1年間の学外研究の機会を得て、まず国内の2つの大学でそれぞれ数カ月ずつ研究を行った後、最後の2ヶ月間、オーストラリア国立大学に研究滞在しました。
研究先を決める上で大きな力になったのが、これまで培ってきた人との「縁」です。そのベースをつくったのは8年前、前回の学外研究でした。オーストラリアのメルボルン大学に1年間研究滞在する間、学会や調査などで親しくなった研究者の方々とは、その後も親交を続けてきました。そうした方々が、「条件が整うならぜひ来てください」と受け入れを後押ししてくださったことで、今回の渡豪が叶いました。
渡豪にあたり日本で準備したことの一つが、現地での滞在先の確保です。コロナ禍でキャンパスにある滞在施設が閉鎖され、自分で調べて手続きしておく必要があったためでした。夫と二人での渡豪だったこともあり、感染防止と、もし感染した場合の自主隔離のしやすさも考え、賃貸の戸建て住宅を選択。また滞在中はレンタカーを借り、できるだけ車で移動することも心がけていました。
生活する上で困ることはほとんどありませんでしたが、唯一頭が痛かったのが円安による物価高です。できるだけ外食などの出費を控え、自炊する毎日でした。コロナ禍では感染対策や健康管理の意味でもかえって良かったと思っています。
大学のあるキャンベラは、緑豊かで美しい都市です。滞在していたのは真夏だったので、夕方、少し涼しくなった頃に夫と近くの公園まで散歩するのが日課になりました。毎日歩いていると、近くに住む人と顔なじみになってあいさつすることも。そうしたささやかな時間が研究の息抜きになっていました。
今回の学外研究の収穫は、情報と人脈をアップデートできたことです。私は高等教育機関における学習・教授の質保証やその継続的な改善を支えるIRについて研究しています。国内で研究していた前半にこれまでの研究蓄積を整理した上で、オーストラリアでは、次の研究を展望するための基礎的な情報収集に注力しました。懇意の研究者の尽力で客員研究員として迎え入れていただいたおかげで、大学の図書館にもスムーズにアクセスでき、現地でしか得られない資料にも数多く目を通すことができました。
それ以上に大きかったのは、新旧合わせて多くの親交を深められたことです。今回オーストラリア国立大学に赴いた大きな理由の一つが、前回の渡豪で親しく交流した方が、同大学に移籍され副学長(学術担当)を務めておられたことでした。大学のトップから、同国の大学教育の取り組みやビジョンについて率直な意見を聞き、非常に貴重な示唆を得ることができました。多忙の中、日本から訪ねた私のために時間を割いてくださり、語り合えたことが嬉しかったです。また前回知り合った研究者の方々と再会し、旧交を温めるとともに、互いの研究成果や現在の課題を報告し合うことができました。さらには彼らを通じて新たな研究者との出会いもありました。
いまやインターネットがあれば多くの情報を収集できますが、現場に赴き、人と顔を合わせて話すからこそ得られることもたくさんあります。私の研究においては、実際にキャンパスに足を踏み入れ、その空気や学生の印象をリアルに感じ取れたことも得難い経験でした。これまでの「縁」があったからこそ今回の学外研究が実現したように、新たに得た知見と人脈が5年後、10年後につながる財産になると思っています。
もちろん研究が計画通りに進まないこともあります。とりわけ今回はコロナ禍で直前まで渡航できるかさえ不透明でしたが、現地での研究計画を立てつつそれが叶わなかった場合のプランB、プランCも用意していました。予測不可能な事態に遭遇することは今後もあるでしょう。その時は「できることをできる範囲で精一杯する」という気持ちで臨むことが大切だと感じました。
学外研究は、今一度謙虚になって自らの立ち位置を確認する機会としても意義あるものだと私は考えています。積み上げてきた研究蓄積を別の場所・別の視点から見直すことで、自分の足りないところに気づかされます。まだまだ知るべきこと、学ぶべきことがあると思えるのは嬉しいことです。また帰国後、そうした経験や知見を立命館大学の学生と授業を通じて共有するのも楽しみです。