2015年度 優秀論文一覧
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コース
スポーツ科学コース
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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堀居 直希 | 家光 素行 | 「長期的なクロレラ摂取および間欠的短時間高強度運動による無酸素性運動能力と骨格筋の解糖系代謝調節の併用効果」 |
背景
クロレラは単細胞緑藻の一種であり,タンパク質や食物繊維,ビタミン,アミノ酸などの様々な栄養素を豊富に含有している(Lee et al., 2009).2-4週間のクロレラ摂取は,運動継続時間や最高酸素摂取量を増大させることが報告されている(Mizoguchi et al., 2011; Umemoto and Otsuki., 2014).しかしながら,長期的なクロレラ摂取および間欠的短時間高強度運動との併用が無酸素性運動能力および骨格筋の解糖系代謝調節に及ぼす影響については明らかではない.
目的
本研究は,長期的なクロレラ摂取が無酸素性運動能力と骨格筋の解糖系代謝調節に及ぼす影響および間欠的短時間高強度運動との併用が無酸素性運動能力と骨格筋の解糖系代謝調節を加算的に向上させるかについて検討した.
方法
12週齢のSprague-Dawley (SD)雄ラット40匹をコントロール群,クロレラ摂取群(基本飼料にクロレラ粉末を0.5%含有),間欠的短時間高強度運動群,クロレラ摂取+間欠的短時間高強度運動群に分けた(各群N=10).すべての群は最終トレーニング時に体重の16%の重りをつけ,20秒水泳運動・10秒安静休憩を1セットとして14セットの間欠的短時間高強度運動(HIT)前後の乳酸計測を実施し,その24時間後にHIT運動の運動継続テストを実施,運動継続テスト48時間後に腓腹筋およびヒラメ筋を摘出し,monocarboxylate transporter 1 (MCT1)およびperoxisome proliferatoractivated receptor γ coactivator-1 (PGC-1α)のタンパク発現,lactate dehydrogenase(LDH)およびphosphofructokinase(PFK)の酵素活性を検討した.
結果および考察
一過性のHIT運動後の血中乳酸濃度はクロレラ摂取では低下傾向(p = 0.0923) であったが,間欠的短時間高強度運動では有意に低下し(p < 0.05),併用ではそれぞれ単独よりもさらに低下した(p < 0.05).また,クロレラ摂取および間欠的短時間高強度運動におけるHIT運動の最大継続セット回数は有意に増大し(p < 0.05),併用ではさらに増大した(p < 0.05).さらに,クロレラ摂取および間欠的短時間高強度運動における骨格筋のMCT1,PGC-1αのタンパク発現,LDHおよびPFKの酵素活性はコントロール群と比較して有意に増大し(p < 0.05),併用ではそれぞれ単独よりもさらに増大した(p < 0.05).したがって,長期的なクロレラ摂取および間欠的短時間高強度運動との単独およびこれらの併用は無酸素性運動能力を向上させ,その機序には,骨格筋の解糖系代謝調節の亢進が関与している可能性が示唆された.
結論
本研究により,クロレラ摂取および間欠的短時間高強度運動との単独およびこれらの併用は無酸素性運動能力を向上させ,その機序に骨格筋の解糖系代謝調節の亢進が関与する可能性が示唆された.
主な引用・参考文献
Mizoguchi, T., Arakawa, Y., Kobayashi, M., and Fujishima, M. (2011) Influence of Chlorella powder intake during swimming stress in mice. Biochem. Biophys. Res. Commun., 404(1): 121-126.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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三宅 悠斗 | 伊坂 忠夫 | 「短距離走選手における膝関節及び足関節の形態的特性とスプリントパフォーマンスの関係」 |
背景
膝関節伸展トルク及び足関節底屈トルクは,スプリント走の接地期に発揮され,走速度の増加に貢献する.また,関節トルクの大きさは,筋量とモーメントアーム長の積で表される.従って,筋量やモーメントアーム長といった膝関節および足関節の形態的因子は,スプリントパフォーマンスとの関連が深いこと考えられる.しかしながら,これらの形態的因子とスプリントパフォーマンスの関係性は先行研究において検討されていない.
目的
本研究は,短距離走選手における膝関節及び足関節の形態的特性とスプリントパフォーマンスとの関連について検討することを目的とした.
方法
膝関節については,短距離走選手32名と一般者32名,足関節については短距離走選手38名を解析の対象とした.磁気共鳴画像法を用いて下肢の撮像を行い,膝関節は大腿四頭筋断面積及び膝関節伸展モーメントアーム長,足関節は下腿三頭筋それぞれの筋体積及び足関節底屈モーメントアーム長の値を算出した.
結果および考察
膝関節に関して,短距離走選手は一般者と比較して有意に大きな膝関節伸展モーメントアーム長を持ち,これは大腿四頭筋断面積の大きさと関連性が見られなかった.また,短距離走選手において,膝関節伸展モーメントアーム長は100m走パーソナルベストと有意な負の相関関係を示した.これらの結果から,短距離走選手は大腿四頭筋の筋断面積と比較して長い膝関節伸展モーメントアームを持ち,これがスプリントパフォーマンスに関連すると考えられる. 足関節に関して,距離走選手において,下腿三頭筋全ての筋体積は足関節底屈モーメントアーム長と関連性が認められなかった.また,ヒラメ筋及び腓腹筋内側頭の筋体積は100m走パーソナルベストと有意な負の相関関係を示すという結果が得られた.これらの結果から,短距離走選手において,下腿三頭筋の筋量と足関節底屈モーメントアーム長には関連が無く,下腿三頭筋の中でも特に筋量の多いヒラメ筋及び腓腹筋内側頭がスプリントパフォーマンスに関連すると考えられる.
結論
短距離走選手において,膝関節モーメントアーム長及び下腿三頭筋の筋体積が,スプリントパフォーマンスに関連する重要な形態的因子であることが示唆された.
