2013年度 優秀論文一覧

スポーツ科学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
川原 泰祐 伊坂 忠夫 「50m 全力疾走能力向上を目的としたジャンプトレーニングとスプリントトレーニングの比較:地面反力およびキネマティクスによる考察」
背景

疾走動作はスポーツにおいてパフォーマンスの指標に用いられ、その疾走能力を評価するものが疾走速度であり、疾走速度を決定する要因としてピッチ・ストライド、地面反力が挙げられる。現在それらを高めるために様々なトレーニングが行われている。

目的

一般学生を対象とし、特に水平方向を意識させたバウンディングを介入したジャンプトレーニングとスプリントトレーニングの介入を行い、疾走能力の向上を図り、疾走中のキネマティクス的要因、地面反力に着目しトレーニング効果を検証し、ジャンプトレーニングが疾走能力を高めるために有効であるかを明らかにすることを目的とする。

方法

対象をジャンプトレーニング群とスプリントトレーニング群に分け、4週間のコントロール期間を設けた後に測定を行った。測定は 50m の全力疾走を行い、 30m 地点に設置したフォースプラットフォームを右足で踏ませる試技と立幅跳を行った。その後各群それぞれのトレーニングを5週間で計8回を行い、再度測定を行いトレーニングの前後での評価指標を比較した。

結果および考察

スプリントトレーニング群で疾走能力の有意な改善、ジャンプトレーニング群では改善する傾向が確認された。これは両群において 50m の平均ストライドが有意に向上したことが要因であると考えられる。またジャンプトレーニング群においては水平方向の減速の地面反力および鉛直方向の地面反力が改善したことが起因し、ストライドの向上に繋がったと考察された。

結論

50mの疾走能力向上を目的として遠くへ跳ぶことを意識させたバウンディングのようなジャンプ種目のトレーニング介入を実施した結果、疾走能力の向上の傾向がみられることは確認された。これは鉛直方向の地面反力の向上と水平方向の減速の地面反力が改善されたことによるストライドの向上が要因であると考えられる。この効果は同強度スプリントトレーニングの介入では得られなかった結果であり、ジャンプトレーニングを介入した効果であると言える。

主な引用・参考文献

岩竹淳(2008)ジャンプトレーニングが思春期後期にある男子生徒の疾走能力に与える影響.体育學研究.53:353-362.
苅山靖・図子浩二(2013)陸上競技跳躍種目のパフォーマンスの向上に対するバウンディングとリバウンドジャンプの用い方に関するトレーニング学的研究.トレーニング科学.25:41-53.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
藤江 隼平 家光 素行 「中高齢者の有酸素性トレーニングにおける動脈硬化改善効果と血中 apelin 濃度の関連」
背景

加齢に伴い動脈硬化リスクは増大するが、習慣的な有酸素性運動により軽減することができる。習慣的な有酸素性運動による動脈硬化リスクの改善効果のメカニズムには、血管拡張物質である一酸化窒素(nitric oxide:NO)の産生増加が 関与しているという報告がある。apelin は内皮型 NO 合成酵素(endothelial NO synthase : eNOS)発現の増加や NO 産生の促進に関与する生理活性ペプチドである(Jia et al.,2007)。しかしながら、中高齢者を対象とした有酸素性トレーニングが血中 apelin 濃度に及ぼす影響は明らかでない。

目的

本研究の目的は、中高齢者の有酸素性トレーニングによる動脈硬化改善硬化に血中 apelin 濃度の変化が関係するかを検討した。

方法

健常な中高齢者 34 名 (平均年齢:67.0±1.3歳)を対象とし、トレーニング群とコントロール群の2群に分けた。トレーニング群は週 3 回、1 回 45 分、60−70% peak oxygen uptake (VO2peak)運動強度の自転車エルゴメーター運動を8週間実施した。運動介入前後で、血中 apelin 濃度および血中nitrite/nitrate(NOx)濃度を測定し、持久力の指標としてVO2peak、動脈硬化度の指標として頸動脈βスティフネスを測定した。また、コントロール群の被験者にも8週間後、トレーニング前と同様の項目の測定を実施した。

結果および考察

8週間の有酸素性トレーニングにより、VO2peakは有意に増加し(p<0.05)、頸動脈βスティフネスは有意に低下した(p<0.05)。加えて、血中 apelin 濃度およびNOx濃度は有意に増加した(p<0.05)。さらに、血中 apelin 濃度の変化率と頸動脈βスティフネスの変化率との間には負の相関関係(r=-0.508, p=0.032)が生じ、血中 apelin 濃度の変化率と血中 NOx 濃度の変化率との間には正の相関関係(r=0.494, p=0.037)が認められた。一方、コントロール群は、すべての測定項目において8週間後に有意な変化は認められなかった。したがって、以上の結果から中高齢者の有酸素性トレーニングにおける頸動脈βスティフネスの低下には、apelin を介した NO 産生の増大が関与している可能性が考えられる。

