卒業研究作成の仕方
1. 卒業研究の意義
大学に入学したとき、学生諸君は知的好奇心をもっていたであろう。その知的好奇心を知的探求心に変え、さらには知的に解明していく力をつけることが高等教育の目的である。このような高度に知的な営みは、最高学府としての大学においてのみ行うことができる。大学において学びの集大成ともいえるのが卒業研究である。卒業研究は4年間の学びのキャップストーンとして本学部では必修(2018年度入学生以降)となっている。なお、「卒業研究」はいくつかの要件を満たせば、論文以外の形態をとること(ただしその場合も成果物について説明する付属文書は必要)も可能となっている。
したがって、卒業研究は、数ヶ月ましてや数週間で作成するようなものではない。最低1年、通常2年間かけてじっくり取り組むものである。卒業にあたって、いつもの課題レポートのように提出する「卒業レポート」ではないということをまずはしっかり認識して欲しい。
論文の形をとる卒業研究は、おそらくほとんどの学生諸君にとって、初めて書く論理的な長文である。本学部における論文の形をとる卒業研究の文字数は20,000字である。ゼミによってはそれ以上の文字数を推奨しているところもあろう。これほどの分量になってくると、全体を通して一貫した論理的文章を書くことは難しくなってくる。水準の高い論文を書くには、大学教員の適切な指導をうける必要がある。
本格的な論文をしっかり書けば、大学で何が学びたかったのかが明確になり、かつ、自らの問題意識で物事を解明する力を身につけられる。また、論文の形をとる卒業研究(卒業論文)を一度書いたことがあれば、論理的に明解な長文を完成させることが今後も可能になる。説得力のある長文を書くことは、文章上のプレゼン能力を身につけることに等しい。インターネットが普及するにつれ、むしろ文章を構成する知的能力がこれまで以上に求められるようになっている。高等教育を受けたものの証として、水準の高い論文を完成させ、高度な知的能力を掴み取って欲しい。
論文の形をとらない卒業研究についても同様である。4年間の学修の集大成としての意味を持っており、知的成果物である。したがって、高等教育の成果に相応しいものとすることが求められる。
2. 卒業研究とは何か
(1) 論文形式をとる卒業研究(卒業論文)
学部生の書く論文形式をとる卒業研究(卒業論文)にはいったいどのようなことが求められるのだろうか。学部生の卒業研究(卒業論文)は大学院の博士論文のように必ずしも高い新規性が求められるわけではない。しかし、以下の点は必要である。
- ① 4年間の学修の集大成として相応しい研究課題であること
- ② 研究課題にそって、体系的・論理的に検証され、結論が得られていること
- ③ 国内外の既存研究の成果を踏まえたものであること
- ④ 検証に裏づけられた何らかの主張やメッセージ性を持つこと
- ⑤ 論文としての形式を整えていること(注、参考文献など)
つまり、必要な要素は、①4年間の集大成に相応しいこと、②論理性・体系性、③既存研究のフォロー、④メッセージ性、⑤論文としての形式である。
(2) 論文形式をとらない卒業研究
論文形式をとらない卒業研究を提出することが可能である(その場合でも成果物を説明する付属文書必要)。しかし、その場合でもそれは論文形式の場合と同じように4年間の学修の成果でなければならない。
- ① 4年間の学修の集大成として相応しい成果物であること
- ② テーマに沿って作成され、表現ができていること
- ③ 国内外の同類の成果物の成果を踏まえたものであること
- ④ 既存の成果物にはない何らかの主張やメッセージ性を持つこと
- ⑤ 成果物の所定の形式を整えていること(フォーマットなど)
3. 卒業研究作成のプロセス ─テーマ設定から完成まで─
(1) 論文形式をとる卒業研究(卒業論文)
ステップ0 前提となる知識や理論の習得
国際関係に関する様々な学問(国際関係学はもちろん、法学、政治学、経済学、社会学など)について幅広く学んでいることは卒業研究作成にあたっての前提である。様々な諸科学で、使えるツール群が数多く存在する。それら知的ツール群を適切に使えるよう、多くの知的「引き出し」を自ら準備しておく必要がある。その意味では、1回生以来の大学における学びが卒業研究の基礎となる。1回生時からしっかりと学ぶことが必要である。講義に真面目に出席し、さらに、数多くの書籍を読んでおくとよいであろう。