主な引用・参考文献
Bezodis, I. N., Kerwin, D. G., and Salo, A. I. (2008). Lower-limb mechanics during the support phase of maximum-velocity sprint running. Medicine and Science in Sports and Exercise, 40(4): 707.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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生友 明穂 | 後藤 一成 | 「休息時間の異なる高強度間欠的トレーニングの効果の相違:連続法と分割法による比較」 |
背景
無酸素性能力の向上を目的とした最大努力での間欠的トレーニングが,後半セットにおけるパワーの低下を抑えることはこれまでに明らかにされている.しかし,高強度間欠的トレーニングにおけるセット間の休息の違いが,発揮パワーの増加に及ぼす影響を示した研究はきわめて少ない.
目的
休息時間の異なる2種類の高強度間欠的トレーニングが,トレーニング効果に及ぼす影響を比較すること.
方法
体育会陸上競技部に所属する短距離選手21名(男性17名,女性4名)を連続群または分割群に分類し,週3回・3週間の高強度間欠的トレーニングを実施した.トレーニングには,高強度間欠的ペダリング運動(6秒全力ペダリング×12セットを20分のレストを挟み2セッション実施,体重の7.5%相当する負荷)を用いた.連続群では12セットを連続して実施し,分割群では3セット毎に7分間の休息を設け,全12セットを4ブロックに分割した.トレーニング前後に間欠的ペダリングテスト(6秒全力ペダリング×12セット)における発揮パワー,漸増負荷ペダリングテストにおける最大酸素摂取量および運動継続時間テストにおける運動継続時間を測定した.
結果および考察
間欠的ペダリングテストにおける後半セットでのパワーには,両群ともにトレーニング前後で有意な増加が認められた(P < 0.05).一方,1セット目の発揮パワーは,分割群でのみ有意な増加がみられた(P < 0.05).最大酸素摂取量は分割群で有意に増加し(P < 0.05),連続群では増加傾向を示した(P = 0.06).最大酸素摂取量の80%強度での運動継続時間には,トレーニング前後で両群ともに有意な延長がみられた(P < 0.05).これらの結果は,連続群,分割群のいずれにおいても後半セットにおける発揮パワーの有意な増加が認められたことを示している.一方で,前半セットにおける発揮パワーの増加は,分割群においてのみ認められた.また,連続群,分割群のいずれにおいても有酸素能力の改善が認められた.
結論
週3回・3週間の高強度間欠的トレーニング時に休息を挿入することは,連続的に実施する場合に比較して最大無酸素パワーの増加に有効である.また,休息の挿入は有酸素性能力の改善の程度には影響しない.
主な引用・参考文献
Bishop et al (2011) Repeated-sprint ability - part II: recommendations for training. Sports Med., 41(9): 741-756.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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西野 有香 | 塩澤 成弘 | 「筋電図からみた女子サッカー選手のキック成功動作と失敗動作の違い」 |
背景
近年,女子サッカーが注目され始め,競技人口も増加するに伴い競技力も向上している.サッカーの技術には多種多様な要素があり,先行研究において男女間の比較やキック動作,左右差の検討など多々行われている(1,2,3).しかし,個人内でのキック動作のミスに着目した研究はされていない.
目的
本研究は, サッカーのキック技術の正確性に着目し,サッカー選手の個人内でのキック動作の差を筋活動に焦点を当て解明することを目的とする.
方法
被験者は, 女子サッカー選手8名である.実験試技はインステップ部分でのキック動作を11m先のターゲットにボールを当てる動作を行わせ,ターゲットに当てるまで試技を行わせた.蹴り脚の下腿三頭筋,前脛骨筋および支持脚の下腿三頭筋,前脛骨筋,大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋の筋電図(15-150Hz)を導出した.同時にハイスピードカメラにてキック動作を記録した.
結果および考察
失敗試技が大きくターゲットから外れたか否かによって被験者を二群に分けた.その結果,ターゲットから大きく外れた群では筋電図に差が見られた.また,蹴り脚の下腿三頭筋に差が認められたか否かによって被験者を二群に分けた.その結果,差が見られた群に関してスイング時間が成功試技と失敗試技にて異なっていた.どの群においても力制御に関与する下腿の筋で差が見られたが,パワー発揮に関与する大腿部では差は認められなかった.
結論
女子サッカー選手のキック動作の成功試技と失敗試技を比較した結果,キックミスが大きい被験者には筋の発揮タイミングに違いがみられた.下腿の筋で差がみられ,サッカーのキックの正確性に関わる下肢の筋は大腿部ではなく下腿の筋である可能性が高いと示唆される.
主な引用・参考文献
1. 鉄口宗弘,福井哲史,入口豊,三村寛一:大学サッカー選手におけるキックスピードと身体特性との関連について.大阪教育大学紀要.第Ⅳ部門第58巻第1号,pp.119-128,2009.
2. 坂本慶子,佐々木亮太,田部井祐介,洪性賛,中山雅雄,浅井武:女子および男子サッカー選手におけるインステップキックのボール速度に関する研究.日本機械学会.No.13-34,スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス2013講演論文集,pp.113-1-113-6,2013.
3. 望月知徳,湯浅景元:サッカーのインステップキックにおけるボール速度と蹴り脚と支持脚の関節運動.中京大学体育学論叢.44-1,pp.35-40,2002.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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工藤 将馬 | 長野 明紀 | 「サッカーにおけるキックスキルの運動力学的考察」 |
背景
サッカー競技においては,状況に合わせたスピードのパスやシュートを放つことは,試合を行う上で必要な技術と言える.その際,身体の動きからなるエネルギーを,ボールに効率よく伝えることが,ボールのスピードや威力を増加させる上で重要であると考えられる.
しかしながら,キック動作により全身で生成される力学的エネルギーを定量化し,そのエネルギーがどの程度ボールに伝達されるかを検討した研究はこれまで見受けられない.