結論

本研究により、中高齢者の有酸素性トレーニングによる動脈硬化度の改善に、血中 apelin 濃度の増大が関与している可能性が示唆された。

主な引用・参考文献

Jia,YX., Lu,ZF., Zhang,J., Pan,CS., Yang,JH., Zhao,J., Yu,F., Duan,XH., Tang,CS., and Qi,YF.(2007)Apelin activates L-arginine/nitric oxide synthase/nitric oxide pathway in rat aortas. Peptides,28(10):2023-2029.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
瀧 千波 塩澤 成弘 「求心性神経に対する微弱電気ノイズ刺激がH波変動に及ぼす影響」
背景

非線形システムに微弱なノイズ刺激を印加すると、微小入力信号に対するシステムの感受性が向上する(Collins et al. ,1996)。近年、下腿三頭筋を支配している脛骨神経に皮膚上から微弱なノイズ電気刺激を加えると、下腿三頭筋の力調節機能の向上と、運動単位発火活動の安定化(発火間隔のばらつきの減少)が起こることが明らかにされており(Kouzaki et al., 2012)、リハビリテーションや医用工学への応用が期待される。

目的

本研究は求心性線維へのノイズ電気刺激による力調節機能向上の詳細なメカニズムを明らかにすることを目的とし、脛骨神経に対する微弱電気ノイズ刺激によって、脊髄のα運動ニューロンの興奮性の変動に変化が起こるか否かを検証した。

方法

実験1:被験者は健常成人男性5名、仰臥位で脛骨神経に閾値以下のノイズ刺激を与えた。各20分間ノイズ施行(W)とコントロール施行(W/O)はランダムで行い、ヒラメ筋からH波を 1Hz で 20 分間、計1200回記録した。
実験2:被験者は健常成人男性12名、座位で脛骨神経に閾値以下のノイズ刺激を与えた。その他、実験1と同じとした。

結果および考察

実験1においてWでは(1.02(0.31))(平均値(標準偏差))、W/Oでは(1.26(0.18))であり、ノイズを入れると実際に減少傾向ではあったが有意な差は無かった(P=0.069)。
実験2ではH波振幅値の平均値は、W/O(5.14(2.99)mV)、Wでは(5.50(3.15mV)で差は認められなかった(P<0.05)。
一方H波振幅値の変動係数は、W(14.0(7.4)%)でW/O(16.7(8.3)%)よりも有意に減少した(P<0.05)。H波振幅の変動に関して、静的な指標である変動係数はノイズ刺激により有意に減少し、一方で動的な指標であるDFAではH波の変動がホワイトノイズに有意に近くなることが明らかになった。

結論

微弱なノイズ刺激を求心性線維に印加することによって、脊髄の興奮が安定化することが示唆された。

主な引用・参考文献

・Collines,JJ., Imhoff,TT., and Grigg,P. (1996a) Noise-enhanced tactile sensation. Nature, 383(6603) : 770.
・Kouzaki,M., Kimura,T., Yoshitake,Y., Hayashi,T., Moritani,T. (2012)Subthreshold electrical stimulation reduces motor unit discharge variability and decreases the force fluctuations of plantar flexion.Neuresci Lett. , 513(2):146-150.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
福井 貴之 藤田 聡 「大学野球部員における筋力トレーニングが投球能力に与える効果」
背景

野球において、投球動作の能力は各選手の指標の一つである。日本ではかつてから筋力トレーニングは投球動作に対して否定的な考えを持たれることが少なくなかったが、近年では変化してきている。これまで筋の形態や筋量と投球能力の関係についてはいくつか報告され、投球動作を用いたトレーニングが直効果を及ぼすという報告もいくつかある。しかし、身体づくりなどで用いられる一般的なレジスタンストレーニングによる筋力の向上と投球能力の変化を観察したものはほとんど報告されていない。

目的

本研究では、投球動作時に主として動員される筋肉を鍛える4種類の筋力トレーニングを行い、その最大筋力の向上が投球速度、遠投距離を測定項目とした投球能力にどのような効果をもたらすのかを明らかにすることを目的とした。

方法

被験者は大学準硬式野球部員の10名でトレーニング群(A群)5名、コントロール群(B群)3名、観察群(C群)2名に振り分けた。測定項目は投球能力について球速を10球、遠投を2球測定した。トレーニング種目はベンチプレス、ショルダープレス、レッグプレス、ベントオーバーロウイングの4種類であった。各項目についてトレーニング前後で同様の測定を行った。分析は、A群の筋力の変化と投球能力の変化の相関、A群とB群の投球能力値の変化の相関、また、全被験者の投球能力の各項目と最大筋力の各項目との相関を観察した。

結果および考察

A群の最大筋力は全項目で向上を見せ、投球能力が5人中4人向上したことは、筋力トレーニングが投球能力の向上に効果があるという可能性を示唆している。最大筋力の向上と投球速度の向上との間に有意な相関を示した項目はレッグプレスのみで、下半身の筋力増加が球速の増加に効果的である可能性が示唆された。逆に、ベンチプレスの筋力の向上と最高球速の向上の間に負の相関が見られる。また、遠投距離の向上とショルダープレスの向上の間にゆるやかな正の相関が観察された。

結論

投球速度の向上とレッグプレスの最大筋力の向上との間に有意な相関関係がみられ、下半身の筋力アップが投球スピードの向上にプラスの効果を及ぼす可能性があることが示唆された。しかし、筋力トレーニングを行ったA群の5人中4人は、投球能力の数値が上がったことから、今後トレーニング期間や測定項目などを変えることでより効果的なトレーニング法の開発につながると考えられる。

