

学外研究制度を活用するのは、2度目です。2017年に1年間滞在したアメリカ(シアトル)に続いて今回も家族を伴ってドイツに赴きました。
渡航を前に済ましておきたかったのが、住まいや子どもを預ける保育園を確保することです。ドイツでは家を仲介する不動産会社が少なく、個人的に貸し借りするのが一般的で、ツテなしに家を見つけるのは非常に難しいと聞いていました。渡航先研究機関のサポートセンターや、現地にある日系の不動産会社に問い合わせてみたものの物件を見つけることができず、困りました。そんな時に情報提供してくれたのが、現地の日本人会でした。運よく部屋を貸してくれる日本人を紹介してもらい、渡航前に住居を決めることができました。
次に保育園探しは、保育園検索サイトで調べるところからスタート。いくつか希望の保育園をピックアップし、入園希望のメールを送りました。保育園に空きがあるかは運次第でしたが、こちらもタイミングよく第一希望の保育園に入園できることになりました。現地に行ってから住まいや保育園を探したのでは、見つけるまでに数カ月かかる場合もあると聞いていたので、ほっとしました。
渡航してから大変だったのは、住民登録や銀行口座開設などの諸手続き、そしてなんといっても滞在許可の取得です。言葉の壁がある上に、日本と違って役所や銀行の対応は決して丁寧とは言い難く、担当者によって言うことも異なり、何度も通っては問い合わせ、2カ月以上かかってロンドン出張の数日前にようやく取得しました。
ハンブルクはドイツ北部にあるドイツ第二の都市です。バスや地下鉄など交通機関が充実しているので、移動に困ることはありません。日本の食材は多くありませんが、スーパーマーケットで必要なものは手に入るので、食生活に不自由は感じません。円安の影響もあり、レストランは非常に高い印象です。家族で外食する時は比較的手頃な価格でしかもおいしいトルコ料理やアジア料理の店にもよく行きます。
ハンブルクは航空宇宙関連企業の世界的な集積地の一つです。エアバス社の本拠地であるフランスのトゥールーズをはじめ、ヨーロッパ各地に点在する関連企業にも行きやすい立地にあります。これらの企業を訪問し、調査研究を行うとともに、研究者、各企業やその関係者とのネットワークを広げることが、今回の学外研究の目的です。
滞在期間の前半は、航空宇宙関係の展示会でさまざまな企業とつながりをつくり、後半は各企業に赴き、訪問調査や工場見学を行なっています。ミュンヘン、フランクフルト、デュッセルドルフ、シュトゥットガルト、ベルリン、ドレスデンなど、ドイツ各地に赴くほか、フランスのトゥールーズやパリ、イギリス、スウェーデンなどにも行く予定です。
次の訪問調査に向かうまでの短い間に企業にアポイントを取ったり、航空機やホテルを予約しながら調査準備をする日々。
また、ヨーロッパの歴史、平和と安全保障、エネルギー政策を学ぶことも学外研究の目的です。ナチスの時代を経て形成された民主主義のあり方、少数意見を排するのではなく、徹底的に議論して一致点を探す姿勢、それを基礎とした社会やビジネスの特徴から学ぶこともたくさんあります。
数年分の予定を1年に詰め込んでいるような濃密な時間を過ごしています。
今回の学外研究の大きな収穫は、企業やキーパーソンと多くのネットワークをつくれたことです。企業を訪問し、関係者と会って話すことでしか得られない情報がたくさんありました。研究に直結することだけでなく、日本人とは異なるヨーロッパの人々の考え方や価値観を肌で感じられたことも、ヨーロッパの企業経営を理解する上で役に立つものになると考えています。
研究面だけでなく、家族と一緒にドイツに来られたことも良かったと思っています。父親としてまだ幼い子どもたちの育児を担っています。出張調査にも家族を帯同することが多く、休日には子どもが好きな動物園や水族館、各地の歴史的建造物や博物館を訪れ、そこから学ぶことや発見も多くあります。
研究だけでは得られない多様な人間関係を築けることも、家族がいるからこそのメリットです。子どもと地域のイベントや行事に参加し、近所の人と面識ができ、また保育園を通じて親御さんとも親しく話すようになりました。ホームパーティーで親しくなった人から航空機メーカーに勤める人を紹介してもらうなど、個人的な人間関係が研究につながることもあります。たくさんの出会いが、研究もまた人生も実り多いものにしてくれたと感じています。