テクニック編

プレゼンテーションの方法

1. プレゼンテーションの目的

一般的にプレゼンテーションの目的は、聞き手を説得することにある。とりわけ、大学で行われるようなアカデミック・プレゼンテーションにおいては、具体的な証拠(エビデンス)に基づき、特定の結果や主張を論理的に説き、聞き手に同意をとりつけることがプレゼンテーションの目的と言えよう。では、聞き手を説得できるプレゼンテーションに必要なものは何か、またそれをどのように行うことが望ましいのだろうか。

2. プレゼンテーションの特徴

大学における学習成果の発表方法には、主にレポート(論文)とプレゼンテーションがある。効果的なプレゼンテーションを行う上でまず、レポートとプレゼンテーションの違いについて確認しておきたい。プレゼンテーションの特性を明確に把握することは、それを生かすためには重要な第一歩である。

表1
レポート プレゼンテーション
コミュニケーション媒体 文字、図、表等 映像(文字、グラフ、シンボル、写真、動画等)と音響(声、音楽、その他の音)→マルチ・メディア
コミュニケーション形態 一方的 インターアクティブ
(発表の)時間的制約 なし あり
正確な再現性 可能 可能性が幾分低い(録画媒体を用いれば別)

表1で明らかなように、レポートとプレゼンテーションの最も大きな違いは、前者が主として文字を通じて考えを伝達するのに対し、後者は口頭報告を中心とする音響手段(オーラル・プレゼンテーション)と文字を含めた映像(ビジュアル・プレゼンテーション)の両方を活用する点である。通常オーラル・プレゼンテーションは、例えば演劇のセリフのように一字一句覚えるわけにはいかず、正確さや完璧な再現性という面では、レポートに較べ劣っている。また聞き手にとっては、気になる項目を行きつ戻りつ確認し、時間をかけて内容を理解できるレポートとは違い、プレゼンテーションでは話し手の発話の順序でしか内容を把握することができない。発話された内容は即座に消えてしまうため、聞き手には瞬間的な理解が求められ、話し手にはそれを最大限可能にする情報伝達能力が求められる。しかし同時に、プレゼンテーションは本来的にマルチ・メディア的特性を備えている。聴衆の反応に気を配りつつ話し方を変えたり、Q&A(質疑応答)等の活用による双方向コミュニケーションの可能性も開かれている。これらの特性を踏まえ、以下では、プレゼンテーションを便宜上オーラルな側面とビジュアルな側面とに分離し、効果的な実施方法の要点を整理したい。

3. オーラル・プレゼンテーションの方法

近年では、テクノロジーの発達により、プレゼンテーションを効果的に演出するビジュアル・プレゼンテーションの作成・利用が簡単にできるようになっている。とはいえ、一般的には、プレゼンテーションの主役は、それを行う話し手であり、話し手によって展開されるストーリーである。

(1) ストーリーの重視

先述したように、プレゼンテーションの目的は、特定の論点について聞き手を説得することにある。そこで重要なのが、①説得すべき論点と②用いられる根拠、さらに③それらをつなげるストーリーである。効果的なストーリーを考える上で重視すべきは、わかりやすさとおもしろさである。わかりやすさとおもしろさを追及する上では、ストーリーが持つ「起承転結」が重要になってくる。できるだけ論点を簡潔にし、それを効果的に提示できる「起承転結」こそがわかりやすいプレゼンテーションの肝である。論点、根拠、結論をつなぐいくつもの「起承転結」をシュミレーションし、最もわかりやすくおもしろいと思えるストーリーを考えてみよう。またこの作業において重要になるのが、報告時間と聴衆の想定である。どれだけの持ち時間の中で、誰に訴える必要があるのか。この二つの条件が変化すれば、聞き手を引き付けるわかりやすいプレゼンテーションの形もまた変化する。

(2) 簡潔性の重視

プレゼンテーションでは論点を簡潔に提示する必要がある。自らの持ち時間は、論点を説得的に示す上で必要最低限の時間と心得よう(多くの場面において、プレゼンテーションは短いほどいいとされている)。必要以上の要素を盛り込んだプレゼンテーションでは、論点がかえってわかりづらくなる、あるいはストーリーがずれてしまうといったことがままある。持ち時間を意識し、その範囲で提示できる論点をあらかじめ設定しよう。時間を超過するぐらいなら、内容を削ってでも、明確に打ち出せる論点とそれが伝わる構成を用意したい。また慣れないうちは、一字一句読み上げる原稿を事前に準備しておくことで、プレゼン中に不必要な時間を費やさずに済むこともある。ただしその際は、棒読みをしてしまった場合でもわかりやすくおもしろい内容の原稿をあらかじめ準備することを心掛ける必要がある。さらに初めのうちは、時間を計りつつ原稿読み上げの練習をすることが望ましい。論点が不明確で冗長なプレゼンテーションは聞き手に苦痛を与えるものである。この点を留意し、簡潔かつおもしろいプレゼンテーションを心掛けたい。ただし、おもしろくとも論点が不明確、あるいは適切な根拠に基づかないプレゼンテーションではアカデミック・プレゼンテーションとはいえないことも肝に銘じておきたい。