目的
(1)キック動作により全身で生み出される力学的エネルギーのボールへの伝達効率を明らかにする事
(2)サッカー経験者と非経験者におけるボールへの力学的エネルギー伝達効率の違いを比較する事
方法
モーションキャプチャーカメラを用い,キック動作の測定を行った.試技は3種類のキック動作を3段階の強度で行った.得られた3次元の座標データから,キック動作における全身の力学的エネルギーを算出した. ハイスピードカメラ(CASIO社製 EX-ZR1000 480 frame/sec)を用いて,ボールの静止時点から3m地点までのボールの挙動を撮影した.得られた映像からボール速度およびボール中心の高さを計測し,ボールの持つ力学的エネルギー(Eb)を算出した.また,上肢,体幹,下肢の運動によって作り出されたエネルギーに対して,ボールがどの程度のエネルギーを受け取ったのかエネルギー伝達効率と定義し算出した.従属変数を前述の各解析項目とし,固定因子を経験(経験者群‐非経験者群),キック強度(弱く‐やや強く‐強く),蹴り方(インサイドキックーインフロントキックーインステップキック)とした.それぞれの解析項目で多元配置の分散分析を行った.
結果および考察
全身運動から生成される身体の力学的エネルギーにおいては,経験の有意な主効果は見られなかった.しかしながら発揮されたボールスピードにおいては経験,キック強度,蹴り方のそれぞれに有意な主効果が見られ,経験及びボールの蹴り方の有意な交互作用が見られた.またボールの力学的エネルギー及び力学的エネルギーの伝達効率においては,経験の有意な主効果が見られた.このことから経験者群は全身運動によって生成されたエネルギーを高い伝達効率でボールに伝えるスキルを習得していることが考えられる.
結言
経験者の方がエネルギーを効率よく末端部に伝達する運動連鎖のメカニズムを有効に活用できており,エネルギー伝達効率はキック技術の熟練度と関連性があることが示唆された.
参考文献
Asami ,T. (1975). Energy efficiency of ball kicking. Biomechanics V-B (Komi PV ed.), pp135-140
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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西村 友輔 | 藤田 聡 | 「伸張性運動による遅発性筋肉痛と炎症反応に対するシソエキス摂取の効果」 |
背景
シソの葉エキスは, その水抽出物に抗アレルギー, 抗炎症活性が多数報告されており, 細胞・動物レベルにおいて炎症性サイトカインの抑制効果を持つことが報告されている. 伸張性収縮を伴う運動は遅発性筋肉痛 (Delayed Onset Muscle Soreness: DOMS) を引き起こすことが報告されているが, これまでシソエキスの摂取が運動誘発性の筋損傷に伴う, 遅発性筋肉痛や筋力低下, 炎症性サイトカインの反応やバイオマーカーの反応に変化があるか否かは未だ検討されていない..しかし,バランス能力とPNFストレッチングの関係を示した報告は少なく,また動的バランス能力との関係については検討されていない.
目的
本研究では抗アレルギー, 抗炎症作用を持つシソエキスの摂取が運動誘発性の筋損傷に及ぼす影響を検討することを目的とした.
方法
被験者は健常な成人男性9名 (年齢 22.1±1.2歳, 身長 172.9±6.5cm, 体重 69.1±6.8kg, BMI 23.1±1.9kg/m2) を対象とし, クロスオーバーデザインを用いた. 各被験者は, オリゴノール摂取, プラセボ摂取を, 4週間以上間隔をあけてランダムに実施した. 各被験者は予備運動として, 本研究開始の7日前にエキセントリック運動を6回×2セットを実施した. その後, シソエキス又はプラセボをエキセントリック運動7日前から摂取した状態 (摂取期間は計11日間) で, エキセントリック運動を6回×5セット実施した. 運動前及び, 運動後に最大筋力測定, VAS評価, 周径囲測定, 採血を実施した.
結果および考察
シソエキス摂取群とプラセボ摂取群共に, エキセントリック運動直後において最大筋力は安静時と比較して有意に低い値を示した (P<0.05). 遅発性筋肉痛の指標であるVAS評価は, 両群共にエキセントリック運動実施直後と1日後, 2日後, 3日後において安静時と比較して有意に高い値を示した (P<0.05). しかし, その他の運動誘発性の筋損傷に関わるマーカーにおいては, 両群間で有意な差は認められなかった. 本研究では, 約1g/日の摂取量を用いて検討したが, シソエキス摂取の有意な効果は確認されなかった. 今後は運動誘発性の炎症反応に対するシソエキスの効果を検討するために, シソエキス摂取量, 摂取期間の有効性を検討するさらなる研究が必要である.
結論
本研究における上肘屈曲筋群のエキセントリック運動は, 筋力低下, 遅発性筋肉痛を増加させるが, 事前のシソエキス摂取は, 炎症反応には顕著な効果を与えず, 運動誘発性の筋損傷や筋力の低下にも影響しないことが明らかになった.
主な引用・参考文献
Chen, T. C., Lin, K. Y., Chen, H. L., Lin, M. J., and Nosaka, K. (2011) Comparison in eccentric exercise-induced muscle damage among four limb muscles. European journal of applied physiology, 111(2), 211-223.
Hirose, L., Nosaka, K., Newton, M., Laveder, A., Kano, M., Peake, J., and Suzuki, K. (2004) Changes in inflammatory mediators following eccentric exercise of the elbow flexors. Exerc Immunol Rev, 10(75-90), 20.
健康運動科学コース
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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星川 真輝 | 真田 樹義 | 「水素水の摂取が持久的パフォーマンスに及ぼす影響」 |
背景
高強度運動を繰り返し行う競技選手においては,運動中の酸化ストレスを軽減することが非常に重要である.先行研究によると,運動強度が増加するに伴って,酸化ストレスが増加し,短時間の高強度運動により一過性に酸化ストレスが上昇することが示されている.
近年,酸化ストレスの低減に水素水の摂取が効果を与えるという研究が多く報告されており,競技選手のコンディショニングおよびパフォーマンス向上に有益である可能性がある.
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目的
水素水の摂取が持久的パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを明らかにすることとする.
方法
対象はサッカーサークルおよびフットサルサークルに所属する大学生(男性)15名とし,水素水摂取条件とプラセボ摂取条件で,最高酸素摂取量の測定および1500m走のタイム測定をランダムクロスオーバーで行った.最高酸素摂取量測定の際の運動前後に,疲労度(Visual Analogue Scale),血糖値,血中乳酸濃度,抗酸化力(SOD,NO)を測定した.
