教員コラム

文学部には100名を超える教員が在籍しています。一人ひとりのリアルな教育・研究活動を紹介します。

COLUMN

小説を深く読み込むことで得られる「文学の力」

英米文学専攻

国際文化学域
教授

中川 優子

私の研究領域は、19世紀後半から20世紀はじめの英米小説、とくにヘンリー・ジェイムズ(1843〜1916)です。ただ授業では、様々な作品を扱い、最近は幽霊小説をとりあげることが多いです。幽霊ものには、「不可解な謎」が描かれます。それゆえに恐怖を読者に呼び起こしたりするのですが、その謎や不思議は、作品を最後まで読んでも、明確に解き明かされないことが多いです。しかしそれらは現実の何かを表象しています。英単語の一語一語をおろそかにせず、作品を深く読んでいくと、あるときにこのように解釈できるのではないかとハッと気づくときがあります。例えば、私が専門とするジェイムズの『ねじの回転』に登場する幽霊は、最初は「悪」を表象していると言う解釈が主流でしたが、語り手の女性家庭教師の性的抑圧からおこなった幻影だという説、あるいは階級差による抑圧によるのだという説がでてきて、時代によって多様な解釈が生み出されてきました。この面白さが文学を学ぶことの楽しさでもあります。

解釈の多様性といえば、1回生の授業で学生が楽しんでくれるテキストとしてJ.K.ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズで言及される『吟遊詩人ビードルの物語』の中の話『魔法使いとポンポン跳ぶポット』(”The Wizard and the Hopping Pot”)があげられます。子ども向けの童話の形をとっていますが、現実にヨーロッパで過去にあった「魔女狩り」を思わせる記述や、現在の移民問題を思い起こさせられ、読み込むほどに深い解釈が可能な作品です。学生たちはこの作品の読解を通じて、作者が行間に隠したメッセージを見つけることの面白さを感じてくれているようです。

いまの社会でいろいろな問題が起こっていますが、その一つの理由は世の中で短絡的にしか物事をみないことであり、一つの問題を多角的にみる、言葉の行間を読むという、いわゆる「文学の力」が失われているからではないでしょうか。その点、私が研究する文学作品は何らかの形で社会の現実とつながっていると思います。文学の力とその豊かさを、ぜひこの学域の4年間の学びを通じて、我が物としてもらえたら嬉しく思います。 

 

PERSONAL

中川 優子

専門領域:
19世紀後半〜20世紀前半の英米小説、小説における女性の表象
オフの横顔:
家でも小説を読む時間を大切にしています。他にも、観劇が好きで、海外に出かけた際には現地の芝居を見るのが楽しみです。また最近のブームのずっと前からロックバンドの「クイーン」をきいていました。