2025.10.08 TOPICS

【大阪・関西万博】世界で活躍する子ども・学校づくり 未来を拓く子どもたちへ-世界で活躍する教育者たちが語る、学びの可能性-

 2025年8月6日、大阪・関西万博「Women’s Pavilion」にて、国内外のプロ野球リーグで活躍し、現在は田中学園立命館慶祥小学校理事長である田中賢介氏をお迎えした特別トークイベントを開催。
 第1部では、「家庭とともにある教育」をテーマに、立命館大学グローバル教養学部長(前・立命館小学校長)堀江未来氏とのディスカッション。ファシリテーターは学校法人立命館学園広報室長・種子田穣氏。予測不可能な変化の時代における教育の役割や可能性、野球選手としての厳しい経験から学んだことなどをお話いただいた。

変化の時代に対応する学びのあり方

種子田氏:プロ野球の一流選手だった田中さんが、なぜ教育の現場に関心を持たれたのでしょうか?

田中氏:2013年のオフシーズンに武者修行のような形でベネズエラに行ったのですが、そこで当たり前のように殺人や盗難が起きているのを見て、やはり教育、特に幼少期の教育がすごく大事なのだと気づきました。日本に帰国し、引退後、次に何をしようかと考えたとき、教育に携わる仕事がしたいと思ったのが、この道に進んだきっかけです。

堀江氏:私がアメリカに行った時に習った言葉に、「学校は校長の人格の延長線上にある」というものがあります。学校を作る時のコアには、やはりその人格や人間性がある。そして、それが様々な方法論を持って形作られていく、という話でした。田中さんと最初にお会いしたときに、「ああ、もうこれはコアがあるから大丈夫だ」と感じました。この人格、人間性があれば、学校全体の文化を作っていくだろうし、方法論は後からいくらでもついてくる、と。

種子田氏:立命館小学校では特に「PBL(プロジェクトベースドラーニング)」という手法を採用されていましたが、その狙いはどんなものでしたか?

堀江氏:探究型の学びみたいなものを、形を変えながら、範囲を広げながら、ずっとやってきた経緯があります。世の中の変化が激しく、AIが進化する中で、私たちがどう学んで、どう成長していくかという方法論も変わっていくべき時期なのだと思います。教科書を見れば正解がわかる、という時代ではないことは明らかです。自分の頭で考え、協働しながら最善の答えを求めていく姿勢が、これからますます必要になります。そういう「問いに向き合い続ける力」や「試行錯誤しながら答えを見つけていく力」を、様々な形で教えていく必要があると強く感じています。

種子田氏:田中学園立命館慶祥小学校では「世界に挑戦する12歳」というコンセプトを掲げていらっしゃいますが、具体的にどのようなイメージでしょうか?

田中氏:幼少期から小学生までは「土台作り」だと考えています。どこに向かうかは子どもたちが決めればいい。ただ、そこに向かうための土台だけはしっかり作ってあげたい、というのが一番の思いです。当然、学力も運動も英語もしっかりやりますが、一番大事なのは、そこに向かうマインドです。世界に挑戦するための思考の土台を作ってあげたい。そういう意味での「世界に挑戦する12歳」です。「こういう子どもになってほしい」という想像は、あまり持っていません。むしろ、先生たちには「想像するな」と言っています。僕らの想像を超えていくような子どもたちを育てていかなければいけないからです。僕もずっと野球をやってきたので、学童野球の子どもたちを見ると、ある程度の予想はつきます。でも、その予想を超えていかないといけないと思っているので、自分たちの枠にとらわれた価値観で子どもたちを見ないようにしたいと、日々思っています。

堀江氏:今のお話、すごく共感します。私たちは自分の知っている姿に子どもをはめ込みがちです。そこをいかに排除しながら、子どもが持っている純粋な力をどうサポートしてあげるか、というのが本当に大事なところだと思います。

種子田氏:子どもたちの「どうしたいか」を、どうやって引き出していくのでしょうか?