結果および考察
最高酸素摂取量,最大運動継続時間,1500m走タイムにより評価した持久的パフォーマンスは,水素水摂取条件とプラセボ摂取条件との間で有意な差は認められなかった.水素水摂取条件において運動後に血中NOの有意な増加が認められた.先行研究では,単回運動による酸化ストレス応答に関して統一された見解が示されておらず,水素水摂取が単回運動における持久的パフォーマンスに及ぼす効果は限定的である可能性が考えられる.本研究における被験者はサッカーあるいはフットサルを習慣的に実施しており,長期的な運動トレーニングによって,抗酸化防御能が高まっていたことが推察される.このことが運動中に酸化ストレスが生じなかった一要因である可能性が考えられる.先行研究によると,運動中の血中NOの増加は持久的パフォーマンスに影響すると考えられる.本研究では,水素水摂取条件において運動後に血中NOの有意な増加が認められたことから,水素水摂取は運動中の酸化ストレス反応に影響する可能性が示唆された.したがって今後は,水素水の摂取量や,摂取期間の延長等,摂取方法の違いを考慮した持久的パフォーマンスに及ぼす影響に関する研究や,長期間の運動トレーニング介入による水素水摂取の効果に関する研究に期待される.
結論
最高酸素摂取量,最大運動継続時間,1500m走タイムにより評価した持久的パフォーマンスは,水素水摂取条件とプラセボ摂取条件との間で有意な差は認められなかった.しかし,水素水摂取条件において運動後に血中NOの有意な増加が認められたことから,水素水摂取は運動中の酸化ストレス反応に影響する可能性が示唆された.
主な引用・参考文献
Ostojic SM. (2015) Molecular hydrogen in sports medicine: new therapeutic perspectives.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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多田 汐里 | 浜岡 隆文 | 「性別・年代別における褐色脂肪組織密度の比較・検討」 |
背景
脂肪組織には,白色脂肪組織と褐色脂肪組織の2種類がある.白色脂肪組織は,摂取したエネルギーを中性脂肪の形で貯蔵しており,一般的に脂肪組織と言われているものである.一方で,褐色脂肪組織は,中性脂肪をエネルギー源として熱を作り,体温を維持する働きがある(山下, 2008).褐色脂肪活性の低下によるエネルギー消費量の減少が肥満や中年太りに関与すると仮定すれば,逆に褐色脂肪を活性化すればこれらの代謝異常の防止・軽減につながるはずである(斉藤, 2013).
目的
本研究の目的は,10代から60代の男女において,年代別及び性別で褐色脂肪組織密度を測定すること,年代差及び性差の比較・検討すること,体脂肪率との関連性について検討することの3点である.
方法
本研究では,男性180名,女性115名の合計295名(年齢28.4±13.5歳,身長166.6±8.6cm,体重62.3±8.6kg,体脂肪率21.7±9.1%)を対象とし,褐色脂肪組織の測定には,近赤外線時間分解分光法(near infrared time resolved spectroscopy :NIR-TRS法)を用いて,鎖骨上窩における安静時の総ヘモグロビン濃度([total-Hb])及び等価散乱係数(µs')を測定し評価を行った.
結果および考察
ヒト褐色脂肪組織と性差との関連性については,男女間において有意差は見られなかった.また,年代別における総ヘモグロビン濃度([total-Hb])と男女年代別における総ヘモグロビン濃度([total-Hb])についてそれぞれ測定・評価したところ,年代別においては加齢に伴い総ヘモグロビン濃度([total-Hb])が減少しているが,20代においては10代よりも多少の増加が見られた.男女年代別においては,男女とも加齢に伴い総ヘモグロビン濃度([total-Hb])が減少していた.また,年代別における等価散乱係数(µs')と男女年代別における等価散乱係数(µs')についてもそれぞれ測定・評価したところ,年代別,男女年代別ともに加齢に伴い等価散乱係数(µs')が減少するわけではなく,10代から60代のそれぞれの年代間において有意差は見られなかった.
体脂肪率との関連性を,男女別における鎖骨上窩の総ヘモグロビン濃度([total-Hb])と等価散乱係数(µs')について,それぞれ分析したところ,男女とも総ヘモグロビン濃度([total-Hb])と体脂肪率との間に有意な関連性が見られたが,等価散乱係数(µs')と体脂肪率との間に有意な関連性は見られなかった.
結論
ヒト褐色脂肪組織と性差との関連性については,男女間において有意差は見られなかった.また,ヒト褐色脂肪組織と体脂肪率との関連性については,総ヘモグロビン濃度([total-Hb])が大きく影響しており,総ヘモグロビン濃度([total-Hb])の値が大きいほど体脂肪率が低い傾向にあると言える.一方で,等価散乱係数(µs')は大きな影響を与えていないと言える.
主な引用・参考文献
・斉藤 昌之(2013) 「褐色脂肪組織とは」 斉藤 昌之「編」・大野 秀樹「編」,ここまでわかった燃える褐色脂肪の不思議.有限会社ナップ:東京,pp.9-29.
・Matsushita M, Yoneshiro T, Aita S, et al (2014) Impact of brown adipose tissue on body fatness and glucose metabolism in healthy humans. Int J Obes (Lond). 38(6):812-817.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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竹内 達也 | 橋本 健志 | 「運動後の実行機能の亢進に対する運動強度の影響の検討」 |
緒言
実行機能とは,ワーキングメモリや判断能力,柔軟性,問題解決能力のことを指し,社会生活を送るためには重要な能力である脳機能のことである.よって,実行機能低下を防ぐことは極めて重要である.実行機能は習慣的な運動により亢進する.また,実行機能は一過性の運動でも,脳神経活動が高まることで亢進する.先行研究によれば,運動直後における実行機能の亢進と運動強度は逆U字の関係であることが言われている.一方で,メタ解析の結果から運動数分後における実行機能の亢進は,高強度の運動が効果的であると報告されている.しかしながら,メタ解析による見解であり,比較検討している運動実施時間や認知課題に統一性がなく,運動強度と運動後の回復期を含めた包括的な実行機能の関係性は明らかとなっていない.
