グローバル時代に求められる
持続可能な国際協力とは
嶋田 晴行国際関係学部 教授
変わりゆく開発援助・国際協力、
新たな課題
開発途上国ではどのような国際協力が求められるのでしょうか?
嶋田日本はこれまで開発途上国に対し、さまざまな支援を実施してきた歴史があります。東南アジア諸国へのODAは、60年以上に及びます。
同じ開発や援助でもその方法や考え方は、時代や各国の経済・社会状況によってさまざまに変化します。自然災害や紛争に対する人道支援、道路や鉄道、港の建設などインフラの整備、教育や保健セクターへの支援もあれば、青年海外協力隊(現、JICA海外協力隊)の派遣、それに研修や留学で人々を日本へ受け入れる人的支援もあります。東南アジア諸国に対しては、かつては無償資金協力や技術者などを派遣する技術協力が主流でした。
近年、東南アジアは目覚ましい経済発展を遂げています。インドネシアの首都ジャカルタや、タイのバンコクでは、いまや東京や大阪と変わらない街並みが広がっています。こうした変化に伴い、開発や援助の方法も変わってきました。無償資金協力に代わり、近年は、大規模な融資によって事業を後押しして経済成長を促し、将来資金を返済してもらう有償型の援助が増えています。
しかし一方で、新たな課題も生まれています。その一つが、東南アジアの国と国、あるいは国内でも都市と地方との経済・所得格差の拡大です。インドネシアやタイ、マレーシアなどが大きく経済成長を遂げた一方で、ラオスやミャンマー、カンボジアなどいまだ開発途上の国もあります。また発展した都市を離れると、インフラが十分に整っていない地域が残されていることも少なくありません。こうした課題を解決するためには、各国の実情により深く踏み込み、制度・政策面への支援を通じて経済・社会の変化を促すような援助が求められます。そのために欠かせないのが、国際関係学の視点です。
国際関係学部では、経済・社会開発の観点から考え、時代や各国のニーズに合った有効な経済・社会開発、国際協力を実践する上で必要な知識を身につけます。私のゼミでは、現地を見て、学ぶことも重視し、海外での研修を実施しています。2018年はラオスの首都ビエンチャンで、京都市が国際協力の一環として寄贈した市バスの運行や、現地で行われているJICAの協力プロジェクトを見学しました。
欧米諸国と日本、
援助に対する考え方の違い
アフガニスタンの復興支援についても教えてください。
嶋田東南アジア諸国とは異なる歴史を辿ってきたアフガニスタンでは、また別の援助が求められました。
アフガニスタンでは1970年代後半から長く内戦が続いたことで、国内の経済・社会インフラは壊滅的な打撃を受け、多くの人がいわゆる「難民」となって国外に流出しました。1990年代以降は勢力を伸ばしたタリバンによる支配が続きましたが、2001年にタリバン政権が崩壊。新たな政府が樹立されるとともに復興のロードマップが示され、国際社会の支援のもと、国の再構築が図られました。復興支援にあたっては、日本、アメリカ、欧州各国、国連などが参画。電力や交通、上下水道などの基本インフラの整備や経済的な支援はもちろんですが、それ以前に憲法の策定や治安の安定化をはじめ、新しい国づくりを支援する必要がありました。その中で日本は率先して支援に参加し、復興に大きな役割を果たしました。
当時私は、JICAの一員としてアフガニスタンの復興支援を担当しました。会議の卓上には、国際機関や欧米の外交、経済、治安担当者など多様な顔ぶれが揃い、政治から経済、治安や軍事まであらゆる分野を議論しました。そこで痛感したのは、欧米諸国と日本の援助に対する考え方の違いです。例えば治安や武力行使に対する考え方も国によって異なります。国際援助を成功させるためには、こうした多様な国々の価値観や考え方を理解し、協力する力、まさに国際関係学の素養が不可欠です。
多様な主体、それぞれの形で取り組むSDGs
目標達成に必要とされる力とは
今後世界ではどのような開発や国際協力が必要とされるのでしょうか?
嶋田世界には貧困や紛争などさまざまな課題を抱え、国際社会の支援を必要とする国や地域がいまだ数多くあります。その一方で、欧米や日本など先進国の多くが難民・移民制限や自由貿易制限など内向きの経済・外交政策をとり、国際協力にも消極的な風潮が広がっています。
そうした中で、最近世界的に注目を集めているのが、国連によって採択された“SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)”です。“SDGs”では、世界が抱える問題を解決し、持続可能な世界を実現するために、「貧困をなくす」「飢餓をゼロに」「ジェンダーの平等」など17のゴールが設定されています。
日本も国を挙げてこの目標達成に取り組んでいますが、特徴的なのは、国や自治体だけでなく、民間企業やNGOなどの市民社会も“SDGs”に取り組んでいることです。国による持続的な国際協力に限りがある現代、多様な主体や援助の形で国際協力を持続させていくことが重要です。
途上国開発や国際協力は、国際社会が一体となって取り組んでいかなければなりません。被援助国だけでなく、世界の状況や多様な国や人々の価値観を理解し、さまざまな国と関係を構築できる力が必要とされています。
「途上国開発・国際協力」に興味を持った方へ:BOOKS
前野ウルド浩太郎 著
バッタを倒しにアフリカへ
光文社新書
黒崎 卓、栗田 匡相 著
ストーリーで学ぶ開発経済学
- 途上国の暮らしを考える
有斐閣
Ian Goldin
Development: A Very Short Introduction
Oxford University Press