主な引用・参考文献

・勝亦陽一ら、投球速度と筋力および筋量の関係、スポーツ科学研究(2006),3,1-7
・宮西智久ら、投球動作におけるボール速度に対する体幹および投球腕の貢献度に関する3次元的研究、体育学研究(1996),41,23-37

健康運動科学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
横川 拓海 橋本 健志 「運動誘発性因子が細胞内シグナル応答に及ぼす影響の解析」
背景

運動は糖尿病、癌、認知症等の予防に有効であることが報告されており、健康寿命の増加により、Quality of lifeの改善に寄与することが示唆されている。細胞は細胞外環境の変化に対し、複雑なシグナル経路を介して応答し、適応している。運動も例外ではなく、運動による健康増進効果も、各種細胞におけるシグナル応答を介して生じると考えられる。

目的

1章では、運動誘導性因子である乳酸が神経細胞において、細胞内シグナル応答を惹起し、ミトコンドリアバイオジェネシスをもたらす可能性を明らかとする。2章では、カフェインを用いて、筋収縮により惹起される細胞内ca2+濃度の増加を模倣し、それが細胞内シグナル応答にもたらす影響を検証する。

方法

1章では、初代神経培養細胞に対する乳酸添加、2章では、L6筋管細胞に対するカフェイン添加を施した後、タンパク質リン酸化状態、タンパク質発現を WBにより、遺伝子発現をqPCRにより解析した。

結果および考察

神経細胞に対する急性の乳酸添加は、p44/42MAPK、ACC、CREBのリン酸化の有意な増加,並びにCaMKIVのリン酸化の増加傾向をもたらした。また、神経細胞に対する24時間の乳酸添加は、ミトコンドリアバイオジェネシスの制御因子であるSirt1,及びミトコンドリアマーカータンパク質の有意な増加をもたらした。このことから、運動による脳乳酸代謝の冗進は、神経細胞におけるミトコンドリアバイオジェネシスの制御に関連したシグナル応答を惹起することで、ミトコンドリアバイオジェネシスを誘導することが示唆される。適切な神経活動並びに神経変性疾患と強い関わりが示唆されているミトコンドリアの乳酸による増加は、脳機能の冗進に寄与する可能性があると考えられる。
一方、L6筋管細胞に対するカフェイン添加は、CREB,AMPKのリン酸化を冗進させ、PGC-1aの発現を有意に増加させた。加えて、カフェインはミトコンドリアバイオジェネシス及びミトコンドリア機能を制御するSirt3の発現を増加させた。筋管細胞に対するカフェイン添加は、リン酸化シグナルカスケードを誘発し、ミトコンドリア機能の冗進をもたらすと考えられる。

結論

運動誘導性因子である乳酸や筋収縮により惹起される細胞内ca2+濃度の増加は、それぞれ神経細胞及び筋細胞内のシグナル応答を惹起し、ミトコンドリアバイオジェネシスの誘導やミトコンドリア機能の冗進を引き起こす。

主な引用・参考文献

Hashimoto et al.FASEB J,2007
Wright et al.,J Biol Chem,2007

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
渡邉 真也 真田 樹義 「身体不活動時間の減少と生活活動量の増加がメタボリックシンドロ一ムリスク因子に及ぼす影響」
背景

1日の消費エネルギーは、運動による熱産生と生活活動による熱産生、食事終発性熱産生、安静時代謝の4つに分類される(1)。また、ヒトの日常生活動作は運動と生活活動といった身体活動と身体不活動によって構成されている。日本人のリスク因子別死亡者数において、身体不活動に起因する非感染性疾患と外因による死亡者数は年間52,200人であり、喫煙、高血圧に次いで3番目に高いと報告されている(2)。さらに、Thorp AAらの座位時間とメタボリックシンドローム(以下「MetS」と略す)リスク因子との関連性についての報告によると、座位時間の長い群は短い群と比較して、腹囲や中性脂肪といったMetSリスクが高いことが示された(3)。Levine JAらは、健常者10名と肥満者10名を対象に、身体活動量を測定し、群間での身体活動パターンの違いを横断的に検証した(4)。その結果、肥満者は健常者と比較して座位時間が長く、立位および動き回るといった生活活動時間が短いことが示された。これらの先行研究から、MetSの予防・改善のためには、身体不活動の減少および生活活動の増加が重要であることが示唆されるが、ほとんどが横断的な検討であり、MetSリスクに対する生活活動および身体不活動の縦断的な影響は明らかではない。

目的

本研究は、身体不活動の減少および生活活動の増加がMetSリスクに及ぼす影響について検討することを目的とした。

方法

被験者は、健常な中高齢女性9名(50.2士2.8歳)を対象とした。6週間のコントロール期間後に低強度生活活動の介入を6週間実施した。介入内容は、身体不活動の減少として立位時間の増加(60分/日)を指示し、生活活動の増加として24種目のストレッチを1週間に4回、ラジオ体操を1週間に16回実施するように指示した。測定項目は、身体組成、空腹時採血よりMetSの血中パラメータ(中性脂肪、HDLコレステロール、血糖値)、安静時血圧、DXA法による体脂肪率、MRI法による内臓脂肪面積および皮下脂肪面積を測定した。さらに、3軸加速度計を用いて、土日を含めた7日間の身体活動量を測定し、身体不活動と生活活動、歩行のそれぞれ1分ごとの時間、強度、メッツ・時、消費エネルギーについて解析した。