ステップ1 研究テーマの探索
どのような学生であれ、大学生の3回生、4回生ともなれば、知的探求心を何かしら持っているであろう。少なくとも、「○○について知りたい」とか、「なぜ○○は△△なのであろうか」と考えることがあるであろう。この感性的な受け止め、感動、疑問、憤りは極めて重要である。これがなければ、メッセージ性を持った成果物を作成することは困難である。
この段階では、まずは漠然とした疑問や論点を書き出してみるとよい。ノートに書いておくのも良いし、パソコンでレジュメをつくってもよい。とにかく、漠然とした疑問を形にしておくとよいであろう。
ステップ2 一次的接近
漠然とした疑問がもててきたら、まずは一次的接近を行おう。
テレビ、映画、新聞、雑誌、インターネット等、様々なメディアに目を通そう。片っ端から記事を切り抜いたり、ファイルにしたりしながら、情報に徹底的に当たろう。また、データを集めただけでは流れや関係が掴めないので、時系列で整理したり、項目別に整理したりしながら、より意味のある情報としていこう。
現場があるようなテーマであれば、この段階では、現場にできるだけ足を運ぶというのも有効である。また、学術機関、各種専門団体、政府、自治体が主催するシンポジウムや報告会に参加するのもよい。
ステップ3 テーマ設定
一次的接近を行った後になると、当該テーマについておおよその認識ができてくるはずである。
次に行うべきは、学術情報の収集と読み込みである。当該テーマに関連すると思われる学術文献(書籍、学術論文)や専門情報(各種専門機関の発行している報告書や統計、白書等)を徹底的にリストアップして、当該テーマについて何がどの程度まで明らかになっているのかを把握する。一次的接近でえられた情報(各種記事、写真や資料等)は重要なものとして、ここでも活かされる。この段階は、デスクワーク中心の作業となる。
そうする中で、当該テーマにかかわる専門家が誰なのかがはっきりしてくる。少なくとも自らの問題関心にあった書籍や論文にたどり着くであろう。たどりつかないとすれば、それはまだ掘り下げが足りないのかもしれない。そのときは、教員の適切なアドバイスをもらおう。いずれにせよ、そのような専門家や文献が発見できたら、徹底的にその人の文献を読んでいくと思考の助けになる。
具体的には次の作業を行う。
- ① 当該テーマに関する全ての学術情報をリスト化する。特に、文献リストを作成する。
- ② ①で作成した文献・資料リストの系統的に読んでいく。その際、重要だと思われる点、疑問点をピックアップしておく。
以上の作業を通じて、自らの問題関心にあった研究テーマが明らかになってくる。このころになると、どのような方法論で何にアプローチしたらよいかが次第にわかってくるはずである。
ただし、なかなかテーマ設定ができない場合もある。この段階でゼミにて報告し、担当指導教員やゼミ生からアドバイスをもらうのはとても有効である。ゼミ報告を経て、テーマが明確になるであろう。
この段階で最終的にはっきりさせるべきは、卒論のタイトル・サブタイトル、研究の目的、意義、リサーチクエスチョン、対象、方法である。すなわち、なぜ、何をどこまでどのように明らかにしたいのかをはっきりさせる。
はっきりさせるべき点は以下のとおりである。
- 論文のタイトル・サブタイトル(巨大なテーマ、タイトルにしない。)
※学部生の論文形式の卒業研究(卒業論文)は20,000字程度で、通常の書籍であれば20~30ページぐらいの1章程度の長さである。したがって、そこで明らかにできることは限られている。本を1冊書く必要はないので、巨大なテーマを扱わないことが肝要である。 - 意義(当該テーマはなぜ重要なのか)
- 目的(何を明らかにするのか。仮説やリサーチクエスチョンの形式でよい。)
仮説の場合は、なんらかの検証によってYesかNoかが言える形式であること、リサーチクエスチョンの場合は、なぜ●●なのか、どのように▲▲なのか、など疑問詞でもって表現されていることが必要である。 - 対象(何を分析対象とするのか、またいつからいつまでの時代を対象とするのか。分析可能な範囲に対象を限定する。)
