のビジネスにおける「最後のフロンティア」と呼ばれるようになって久しい。豊かな天然資源に加えて、増加が続く若い巨大な人口は消費市場や投資の機会として魅力的であることは間違いない。
2025年時点のアフリカ55か国1における人口はおおよそ15億人であるが、2050年には(現在のペースで人口が増加した場合)25億人近くに達し、おおよそ世界人口の「四分の一」はアフリカ人によって占められることが予想されている。加えて、人口年齢の中央値が19.3歳(2025年)と若く(アジアは32.5歳、日本は49.8歳)2、この先もアフリカにおいては生産・消費人口の拡大が見込まれる。そのため、欧米諸国だけでなく、中国やインドをはじめとするグローバルサウスの大国も積極的にアフリカへの貿易・投資の拡大を続けてきた。一方、日本では現在でも、アフリカが「最後のフロンティア」と紹介され続けているように、アフリカへの経済的進出が目に見えて進んでいるとは言えない状況が続いてきた。
広大な地理的領域(約3,000万㎢、東西7,500㎞、南北8,000㎞)において、気候・植生・文化・言語・経済・政治が極めて多様なアフリカには、理解の一般化の難しさを越えて、その多様性には大きなポテンシャルと魅力が詰まっている。
大阪万博会場の
アフリカレストラン
(出典:筆者、大阪、2025年)
2025年に開催された大阪万博では、月替わりでアフリカ各地の代表的な料理を提供する専門のレストランも出店した。どのアフリカ地域にも当地の農作物を利用したご当地グルメに溢れている。「百聞は一見に如かず」という諺があるが、本章では「百見は一食に如かず」である。アフリカのどこかの国に行く機会があれば、是非、ご当地グルメを味わってもらいたい。聞いたこと、読んだことは、時間とともに記憶から消去されていくが、鮮烈な食の記憶は薄れ難いからである。3
エチオピアの
代表的料理インジェラ
(出典:筆者、エチオピア、2022年)
アフリカとご縁をいただいて30年になる筆者にとって、現在もアフリカの新たな魅力を感じることができ、飽きることがない。そして、アフリカに関する授業などをし、論文や本を発表しながら(途中から家族も)生活(食べ)させてもらっており、感謝の気持ちもたえない。
21世紀になり、グローバルサウスの存在感が高まる中で、経済成長を続けてきたアフリカ諸国の国際的な発言力・存在感も高まっている。アフリカの理解を深めることは、より多極化する世界を包括的に理解することにもつながり、その意義を高めている。
- 1本章では、アフリカ連合による認識を採用する。アフリカ諸国以外の日本を含む大部分の国々は、サハラ・アラブ民主共和国(西サハラ)を国家承認していないため54か国と認識している。また、アフリカには北アフリカ諸国が当然含まれるが、本章では特に断りなく「アフリカ」と表記する場合は、共通点の多いサブサハラアフリカ諸国の事例を念頭においている。
- 2Wolrdometer. https://www.worldometers.info/population/world/ (最終閲覧日2025年7月2日)
- 3これからアフリカに行ってみたい人には『食文化からアフリカを知るための65章』(明石書店)を読んで、食の想像を膨らませておくこととお勧めする。
2. アフリカの歴史と挑戦
多様でポテンシャルにあふれるアフリカ諸国であるが、今から百年を遡れば、アフリカ大陸の大半はヨーロッパ諸国による植民地支配下におかれていた。アフリカの人々や指導者は、独立への闘い、独立後の政情不安の中の国家建設、民族間の対立、軍事クーデタ、軍事政権や一党支配による権威主義体制、(植民地支配に多くの起源を有する)国境問題、冷戦下での複雑な国際関係、経済のグローバル化、政治の自由化(民主化)、多発化する紛争、などの苦難と挑戦に満ちた歴史も経験してきた。近年では、エボラ出血熱に代表される深刻な感染症、気候変動による影響の深刻化や国際ネットワークとの連携の中で頻度を増すテロ活動も、アフリカ社会・経済・政治を揺るがす深刻な課題である。これらはアフリカ諸国の根幹にかかわる課題である。
2006年のベナンの大統領選挙
(出典:筆者、ベナン、2006年)
多くの課題を抱えるアフリカ諸国に対しては、長年、欧米諸国の援助国や援助機関からは改善がみられない病人や出来の良くない生徒のように扱われ、外部からの指導や介入が当然であるかのように考えられてきたが、援助だけでなく、天然資源の価格高騰、投資の拡大を通じて継続的な経済発展がみられるようになり、市場としての魅力も増している。近年では、リープフロッギング(Leapfrogging)的な技術と呼ばれる従来の発展経路を飛び越えた通信と金融が融合したモバイルマネーの普及や、Nollywood(Nigeriaの“N”に由来する映像コンテンツ産業)に代表されるアフリカ大陸を越えて世界に発信される文化コンテンツでも世界の注目を集めるようになっている。経済の発展に伴いエンターテインメント、スキンケア、フィットネス分野の成長も顕著になっている。