結果および考察

介入期間において生活活動による消費エネルギーの有意な増加および身体不活動時間の有意な減少が認められた。これらの改善によって、内臓脂肪面積の変化率に有意な減少が認められた。さらに、皮下脂肪面積の変化率が減少傾向を示した。しかしながら、その他のMetSリスクである血中脂質、血圧、血糖値においても統計学的に有意な変化は認められなかった。

結論

身体不活動の減少および生活活動の増加、MetSのリスク予防に対して有効である可能性が示唆された。さらに、縦断研究でも横断研究と同様な結果が得られることが示された。

主な引用・参考文献

1.Ravussin E et al. Physiology. A NEAT way to control weight?.Science.2005.
2.Ikeda N et al.What has made the population of Japan healthy?.Lancet.2011.
3.Thorp AA et al.Diabetes Care.2010.
4.Levine JA et al.Interindividual variation in posture allocation:possible role in human obesity.Science.2005.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
木戸 康平 浜岡 隆文 「低圧タイツの着用が膝伸展運動時の局所筋代謝に与える影響」
背景

段階的弾性タイツなど様々な機能性タイツが、低強度運動時や運動後の疲労軽減に与える影響について検討されている。しかしながら、着圧の低いタイツを着用し運動した際の効果については、これまで検討されていない。

目的

本研究では、これまでの機能性タイツに比較して、低圧のタイツ(TLP:Elaction PRO, soft type, 旭化成せんい株式会社)を着用することで、高強度運動後のアクティブリカバリー時における回復を促進できるか否かを検討することを目的とし、タイツ着用時の活動筋における筋酸素動態(MO)、筋放電量(EMGRMS)、及び下肢血流量(BF)を計測した。

方法

健常男性8名(22.5±2.1歳)を対象とし、等速性エルゴメーターを用いて膝伸展運動を行った。伸展180度/秒、屈曲360度/秒とし、30回/分で疲労困憊に至るまで20Nmから2分ごとに20Nmずつ増加する漸増負荷運動を行い、最大負荷量(Wmax)を決定した。疲労困憊の定義は、3回連続で目標とされる負荷を発揮できなくなった時とした。本計測では、TLP着用時及び非着用時、Wmaxで疲労困憊に至るまで運動した直後に、5分間30%Wmaxでのアクティブリカバリー運動(AR)を行い、これを3セット行った。大腿直筋(RF)と外側広筋(VL)に近赤外分光装置と筋電図の電極を装着し、3セット目のAR時のMO、EMGRMSを測定した。また、超音波装置にて、すべてのAR時に、鼠径部大腿動脈のBFを計測した。統計解析はMicrosoft Excel 2010を用いて、TLP条件とコントロール条件との差の検定を行うためにt検定に用いた。有意水準は5%未満とした。

結果および考察

TLP着用時のAR3セット目で測定したMOの回復時間(非着用:23.5±6.2s=RF;33.75±11.8s=VL、着用:19.5±5.4s=RF;29.5±8.7s=VL)が有意に速くなった。すべてのセットで測定したEMGRMSおよびBFは、両条件間に有意差は認められなかった。以上、TLP着用時、末梢血管において、回復速度は有意に向上した。

結論

TLPの着用により、高強度運動後のAR時に、活動部位への血流が局所的に増加し、筋内脱酸素化ヘモグロビン流出(局所静脈還流)が促進されることが示唆された。

主な引用・参考文献

村瀬訓生ほか(2010)段階的弾性タイツ着用が自転車運動中の末梢血行動態に及ぼす影響一運動体位の相違による検討一。脈管学、5(4):467-473.

スポーツ教育学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
鈴木 悠梨 海老 久美子 「大学生における乳製品摂取と自覚的疲労症状の関連性について」
背景

牛乳・乳製品はタンパク質・カルシウムを豊富に含み、吸収率も高い。しかし、日本人の牛乳の消費量は減少傾向にある。一方、疲労自覚症状と食生活の関連についての調査では、タンパク質やカルシウム摂取不足の者において、自覚症状の訴えが多いことが報告されている1)。乳製品摂取と疲労回復についての研究は多数行われており、スポーツ選手を対象とした研究では、運動直後に牛乳を摂取することにより、トレーニングの疲労が軽減する可能性が示唆されている。これは、牛乳に含まれる栄養素が筋肉の回復を促進させ、血流を増やすことで疲労の蓄積を抑えることが考えられる2)。しかし、これらの先行研究では運動習慣を有する者が対象となっており、一般大学生における日常的な疲労と牛乳・乳製品摂取の関連性を研究した例はない。

目的

本研究では一般の大学生を対象とし、牛乳・乳製品摂取に関する意識と摂取状況、疲労に関しての調査を行なった。また、乳製品摂取によって、それぞれ疲労の軽減に効果があるか、摂取する乳製品の種類により、身体の疲労感に与える影響に違いがあるかについて検討した。

