アジア・マップ Vol.01 | カザフスタン

読書案内

李眞惠(立命館大学OIC総合研究機構・専門研究員)

一般向け
小松久男・宇山智彦・堀川徹・梅村坦・帯谷知司『中央ユーラシアを知る事典』平凡社、2005年
 本書は、1991年のソ連解体という世界史的変動によって現代史に新たにスポットライトが当たった中央ユーラシア地域を理解するための総合辞典である。同地域における諸独立国がソ連解体後の激動を経験しながら、政治、経済、社会、文化などあらゆる領域でどのような問題に直面したのかを明らかにして、ひいては現代世界全体にも及ぶ様々な問題を提起しており、中央ユーラシアに対する対する広い理解を提供する基本書である。
宇山智彦『中央アジアを知るための60章』明石書店、2003年(2015年、第2版)
 中央アジア5カ国であるウズベキスタン、カザフスタン、クルグズスタン(キルギス)、タジキスタン、トルクメニスタンを中心にしながらも、中国の新疆ウイグル自治区や、ロシアのムスリム地域であるタタルスタンとバシュコルトスタン、そしてアフガニスタン情勢をも視野に入れた中央アジアの概説書である。本書は、中央アジアにおける政治・経済、文化、生活、歴史およびその現状を概説するとともに、人々の暮らしや芸術を様々な角度から取り上げて説明している。中央アジアを理解するための必読書である。
宇山智彦・藤本透子『カザフスタンを知るための60章』明石書店、2015年
 本書は、中央アジアの一国であるカザフスタンの自然環境・地理・民族、歴史、生活・社会、文化・芸術、政治・経済、日本とのかかわりを様々な観点から取り上げ、ソ連解体と独立宣言を経た後の現代カザフスタンを理解するための概説書である。
宇山智彦・樋渡雅人『現代中央アジア-政治・経済・社会』日本評論社、2018年
 1991年のソ連崩壊と中央アジア5カ国の独立宣言から四半世紀後の各国の政治・経済・社会の現状を根本的に分析し、多様なテーマを多面的に企画した新しい解説書である。多民族・多文化・多宗教国家である中央アジア各国の違いと共通点をテーマ別に扱うとともに、欧米とロシアの影響力による国際関係の中での中央アジアの変化を描き出している。ダイナミックに変化している中央アジアの政治・経済・社会を理解するための基本書である。
学術書
塩川伸明『国家の解体:ペレストロイカとソ連の最期』東京大学出版会、2021年
 本書は、20世紀の歴代的な事件の一つであるソ連解体の経緯をペレストロイカという改革政策を通じて解明している。現代中央アジアを理解するために必須キーワードであるソ連解体という歴史的な出来ことについて、ソ連における各共和国と民族、そして国際関係上のアクターが複雑に絡んだ経緯を詳細かつ総合的に分析している。旧ソ連地域を理解するために欠かせない知見を提供する本書は、ソ連史の研究の泰斗である著者のもっとも重要な研究成果である。
岡奈津子『<賄賂>のある暮らし:市場経済化後のカザフスタン』白水社、2019年
 ソ連崩壊後、独立的に計画経済から市場経済に移行したカザフスタンの変化を分析した研究書である。過去30年の軌跡を著者による一次資料に基づく分析と、複数回実施してきたフィールドワークを通じて、これまでほとんど実証的に議論されていなかったカザフスタンの市場経済の下で、警察、教育、医療、ビジネス活動などあらゆる側面に蔓延している「賄賂」を切り口に、現在のカザフスタンにスポットを当てた研究書である。 現代のカザフスタンを理解する上で重要な手がかりを提供している。
藤本透子『カザフの子育て―草原と都市のイスラーム文化復興を生きる』風響社、2010年
 ソ連崩壊後、独立を果たしたカザフスタンは多民族国家である。本書は、同国の基幹民族であるカザフ人の伝統文化へ深みのある理解を提供する学術書である。特に、カザフ人の子育てに焦点を当てて、子どもの誕生と成長という日常の中で経験する事像をとおして、ポスト・ソビエト時代に生きる中央アジアの人々の暮らしを書き出している。また、カザフ人の特徴を概説するとともに、ポスト・ソビエト時代におけるイスラームの文化復興を理解する手がかりを提供している。
李眞惠『二つのアジアを生きる―現代カザフスタンにおける民族問題と高麗人(コリョ・サラム)ディアスポラの文化変容』ナカニシヤ出版、2022年
 ソ連という連邦体制の下でロシア語を主に使ってソ連国籍を所有していた少数民族は、ソ連が解体されると独立した各国の国籍を持つようになり、ロシア以外の国では各国の主要言語を学習して各国の民族主義に対応しなければならなかった。本書は、カザフスタンという地域を基盤に旧ソ連におけるコリアン・ディアスポラである「コリョ・サラム」を事例として、社会主義時代と独立期の少数民族の生存戦略と民族アイデンティティの行方を考察している。特に本書は、歴史的な文献と一次資料や研究文献に加え、現地の人々が発刊してきたエスニック・メディアと現地でのフィールドワークを合わせて探究した成果である。

書誌情報
李眞恵「カザフスタンの読書案内」『《アジア・日本研究 Webマガジン》アジア・マップ』1, KZ.5.01(2023年4月25日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol01/kazakhstan/reading/