目的
本研究は,運動終了直後における実行機能の亢進と強度は逆U字の関係にあり,運動後の回復期における実行機能の亢進は運動強度に依存すると仮説を立て,この仮説を明らかにすることを目的とした.
方法
対象者は,健康な成人男性12名(年齢:22.1 ± 0.3 歳,身長:172.1 ± 1.4cm,体重:66.1 ± 2.1kg,VO2peak:45.2± 1.8ml/min/kg)であった.本研究では,認知課題の客観的な評価としてColor-word Stroop task,(以下”CWST”と略す)を採用し,対象者は黒文字条件と不一致条件を行った.運動は低強度(30%VO2peak),中強度(50%VO2peak),高強度(70%VO2peak)の3条件をランダマイズされたクロスオーバーデザインで実施した.運動前にCWSTを実施後,対象者は,5分間Warming-upを実施した後に目的の強度まで負荷を上げ,20分間の運動を実施した.そして,運動終了直後,運動終了10分後,20分後,30分後時点にてCWSTを実施した.
結果および考察
CWSTに関しては,黒文字条件および不一致条件の正答率および反応時間には各運動条件間および各測定時点の間において有意な差は見られなかった.実行機能を反映する逆ストループ干渉率は,中強度の運動のみ,運動開始前と比較して運動終了直後に有意な亢進をし,実行機能と運動強度は逆U字の関係の可能性があることが示された.一方で,運動後に亢進する実行機能は,運動強度に依存して亢進する傾向にあることが示された.
運動により亢進する実行機能の作用機序は不明であるが,先行研究や本研究の結果を踏まえると,運動強度に依存して段階的に高まる可能性がある脳神経活動が実行機能亢進の持続性に影響を与えていた可能性がある.また,運動による脳神経活動の活性化を支えると考えられる脳乳酸代謝の上昇が,実行機能亢進の誘因である可能性があり,亢進した実行機能の持続性にも関与している可能性があることが考えられる.
結論
運動終了直後の実行機能亢進は,運動強度と逆U字型の関係性にあったのに対し,運動後における実行機能亢進の持続性は,運動強度に依存する傾向にあることが示された.本研究の結果から,実行機能の亢進を持続させるための運動処方には,強度の高い運動が効果的である可能性が示された.
主な参考文献
Chang et al., Brain Res. 2012
Endo et al., J Physiol Sci. 2013
Kamijo et al., Clin Neurophysiol. 2004
スポーツ教育学コース
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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菊岡 達希 | 海老 久美子 | 「高校球児に対するゴマの疲労軽減効果およびその他のプラス効果の検討」 |
背景
高校球児は一日の消費エネルギーが非常に高く,平均4922kcalという研究結果(引原ら,2005)もある.しかし,この消費量に対してエネルギーの摂取量が圧倒的に足りていない高校球児が多く,それに伴う栄養素の不足も問題である.小西ら(2014)によると,カルシウム・ビタミンB1といった栄養素が不足している.さらに,暑熱環境下での長時間運動においては尿・汗中ミネラル排出量が高まる(山田ら,1997).この状態が続くと,疲労からの回復の遅れの原因となるので,エネルギーやこれらの栄養素の不足を招かないように適切に管理することが高校球児にとって重要であるといえる.しかしながら, 高校球児において,これらの栄養素を豊富に含んだ食品を摂取することによる栄養状態や心理状態に対する効果について調べた研究は見当たらない.そこで,カルシウム・ビタミンB1が豊富であること(福田,2007)や,ゴマに含まれるリグナン類自体に疲労の要因とされている活性酸素種の発生を防ぐ抗酸化作用があること(Tandon et al 1976)からゴマに着目し,一定期間意識的に毎食摂取することによる,不足栄養素の補足や抗疲労効果について検討する.
目的
高校球児が「ゴマ」を一定期間摂取することによって,球児たちの栄養摂取に対する効果と疲労感に対する効果について検討する.
方法
高校球児(n=30)に対して食物摂取頻度調査(FFQg),ゴマに関するアンケート調査,疲労感および食欲に関するVASを用いた測定調査をおこない,そこから食生活状況および疲労度を評価した.調査は合計3回おこなった.第1回調査と第2回調査の間は球児の普段の状態を知るため,何もおこなわなかった.第2回の調査と第3回の調査の間には白ゴマ(20.4g/日)を提供し,毎食摂取してもらった.また,消化吸収を考慮し,ゴマは擦って摂取することとした.
結果および考察
本研究では第3回調査において2回目調査より,栄養素ではゴマに多く含まれる,カルシウム・マグネシウム・γ-トコフェロール・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・不溶性食物繊維の摂取量が増加した.心理状態については,「疲労」・「怒り」について2回目調査よりも減少し,「食欲」については減少を抑制した.これは,ゴマリグナン類による抗酸化作用が一因として考えられる.また,ゴマに関するアンケート調査より,ゴマの食べ方と野菜摂取量に関連がある可能性が考えられる.
結論
高校球児において,夏季環境に白擦りゴマ(20.4g/日)を2週間摂取することによって,栄養素では,カルシウム・マグネシウム・γ-トコフェロール・一価不飽和脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・不溶性食物繊維の摂取量において有意に増加した.また,心理状態については食事以外の要因による変化も考えられるが,「疲労」・「怒り」について有意に減少し,「食欲」については減少を抑制した.
主な引用・参考文献
・Fumihiko Hirata, et al. (1996) Hypocholesterolemic efect of sesame ligunan in humans. Atherosclerosis, 122:135-136
・小西ら (2014)練習後の食事提供を含む栄養教育が夏季環境における高校野球選手の身体組成及び心理状態に与える効果.トレーニング科学,25(3)
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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阿部 亮介 | 大友 智 | 「高等学校における運動部活動の指導方法に関する検討:男子柔道部に対するETUの適用を通して」 |
背景
現在、高等学校における柔道の指導方法の見直しや,生徒の運動有能感の向上及び技術の獲得を目指す指導が求められている.
