

ファッション市場におけるブランド・ロイヤルティの形成・向上について研究しています。これまで主に統計データを用いて質的比較分析などを行ってきましたが、今以上に研究の守備範囲や視野を広げ、研究者としてさらに成長するために、さまざまな分野の研究者との共同研究に挑戦したいと常々考えていました。これまでにリサーチオフィスの協力を得て、心理学部の先生との共同研究を実施。次は海外で共同研究者を探したいと考え、学外研究制度を利用して、アメリカのミズーリ州立大学に赴きました。
渡航先を決めるにあたっては、新しい出会いを求め、これまでに接点を持ったことのない大学にアプローチしました。マーケティングなど研究領域が重なる学部のある大学から候補を絞り、自力で連絡先を探して学部長宛に経歴書とともに学外研究の受け入れを依頼するメールを送付。オンラインで面接を受け、採用が決まった大学の一つがミズーリ州立大学でした。
複数から採用通知を受け取った中で同大学を選んだ大きな理由は、大学の近くに夫の実家があることです。当時1歳半の子どもを連れての学外研究だったので、家族のサポートが不可欠でした。夫は仕事があるため、長期間は同行できません。2ヵ月の滞在中は義理の両親の家に宿泊し、食事や子どもの世話を助けてもらえたおかげで、子連れでの学外研究が可能になりました。
学外研究を実りのあるものする上で非常に重要だと感じたのが、受け入れ先の学部長の協力です。面接時に研究テーマや要望を聞き、すぐに同大学でロイヤルティを研究している方を3名も紹介してくださったおかげで、渡航前からオンラインで連絡を取り合い、互いの研究について理解を深めることができました。
渡航後も、学部長自ら学部のフロアを案内し、各研究室の教授や他の研究者の方々を紹介して関係性をつくってくださいました。そのおかげで共同研究者だけでなく、多様な方々との人脈を築くことができました。
2ヵ月間の大きな成果は、同大学との共同研究をスタートさせられたことです。滞在中は週1回、共同研究者とのミーティングを実施し、研究テーマの選定から議論を重ねました。オフィシャルタイムのミーティングと同じくらい有意義だったのが、ランチタイムや休憩時間などのオフタイムの交流です。オフィシャルな場を離れ、互いのプライベートのことなどもざっくばらんに雑談する中で、共通の関心として浮上したのが、「ペット市場」という研究テーマでした。私にとっても、これまで焦点を当てたことのない新しい研究テーマを見出すことができました。
大学教員として、同大学の授業を見学できたことも得難い収穫でした。目を見張ったのは、教員と学生のインタラクティブな意見交換が活発なところです。これまで私自身も双方向の授業を目指してきましたが、日本人の学生は大勢の前で発言することが苦手なのではないかと思い、躊躇していました。しかし授業を見学し、教員が積極的に学生に発言を促せば、最初は恥ずかしがっていた学生も、次第に意見を言えるようになるとわかり、大いに刺激を受けました。現在、担当する授業では、私も積極的にコミュニケーションをとるようにしています。
滞在中の平日は、主に大学でミーティングや授業見学、それ以外は共同研究室で自分の研究や論文の執筆などをして過ごしました。幼い子どもがいるため、柔軟な通学を認めていただけたことがありがたかったです。同大学の教職員の方々も、職場にお子さんを連れてきたり、家族が訪ねてきたりすることも多く、家族との時間を大切にしながら仕事をする環境が当たり前にあると感じました。
一方生活面では、まず円安とインフレの影響の甚大さに驚きました。大学のあるミズーリ州は北米の中西部に位置し、大都市圏に比べると物価は比較的安いですが、それでも、1LDKの小さな部屋の家賃が日本円で1ヵ月約18万円、子どもを連れてレストランでランチをすれば、すぐに5000円を超えてしまいます。夫の実家に滞在し、家賃や食費を抑えることができた私でも、助成金(学外研究制度)ですべてを賄うのは厳しいと感じました。
また現地では、移動に自動車が欠かせません。他の外部研究員も、多くが国際免許証を持っていました。外国人でも自動車購入のハードルが低いので、滞在中に中古自動車を購入し、帰国時に売却する人も多いようです。
帰国後も、同大学の共同研究者と連絡を取り合い、共同研究を進めています。また今回知己を得た研究者を立命館大学に招き、授業で講義をお願いすることも約束しています。まったくかかわりのなかった大学で学外研究に挑戦したからこそ、新たな研究テーマと貴重な人脈を得ることができました。