アジア・マップ Vol.01 | アフガニスタン

読書案内

山根聡(大阪大学大学院人文学研究科・教授)

概説書
前田耕作・山内和也編著『アフガニスタンを知るための70章』明石書店 2021年
 アフガニスタンに関する基本的な知識を、歴史、民族、経済や医療、人々の暮らし、文学や音楽、衣装、交錯する様々な文化、各地の様子、日本とアフガニスタンの関係、戦後復興の流れなど、わかりやすいエッセイでまとめた概説書。巻末に、2021年8月のターリバーン政権樹立の経緯についても解説が含まれている。アフガニスタンの全般を扱った書籍としてわかりやすい。長年アフガニスタンに携わってきた多彩な著者による執筆で、この国を理解するうえで貴重な情報を与えてくれる。
前田耕作・山根聡『新版 アフガニスタン史』河出書房新社 2021年
 2001年同時多発テロ直後に刊行されたアフガニスタンの通史で、2021年秋に若干の加筆を経て再版された。特に古代における文化の交錯や、ターリバーン成立に関する背景が詳述されている。1992年4月のムジャーヒディーン政権樹立後の泥沼化した内戦における対立する諸勢力の離合集散の状況を、周辺国の関与の状況とともに図説を含めて解説した、複雑に絡み合う諸勢力の関係は、現在のアフガニスタン情勢を理解するうえで有効である。
ヴィレム・フォーヘルサング著、前田耕作・山内和也監訳『アフガニスタンの歴史と文化』明石書店 2005年
 著者はオランダのライデン国立民族博物館学芸員で、古代インドとイランの言語を習得した。アフガニスタンの通史を、先行文献を渉猟しつつ、古代から2002年まで詳述したもの。古代の章では、この国で多くの民族、言語、宗教文化が交錯していたことが描かれ、近世以降の周辺国との軋轢も詳しく描かれている。16世紀末、インドのムガル朝と交わした条約によって、アフガニスタンの北部と南部の交流が制限された経緯など、現在も残る地域差など諸相の背景を知ることができる。
専門書
アハメド・ラシッド(坂井定雄・伊藤力司訳)『タリバン イスラム原理主義の戦士たち』講談社 2000年
 パキスタンの政治ジャーナリストとして著名な著者が、ターリバーン結成直後に刊行した書籍で、1994年のターリバーン結成直前のアメリカやパキスタン、サウジアラビアによるエネルギーをめぐる各国の思惑の交錯等、国際関係の動向を描いている。アフガニスタンにおけるイスラーム体制確立というターリバーンの運動の背景として、複合的な要素が絡み合っていたことを指摘している。
高橋博史 『破綻の戦略:私のアフガニスタン現代史』白水社 2021年
 ソ連軍侵攻直前にカーブル大学に留学し、その後パキスタンでのアフガニスタン情勢担当官を経て国連アフガニスタン和平ミッションや駐アフガニスタン日本国大使を歴任したアフガニスタン情勢の第一人者が、自身の経験をもとに記したアフガニスタン現代史。アフガニスタンと長らく関わり、ターリバーンや他の諸勢力、国連関係者や外交団などあらゆる戦争当時者らと交流してきた著者ならではの記述はアフガニスタンの内実を知るうえで貴重である。
中村哲『アフガニスタンの診療所から』ちくま文庫 2005年
 地雷で負傷したり、疾病に苦しむアフガニスタン難民のために診療所をパキスタンのペシャーワル郊外の難民キャンプ地域に開いた著者は、その後アフガニスタン東部での診療活動だけでなく、自立支援のために井戸や運河を創るべく奮闘したが、2019年、何者かに襲撃されて命を落とした。9.11同時多発テロ事件以降、著者の活動が脚光を浴びて支援が集まったが、著者はそうした流れとは無関係に、アフガニスタンの人々と交わり、自立支援を続け、国連などの支援活動を冷ややかに見つめている。著者による著作は数多くあるが、本書もその一つ。
前田耕作『アフガニスタンを想う―往還半世紀-』明石書店2010年
 2022年に急逝するまでアフガニスタンの仏教遺跡の調査や文化保存活動に生涯をささげた著者による回顧録。様々な文化が交錯し、それを受容れたアフガニスタンという地域と関わる中で、特に1960年代から続けてきたバーミヤーン仏教遺跡をはじめとする文化遺産の保存について、これまで折に触れて書いてきた文章をまとめたもので、著者のアフガニスタンの文化、ひいては人類の文化遺産に対する強い思いが込められている。

書誌情報
山根聡「アフガニスタンの読書案内」『《アジア・日本研究 Webマガジン》アジア・マップ』1, AF.5.03(2023年1月10日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol01/afghanistan/reading/