方法

現役大学生18歳-24歳の男女229名を対象とし、乳製品摂取状況と疲労度に関するアンケート調査を実施した。その後、その集団の中から男女40名を抽出し、3群(ヨーグルト摂取群、牛乳摂取群、対照群)に無作為に分類を行い、介入した14日間の疲労度の経時的変化を観察した。疲労度は「POMS」と「自覚症状しらべ」により、実験開始時・1週間経過時・終了時の3時点において測定し、FFQg(食事調査)を実験開始時と終了時に実施した。

結果および考察

大学生の習慣的な乳製品摂取率は低く、摂取量には性差が認められ、男性よりも女性において摂取量が少なかった。疲労症状では「ねむけ」を訴える者が多く、男性よりも女性において疲労自覚症状の訴えが高く見られた。乳製品介入の結果、気分・感情的な疲労症状においては特にヨーグルト群が、身体的疲労には牛乳群が,対照群と比較して疲労症状の有意な軽減が観察された。その一因として、乳製品の習慣的摂取による腸内環境の改善と、カルシウム摂取の増加が疲労症状の軽減につながったことが考えられる。

結論

大学生において、気分・感情における疲労症状、また、身体的疲労症状の軽減に習慣的な乳製品摂取の有効性が示唆され、前者にはヨーグルトが、後者には牛乳の摂取が、より有効であることが考えられた。

主な引用・参考文献

1.相坂国栄(2002)女子短大生におけるカルシウム供源食品の摂取頻度及び疲労自覚症状について(第5報)一疲労自覚症状を中心に-,34:103-112
2.青江智子(2005)アメリカンフットボール選手においてトレーニング直後の蛋白質およびビタミン,ミネラル類の豊富な食品(牛乳)摂取は疲労の軽減に有効であろうか,疲労と栄養の科学,20:92.102.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
井東 由紀 佐藤 善治 「大学女子柔道選手の体重管理の重要性について:自己管理と指導者介入の内容・方法のあり方」
背景及び目的

柔道の減量には、体脂肪を燃焼させることを目的とするものと、試合で有利になる為に計量後すぐに体重を基に戻すものがある。多くの選手が、試合で有利になる為に短期間で過度な水分制限や食事制限を行い、減量後の体重を維持しない方法を選択する。近年、この減量方法について問題視されるようになってきた。従って、急激な減量を最低限度に抑える必要があり、大幅な体重オーバーに関しては、時間をかけてしっかりと調節を行う事が求められている。
しかし、大学女子柔道選手に関して、急速な減量は試合前の習慣として強く根付いている。その為、選手自身だけでなく、指導者が体に悪影響の無い減量に関する重要性を認識し、減量に関する知識を持つことが求められてくると考える。

方法

大学女子柔道選手を対象としたアンケート調査を行い、選手の体重管理に関する実態を把握した。そこから浮き上がってくる問題点を考慮して、指導者の介入方法を提案していく。実際に、R大学女子柔道部の協力を経て体重管理に関する取り組みを行い、取り組み後の体重の変化と選手に対する聞き取り調査から、その取り組みに対する評価を行っていった。

結果および考察

コンディショニングチェックシートの導入では、選手に体重計にのる習慣をつけさせる事が出来た。また、選手の体調を把握できると同時に、体重を公表したがらない選手の体重を知る事も出来る。
インピーダンスによる体組成の測定及び、結果の公表では、試合の無い選手にも定期的に体重調節を意識させる事が出来た。問題点としては、月初めの体重測定時にだけ体重が少ない選手が多く、月に1回のペースでリバウンドを繰り返している事である。月1回のペースでは、体重をキープできない選手が多い為、測定回数を増やして取り組んでいくことを提案する。
LINE機能を利用した、写真添付による食事内容の公開では、選手全員の体重が減少した。しかし、ストレスを感じている選手が多くいた。ストレスを軽減するために、LINEグループを回生別にしたり、階級別にしたりする事を提案する。また、LINEグループを解消すると、対象者7名中6名がリバウンドをした。指導者は、体重減少が自己管理能力の向上と捉えないようにしなければいけない。
管理栄養士からの栄養指導では、選手に専門知識を提示することができた。しかし、講義の5カ月後に減量に必要な知識を覚えていた選手は僅か3%であった。講義頻度を増やすことや、講義で取り扱った資料を選手の目に届くところへ掲示すること、上記3つの取り組みと併合して行うことが必要であると考える。

主な引用・参考文献

・全日本学生常連校である計19大学に対するアンケート調査及び聞き取り調査
・R大学女子柔道部を対象とした取り組み記録

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
小倉 誓子 佐久間 春夫 「女子ラクロス競技における状況判断能力と競技レベルとの関連について」
背景

スポーツ競技におけるスピードには、通常の反応時間では対応出来ない場面が存在する。そのような場面では、「見越しanticipation」(谷ほか、2005)と呼ばれる予測・状況判断の正確さ・適切さがスキルの優劣を決定することになる。

