England

渡航先
イギリス
四井 早紀
理工学部 特任助教 (インタビュー当時)
滞在期間
2022年8月7日~2022年8月27日
学外研究機関
ケンブリッジ大学、ブルネル大学
研究機関と滞在中の研究の概要
COVID-19前後の自然災害の対応比較→公正性に基づく合理的配慮のための要配慮者の災害脆弱性評価に関する研究

コロナ禍で往来できなかった
イギリスで共同研究者と再会

今回の海外研究は、日本とイギリスの自然災害・新型コロナウイルスなどの感染症の危機管理体制に関する比較検討するにあたり、イギリスの実情を実際に現地で共同研究者の方々と会って意見交換することが目的でした。

自然災害が発生した際、社会の脆弱性を踏まえた上で人的被害を低減するにはどうしたらいいのか。それを考えるために、自然災害のリスクや脆弱性の評価に関する研究を行っています。気候変動による自然災害の激甚化と熱中症を起因とする健康被害の増大、コロナなどの感染症などの加害力が作用した結果として起きる直接または間接的な生命、健康、生活への影響は、一人一人の脆弱性によって異なります。新型コロナウイルス以降、この脆弱性がより多様化し,長期的に影響を及ぼしています。その中で、人間の脆弱性の多様化を今一度検討し直す必要があると考えています。イギリスは、世界で初の孤独問題担当国務大臣を設置した国です。日本は、英国に次ぎ2番目に孤独・孤立対策担当大臣を任命しました。両国は,社会関係資本に関する問題の重要性をいち早く認識、対策に取り組みはじめています。

イギリスと日本で、災害に対する対策・危機管理体制を比較研究するために、これまでケンブリッジ大学、ブルネイ大学の研究者などと共同研究の準備を進めてきました。しかしスタートから約3年間、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、オンラインでの情報交換は続けていたものの、互いの国を行き来して研究を進めることができませんでした。今回の支援制度を活用することで、ようやく渡英を実現することができました。

コロナ対策緩和の英国と
日本のギャップを実感

イギリス・ケンブリッジに着いたのは、夏の盛りの8月でした。最初の2週間は、ケンブリッジ大学のキャンパス内に設けられた、国内外から大学を訪れる研究者やゲスト用の宿泊施設に滞在しました。

受け入れ先のケンブリッジ大学の教授とは、大学院時代に同大学を訪れて以来、10年のつきあいです。久しぶりの再会を喜び合ったものの、新型コロナウイルス感染防止のため、レストランなどでの会食を控えなければならなかったのが残念でした。イギリスではすでに多くの制約が解除されておりましたが、日本に帰国するには陰性証明が必要だったため、食事はスーパーマーケットの総菜やレストランのテイクアウトでした。

数少ない休日の思い出は、受け入れ教員の教授やお子さん、友人たちと連れ立って、ケンブリッジ名物のパンティング(舟下り)を体験したことです。大学近くを流れるケム川で、パントといわれる手漕ぎボートを自分達で漕ぎ、川岸に見えるケンブリッジの歴史的な建物や美しい景色を満喫しました。

現地に滞在したから得られた
日常生活に根差した課題意識

今回の研究滞在で改めて実感したのは、対面でのコミュニケーションの大切さです。ケンブリッジ大学では、受け入れ先の教授にデスクを用意していただき、共同研究者や、災害リスクコンサルティング会社の方々とミーティングを実施しました。さらに、リスクコミュニケーションツールやその評価手法についても話し合いました。

また共同研究者の方々と、日本から持参したリスクコミュニケーションツールの一つで、ゲーム形式の防災シミュレーションを実際に体験しながらさまざまな意見を出し合い、リアルな対話から得られることの大きさを感じました。地域防災・減災には、人と人とのコミュニケーションが不可欠です。その重要性を再認識する機会となりました。

イギリスの実情についても、現地に行かなければ知り得なかったことがたくさんありました。街の薬局に、抗原検査キットが山のように積み上げられており、現地の方々から話を聞いて、日常生活の中の新型コロナウイルス対策やリスクコミュニケーションについて示唆に富む知見を得ることができました。

新型コロナウイルスに加えてもう一つ、日本と共通の問題としてかねてから関心を持っていたのが、イギリスの熱中症対策です。近年、酷暑が続くイギリスでは、熱中症が大きな社会課題となっています。今回夏季に滞在して初めて、実感を伴ってそのリスク課題について考えられたのも収穫でした。

共同研究者の方々との意見交換・情報収集の時間を豊富に得られた20日間、非常に充実したものになりました。次の機会には、災害時に支援を必要とする方々へのインタビュー調査などを実施し、研究を進展させていきたいと考えています。