目的
ETU(Experimental Teaching Unit:実験教授単元)を生徒に指導方法として活用し,生徒の技術獲得を研究する.ETU及び運動有能感調査を実施して生徒の技術獲得の段階を調べる.
本研究の目的は,高等学校における運動部活動の指導方法を検討することである.特に,男子柔道部に対するETUの適用を通して行う.
方法
小本研究は高等学校男子柔道部11名を対象として行った.また,重量級及び軽量級の2つに分けて指導を行った.生徒に対して,運動有能感調査及び自由記述用紙を用いた調査を行った.また,技術指導では,指導レベルⅠA,ⅠB,ⅡA,及びⅡBと段階的に行った.
結果及び考察
運動有能感調査合計の解析では,運動有能感調査3回目と4回目の間には有意差は見られなかったがそれ以外のすべてで有意差が確認できた.特に,有能差が顕著に見られたのが2回目と3回目の間でありこのことから指導レベルⅡが生徒に対して非常に効果的であったといえる.身体的有能さの認知・第一因子の解析では,運動有能感調査3回目と4回目の間には有意差は見られなかったがそれ以外のすべてで有意差が確認できた.運動有能感合計の結果と同様に2回目と3回目の間で顕著に結果が上がった.ここでも同様に指導レベルⅡが効果的であったと言える.統制感・第二因子の解析において一回目と二回目,三回目と四回目において有意差は見られなかった.しかし,それ以外では有意差は確認できた.ここでも特に結果が上がったのは2回目と3回目であった.受容感・第三因子の解析において一回目と二回目,三回目と四回目において有意差は見られなかった.しかし,それ以外では有意差は確認できた.ここでも,指導レベルⅡが効果的であった.
結論
結論は以下の通りである.
ETUは,①個人に応じた専門性の高い指導を施せる,②生徒主体の指導環境を作ることができる,③生徒の運動有能感を高めることができる,④生徒にとって無理のない練習ができる,という効果を発揮する.
主な引用・参考文献
大友智(2012)体育科教育学の立場からみた体育の授業研究の成果と課題.体育科教育学研究.28(2):37-45.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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井上 敦雄 | 岡本 直輝 | 「性格テストを用いた指導者と選手のコミュニケーション法の検討」 |
背景
近年の日本の教育現場では体罰が問題となることが多い.体罰は選手の事を考えず,指導者が自分の考えを選手に押し付けて指導をすることが原因であると考えられる.そこで本研究は,指導者が選手を理解する機会としてミーティングを提案する.ミーティング内容は,選手の性格について指導者と選手でミーティングを行う.
目的
本研究は,指導者が選手の性格を理解することで指導者と選手がお互い理解し合うために,性格テストを用いたコミュニケーション法の検討を目的とする.
方法
対象者:公立中学校水泳部の指導者2名・部員12名(男子6名・女子6名)
手順:「指導者が選手の性格を評価する」→「選手への性格テストの実施」→「指導者から見た選手の性格評価の結果と選手の性格テスト結果を比較し,その結果をもとにしたミーティングの実施」→「ミーティング内容を評価するための指導者と選手へのアンケートの実施」
結果および考察
図1は指導者から見た選手の性格評価と選手の性格テスト結果の比較をした.5つの尺度から選手の性格を評価したが,図1のように2名の指導者は選手の性格を正しく評価出来ていないことが明らかになった.指導者が選手の性格を正しく評価できていない理由として,指導者の性格評価に偏った傾向があったことが考えられる.指導者は選手の性格の理解不足であったため,ミーティングが必要だと考えられる.性格テストを用いたミーティングを行った後のアンケート結果から,以下の3つの有効性が示された.①指導者が選手の性格を理解できる②選手が指導者の考えを理解できる③相互理解が生まれ,互いの信頼関係が向上する
相互理解に有効性が示されたことは,ミーティング内容に指導者が話す場面,選手が話す場面をそれぞれ設けることで,聞き手が話し手の様々な感情を読み取れたことが要因であると考えられた.指導者と選手の相互理解が生まれたことで信頼関係の向上につながったと考えられた.
結論
本研究で用いたミーティング法は,性格テストを用いて指導者と選手がミーティングをすることで,指導者が選手を理解し,選手が指導者を理解し,互いの相互理解が生まれ,信頼関係が向上することから有効であると考える.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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日比 健人 | 佐久間 春夫 | 「スポーツにおける傷害発生に関する心理学的介入法の検討-Andersen & Williamsのストレス-スポーツ傷害モデルの検討-」 |
緒言
今日,スポーツ傷害の回復過程における心理状態や心理社会的要因の影響についての研究は多くに行われている(青木・松本, 1999)が,予防に関する心理的要因の研究は少ない.スポーツ傷害の発生の予防に関しては,Andersen & Williams(1988)が「ストレス−スポーツ傷害モデル」を発表して以来,その検証や理論モデルの修正が多く行われている.しかし,このモデルでは,具体的な心理的介入法までは言及されていない.本研究では,傷害予防に有効である,具体的な心理的介入法を考えたい.
目的
本研究では,Andersen & Williams の「ストレス−スポーツ傷害モデル」を用いて,このモデルの一部である,ストレス反応と傷害の発生機序の関係性ならびに,ストレス反応と対処資源の関係性を検証する.また,性差や傷害の有無によって,違いがあるのかということに関しても検討を行う.そして,スポーツ傷害の予防に関して,集中力や注意力がパフォーマンスに影響を及ぼすことに着目し,スポーツ傷害の予防に効果的な心理的介入法について提言する.
方法
菜箸によるおはじき運び(2分間)一般大学生151名に協力を依頼した.男性は91名,女性は60名であった.有効な回答件数は全体では142名であった.協力者の平均年齢は19.86±1.29歳であった.ストレス反応の指標として,心理的ストレス反応測定尺度(SRS-18)を用いて測定を行った.また,対処資源は心理競技能力診断検査(DIPCA.3)を用いて測定を行った.傷害歴の有無や競技歴などはフェイスシートを用いて調査を行った.回答を得点化しIBM SPSS Statics ver.22を用いて,統計分析を行った.