- 方法(どのような方法論をもちいるのか。)
ステップ4 本調査
ステップ3で、先行研究についておおよそ理解し、テーマが決まれば、ステップ4の段階に移る。ここでは本調査を行う。調査・研究方法は分野やテーマによって異なるので、担当指導教員のアドバイスを受けつつ、本格調査を進めよう。これは、今までにない知的興奮に満ちた体験となろう。
現場がない理論や統計・歴史分析中心のテーマの場合は、当該テーマに関する学術的情報や一次資料を全て収集し、系統的に読み込んでいき、自らのロジックを組み立てていく。統計データの処理が必要な場合は、自らの仮説に基づいて分析する。
具体的現場があるテーマの場合は、フィールド調査を実施する。調査方法は対象によって様々である。
本調査段階では、研究で得られた知見に関する覚え書きを明確な形で残しておく必要がある。調査している時は、当該事項に関する記憶は鮮明である。しかし、時がたつにつれて記憶は失われ、ノートを見返してもわからなくなる。例えばヒアリングを実施したときには、できればヒアリング実施日にヒアリング内容についての誤解の無いような完全な形で覚え書きをパソコンで入力しておく。調査段階で、テーマに即して明らかにならない点、疑問点はできるだけはやい時期に解消する。以上を通して、論文のコアがまとまってくる。
ステップ5 論文執筆
集めてきた内容(学術論文の内容や研究・調査結果など)を論文の趣旨に沿って体系的に論じる。これはステップ3やステップ4と並列して行われる場合が多い。つまり、テーマや目次が定まってきた段階や本調査段階で、適宜書き込んでいくのである。
まずは、詳細なレジュメを作成していくと、書きやすい。論文の構成にそって、図や表、文献リストを適宜付け加えていく。この詳細レジュメを文章化すれば論文は完成しているはずである。
実際のプロセスにおいては、執筆中に論文の論理構成が変わることもある。ステップ3、4、5は「行きつ戻りつ」の過程をとる場合もある。もちろん、本調査後に一挙に書くこともある。いずれにせよ、論文を通して貫く論理的ストーリーがはっきりすれば論文執筆は比較的スムーズにできる。できなければ、ステップ3、4が十分でないので、ステップ3、4に戻る必要が出てくる。
執筆は第1章から書く必要はない。書けるところから書いていくというのが実際のプロセスである。何より重要なのは、論文の中心部分をまず書いていくことである。周辺的事実や背景説明ばかり凝って書く学生がいる。だがこれは論文全体からすれば、あまり意味をもたないので、中心部分により多くの時間を投入する。
執筆にあたって気をつけてほしいことは、調査・研究してきた順番と論文における叙述の順番は、全く異なるということである。
例えば、具体的なヒアリング調査を実施したとしよう。そのヒアリング内容を、自分がヒアリングを実施した通りに時系列で並べても何の脈絡もないメモにしかならない。ヒアリング内容を再構成し、それを理論的な内容に落とし込んだうえで、自らの主張を、研究の順番とは全く関係なく、ただ論理によって説明していくのである。(構成例については後述する。)
執筆は、完全にデスクワークである。オリジナルな内容を1行書くのに何日もかかる場合もある。追加調査が必要になることもある。だが、このようにして書いた内容は、世界の誰一人として書いたことのないものとなっているはずである。自信をもって書き進めよう。問題に突き当たったときには担当指導教員にアドバイスを求めよう。教員は論文執筆のプロである。遠慮はいらない。
ステップ6 コメントをもらい、加筆修正する。
ゼミでの報告、指導教員への草稿提出などを行い、批判的コメントをもらう。辛口のコメントであっても自信を失う必要はない。コメントをもらう目的は、完成度の高い論文に仕上げることにある。不十分な点を鋭くついてくれる辛口コメントは大歓迎すべきである。
コメントをもらったら、これに適切にこたえつつ、論文の加筆・修正を行っていこう。場合によっては、ステップ3、4に戻る必要もあるかもしれない。
※ゼミでの報告
ゼミでの報告では、当てられた時間を自分の卒論に関して使うことができる絶好のチャンスである。この機会を逃す手はない。ゼミでの報告は積極的に利用しよう。
