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2024.04.09

【レポート】第65回AJI研究最前線セミナーを開催しました!中鉢夏輝氏「イスラーム的森林利用の理念と実践:インドネシアのワクフの森から考える」

 3月12日 (火) 、第65回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回のセミナーでは、中鉢夏輝氏(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 博士課程)より「イスラーム的森林利用の理念と実践:インドネシアのワクフの森から考える」と題して、興味深い研究発表をしていただきました。

 中鉢氏は、近年、インドネシアをはじめとするイスラーム世界で盛んとなっている森林資源の寄進(ワクフ;Waqf)をめぐる実態や法的枠組について、インドネシア(アチェ州、ボゴールなど)におけるフィールド調査を通じて明らかにする研究を専門としています。ワクフは、寄進者から寄贈された土地、物件、動産、現金(ただし、ワクフに含まれるかは議論がある)など様々なものを、管理者(管財人)である個人・団体が公益化するという、イスラーム世界における一連の社会扶助制度を指します。

 発表の前半では、ワクフの制度の発展についての簡潔な歴史的な説明がなされました。ワクフは、近代以前からハディースに基づいて行われてきましたが、20世紀には、寄進された土地にモスク、学校、病院など建設し、運営するかたちが一般化していきました。とくに、20世紀後半に、多様な寄進物(不動産だけでなく、自動車、貨幣、金、動産、有価証券)が公的制度のなかで規制・管理され、公益化される方向へと制度変容が生じました。

 以上の動きのなかで、2020年代のインドネシアにおいて、寄進財としてのワクフの森の利用がいくつかの地域で広がってきました。中鉢氏の発表では、ワクフの森をめぐる制度化の動きが、2000年代からのインドネシア内で活発化した森林破壊や開発に反対する環境活動のなかから生まれてきた経緯が示されました。こうした動きを担ったのがフタン・ワカフ・アチェ(HWA)です。中鉢氏は、HWAのメンバーへのインタビュー調査に基づいて、ワクフの森が取得された経緯や管理を行うネットワークを調査しています。また、こうした運動を契機として、森林保全を目的としてワクフの森を取得・管理を担うその他の運動・団体が生まれてきました。発表では、こうした団体をハブとして、全国から寄進財としてお金が集められ、それに基づいて森林が取得される動きが広がっていった経緯が説明されました。

 また、発表の後半では、ワクフの森が国内法のなかでいかに認定されていくのかについての説明がなされました。ワクフの森はインドネシアの国内法とイスラーム法の裁定と手続きに従うかたちで認定されます。その際、国内法的には所有権が軸となり、イスラーム法のもとでは、アッラーの所有物としての寄進物という点が軸となります。このような2つの法的な枠組のもとでワクフの森が認定されます。中鉢氏は、2つの法的根拠のもとで、ワクフが承認される過程・手続きに関する調査結果について具体的に説明しました。また、要点として、ワクフの森の承認が単に国有財産化を意味するのではなく、個人や団体を媒介として放棄地や私有地を公益化する実践であることが強調されました。

 発表の最後には、ワクフの森をめぐる制度のより細やかな研究の必要性、および、現代の環境問題への対応(カーボン・オフセット)と絡まり合うワクフの森をめぐる活動のあり方の研究の必要性について言及がなされました。

Q&Aでは、ワクフの森を、それぞれ寄進/管理するのはどういった社会的階層に属する人々なのか、ワクフの森を実際に制度的に登録する際に求められるイスラームに結びつく目的・利益とは何か、ワクフのイスラーム法における根拠、既存の研究との対比での研究の意義、など非常に活発な議論が参加者との間で交わされました。中鉢氏は、これらの質問に対して、明確に応答しました。また、グローバルに問題となる環境問題への取り組みのなかでイスラームが活発に応答する動きとしてワクフの森を捉える研究の面白さについてお話いただきました。

発表を行う中鉢夏輝氏
発表を行う中鉢夏輝氏

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/