結果および考察
ストレス反応とスポーツ傷害の有無に関しては,無気力と抑うつ・不安が傷害の有無を判別する因子となっていることが結果からわかった.傷害の受傷回数とストレス反応の関係性は,抑うつ・不安のみ5%水準で有意な差が見られた.競技停止日数とストレス反応の関係性には有意な差は見られなかった.心理的なストレス反応は生理的・行動的にもストレスを与え,ストレス反応を増大させ,その結果,傷害を負うリスクを高めるということが考えられる.心理的競技能力とストレス反応の関係は,いくつかの因子において,有意な負の相関が見られたが,その中で3つのストレス因子(抑うつ・不安,不機嫌・怒り,無気力)に共通して結果が示されたものは,自己コントロールと集中力であった.この2因子がストレス反応の増減に影響を与えていることが示唆された.このことから,心理学的介入法に関しては,「集中」という面から介入することが望ましいと考えられる.スポーツ競技それぞれに,注意集中のタイプは違ってくるということを考え,スポーツ種目の注意集中の特性を考えた個々のアプローチが必要であると考えられる.
結論
本研究において,①ストレス反応の因子である,無気力と抑うつ・不安の2つの因子がスポーツ傷害発生の有無と関係している事が明らかになった.②対処資源として用いた心理的競技能力の集中力と自己コントロールの2つの因子が特にストレス反応に影響を与えていることが明らかになった.得られた結果を以下のモデル図にまとめた.

主な引用・参考文献
Andersen, M. B., & Williams, J. M. (1988). A model of stress and athletic injury: Prediction and prevention. Journal of Sport and Exercise Psychology, 10(3), 294-306.
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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中森 胤人 | 赤沢 真世 | 「女子中学生の運動有能感を高めるソフトボールの授業の検討」 |
背景
現在の日本は,子どもの体力の低下や運動習慣や運動能力の二極化の問題を抱えている.体力の低下に関しては改善されてきており,問題の進行に歯止めがかかっているが,二極化の問題については依然として課題の解決には至っていない.これは生涯スポーツの観点から見ても非常に深刻な問題であるといえる.
この二極化の進行を止めるためには子どもの運動有能感を高める必要がある.学校体育の現状として,男子よりも女子に運動嫌い体育嫌いが多く存在することが明らかになっている.そこで本研究では,女子中学生の運動有能感を高めるソフトボールの授業について検討する.
目的
本研究は,現行中学校学習指導要領(2008年改訂)において必修とされているベースボール型の球技としてソフトボールに着目した.
ソフトボールに必要な打つ,投げる,捕る,走るの4つの技能を総合的に高めると共に,女子中学生の運動有能感を高めることのできるソフトボールの授業を明らかにすることを目的とする.
方法
本研究は京都府の木津川市にあるA中学校の2年生女子を対象として,運動有能感及びソフトボールの授業に対する愛好的態度に関するアンケート調査を実施した.調査はソフトボールの単元の開始時と終了時の計2回行い,単元前後の調査結果を比較した.
また,筆者はソフトボールの単元において計10回の授業の参与観察を行った.
結果および考察
アンケート調査と参与観察の結果から,女子中学生の運動有能感をソフトボールの授業の中で高めるためには,グループ活動を通した相互援助活動を充実させることが大切であると考える.生徒同士での教え合いや声のかけ合いによって運動有能感を構成する「身体的有能さの認知「統制感」「受容感」が高まると考えられる.また,相互援助活動を充実させるためには教師の声かけも重要となる.教師の声かけは生徒に大きな影響を与える.生徒が主体的に学習する雰囲気を作りだすために必要となるのが教師の肯定的な声かけである.
結論
女子中学生の運動有能感をソフトボールの授業で高めるためには,まず生徒に基礎的・基本的な技能を定着させる必要がある.そして,獲得した技能を活用できる授業の工夫をすることが大切である.そうすることで,「生徒の身体的有能さの認知」や「統制感」が高まることが示された.また,相互援助活動や教師からの声かけも女子中学生の運動有能感を高めることにつながる.周りから認められているという気持ちである「受容感」を高めるためには,授業の中でグループ活動を取り入れることが有効であると考えられる.
主な引用・参考文献
・岡澤祥訓・北真佐美・諏訪祐一郎(1996)運動有能感の構造とその発達及び性差に関する研究 スポーツ教育学研究 1996.VOL16,No.2,pp.145-155
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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島村 太朗 | 永浜 明子 | 「ダウン症の青年に対するレスリング指導の実践研究」 |
背景
現在では,ダウン症や自閉症を含む知的障がいの児童・生徒を対象としたレスリング教室が日本でも行われている.そのため,障がい者スポーツが知的障がい者の日常生活にどれだけプラスの効果をもたらしているのかについても認識されておらず,未だ十分に普及しているとは言えない.
目的
本研究の目的は,レスリングの指導を通して,ダウン症のある人にとって著しく低いとされる能力であるバランス力や体幹・下肢筋力,運動能力(体力・技術),精神面(意欲)にどのような変化がもたらされたか検証することとする.
方法
2名の調査対象者の現時点での運動能力の結果からトレーニングメニューを3ヶ月間実践し,垂直跳び・片足立ち・テープ歩き・体幹・背筋の5つの測定メニューによりトレーニング前,トレーニング中,トレーニング後の計3回に分け測定を実施する.技術面や精神面では対象者の保護者又,指導者にトレーニング前とトレーニング後にアンケートをとり技術面を5段階評価,精神面を自由記述式とする.
結果および考察
下肢、体幹を集中的に取り入れたトレーニングを3ヶ月間実施した結果、Aさん・Yさんともにトレーニング前と比較し,トレーニング後の垂直跳び・体幹・背筋力等,全ての運動能力で効果が得られた.②3ヶ月間のトレーニングにより,運動能力の向上に伴い、レスリングの技術の指標となる「構え」,「攻め(タックル)」,「防御(バランス支持)」の3項目ともに向上し,本研究で用いたトレーニングの有効性が確認された.③精神面では,トレーニング前と比較して「優勝という目標が出来た」「社会性が身に付いた」等の発言が多くなり,対象者の精神面にも大きく影響した.