田中氏:何もない状態で引き出すのは難しいと思っています。もちろん、たくさんの経験をさせることもありますが、ある程度頑張ったからこそ見える景色があると思うので、ある程度面白さが出てくるところまで、ある意味コツコツと頑張らせることも、我々の仕事なのかなと感じています。

子どもの可能性を引き出すには

種子田氏:田中さんがおっしゃった「ある程度面白さが出てくるところまではやらせる」というプロセスは、つらいことも多いと思いますし面白くならないまま終わる可能性もあります。この見極めは難しいと思うのですが、どうお考えですか?

田中氏:本当に難しい問題です。子育て真っ最中の僕も、日々悩んでいます。ただ、一番大事だなと思うのは、子どもが興味を持ったことを、親が「超えない」ということです。子どもが「やりたい」と思ったことに対して、親が「さらに上」に興味を持ってしまうと、子どもは一気に冷めてしまうと思います。常に「後ろから支える」ように、子どもの一歩後ろにいることを意識しています。

種子田氏:なるほど、後ろから支える。堀江さんはいかがですか?

堀江氏:私は、小学生から大学生まで、多くの方から「好きなことが見つからない」という相談をよく受けます。その時に必ず伝えているのは、「探そうとするから、見つからない」ということです。「まずは目の前にあることを一生懸命やりなさい」と言っています。学校生活では、得意なことも不得意なこともやらなければいけませんが、逆に言うと、学校はその不得意なことにも挑戦できる良さがあります。様々なことに挑戦していく中で、ピンとくるものがあれば、それがおそらく好きなものじゃないかな、と子どもたちにはいつも話しています。

田中氏:僕のマイブームは「スポーツ界における技術と技能」を考えることです。これまでは技術と技能がごっちゃになっていたことが多いのですが、今の話も、まさにその技術的なことを教えたらできるようになる、という部分ですよね。例えば、チャレンジの仕方も、「どんどんしていいよ」と言うだけではなかなかできません。「失敗していい部分」と「してはいけない部分」をちゃんと教えてあげれば、チャレンジしていくような気がします。今、小学校で議論になっているのが、「挨拶は技術なのか」ということです。出会った瞬間の印象で約8割が決まると言われるなら、やらない手はないですよね。外国に行けば挨拶の仕方が違うように、相手によって挨拶の技術を変えられたら、本当に良いなと思っています。このように技術として挨拶を教えるべきか、という議論をしています。

堀江氏:私は、小学生に挨拶をどう伝えるかを考えたことがあります。「マナーだからしましょう」では違うなと思って。でも、入り口としては方法論としての「技術」だけど、その後にマインドがついてくる、という位置づけかなと思いました。言葉が通じない場所に行った時に、必死でやるのは挨拶です。それ以上の会話がなくても、少し良い印象を持ってもらえたりして、サバイバルのための土台ができる。私たちは慣れ親しんだ環境にいるから当たり前だと思っているけれど、人と助け合いながら生きているから、その入り口として挨拶をするのはどうだろう、と話したことがあります。

種子田氏:堀江先生は、ディベートについてどのようにお考えですか?ディスカッションとは異なり、勝ち負けがあるディベートは、お互いの話を聞いて積み上げていくという目的からすると、邪魔なものに感じませんか?

堀江氏:エクササイズとしてのディベートはありだと思います。自分の意見とは別に、今日は賛成派、今日は反対派、という立場で議論することで、その立場に立ったからこそ初めて見える観点や、無理やり考えたロジックを思いつくトレーニングになります。ただ、闘いにはしないようにしました。勝つことではなく、そこから何かを学ぶことが大事だと伝えていました。自分の意見を明確に述べることも大事ですが、同時に相手の立場を理解することが必要です。相手の世界を理解するために、どれだけ感受性を持ち、掘り起こせるような質問ができるか。これも重要な技術かなと思います。

田中氏:何をするにもその「反対側を見る」ことは大事な要素だと思います。自分を客観的に見ることです。一方で、プロ野球選手など、何かを極めている人たちは、全く人の話を聞かないんですよ。なので、「聞くことが本当に良いことなのかな」と日々葛藤しています。聞きすぎると、自分が本当にやりたいことがボケてきて、正解っぽいことを選びがちになると思うんです。なので、聞かないという練習も一つあってもいいのかなと最近は思います。世界に挑戦するという意味では、自分を通す、そこに信念があるならやってしまえ、と思ってしまうことはありますね。

種子田氏:話は少し変わりますが、子どもたちには得意・不得意があると思いますが、現場ではどのように対処していますか?

