国際政治学

「戦争をなくす」ことはできるか?
希望を持って国際政治学を学ぶ

足立 研幾

足立 研幾国際関係学部 教授

人はどんな時に戦争を起こすのか
戦争のメカニズムを解明し、
仕組みづくりに活かす

国際関係学は「戦争をなくす」ことができるのでしょうか?

足立私の専門分野である国際政治学は、第一次世界大戦という大きな戦争を経験した人類が、この悲劇を繰り返さないためにはどうすればよいかを考えるためにできた学問です。ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとパレスチナの紛争など、日々悲惨な報道に接していると悲観的な考えにとらわれてしまうかもしれませんが、世界全体でみると、武力紛争による人口当たりの死傷者数は10分の1以下へと大きく減少しました。国際政治学は着実に成果を上げているのです。まずはこのことを知り、希望を持ってほしいと思います。

先生は「戦争をなくす」ためにどのような研究をなさっているのですか?

足立一つは、戦争が起きるメカニズムの研究です。国と国はどのような時に戦争を起こし、どのような時に戦争を起こさなかったのかを分析して戦争の背景にあるメカニズムを解明し、戦争を起こさない仕組みづくりに活かそうというものです。

もう一つは、規範の広がりに関する研究です。これは、人間の本質を考えることにつながる研究です。考えてみてください。山奥にひっそり暮らす富豪がいて、その存在を知るのは自分一人。その人を殺して財産を奪っても警察に捕まることはありません。それでも実際に殺す人はほとんどいないでしょう。それは、人間には「これだけはしてはいけない」という行動の基準が備わっているからです。

国の場合も同じです。第二次世界大戦後、どの戦争でも核兵器は使われていません。核兵器の使用は、地道な外交努力を積み重ねるより費用対効果は高いはず。しかも世界には警察のような機関は存在しません。それでも使われなかったのは、国にも「これだけはしてはいけない」という行動基準があるからです。国際政治学ではそれを「規範」と呼びます。私は、どのような時に、どのような規範が生まれ、守られてきたかを、過去の事例から分析しています。

一例をあげると、1990年代以降、核兵器だけでなく、化学兵器や地雷などの非人道的な兵器は使わないという規範が国際社会で共有されるようになりました。これらの兵器は費用対効果が高い反面、残虐さや被害の拡大という点で看過できないものがありました。そのため、問題意識を持つ国々が、NGOや大衆の世論を味方につけて運動を展開した結果、禁止条約ができ、多くの国が調印しました。「これだけはしてはいけない」という考え方が世界に広まることによって、国際社会のあり方、秩序のあり方が変わった成功例があるのです。

奴隷制度もなくすことができた
「戦争は良くない」という規範を
世界中で共有したい

とても希望の持てる話ですね。

足立そうです。19世紀までは当たり前だった奴隷制度も「人を商品として使うのは良くない」という考え方が広まった結果、世界は変わりました。どんな条件が整えば新しい規範が広がるのか、どんな場合は古い規範を守ろうとする抵抗が大きくなるのかを考えるのも大切なポイントで、国際政治学では最先端の研究テーマとなっています。

私は、国際社会においても人間同士のコミュニケーションをとり、信頼関係を高めていくことが大切だと考えています。言語や文化が違っても、コミュニケーションをとり続ければ、人間として共感しあえることがきっとあるはずです。そうすればさまざまな規範が広がるでしょう。最終的には、世界中で「戦争は良くない」という規範を共有・遵守できるように、国際的な研究グループの仲間と共に研究しています。

こうしたテーマに関心のある人はどのような勉強が必要ですか?

足立理想の話ばかりしていても戦争はなくなりません。現在の各国の軍事力や戦力のバランスを理解した上で、現在起こっている戦争がなぜ起きたのかを深く考える必要があります。戦争、武器、特定の地域など、関心をもったきっかけはなんであれ、学びを深めていけば、最後はきっと「人間とは何か」という問いに行きつくでしょう。なぜこういうことが起こったのか、これからどうなるのかを考え続ける姿勢があれば、国際政治学の本質に迫ることができると思います。

人間の行動パターンや物事の背景が
理解できれば
複雑な事象の
「なぜ?」が見えてくる

先生のゼミについて教えてください。

足立 どうすれば国家は戦争をしないのか、国家間で協力し合えるのかを考えています。全員で文献を読んで理論を理解すること、個別に関心のあるテーマを掘り下げ、背後にあるメカニズムを現実社会の中で理解することがゼミ活動の中心です。扱うテーマは環境、食糧、日中関係、中東などさまざま。国際関係学部の幅広い科目を学んだ上で自分のテーマに向き合うと、バラバラだと思っていた学びが結びつく瞬間が訪れると思います。

世界には複雑な事象がたくさんありますが、人間や国家の行動パターンや物事の背景を理解できるようになると、この戦争が起きた理由は何か、この交渉が合意に至ったのはなぜかが見えてくるでしょう。

外交のシミュレーションも行っています。実際にあった外交問題をテーマに、ゼミ生が各国の閣僚、交渉の代表団、大使などの立場になり、交渉を行うものです。実際にその立場に立つと、損得勘定だけではなく、少し譲っても合意した方がいいと思える場合もあれば、思えない場合もあることが体感でき、人間の本質に対する理解も深まります。

「世界を良くしたい」という気持ちをモチベーションに学んでもらえると嬉しいです。

国際関係学を志す方へ

足立 研幾

足立 研幾国際関係学部 教授

世界ではまだひどいことが多く起こっていますが、大きな視点で見ると少しずつ良くなっていることは確かです。
「世界を良くしたい」と考える人が進むべき道は、公務員になったり、国際機関で働いたりすることだけではありません。国際政治学の肝は、人間行動に対する理解を深め、争いがあっても暴力に訴えるべきではないという考え方、規範をいかに広めていけるかを考えることです。国内でのビジネスを通して、支援活動を通して、日常の人との交流を通してなど、さまざまな立場や方向から、国際関係学部での学びを活かし、よりよい世界をつくるために貢献することはできます。
戦争をなくしたい人、世界をより良い方向に向かわせたいと考える人は、ぜひ国際関係学部で一緒に学び、考えましょう。

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