日本再発見

自分の国を正しく知ることが
国際化につながる

ライカイ ジョンボル ティボル

ライカイ ジョンボル ティボルRAJKAI Zsombor Tibor
国際関係学部 教授

日本のどこがユニークなのか
どこが他国と共通しているのか

「日本再発見」とは、どのような意味でしょうか?

ライカイ国際関係学部は、外国について学ぶ学部だと思っている人がいるかもしれませんが、それは正しくありません。日本についても、深く学ぶ学部だからです。日本という国を別の視点から新たにとらえなおす、つまり「日本を再発見する」。これは、国際関係学を学ぶうえで、大切な視点だと考えています。

私は社会学の視点から家族を研究しています。その中で、日本人が自分の国や文化について誤った認識をしていると感じることがあります。たとえば、外国でも同じだと思っている習慣が、実は日本だけのものだったという場合。

例をあげるなら、戦後の日本の一般家庭では使用人を雇って家事を任せるということがなくなりました。しかしそのような状況は東アジア地域の中で日本だけです。中国でも、シンガポールでも、使用人が家事を担うのがまれなことではないのに、どうして日本だけが? 他国と比較することによって日本を再発見することができるのです。

また、日本の伝統だと思われていることが、実は近代化以降のものであったという例もあります。たとえば、昔の日本は今と違って夫婦仲が良く離婚も少なかったというイメージを持つ人が多いかもしれませんが、江戸時代の離婚率は今より高く、婚外子も多くいました。現在の日本と昔の日本を比較することによっても日本を再発見することができます。

自国を正しく理解し、正しく発言
できるのが
真のグローバル人材

日本を再発見することはなぜ大切なのでしょうか。

ライカイ自分の国のことを知らなければ、国際社会で自分の立場を十分に表すことができず、国際社会で弱い立場になってしまうからです。日本の教育で「国際化」といえば、たいていの場合は「英語化」を指しています。自分の意見を英語で言えるのはもちろん大切なことですが、間違ったことを言っているのでは「国際化」には程遠いでしょう。自分の国について正しく理解し、正しく発言できる真のグローバル人材を育てることが、日本にとって非常に大切だと考えています。

国際関係学部では、日本という国はどこが本当にユニークなのか、どこが他の国と共通しているのかという、高校では学べないことを深く学ぶことができます。私が担当する「日本文化(Japanese Culture)」では、明治以降、日本人が自分たちをどのように考えたか、自己像(セルフイメージ)の変化についても学びます。私の授業はすべて英語で行いますが、日本人の学生も多く受講しています。日本文化のさまざまなトピックについて日本人学生と留学生が意見交換する機会も多く、より多様な視点から日本を再発見することができます。

社会学の視点から、
「近代化」の
道筋の多様性を読み解く

先生はどうして日本で社会学を研究するようになったのですか?

ライカイ私は1970年代初頭、冷戦時代のハンガリーの小さな街に生まれました。将来日本に行くなんて想像もできない環境です。でも外国への関心は早くから芽生えていました。8歳の時に母に入れられた塾でドイツ語を学んだ後、10歳頃に外国への興味から(当時義務教育でもあった)ロシア語を学び、14歳で英語を学びました。高校生の頃には中国やトルコなど非ヨーロッパ世界に興味を持つようになり、言語も学んでいましたが、小さな街なのでなかなか理解してもらえませんでした。ブタペスト大学に入学してからまず英語とドイツ語を専攻、2年生になってからトルコ語と中国語に転専攻。言語学や歴史学も学びました。社会学を学ぶため、国費留学生として日本に来たのは27歳の時でした。

社会学を選んだのは、言語より人間に興味があり、しかも人間を全体として考えたかったからです。今は、東アジアから中央アジア、東ヨーロッパという広い地域を対象に、社会学の視点から、近代化の道筋の多様性を比較研究しています。

「私はどのようにできたのか」という話は、授業の中でも学生に話すことがあります。学生一人ひとりの自分自身を見つけるきっかけにしてほしいからです。多様な国の学生が集まる国際関係学部の環境の中で、新しい自分を発見してほしいと願っています。

国際関係学を志す方へ

ライカイ ジョンボル ティボル

ライカイ
ジョンボル ティボル
国際関係学部 教授

国際関係学部 国際関係学科には、日本語で学ぶ国際関係学専攻と、英語で学ぶグローバルスタディーズ専攻がありますが、これらを別のものと考えるのではなく、クロス履修などを通してつながりを強化しているところが大きな特徴だと思います。日本人学生が留学生に出身国のことを学ぶこともあれば、留学生が日本人学生から日本について学ぶこともあるでしょう。お互いに学びあうことによって、それぞれ自分の国を再発見できる。それがこの学部の大きなポイントだと思います。

「日本再発見」に興味を持った方へ:BOOKS

小熊英二 著

単一民族神話の起源 :
「日本人」の自画像の系譜

新曜社

Harumi Befu

Hegemony of Homogeneity:
An Anthropological Analysis of Nihonjinron

Trans Pacific Press

Stephen Vlastos (ed.)

Mirror of Modernity:
Invented Traditions of Modern Japan

University of California Press