目的

ラクロス競技について、心理的側面からその特性を明らかにし、状況判断能力を分析の観点とし競技レベルとの関連性を明らかにする。

方法

立命館大学体育会女子ラクロス部員23名を被験者とし、TATを参考に作成したラクロス用図版を用いて、試合場面の現在・過去・未来の状況展開について記述を求めた。また、心理的競技能力診断検査で競技レベルの測定を実施した。

結果および考察

ラクロス用図版において、パスミスのようなマイナスイメージを持つワードは、レギュラー群では使用されておらず、準レギュラー・非レギュラー群のみで使用されていた。しかし、回答に用いられたワードは全体的にポジティブなものが多く、一概に競技能力が高い選手の方がポジティブなワードを使用する傾向にあると言えない結果になった。また、レギュラー群は相手の行動をよく注視しており、非レギュラー群は味方選手やボール保持者をよく注視している傾向が見られた。即ち、競技レベルが高い選手の方が試合場面において広い視野を持っていることを示している。
次に、作戦能力の高い選手と低い選手の間に回答の際使用した文字数に差があることが明らかになった。この結果から、作戦能力を高めるために自らの考えをアウトプットする技術が重要と考えられる。
また、写真評価の平均点と、予測力の間に有意差が見られたが、総合点との間には有意差が見られなかったことから、写真ごとに回答にバラつきがあり、ポジションや得意プレー等が関与していると推測出来る。

結論

自らの考えをアウトプットし、他の選手と共有し、状況予測の選択肢を増やすことはラクロスの競技力向上のために重要な要因である。また、チームがより強くなるためにレベルの高い選手と交流し、ゲーム予測に関する知識を増やすことにも積極的に取り組んでいく必要がある。

主な引用・参考文献

谷浩明・松谷実・松本純一・松本孝彦・熊倉尚美(2005)競技経験の違いによるペナルティ・キックの軌道予測能力。日本生理人類学会誌、10(特別号):126-127

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
山本 あすか 大友 智 「小学校体育授業のベースボール型ゲームにおけるイラスト教材の活用が学習成果に及ぼす効果の検討:打撃動作に関する認識、技能及び意欲に着目して」
背景

体育科授業実践においては、ドリルゲームを取り入れた授業を行う傾向にある。しかしながら、ドリルゲームが中心の授業は、わかるための場面が少ない。そこで、技術を学ぶ時間を設けることで、わかってできるようになり、より楽しく進んで学習に取り組めるのではないかと考え、わかるための提示教材の開発を行った。
運動技能学習には視覚が大きな役割を果たすことが指摘(兵頭、1987)されているが、演示や映像は教師の技能や視聴覚環境が必要であり限度があると考えられる。そこで、比較的指導に取り入れやすいイラスト教材を開発し、その効果を検討するに至った。

目的

本研究の目的は、小学校体育授業のベースボール型ゲームにおけるイラスト教材を活用した授業が児童の学習成果に及ぼす効果を検討することである。

方法

滋賀県内の小学4年生1学級32名(男子16名、女子16名)を対象とし、1単元8単位時間のベースボール型ゲームの授業内において、打撃動作の技術ポイントに関する指導を2回実施した。指導の際には、筆者が開発したイラストを活用した。
イラスト指導前後における認識、技能及び意欲について調査紙及び観察によって評価し、イラスト教材を活用した授業が学習効果に及ぼす効果を検討した。

結果および考察

イラスト指導前後における認識、技能及び意欲についての評価の解析結果から、イラスト教材を活用した授業は認識、技能及び意欲に効果をもたらすことが示唆された。とりわけ技能に関しては、全項目において有意な高まりが見られた。技能得点の変化パターンをもとに、短時間で習得できる技術内容と習得に時間を要する技術内容があることが示された。
これらのことから、発達段階に応じた指導内容の精選及び指導プログラムの開発が必要であると考えられる。

結論

本研究により、小学校体育授業のベースボール型ゲームにおけるイラスト教材を活用した授業は、児童の学習成果の向上に影響を及ぼすことが明らかにされた。

主な引用・参考文献

井浦徹・竹内隆司・岩田靖(2009)小学校体育におけるボールゲームの教材開発.信州大学教育学部附属教育実践総合センター紀要.教育実践研究。10:61・70。

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
前田 盛翔 岡本 直輝 「陸上競技の400m走における簡易的ラップタイムの計測法の検討」
背景

陸上競技の 400m 走は速いスピードを維持する能力が必要であり、ペース配分が必要で ある。トレーニング中にペース配分を意識して走るにはラップタイムの提示が必要である。しかし、実際の陸上競技の現場では手動測定が一般的であり、簡易的かつ正確にラップタイムを計測する手法がない。

目的

本研究の目的は、陸上競技の 400m 走における簡易的なラップタイムの計測法を検討することである。

方法

本研究では安価なハイスピードカメラを用いた撮影画像からラップタイムを算出できると考えた。撮影はトラックの曲線部中央のA地点、直線の対角線の交点を中心とするトラック中央のB地点、B地点から平行にスタンドに移動した場所のC地点の3地点から行った。撮影は6区間(0m、20m、50m、80m、100m、150m、200m)で 240 コマ/秒で行い、画像は Quick Time Player を用いて区間の通過に要したコマ数を計算し、そのコマ数からラップタイムを算出するという方法を用いた。正確性を判断するために光電管のタイムで差を比較検討した。

