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2024.04.22

【レポート】第66回AJI研究最前線セミナー開催!Dr.ホ・タン・タム:“Prospects for Sustainable Agriculture: Perspectives of Rice Farmers and Consumption Trends in Japan”

 4月16日(火)、第66回目のAJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回は、立命館アジア・日本研究所の専門研究員であるDr. ホ・タン・タムに“Prospects for Sustainable Agriculture: Perspectives of Rice Farmers and Consumption Trends in Japan”と題して、有意義な発表をしていただきました。

 発表の冒頭では、日本の農業における化学肥料の過剰使用が土壌の肥沃度を低下させ、有害な汚染を生み出している事実について説明が行われました。他方で、農林水産省は、肥料の使用を制限し、有機農業を促進する取り組みを進めています。また、Dr.ホは、持続可能な農産物 (sustainable agricultural products; SAP) に対する農家の姿勢、滋賀県におけるSAPの経済・環境の点に関わるパフォーマンス、日本の消費者の持続可能な米作に対する意識と姿勢について報告しました。彼女の研究は、これらについて、データを現地調査とアンケートから収集し、傾向スコアマッチング(Propensity Score Matching; PSM)と呼ばれる観察手法を用いて評価するものです。

 くわえて、Dr.ホは、土壌試料を採取し、土壌肥沃度指数 (Soil Fertility Index; SOFIX)を用いた分析も行っています。こうしたアプローチを通じて、彼女の研究は、SAPでは生産性が低くなり、人的資源の使用(マンパワーの使用)が高くなることを立証しました。こうした点について、持続可能な稲作のために直接的に補助金が提供されていますが、高いコストをカバーしたり、低い収益性を相殺したりするには十分ではないという問題があります。結果として、有機農法由来の製品の売上は、米国、中国、EUでは増加していますが、日本ではコスト高や消費者の意識の低さから、米生産全体のなかで14%と低い水準にとどまっています。

 しかしながら、過剰な肥料の使用が琵琶湖の汚染の原因となってきた滋賀県の稲作方法を調べた結果、SAP推進のための様々なキャンペーンが比較的成功していることもDr.ホの研究から明らかになっています。とはいえ、彼女の研究では、持続可能な農業に対する農家と消費者の姿勢や意識にギャップがあることも浮き彫りにされています。すなわち、農家はより高い販売価格を求め、消費者は手頃な価格の持続可能なコメ製品を好むというギャップです。こうした状況のなかで、Dr.ホは、環境に配慮した米作や有機米の販売を促進するためには、地元の小売店と協力するなかで持続可能な有機農業を推進していく動きが極めて重要となってくることを強調しました。

 質疑応答では、様々な観点について参加者との間で活発な議論が交わされました。たとえば、データの収集と分析方法、日本文化における米の位置づけ、滋賀県以外の他県のSAP導入への意欲などについて質問が投げかけられました。Dr.ホは、これらすべての質問に明確に応答しました。日本における持続可能な稲作の拡大のために、Dr.ホの研究の発展は非常に重要であることが分かるセミナーとなりました。

発表を行うDr.ホ・タン・タム
発表を行うDr.ホ・タン・タム

過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/