ゼミ報告時点で述べられる最大限のことを報告し、研究進行、卒論執筆にあたって直面している課題を列挙し、ゼミ中に解決できるよう努力しよう。これによって、各プロセスで直面する問題の多くが解消されるであろう。
ステップ7 誤字脱字、変換ミスの見直し、文章の見直し、完成
論文の完成度が上がってくると、「てにをは」のレベルでの微細な修正になってくる。もはやこの段階になると完成は間近である。論文全体を100回以上見直して、完璧に仕上げていく。完成したとき、何にも代え難い知的爽快感を味わうことができる。ゴールはあと少しである。
(2) 論文形式をとらない卒業研究
論文形式をとらない卒業研究も表現形式は違うものの、ステップは基本的に同じである。最後に、成果物の意義を説明した付属文書の作成が必要なことには注意してほしい。
- ステップ0 前提となる知識や理論の習得
- ステップ1 表現テーマの探索
- ステップ2 関連する作品の収集、検討
- ステップ3 テーマと表現形式の決定
- ステップ4 作成準備
- ステップ5 作成
- ステップ6 コメントもらい修正
- ステップ7 細部にわたる最終的仕上げ
- ステップ8 成果物の意義を説明した付属文書の作成
4. 卒業研究の内容
(1) 論文形式をとる卒業研究(卒業論文)の内容
論文の構成は、わかりやすく言えば「起承結」である。論文には「転」はいらない。言いたいことをストレートにわかりやすく論じればよい。
論文は次の要素が含まれていなければならない。
① 論文の目的(→ある意味、結論の先取りでもある。)
書き方例:
第1に〜である。
第2に……
逆に言えば、ここで示された目的が結論部分で達成されている必要がある。目的と結論は一体のものとしてとらえなければならない。
② テーマ設定、問題意識
なぜこのテーマを選んだのか。言い換えれば、なぜこのテーマが重要であるのかが、学術的、客観的に示されなければならない。テーマの重要性とは次の2点である。
- ア)学術的重要性:
既存の学術研究からみて、重要な論点となっていること、あるいはなりうることである。 - イ)現実としての重要性
ア)の学術的重要性に加えて、世の中の現実からしても意義深いのであれば、そのことについて書いておく。社会科学の論文の場合は、この点も重要な要素である。
③ 分析対象
どこ(国や地域)の、いつの時代の、何を、どこまで(範囲)明らかにするのか。
※ある事象に関する事実関係を全て書き取ることはできない。自分の問題意識に合わせて、「切り取る」必要がある。
④ 記述順序
各章でどのような内容を記述するのかを説明する。加えて、なぜそのような順番になるのかも併せて記述し、説得力を持たせる。
⑤ 研究方法
理論に基づく研究であれば、用いた理論の説明、またなぜその理論を用いたのか、その理由を示す。実証研究が中心であれば、調査の方法、分析方法などを示す。
⑥ 既存研究サーベイ
論文のテーマについて、既存研究で何がどこまで明らかになっているのか、既存研究の意義と限界、自分の論文の位置づけを示す。
なお、既存研究をどこまで読み込んでおく必要があるか、であるが、一般には自らのテーマについてすべての文献(少なくとも日本語、英語)を読んでおく。適切にテーマがたてられれば、自ずと、それに直接関係するような先行研究の数は限られてくる。それを見つけることもまた研究の中で重要な作業である。
⑦ 分析
論文の中心部分である。選んだ対象を選んだ研究方法に基づき論理的に書き進める。
⑧ 結論
目的に照合した結論が書かれていなければならない。つまり、目的でAを明らかにすると述べたのであれば、必ず結論部分でAが明らかにされていなければならない。
⑨ 参考文献
本文中、図表中で参考にした文献をすべて列挙する。逆に、本文中、図表中で参考にしていない文献をあげてはならない。参考にしてもいないのに、ずらずらとあげるのは、単なる見せびらかしにすぎない。そのような幻惑は専門家である指導教員には通用しない。
- (1)日本語は著者(編者)名の50音順に並べ、同じ著者(編者)であれば執筆年順に並べる。
- (2)外国語文献は日本語の後に著者名のアルファベット順に並べる。
