アフリカ

世界で存在感を高めるアフリカを知り
世界の中の日本をとらえ直す

岩田 拓夫

岩田 拓夫国際関係学部 教授

アフリカをふくむ
グローバルサウスの存在感が
国際社会の中で高まっている

先生はアフリカ諸国の政治や国際関係を研究してこられたのですね。

岩田 アフリカに関わるようになってから30年になりました。研究を始めた頃と比べて、アフリカをふくむグローバルサウスと呼ばれる途上国が国際社会の動向を左右するようになり、その存在感や重要性が格段に高まっています。

私が注目するのは、アフリカ諸国、社会に存在するさまざまな「境界」の変化です。ヨーロッパ諸国の都合で引かれた直線的な国境、民主化に代表される政治改革によって生まれた、政治体制間の境界、地方分権化が進むことによる、中央政府と地方自治体の間の行政的・政治的境界の変化、笑いや政治風刺の活動に注目することによる支配する側とされる側の間の境界のつかの間の倒錯などに注目してきました。

アフリカの今を見る時、どんな点に注目すべきでしょうか。

岩田 日本の報道では、アフリカといえば紛争や貧困で苦しんでいる姿がよく出てきます。それは事実なのですが、一方で、アフリカで最も人口の多い国であるナイジェリアでは映画産業が盛んで、ハリウッド、インドのボリウッドに続き、ナイジェリアの「N」を冠した「ノリウッド」として注目されています。インターネット配信の普及によって、映画だけでなく音楽やお笑いなどもふくめた文化コンテンツとしての「ノリウッド」が、世界の文化に影響を与えていることなどにもぜひ目を向けてほしいと思います。

パリに本部を置く非政府組織「国境なき記者団」の評価によれば、いくつかのアフリカ諸国の「報道の自由度ランキング」は日本よりも高いランキングにあります。日本では、アフリカを含む途上国に対して、無条件に日本は優れている、自由であるという(上から目線の)思い込みを持ってしまいがちですが、その前提を問い直して世界を眺めると、また違う景色が見えてくるのではないでしょうか。日本はアフリカを支援すべきと思う人が多いかもしれませんが、世界の中での日本の経済力の存在感はこの30年で大きく低下しています。世界の変化を知り、日本の立ち位置を再認識するという意味でも、アフリカやグローバルサウスの国々の状況に注目することが大切だと思います。

他のアジアの国々でどのようなアフリカ研究を行っているかについても関心を持っているとうかがいました。

岩田 日本が経済的に力を失う一方、中国やインドなど、経済成長が著しくアフリカに対して多大な影響力を及ぼすようになったアジアの国々がある現状では、それらの国々のアフリカとの関わり方を知ること、その背景にあるアフリカ研究への取り組み方を知ることが非常に重要だと考え、この15年ほどはアジア各国を訪れて研究交流を行い、アジア諸国のアフリカ研究者と協働して研究成果も産み出しました。

日本のアフリカへの援助は、以前はアフリカの発展をサポートすることを大前提に行われてきました。一方で、中国をはじめとするアジアの国々は、アフリカに対して自国の国益の達成も目指しながら支援を行い、影響力を増してきました。自由な立場で行動できる研究者が、各国の動向を調査、報告することは非常に重要です。今では日本の援助機関も、日本企業の進出のサポートを打ち出して援助を行うようになってきました。こうした政策立案への材料提供も私の役割の一つだと考えています。

「スムーズにいくこと」が必ずしも
良いとは限らない
それをアフリカで学んだ

先生はどうしてアフリカを研究するようになったのですか?

岩田 法学部で政治を学んでいた3年生の時、大学で、外務省「在外公館派遣」の募集張り紙を見かけたことが最初のきっかけでした。2年間休学し、西アフリカのセネガル共和国にある日本大使館で仕事をしていました。学部生の当時は途上国にあまり興味はなかったのですが、同じアフリカ大陸にあるルワンダで80万人もの大虐殺が起き、日々生々しい報道を見ているうちに、これは政治による人災だと強く感じるようになりました。アフリカの政治についてじっくり学ぶ必要があるのではないかと思った私は、仕事をしながら自分なりに勉強を始め、帰国後は大学院に進学。学位論文を書き、大学に職を得て、気づけば30年です。偶然の巡り合わせが一生の仕事につながりました。

アフリカ研究の面白さはどのような点にありますか?

岩田 アフリカで日本の常識は通用しないこともあります。空港や陸路の国境での入国審査もしばしば「交渉」です。時に別室に連れていかれ、いろいろ言いがかりをつけられます(もちろん特に後ろめたいことはありません)。はじめははただ困っていたのですが、いつしかその時間は「係官から国境の話を聞くチャンス」だと思うようになりました。「スムーズにいくこと」が必ずしもいいとは限らないということを、アフリカで学びました。

国際関係学を志す方へ

岩田 拓夫

岩田 拓夫国際関係学部 教授

高校生の皆さんが社会に出る頃には、今グローバルサウスと呼ばれている国々が、世界にとって今よりもずっと重要な存在になることは間違いありません。それらの国々で仕事をしたり、それらの国々の人と一緒に仕事をする人はさらに増えるでしょう。
本学の国際関係学部には、グローバルサウスの国々・地域に関わる国際的に活躍する研究者も多数在籍し、途上国にも目を向けた国際関係論が展開されてきました。これは他大学の国際系学部にはない大きなアドバンテージだと思います。
日本の常識が必ずしも通じない地域に行くことは人生を豊かにしてくれます。国際関係学部で学ばれる方は、グローバルサウスも含めた未知の国々にも関心を持って勉強したり訪れたりしてほしいと思います。そうすれば、学生生活はとても有意義なものになると思います。

「アフリカ」に興味を持った方へ:BOOKS

金谷 治 訳注

新訂 孫子

岩波書店(2000年)

2000年以上前に書かれた中国の古典的作品で、各言語に翻訳されて世界中で読み継がれてきた。兵法書でありながら、戦闘せずに目的を達成することの重要性も説いた書物でもあり、個人・組織レベルの行動においても地域・世代を問わず非常に示唆に富んでいる。

Iwata, Takuo (Ed.).

New Asian Approaches to Africa: Rivalries and Collaborations.

Vernon Press(2000年)

アジア主要国(インド、韓国、中国、日本)のアフリカとの関わりについて、外交的、文化的、経済的、国際協力の観点から論じられている。また、本書自体が、アジア主要国を代表するアフリカ研究者とアフリカ・ヨーロッパのアジア研究者との間のコラボレーションの産物であり、アジアからのアフリカ研究の国際的発信を試みた研究書である。

Iwata, Takuo

Power and Politics in Africa: A Boundary Generator

Vernon Press(2024年)

アフリカの国家・社会における様々な境界をもたらす「権力」に焦点を当て、関連する諸テーマ(民主化、地方分権化、国境、アジア・アフリカ関係、政治風刺と笑い)に関して考察した、著者の30年近いアフリカ政治や国際関係の研究の主要なテーマを集約した研究書である。