潜在力と課題に満ちた現代アフリカ政治・社会・経済・文化・国際関係に関わる諸課題について興味のある人は、国際関係学部の「アフリカ研究」という科目を受講することをお勧めする。当学部は、1988年の設置以来、アフリカ地域研究を専門とする教員が常に在籍する(現在は複数)、国内の国際系学部の中でアフリカを含む地域研究科目や教員が充実している有数の教育機関でもある。
3. アジアから見たアフリカ
最後に、この学部に在籍する大半の学生の出身地域であるアジアから見たアフリカとの関係について考えてみたい。
一般的に、アジアとアフリカとの関係は、他の隣接する地域(国際関係学で用いられる意味で)や欧米諸国との関係と比較して縁遠いものと考えられがちである。実際にその印象は否定できない。しかし、21世紀になり、アジアとアフリカとの関係は大きく変化を続けているだけでなく、世界全体において両者の間の地域間交流の重要性は高まり続けている。
2025年(本章執筆時点)は、インドネシアのバンドンで独立(独立を控えた地域も含む)や建国直後のアジアとアフリカ諸国によって開催された「アジア-アフリカ会議」(開催地にちなんでバンドン会議と呼ばれることも多い)から70年目の節目の年にあたる。その70年の間、アジア諸国とアフリカ諸国の間の国際関係も大きな変化を経験した。
バンドン会議(1955年)当時のアジア・アフリカ諸国は、その大部分が植民地支配から脱し、独立を遂げた直後の非常に不安定で困難な政治・社会状況にある中、深刻化する米ソ冷戦の勢力争いに巻き込まれながらも国家の独立と中立を目指して団結してきた。その後、アジアやアフリカの国々は非同盟運動や貿易不均衡の是正を目指した新国際経済秩序(NIEO)の提起などの働きかけを共に行ってきた。
やがて、アジアの国々がいち早く飛躍的な経済発展を遂げた結果、アジア諸国とアフリカ諸国との間の経済格差も顕著になった。それに伴い、アジアとアフリカとの間の関係にも変化が現れた。両者の関係の変化は、貿易・投資といった経済関係の拡大を背景にして、アジア諸国によるより積極的なアフリカの発展を目指したイニシアチブに現れた。主なものを挙げると、1990年代前半に日本が開催した「アフリカ開発会議」(TICAD)を皮切りに、2000年代には中国による「中国・アフリカ協力フォーラム」(FOCAC)、韓国による「韓国・アフリカフォーラム」(KOAF)、インドによる「インド・アフリカフォーラムサミット」(IAFS)、2010年代後半にはインドネシアによる「インドネシア・アフリカサミット」(IAF)が繰り返し開催されてきた。アジア諸国によるいわゆる「アフリカ+1」フォーラムが乱立している。それ以外にも、投資や貿易を通じたASEAN諸国によるアフリカへの関与もより積極的になっている。アジアの主要国によるアフリカへの働きかけの拡大は、変化を続けるアジアとアフリカとの関係の象徴的な出来事である。
第9回アフリカ開発会議(TICAD)
:ビジネスExpo
(出典:筆者、横浜、2025年)
バンドン会議開催から70年を経て、変化を続けるアジアとアフリカとの関係は、この先もアジア(それ以外も含めて)に暮らす人々にとってもより意義を増し続けるものである。それゆえ、積極的な関心を持ってアフリカについて知ることは、「グローバルサウス」という概念の影響力が増していく現代世界で生きていく上でより重要となる。
最後に、繰り返しになるが、「百見は一食に如かず」である。インターネット情報は豊富で有用であるが、味覚・嗅覚・触覚では体感できない。いつかアフリカのどこかの国に行って、ご当地食を味わい、舌と胃袋を通して、五感全体でアフリカを理解する人が一人でも増えることを期待している。
4. お勧め&国関教員の著書
「アフリカを知る」ための良書がたくさんあるが、全て紹介することは叶わない。最低限になるが、本学の図書館が所蔵する以下の書籍を紹介する。
- 『新書アフリカ史』(宮本正興他編、講談社、2018年、改訂新版)
- 『アフリカ経済開発論』(高橋基樹他編、ミネルヴァ書房、2025年)
- 『アフリカを見る アフリカから見る』(白戸圭一、ちくま新書、2019年)
- 『ルポ資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と繁栄』(白戸圭一、東洋経済新報社、2009年)
- 『食文化からアフリカを知るための65章』(藤本武他編、明石書店、2025年)
- New Asian Approaches to Africa: Rivalries and Collaboration (Iwata, T. ed., Vernon Press, 2020)
執筆日(最新更新日):2025年8月26日