結論
ダウン症のある人に著しく低いとされる運動能力向上および気持ちの変化や精神面での成長に伴うダウン症のある人のQOL(生活の質)に対するレスリングの有効性が示唆された.
主な引用・参考文献
・荒井弘和, & 中村友浩. (2009). 知的障害者の親における身体活動・運動実施の阻害要因と促進要因. 体育学研究, 54(1), 213-219.
スポーツマネジメントコース
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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木平 温子 | 種子田 穣 | 「リンク栃木ブレックスにみる社会的使命とブランド形成」 |
背景
さまざまな商品やサービスがブランドと呼ばれ, 多くの企業や団体が,売り出した商品を人々の心に焼きつけ,売上を伸ばすことや多くの人々に使用されることを望んでブランド戦略を打ち出す.現代においては企業や団体が自社ブランドの強みを活かしたり,地域の特産物の在り方を見つめ直しブランドとして販売したりするなど,ブランドの捉え方は多種多様化している.
目的
本論文は,プロバスケットボールチームであるリンク栃木ブレックスが,同チームが自身で掲げる社会的使命を踏まえて戦略的ブランディングを行うことにより,同チームの現状に適したチーム運営を行っていることを明らかにし,同チームが今後行うべき戦略的ブランディングを考察することを目的とする.
方法
ブランドという言葉の概念や機能を明らかにし,戦略的ブランディングについて述べる.次に同チームの戦略的ブランディングの事例を, エンターテインメント企画と地域貢献活動を事例に検証する.また,その戦略的ブランディングに対するファンの受けとめを検証するため,ホームゲーム観戦者への調査を実施し,回答結果を分析する.分析方法は, 以下の通りである.まずホームゲームにおけるチケット価格,グッズ価格に対するイメージへの回答を受け,その回答が他の要因と関係して回答結果に表れているのかを考察する.次に,同チームと地域活性化に対するイメージへの回答を受け,同チームの運営方法が現在のチーム事情に適しているかを検証する.
結果および考察
ホームゲームにおける観戦者のホームゲーム自体,運営スタッフ,グッズに対する満足度が高かったが,一方でチケット価格やグッズ価格に対する満足度は低く,特にグッズ価格に対しては評価が低かった.また,地位に根付いたプロチームであることも明らかになったが,地域との連携に満足していない地域住民が多いこともわかった.これより,今後チーム運営において,ファンからのチームに対する満足度を上昇させる要因が明らかになったと考える.
結論
同チームは,多くの戦略的ブランディングを打ち出し,現状に適したチーム運営を行っていることがわかった.また,今後はグッズ価格や地域との関わりを変化させることで,よりファンのチームに対する満足度を高められると考えられる.
主な引用・参考文献
・ケビン・レーン・ケラー,ケラーの戦略的ブランディング,東急エージェンシー
・フィリップ・コトラー,ケビン・レーン・ケラー,コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント,株式会社ピアソン・エデュケーション
氏名 | 担当教員 | タイトル(テーマ)/ 活動概要 |
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井上 紗綾 | 山浦 一保 | 「リーダーに対する理想と現実の乖離がフォロワーの練習満足度に与える影響」 |
背景
近年,スポーツ界でリーダーシップへの関心が高まっている. 組織のリーダーが効果的なリーダーシップを発揮するには,フォロワーにとって望ましいリーダー像とは何か,という認知的視点が必要である.
Austin(2014)はビジネス界のリーダーについて15の性格特性を用いて分析した.その内容は,フォロワーが理想とするリーダーの特性であり,かつその理想と現実のリーダーの姿が一致または乖離することによるフォロワーの職務満足度への影響を検討したものであった.
スポーツ選手にもそれぞれ理想とするリーダー像があり,その理想と現実の一致または不一致によってパフォーマンスが影響を受けると予想されるが,果たしてその内容はAustin(2014)と同じなのだろうか.
目的
第1の目的は,スポーツを行っているまたは経験したことのある大学生を対象に,理想のリーダー特性を明らかにすることである.
第2の目的は,先で得られた理想と,現実のリーダーの特性の乖離がフォロワーの練習満足度に及ぼす影響を検討することである.
方法
2015年10月-11月にかけて,大学生に対してアンケート調査を実施し,172名から回答を得た.調査票は,理想のリーダーと現実のリーダーの特性を評価する性格特性因子(Austin 2014;15因子30項目),練習満足度(Timothyほか2000;5項目,α=.88)から構成されたものであった.
結果と考察
理想及び現実のリーダーを評価した得点に基づき,15の個人特性を構成している2項目について相関分析を行った.その結果,各2項目を1つの変数として扱うことができると確認した.また練習満足度の尺度について因子分析を行った結果,信頼性,妥当性を確認した.
まずリーダーの理想像として,2要因分散分析により,選手は学生リーダーよりも学生外リーダーに対して開放性,知性,支援,外向性,協調性を望むことが示された.また回答者が男性の場合,女性よりもリーダーに対して野心,勇気,自信,知性をより強く望んでいることも明らかになった.
次に乖離が及ぼす影響について,相関分析および重回帰分析を行った.支援と協調性の因子の乖離が大きいほど,練習満足度は低いという負の関連が見出された.一方で,外向性の因子において乖離が小さいほど,練習満足度が低いという正の関連が見出された.
望まれた特性および,乖離が練習満足度に影響を与えた因子は,スポーツ組織の特徴的なリーダーとフォロワーの関係性が原因となり決定づけられたと考える.
結論
リーダーに望まれる特性にはリーダー分類や性差による差異があり,理想と現実のリーダーの特性の乖離は練習満足度に影響を与えることが明らかになった.
主な引用・参考文献
Austin(2014)What do people desire in their leaders? The role of leadership level on trait desirability.