アジア・マップ Vol.01 | アゼルバイジャン

読書案内

塩野崎 信也(龍谷大学文学部・准教授)

一般向け
北川誠一、前田弘毅、廣瀬陽子、吉村貴之(編著)『コーカサスを知るための60章』明石書店、2006.
 「エリア・スタディーズ」シリーズの1冊で、アゼルバイジャンを含むコーカサス地方に関する様々なトピックを扱った入門書。この地域に関してある程度まとまった情報を提供した、最初の邦文文献と言える。歴史、政治、経済、文化など、扱う内容は非常に幅広い。アゼルバイジャンに関する言及は全体のごく一部であり、また情報もやや古くはなっているものの、まだまだ有用である。
中島偉晴『コーカサスと黒海の資源・民族・紛争』明石書店、2014.
 資源をめぐる政治・経済に着目し、その戦略上の要衝としてのコーカサス地方における民族問題や紛争を扱う。アゼルバイジャンに関する直接的な言及としては、国の概要を述べた箇所の他、ナゴルノ・カラバフ紛争を扱った箇所がある。
廣瀬陽子『アゼルバイジャン:文明が交錯する「火の国」』群像社、2016.
 アゼルバイジャンに関する基本的な情報を簡便に提供する。特に著者の専門でもある政治・経済分野に関する情報が豊富。
谷口洋和、アリベイ・マムマドフ『アゼルバイジャンが今、面白い理由』KKロングセラーズ、2018.
 アゼルバイジャンの魅力を一般向けに紹介する書籍。特に日本在住のアゼルバイジャン人であるマムマドフ氏によって書かれた箇所は、外国人からはなかなか見えてこない、現地の「生の」情報を提供しており、非常に貴重である。アゼルバイジャンの家庭内における食文化に関する箇所や、アゼルバイジャン人の心性を紹介した箇所などは、特に興味深い。
廣瀬陽子(編著)『アゼルバイジャンを知るための67章』明石書店、2018.
 「エリア・スタディーズ」シリーズの1冊で、アゼルバイジャンを専門的に扱っている。歴史、政治、経済、外交、文化、日本との関係など、幅広い分野に関する計67の記事を多彩な執筆陣が寄稿している。「石油」や「バランス外交」を扱う章が多数あるなど、アゼルバイジャンを扱う書籍ならではの特徴も見られる。2023年1月現在、アゼルバイジャンに関する最も詳細かつ網羅的、かつ最新の情報を提供する。アゼルバイジャンに関する情報を得ようとする際は、まずはこの書籍を手に取るのが良いだろう。
研究書
佐藤信夫(編著)『ナゴルノ・カラバフ:ソ連邦の民族問題とアルメニア』泰流社、1989.
 いずれもソ連邦を構成する共和国であったアゼルバイジャンとアルメニアとの間で生じた、ナゴルノ・カラバフ地方をめぐる衝突を扱う。後に「ナゴルノ・カラバフ紛争」と呼ばれることになるこの衝突は、2023年1月現在においても両国に深刻な対立をもたらしている。本書は、各種の刊行物のみならず、未公開資料や現地におけるインタビューなども通じて、紛争の原因や最序盤の趨勢を明らかにする。ナゴルノ・カラバフ問題について最初期に詳しい言及を行った、非常に貴重な研究である。
八尾師誠『イラン近代の原像:英雄サッタール・ハーンの革命』東京大学出版会、1998.
 国民国家イランの統合の象徴となった「英雄」サッタール・ハーンに関する研究書。彼はイラン領アゼルバイジャン(南アゼルバイジャン)に生まれ、同地で活躍した人物で、現在のアゼルバイジャン共和国(北アゼルバイジャン)とは直接的な関係を持たない。ただ、本書においては、「アゼルバイジャン」という地理概念の形成過程が詳しく説明されており、その関連でアゼルバイジャン共和国成立の歴史についても言及されている。
塩野崎信也『〈アゼルバイジャン人〉の創出:民族意識の形成とその基層』京都大学学術出版会、2017.
 アゼルバイジャン人の民族意識の形成過程に関して総合的に扱った著作。アラビア語、ペルシア語、テュルク語、ロシア語などの諸言語の史料における、地名・言語名・民族名としての「アゼルバイジャン」の用法の分析などを通じて、それぞれの成立と普及の経過を詳細に明らかにしている。また、その結果、シーア派性やサファヴィー朝を重視するアゼルバイジャン民族形成に関する従来説が誤りである可能性が高いことを実証した。

書誌情報
塩野崎信也「アゼルバイジャンの読書案内」『《アジア・日本研究 Webマガジン》アジア・マップ』1, AZ.5.04(2023年3月16日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/area_map/azerbaijan/reading/