(3) インターラクティヴなプレゼンテーションに向けて

オーラル・プレゼンテーションは聴衆の反応(肯き、首振り、関心の高まり、興味の喪失等)に対応できるというインターアクティブ性(双方向性コミュニケーション)を備え、即興(アドリブ)的にストーリーの強調点を変えたり、話の速度を変えて聞き手の説得を試みることができる。あるいは、声の調子や間を工夫することで、重要な点に関心をひきつけることもできる。常に原稿に目を落としていてはそれができないので、聞き手の目や表情に注意できるよう、慣れてきたらある程度聞き手の反応を意識しながら発話することに挑戦してみよう。

4. ビジュアル・プレゼンテーション(スライド、レジュメ)の作成方法

プレゼンテーションの全体像や論点を示すのに効果的なのが、ビジュアル・プレゼンテーションである。ビジュアル・プレゼンテーションは、聞き手に要点をわかりやすく提示したり、具体的なイメージを喚起させることが可能である点で、効果的なプレゼンテーションを行う上で有効である。

(1) 全体のポイント:要点(構成、論点)と補足資料はビジュアル・プレゼンテーションで提示

ビジュアル・プレゼンテーションは、聞き手にとって、オーラル・プレゼンテーション理解における効果的な道具である。プレゼンテーションの構成(全体像)、論点、根拠といった、要点を視覚的に繰り返し認識できるのがその長所である。またオーラル・プレゼンテーションでは、時間の制約や構成上扱わないものの関連する重要情報と思われるものを掲載することができる。特に配布資料はこの点に優れている。ただし聞き手にとって、パワーポイントやレジュメの扱いは、オーラル・プレゼンテーションに集中する上での妨げになることもある。そこでビジュアル・プレゼンテーションの扱いについては、冒頭で一言説明を入れるとより親切であろう(「パワーポイントを見ながら説明を聞いてください」、「補足資料についてはレジュメの末尾をご覧ください」など)。また、多すぎる視覚資料は、内容理解の妨げになるので、掲載する情報は要点に限ることが重要である。

(2) 文字について

(a) キーワードを用いる

効率的な情報伝達のためにはキーワードを用いることが有効である。とりわけスライドにおいては、提示する文字量は、読みやすい文字の大きさを確保するために、厳しく制限する必要がある。(一枚のスライドで横15字、縦8行が限界。この規定内で論点を表現するための工夫は、わかりやすいオーラル・プレゼンテーションを組み立てる上でも有効である。)キーワードを中心に組み立てることによって、レジュメの情報伝達量が、論文・レポートよりも多くなる場合もある。

(b) 文字を強調する

論点の明確な提示という目的を念頭に、文字の大きさや飾り(太字、斜体文字、下線、色等)を変化させ、重要性の違いを出すことができる。

(3) 図、表、写真等の活用

(a) 表の活用は実証性を高める

統計データを表で示すことによって、議論の実証性を高めると共に、視聴者に問題の傾向をビジュアル的に理解させることができる。

(b) 図は全体概念を空間(映像)的に示すことができる

文字で説明するよりも図を用いることによって全体(の状態・関係・概念等)を端的に伝えることができる場合がある。例えば集合論の考え方を適用すれば、円の大きさや重なりを利用することで関係性を効果的に示すことができる。

(c) 写真は現実感や臨場感を高める

口頭による説明に較べ写真は具体的であり、記憶に鮮明に残ることが多い。例えば自然を撮った写真であれば地形、植生、大気、生物の様子等の情報を大量に相当程度的確に伝えることができる。

(d) シンボルはメッセージを端的に伝える

シンボルは通常単純なものであるため、主題やメッセージを、不必要な雑音で紛れさせることなく、伝達することができる。

(e) 動画も活用できる

動画を利用することによって伝達できる情報量は飛躍的に増大します。しかし情報(雑音)過多はメッセージをかえって不明確にする可能性もある。

ただし、図や表を用いる際には瞬時に理解できるよう簡単な形で提示することが重要である。たとえばプレゼンテーションでは、小さな数字を並べ立てた表よりも、ビジュアルとして即座に理解できるグラフが有効なことが多い。何を、どのように伝えたいのか、という点を明確にしつつスライドを作成することを心掛けたい。

*プレゼンテーションに失敗はつきものである。プレゼンテーションがうまくいかなかったと感じた際にはどこに問題があったのかを考え、改善策を考えてみることが重要である。とはいえ「習うより慣れろ」。プレゼンテーション上達の一番の鍵となるのは、とにかく経験を積むことである。失敗を恐れず、工夫をこらした自分らしいプレゼンテーションに挑戦してほしい。

5. 推薦図書

諏訪邦夫『発表の技法』(講談社ブルーバックス、1995)
脇山真治『プレゼンテーションの教科書』(日経BP社、2007)
ジェリー・ワイズマン、グロービス・マネジメント・インスティテュート訳『パワー・プレゼンテーション―説得の技法』(ダイヤモンド社、2004)
執筆者:中逵 啓示、鳥山 純子(改訂)
執筆日(更新日):2015年11月、2017年2月、2018年1月、2019年3月、2020年2月、2021年3月(改訂)