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2023.03.23

【レポート】AJI年次国際シンポジウム2023 セッション2「東アジアにおける女性の産後育児支援の多様性及び母子のwell-beingへの影響」のレポートを公開しました!

2023年2月25日(土),AJI年次国際シンポジウム2023 “Asia-Japan Research Beyond Borders: Asian Societies Striving for Secure and Sustainable Life”におけるセッション2「東アジアにおける女性の産後育児支援の多様性及び母子のwell-beingへの影響(Diversity of Postpartum Childcare Support among East Asian Women and Its Impact on Maternal and Child Well-Being)」を、立命館大学アジア日本研究所の主催で開催しました。本シンポジウムは日本語と英語で行われ、それぞれ英語・日本語の同時通訳も行いました。zoomウェビナーで開催し、日本、中国、アメリカなど、多くの国々から82名の方にご登録いただきました。

司会:矢藤優子 教授(立命館大学総合心理学部)

スピーカー・講演タイトル:
Dr.三品拓人(日本学術振興会特別研究員(PD)):「茨木市における育児期女性へのインタビュー調査の成果―質的研究による国際比較に向けて」
Tingting Chen氏(立命館大学・人間科学研究科博士後期課程):「中国における産後女性の社会支持及び心理プロセスに関する質的研究」
Joonha Park教授(名古屋商科大学・経営大学院):“Study of childcare experiences and well-being among postnatal working women and their families in Korean society”

ディスカッサント:
Dr. Jiaobo Duan(OIC総合研究機構 客員協力研究員/中国深セン税関、メンタルヘルスセンター長)

 本シンポジウムでは、日本・中国・韓国3ヵ国で育児期の母親を対象として実施したインタビュー調査から得られたデータに対してTEA(複線径路等至性アプローチ)などの質的分析を行った結果について、3名の話題提供者が報告しました。
司会の矢藤優子教授
司会の矢藤優子教授

 Dr.三品拓人は,「茨木市における育児期女性へのインタビュー調査の成果:質的研究による国際比較に向けて」というタイトルで、日本の育児期の女性18人を対象としたインタビュー調査で得られた結果について報告しました。日本ではマイナス面が注目されがちな「高齢出産」の経験と意味づけ、母親の情報ネットワーク、実家からのサポート、子育て支援の利用に伴う葛藤、といったテーマについて、量的研究では取りこぼされてきた、質的研究ならではの知見が提供されました。これらの話題を通じて、妊娠期・育児期の母親へのインタビューを通じた研究の意義を確認し、質的なデータを用いた国際比較につなげる可能性について問題提起がなされました。
発表を行うDr.三品拓人
発表を行うDr.三品拓人

 Tingting Chen氏は、「中国における産後女性の社会支持及び心理プロセスに関する質的研究」というタイトルで発表しました。中国の研究チームでは、上海市、成都市、蘇州市の0〜2歳児を持つ母親、各地域8名ずつ合計24名を対象として半構造化インタビューを実施した結果を、複線径路·等至性モデル(TEM :Trajectory Equifinality Model)及び分岐点分析を用いて分析しました。そこから、産後女性の出産前後のキャリアにおける変化、様々な育児支援による心理状態の変容プロセスについて考察し、中国の文化的・社会的背景のもとで捉えられた人間の多様性や複雑性、可能性や潜在性について描出しました。
発表を行うTingting Chen氏
発表を行うTingting Chen氏

 Joonha Park教授は、“Study of childcare experiences and well-being among postnatal working women and their families in Korean society”と題して、10名のインタビュー対象者から収集したデータをもとにグラウンデッド・セオリーの手法を用いて質的分析を行った結果について発表しました。出産後もキャリアを維持したいと考える韓国人女性が増えているにもかかわらず、多くの人が出産後の仕事の維持に課題を抱えています。韓国の研究チームは、様々な育児サービスを受けた経験,養育者としてのQOL、働く女性が育児において直面するその他の心理社会的問題を明らかにすることを目的として調査を行いました。その結果,働く女性とその家族の育児経験におけるアジア共通のパターンと、韓国特有のパターンが示されました。
発表を行うJoonha Park教授
発表を行うJoonha Park教授

 Discussant のJiaobo Duan先生からは、専門領域であるポジティブ心理学に基づくコメントをいただき、育児と仕事を両立する女性のwell-beingに最も影響を与える要因について、またインタビューにおいて最も印象に残ったことなどについて質疑応答がなされました。
コメントをするJiaobo Duan先生
コメントをするJiaobo Duan先生

 本シンポジウムは、質的データの分析視点や分析方法について3か国で共有することの困難さ、各国での研究対象者の条件統制の際に生じるマッチングの問題等、質的研究において国際比較を行う際に生じる課題についても議論を深める良い機会となりました。日中韓はともに、近年ますます女性の社会参加が求められる一方でジェンダーギャップは改善されず、働く母親たちは育児と仕事の両立に困難を感じているという共通点があります。今後も、子どもとその家族のwell-being向上のために有効な育児支援システムを開発・提供することを目指して共同研究を遂行し、情報発信を続けます。
ディスカッションの様子
ディスカッションの様子