田中氏:僕の経験上ですが、自分が「できる」と思っていることが本当にできるかどうかは怪しいと思っています。本当に上手な子やセンスがある子が最後まで生き残っているかというと、ほとんどないような気がします。むしろ、そこが好きだとか、頑張れるとか、そういう「粘り強さ」がある人、最後まで諦めない人が勝つのじゃないかなと思っています。

堀江氏:粘り強さ、私もすごく大事だと思います。今の学校の仕組みや社会の中では、どうしても結果を急いでしまいがちです。大人も含めて、早く成果が見たい。でも、そこをぐっと我慢して、大人が時間をかけて本人をちゃんと見守ることが、改めて大事なのだなと思いました。

家庭の役割とこれからの教育の方向性

種子田氏:今後の教育を考える上で、家庭の役割はどういうものだと思いますか?

田中氏:保護者の方も常に「これが正解だ」と思いすぎないことがすごく重要だと思います。子どもはいつかは手を離れていくものなので、そのロケットの切り離しのように、手を離すタイミングを間違えないようにしてあげるといいのかなと、子育てをしていて感じます。

種子田氏:堀江さんは、学校と家庭のコラボレーションについて、どのようにお考えですか?

堀江氏:私は児童募集の関係でよくお話をしていましたが、立命館小学校は受験して入っていただくので、保護者の方は「完璧な姿を見せなきゃいけない」と思いがちです。しかし、そうではないとお伝えしていました。私たちは完成した人を求めているのではなく、むしろ大人としてもこれから成長していくことを前提に保護者の方も教職員も、子どもの成長を間におきながら一緒に協力し合える方に来てほしいと話していました。だから、保護者の方に完璧は求めないし、私たちも完璧を求められたくないのです、と申し上げていました。

種子田氏:では、これからの教育の方向性についてお願いします。

堀江氏:今、私は大学に戻って2年目ですが、先生方が先生という職業に誇りを持って、ご自身も成長しながらキャリアを転換させていくことが必要だろうと改めて思います。先生自身が挑戦し、失敗を恐れずにその経験から学んで成長していく。そのことがより大事になってくると思います。立命館小学校でも、やったことを褒めようという「ナイストライ」のマインドが、先生たちの間で文化になってきています。子どもはすぐ慣れるので、先生方がどう有意義に成長していくかが大事になってくると思います。

田中氏:僕らの想像を超えるような子どもたちになってほしいです。そして、何のためにやるのかという目的を明確に持って、それが社会や誰かのためになるようなことを突き進んでやってほしいですね。どんどんチャレンジしてほしいです。

堀江氏:田中さんのお話にすごく共感しました。もう一つは、何かこう、自分は「成長し続けられる人間なんだ」というところに、自信と希望を持っていてほしいなというのがあります。成長は一生涯続くものなので、そこに対する期待感と充実感があることが、自己肯定感や幸福感につながるのかなと思います。

お二人の対話は、変化の時代を生き抜く子どもたちを育むためのヒントに満ちていた。答えのない問いに向き合い、粘り強く挑戦し続ける力。そして、大人が枠を決めつけず、子どもの可能性を信じ、そっと背中を押すこと。そこには、正解を教えるのではなく、子ども自身が自ら道を切り拓くための「土台」を共に築き、応援する、新しい教育の形が見えてくる。子どもたちの成長を、学校と家庭が手を取り合い、見守っていくことの重要性を改めて感じる対談だった。

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