政治と経済の相互作用を意識しながら
国際関係を分析する
中戸 祐夫国際関係学部 教授
政治と経済を分けて見ていては
見えてこない部分がある
国際政治経済学とはなんでしょうか?
中戸 政治と経済の相互作用を意識しながら国際関係の事象を把握しようとする分野です。
近年、日本でも経済安全保障という言葉が聞かれるようになり、担当大臣のポストも新設されました。安全保障の問題と経済の問題を分けて考えるのは適切ではないということが認識されるようになってきたのです。
政治的な目的を達成するために経済的な手段を活用する為政者もいます。政治だけ、経済だけを見ていてはわからないことが、国際政治経済学という観点から見えてくるのです。
例えばアメリカと中国の関係を考えてください。政治面だけに着目すると、両国は覇権国の立場をめぐり対立しています。しかし経済面を見ると、アメリカと中国はお互いに利益を得て依存し合う関係です。こういった政治と経済の相互作用を考えるのが国際政治経済学です。
国際社会に起こる現象を、
自国の立場ではなく
客観的な立場で
説明することが大切
先生はどのような研究をなさっているのですか?
中戸 私の研究は、国際社会のさまざまな現象が生じる要因を、国際政治経済学や国際関係学の理論を用いて明らかにすることです。その際、特定の国の立場からではなく、一歩距離を置いて全体像を見た上で、客観的に説明することを大切にしています。
例えば北朝鮮の核・ミサイル開発問題。ミサイル実験を繰り返し、技術が高度化しているという現象に対し、日本の立場では当然「危険だ」「けしからん!」となります。しかしその前にミサイル開発を続けている要因を分析・特定しようとするのが私の研究です。「どう対応するべきか」ではなく「なぜ起きたか」という問いの立て方です。
「なぜ起きたか」に関する一つの例として、ミサイル実験と同時期に、日米韓が北朝鮮の近海で過去にない規模で合同軍事演習を行ったという事実がありました。つまり、北朝鮮のミサイル開発も日米韓との相互作用のなかで推進されていることが見えてきます。「どう対応すべきか」という問いから始めると、こうした要因が見えなくなってしまいます。私の問題意識はここにあるのです。
国際関係のニュースを見る際、どんな点に着目すればいいでしょうか?
中戸 「なぜ起きたか」をとらえる視点をもっと明確に加えるべきだと考えています。受け取る側も、国際社会のニュースを見る際に、一歩引いて、自分が問題だと思っている国が「なぜこういうことをやるのか?」と相手の論理で考えてみる姿勢が大切だと思います。
これは人間関係にもつながることです。私たちは、自分の価値観で他者の行動や思考を判断しがちです。自分と違う価値観で生きている人が「なぜそう考え、そう行動するのか?」を考えてみる。その時に、可能な限り相手の論理にそって理解しようとすると、少し異なる世界が見えてくるように思います。
国際関係を構築しているアクターは人間です。自分と違う価値観の人間を理解しようと努め、自分の心に平和を築くことが、世界の平和につながると私は考えています。
学んだ理論を実際の現象と
照らし合わせる
「自分で体験する」ことも大切
国際社会で起きている現象を自分なりに説明できるようになるには、どんな学びが必要ですか?
中戸 まずは国際関係の理論や、これまでに蓄積されてきた分析の枠組みをしっかり学ぶことが大切です。そして、現実に起こっている現象と学びを照らし合わせ、分析してみましょう。そうしているうちに理論の意義や価値も見えてきて、物事の見方がどんどん深まっていきます。専門家の発言内容に異論を唱えたくなることが出てくるかもしれません。専門家が言うのも一つの仮説にすぎないので、また別の仮説が、理論の裏づけを伴って自分の中から出てくるようになれば、かなり力がついた証拠です。
自分で体験することも大切です。メディアを通しての印象と、実際に体験した時の印象が違うという経験は誰にもあるもの。今、ロシアに関するメディアの情報は、北方領土やウクライナ侵攻に関わるものばかりですが、実際にロシアの人と話してみると、歴史と文化の豊かさがわかり、ロシアに対する見方も変わるでしょう。そんな経験もたくさんしてほしいと思います。「行ってみる、会ってみる、話してみる」それが大切です。
多様な国籍の学生が議論し、
違ったものの見方を発見する場に
先生のゼミについて教えてください。
中戸 現在、英語によるゼミで、GSの留学生が多く、日本人学生の割合は約1/3です。東アジアの国際関係に関するテーマについて発表や議論をしながら卒業論文にまとめていきます。
多様な国籍の学生がいるので、一つの物事に対する見方もさまざまで、議論がとても活発になります。例えば、日韓関係をテーマにすると、日韓の学生の意見は対立しますが、インドやシンガポールの学生が「我々も植民地だったが英国に対してそんな感情はない。いつまでも過去にこだわり続けるのはなぜか?」と議論に加わるなど多様な見方が示されます。
台湾や韓国へフィールドトリップに行き、現地の学生と合同ゼミを行うこともあります。日本語のゼミを担当した際には、海外の学生の英語力や、関心の対象が全く違うことなどを知って衝撃を受ける日本人学生もいますが、それも良い成長の機会になります。
同質性の高いグループにいると、そのグループにおける支配的なものの見方を自分の中に受け入れてしまいがちです。多様性のある場で「あ、自分とは違うんだな」と感じることによって、ものの見方が広がったり、新しいものが生まれたりするのではないでしょうか。最近注目されている、ダイバーシティ、インクルージョンという言葉が表すものも、ゼミで体感することができると思います。
「国際政治経済学」に興味を持った方へ:BOOKS
関下 稔
米中政治経済論
お茶の水書房(2015年)
藪中 三十二
外交交渉40年 藪中三十二回顧録
ミネルヴァ書房(2021年)
ドン・オーヴァードーファー/ロバート・カーリン
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共同通信社(2015年)
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2013-2018年、アメリカ合衆国