結果および考察

それぞれの測定結果をみると、A地点は区間1一4の曲線部の誤差が小さかった。B地点は区間3と区間4で光電管に比べ、少し遅いタイムになる傾向にあったが、比較的誤差が小さかった。C地点は区間1と区間2で誤差が大きくなった。光電管のタイムに比べ、区間1では速いタイム、区間2では遅いタイムになる傾向にあった。その結果として以下のことがわかった。
①ハイスピードカメラが1台であれば、トラック中央からの撮影であるB地点からの撮影法が最も有効である。
②ハイスピードカメラが2台あれば、曲線部の中央の位置であるA地点と反対側の曲線部の中央の位置A'地点に設置して撮影を行うと、曲線部分のより正確なラップタイムが計測可能である。
③前半 200m と後半 200m のラップタイムのみ必要な場合、スタンドからの撮影である C地点からの撮影法も利用できる。
A-Cの撮影地点はそれぞれ特長があり、ラップタイムの必要性に応じて判断し、利用することができる。なお、この測定法は映像からの算出であるため、50m 間隔で測定することも 10m 間隔に測定することも自由に設定できる。

結論

本研究で検討したハイスピードカメラの撮影画像からラップタイムを算出する方法は、正確性が高く、安価なハイスピードカメラとQuick Time Playerさえあれば簡易的に測定できることがわかった。さらに、撮影した映像で動作分析を行うこともできる。今後、この計測法は陸上競技の現場で十分利用可能であると考えられる。

スポーツマネジメントコース

氏名 担当職員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
勝馬田 彩香 山浦-保 「他者に対する苦手意識に対処する方略の検討」
背景

ある特定の人物に対して、関わりたくないと感じることやその人物の前ではぎこちなくなってしまうという経験は、対人苦手意識として概念化されている(日向野・堀毛・小口、1998)。こうした対人苦手意識は多くの大学生が日常的に体験していることが明らかになっている。
これまでのところ、対人苦手意識に関わる研究は、主に教育・児童心理学領域と社会心理学領域の2つの分野で検討されてきた。しかしながら、権威勾配のある年上の相手(上司や先輩)との関係において、苦手意識を抱いた時の行動やこの意識を克服するための行動までは言及されていない。

目的

上記のことを踏まえて、本研究では、目上の相手に対して苦手意識をもった時、[1]どのような行動パターンをとるのかについて、定性的分析と定量的分析を通して明らかにし、苦手行動尺度を開発する。[2]明らかにした行動パターンのうち、どれを選択すると苦手意識の緩和に有効なのか、検討することを目的とする。それらの知見を通して、苦手意識にうまく対処する方法や対策の示唆を得る。

方法

調査1では、大学生 3 回生と 4 回生計 158 名を対象に自由記述による質問紙調査を実施し、定性的分析を行った。
調査2では、同大学の学生 1 回生~4 回生計 259名を対象として、調査1に開発した尺度を用いてアンケート調査を実施し、因子分析(主因子法、バリマックス回転)を行った。
調査3では、大学生計120名を対象として、克服の条件を明らかにするための項目を用意し、それを定量分析した。

結果および考察

調査1で定性的な分析を行った結果、詳細に分類することに努め、11個のカテゴリーに分類した。
調査2では、これを踏まえて独自に作成した50項目について因子分析を行った。その結果、「意識的親交」「回避」「自己演出行動」「主張」「迎合」の5因子が抽出された。各下位尺度のa係数は、「意識的親和」でa=.860、「回避」でa=.863、「自己演出行動」でa=.864、「主張」でa=.842、「迎合」でa=.814であり、累積寄与率は52.28%であった。この苦手行動尺度は、信頼性、妥当性ともに十分に高い水準であることが確認された。
調査3では、これら5つの行動のうち特に、「意識的に親しく接する」行動を選択できることが、苦手意識の緩和に効果的であることが示唆された。

結論

本論文では、信頼性・妥当性を十分に高いレベルで確保した、苦手行動尺度(目上の相手版)を開発した。また、特定の苦手な目上の相手に対する苦手意識緩和のために効果的な行動は、「意識的に親しく接する」であることが示唆された。

主な引用・参考文献

日向野智子・小口孝司(2002) 対人苦手意識の実態と生起過程.心理学研究,73(2):157-165.

氏名 担当職員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
牧 三由樹 小沢道紀 ホームレス固定化の要因:インタビュー調査を中心として
背景

憲法第25条「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあるが、果たしてどのくらいの国民がこの権利を享受しているだろうか。大多数の日本国民が“貧困”とは"無縁の存在”だと思っていると言っても過言ではないが、2010年に厚生労働省が発表した貧困率の年次推移を参照すれば 日本の経済的貧困は明らかである。この貧困は、高齢者だけでなく若者にまで及んでおり「ネットカフェ難民」となって存在している。「健康で文化的な最低限度の生活」を享受するのが困難になる人は増えるであろう。そこで本論文では、経済的貧困が特に顕著で、「健康で文化的な最低限度の生活」を送ることが困難であるホームレス問題を取り上げる。

