アジア・マップ Vol.01 | ウズベキスタン

読書案内

宗野ふもと(The "Silk Road" International University of Tourism and Cultural Heritage・助教)

一般むけ
帯谷知可編『ウズベキスタンを知るための60章』明石書店、2018。
 本書は、「大地と人々」(自然環境の特徴)、「歴史」(古代から現代)、「暮らしと社会」(家族、宗教、教育など)、「文化・芸術」(言語、芸術、スポーツなど)、「政治・経済・国際関係」(内政から諸外国関係)、「日本との関わり」(草の根交流から外交史まで)から構成されており、ウズベキスタンの歴史や現状を網羅的に学べる入門書である。より知識を深めたい人には、各章の執筆者が推薦する巻末の「ウズベキスタンを知るための参考文献」が役立つ。
菊田悠『ウズベキスタン陶芸紀行:よみがえるシルクロードの窯元』共同文化社、2019。
 ウズベキスタンの陶業史と各地の窯元を紹介した全頁カラーの書。ウズベキスタンの手工芸史では、手工芸の伝統技術はソヴィエト連邦時代(1920年代~1991年)に途絶えたと捉えられる。本書が興味深いのは、たしかにソ連時代に陶業は変化したが、伝統技術の一部や技術を継承する師弟関係は維持されたことを、聞き取り調査に基づき明らかにしている点である。本書は、お土産として名高いウズベキスタンの陶器が、どのような近現代を経て現在にあるのかを私たちに示してくれる。
秋野深『TRADITIONAL MOMENT IN UZBEKISTAN(ウズベキスタン・伝統の瞬間)』秋野深、2019。
 ウズベキスタンの歴史観光都市、サマルカンド、シャフリサブズ、ブハラ、ヒヴァの宮殿や城郭建築、モスクやマドラサなどの宗教建築を収めた写真集。建築物の全貌写真はもちろん、幾何学模様や植物模様が美しいタイル装飾や透かし彫りの窓などの細部写真も本書には多く収められている。チベットなどの東方の宗教建築の影響も感じられるこれら装飾からは、ウズベキスタンが東西文化交差の地であることが確認できる。
Yonagadou & Daifukushorin『メトロタシュケント』大福書林、2020。
 首都タシュケントの地下鉄三路線(現在は四路線)29駅を紹介した全頁カラーの写真集。ウズベキスタンといえば青い丸屋根が美しいイスラーム建築が有名だが、地下鉄も駅ごとに異なるデザインや豪華な装飾が施され、近年では観光スポットとしても人気である。地下鉄に限らず、ウズベキスタンにはソ連時代に建設された個性的な建築物が多くある。本書では、社会主義を経験した国ウズベキスタンの一側面を視覚的に知ることができる。
特集「晴天の下、日月は流るる:ウズベキスタンの過去・現在」『K』3号、Knit-K、2022。
 『K』はNPO法人Knit-Kが発行する雑誌で、3号ではウズベキスタンが特集された。各記事からは、日本の研究者とウズベキスタンとの多様な学術交流を知ることができる。現在サマルカンドに住んでおり、11年前のウズベキスタン留学時との違いに衝撃を受ける筆者にとっては、「ウズベキスタンの街角にて:オビノンとユスポフスキーを探せ!」、「ウズベキスタンのリンゴ栽培:『ふじ』が育む日本との交流」、「繁栄する青の都:ティムール朝から現代まで」が興味深かった。
研究書
宇山智彦、樋渡雅人編『現代中央アジア:政治・経済・社会』日本評論社、2018。
 1991年のソ連解体は中央アジア五か国に大きなインパクトを与えたが、市場経済化や環境問題への対応、政治体制の変動経験は各国各様であった。本書の各章では政治、経済、社会における各国の違いや共通点が明らかにされている。なお、ウズベキスタンに関する記述の多くは、カリモフ初代大統領時代(1991-2016)のものである。ミルズィヨエフ現大統領が行う様々な改革の意義を知るためにも、本書におけるカリモフ時代の分析は参考になる。
小松久男、荒川正晴、岡洋樹編『中央ユーラシア史研究入門』山川出版社、2018。
 現在のウズベキスタンの国境線の原型がつくられたのは1924年であり、それほど古いことではない。中央ユーラシアの歴史は、さまざまな勢力の絶え間ない興亡の歴史でもある。本書では、ウズベキスタンを含む中央ユーラシアの歴史を古代から現代まで概観できるほか、近年の研究動向も文献情報と共に紹介されている。中央ユーラシアを対象とした研究を志す人に一読をすすめる。
帯谷知可『ヴェールのなかのモダニティ:ポスト社会主義国ウズベキスタンの経験』東京大学出版会、2022。
 本書では、ウズベキスタンにおける女性のイスラーム・ヴェールと政治および宗教との関りが明らかにされる。ロシア帝政期、ソヴィエト連邦時代、ウズベキスタン独立以降において、その時々の権力は、ヴェールを社会の発展と相容れないものとして捉えてきた。この捉え方はいかにして生み出され、社会に影響をもたらしてきたのかが、多様な資料(民族誌、定期刊行物、インタビューなど)にもとづき明らかにされる。
菊田悠『ウズベキスタンの聖者崇敬:陶器の町とポスト・ソヴィエト時代のイスラーム』風響社、2013。
 中央アジアのイスラーム信仰実践は、シャマニズムの影響が色濃く残りイスラーム的ではないと捉えられることもある。本書で取り上げられるのは、陶業の聖者に対する陶工の信仰実践である。イスラームに対して否定的政策がとられたソ連時代と、正しいイスラームとは何かが模索される独立以降において、いかに聖者崇敬は維持されるのかが考察される。本書には、理論的考察だけでなく文献調査、インタビュー、参与観察の成果がふんだんに盛り込まれており、文化人類学的調査とはどのようなものかについて知ることもできる。
ティムール・ダダバエフ『記憶の中のソ連:中央アジアの人々の生きた社会主義時代』筑波大学出版会、2010。
 1991年のソヴィエト連邦の解体まで、ウズベキスタンは約70年にわたり社会主義を掲げたソヴィエト連邦の構成国だった。中央アジア地域研究では、市井の人々のソ連時代の記憶を収集し分析した研究は多くない。一方で、意外かもしれないが、現在でもウズベキスタンではソ連時代を懐かしむ人は多い。本書ではインタビューで得られた情報に基づき、人々がソ連時代をいかに語るのか、なぜ人々はソ連時代の生活を懐かしむのかが考察される。

書誌情報
宗野ふもと「ウズベキスタンの読書案内」『《アジア・日本研究 Webマガジン》アジア・マップ』1, UZ.5.05(2023年3月30日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol01/uzbekistan/reading/