目的

「健康で文化的な最低限度の生活」を享受できないものが増える可能性があるため、ホームレスの概念・現状から自立支援制度の分析を行い、ホームレスになった経緯と生活の意識と、ホームレスからの克服を促し、この現状を食い止めるために何が必要であるかを明らかにすることを目的とする。

方法

野宿者ネットワークの活動に参加することや、ビックイシューの購入を通じて野宿者との交流を図り、野宿者の支援者にインタビュー、行政の支援制度の分析と、無差別に選んだ男性1名(年齢不問)のライフヒストリーを聴き取り、定性分析を行う。また、野宿者に野宿に至るまでの過程で精神的健康がどのように構築され、野宿を選択せねばならなくなった要因と、身体的・精神的健康の重要性を見出す。

結果および考察

行政制度の評価として、実際にあまり生かされていない制度や、職員・関係者による自己判断で制度を不当に受けられない者がいた。野宿経験者のライフヒストリー、それに加えてホームレスの方にインタビューをした文献を照らし合わせると、ホームレスになる過程に共通点が見られた。目の前の生活を営む余裕しかなく、景気が悪化すると失業し、収入が途絶え、家賃が払えず住居を失う。同時に住所も失うので、仕事に就くことができなくなる。このような負のサイクルでホームレスに固定化してしまう。これは、非正規雇用増加に伴って若者も同じ状況下である。また、当事者自身の自己責任要因よりもはるかに社会的要因の影響が大きいと明らかになった。

結論

一人でも多くの国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を享受するためには、ホームレスに固定化している人を減らすことから始める。社会からの偏見を受け続けているので、精神的ケアを優先して行うべきである。また、ホームレス予備軍が潜んでいる若年層への対としては、「景気の調整弁」である非正規雇用を減らすことが長期的視点で必要である。また、わたしたちはホームレスを他人事のように扱っている。海外の貧困についてはメディアでもよく取り上げられているが、日本の足元の貧困・ホームレスは意識されていない。そうではなく、わたしたちは常にホームレスと隣り合わせで生きており、この事実に向き合って、日本が抱える大きな問題の解決に一人ひとりが意識を変え、取り組んでいくべきである。

主な引用・参考文献

生田武志(2007)ルポ最底辺一不安定就
労と野宿.筑摩霧房:東京,pp.15-16
神戸幸夫・大畑太郎(2002)新・ホーム
レス自らを語る.アストラ:東京

氏名 担当職員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
新納 裕貴 長積 仁 「運動部員の対人スキル獲得に影響を与える要因の検討
:コミュニケーションに対する自信と部活動への関わり方に着目して」
背景

日本では、今後、団塊世代に代わり、ゆとり教育世代が順番に社会に参加していくが、ゆとり教育世代はコミュニケーション能力にひ弱さがある(瀧澤、2010)。文部科学省では、平成22年より、「コミュニケーション教育推進会議」を設置し、子どものコミュニケーション能力の育成について議論を進めている。このように、多様な人々と関わり合い、生きていくためには、対人スキルの習得が必須である。東海林(2011)は、スポーツは、チーム内で役割を分担し、協力をして目標を達成することが求められる場面が多いため、状況に応じて他者やスポーツに適応することが必然的に求められる。よって、対人スキルが獲得しやすいと指摘している。青木ら(2011)をはじめとする多くの研究者は、運動部員は対人スキル獲得に影響を及ぼし、特に中学生の部活動が強く影響していると実証している。このように、「運動部所属有無」という個人属性から比較を行っている研究が多く、部活動でのどのようなことが対人スキル獲得に影響を及ぼしているのかは不透明である。

目的

以上のことから本研究では,「運動部に所属することで対人スキルが獲得される」ということを、部活動にどのように関わっているかという「部活動への関わり方」に着目し、それが対人スキル獲得を媒介する「コミュニケーションに対する自信」に影響を与える要因であることを明らかにする。

方法

本研究では、中学生を対象とし,従属変数である「コミュニケーションに対する自信」に対し、「部活動への関わり方」を独立変数に定め、分析枠組みを設定した。また、尺度は「コミュニケーションに対する自信尺度」(畑野、2010)と「集団への関わり方尺度」(宮下・大野、1997)の集団を「部活動」に限定したものを用いた。

結果および考察

因子分析より検出された因子を用いて重回帰分析を行った結果、部活動への関わり方がコミュニケーションに対する自信の変動を説明できる1つのモデルであることが確認された。コミュニケーションに対する自信における4因子はすべて、部活動への関わり方の3因子で説明できることが確認された。また、部活動でのどのような関わり方が影響を与えているのか明らかとなった(図1)。 仲間を受け入れ、その中で自己主張できる者、つまり、集団の中で「自己開示」できる者は、コミュニケーションに対する自信を持ちやすい。「自己開示」できる者は、選手同士の交流・意見交換が活発となり、その過程でコミュニケーションに対する自信が獲得されるのではないかと予想される。

図1 重回帰分析の結果

結論

本研究より得られた結果を、部活動指導に活かされるのではないか。指導者が選手一人ひとりの「自己開示」をいかに促すのかが大切であり、そのような環境を作る工夫が必要である。なぜなら、一度、組織においてそれぞれが「自己開示」できるようになれば、組織内の交流が活発となり、日常生活においてもコミュニケーションに対して自信を持てると考えられるからである。



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