※参考文献の表記法はIRナビの「論文・レポートの書き方」に準拠する。参照されたい。
⑩ 注
論文に注はつきものである。注がないものは散文であって、論文とは言えない。
-
<内容>注では、次のことを書く。
- a)本文で詳しく展開する必要はないものの、説明を加えておいたほうがよい事項について補足説明を加える。
- b)出所を示さなければならない場合に、出所を記す。
- <形式>注の形式は、脚注でも文末脚注でもよい。いずれかに統一する。
※注の表記法はIRナビの「論文・レポートの書き方」に準拠する。参照されたい。
(2) 論文形式をとらない卒業研究および付属文書の内容
論文形式をとらない卒業研究の内容に関しては、指導教員の指示に従うこと。
付属文書は、①当該成果物が4年間の学修の成果物である意味、②作品としての意義、③技術や技法などの意義、④参考作品および参考文献が示されていること。
5. 文献・情報・題材の見つけ方
(1) 既存研究の見つけ方
① 図書館の利用
現在では③に詳しく述べるようなデータベースが高度に発達しており、キーワードさえ打ち込めば、大量のデータが検索できるようになっている。
ただし、データベースを使うには、学術情報に関するキーワードを知らなければならない。キーワードを知らなければ、データベースは宝の持ち腐れである。
そこでややプリミティブな方法だが、図書館に行って、関連する分野の本棚の前にいって、タイトルを見ながら、関連すると思われる書籍・雑誌の目次を片っ端から見ていくことも有効である。修学館では書庫に入ることができるので、書庫にも入ってみよう。そうやっていくと、20~30くらいは論文を探し当てることができるであろう。そこを出発点にして、下記に示す②③に移っていくとよい。
② 芋づる式
インターネットやデータベースが発達していなかったときは、図書館で片っ端から本や雑誌を開き、関連する文献を見つけなければならなかった。そこで見つけた論文に掲載されている参考文献をさらに調べ、テーマに直結する論文を見つけていく。これは「芋づる式」と呼ばれる方法である。
現代においても、図書館におもむき、関連する図書、雑誌を次々にみていくという方法は有効である。後述するキーワード検索では引っかかってこない文献が思いがけず見つかることがある。図書館を大いに利用しよう。
③ インターネット、データベース検索
本学関係者は、立命館が契約している有料データベースを無料で利用できる。立命館大学図書館のホームページから論文・記事データベースにアクセスすれば、主要新聞記事・雑誌のキーワード検索を行うことができる。
論文のpdfファイルのダウンロードができないものについては、図書館で雑誌の実物をみつけ、コピーする。本学図書館にない場合もある。Runnersで検索する際に、NACSIS Webcatにチェックを入れておけば、どの大学が当該書籍・雑誌を所有しているかがわかるので、近くの大学があれば、その大学に行って閲覧や複写を行うか、本学の図書館カウンターで複写依頼(実費支払い)を行う。他大学の図書館の利用方法は、図書館のサイトを参照して必要な手続きをとる。
(2) 関連情報のみつけ方
① 関連機関のホームページ
学術情報と同様、論文・記事データベースに各種統計・情報の有料データベースがリスト化されている。これらのデータベースは一通りみておくとよいであろう。一般にはGoogleなどの検索エンジンによって各種の報告書やレポートが得られる。
また、調べようとしているテーマに関わる機関・団体、関係省庁、各種審議会などのホームページに有用な情報が掲載されている場合がある。どのホームページが適切かは、論文のテーマによって異なるので、指導教員のアドバイスを得る。
② 指導教員への質問
テーマが絞り込まれていれば、指導教員にアドバイスをもとめるとよい。専門に応じて、必要な文献や資料を教えてくれるであろう。ただし、教員の立場から述べれば、テーマが絞り込まれていないと、教科書のような一般的文献しか提示できない。早め早めに取り組み、テーマを確定していこう。
③ インターネット上に転がっている情報に注意
関連機関による報告書や研究者による論文などを除いて、インターネット上に転がっている情報はあてにならないので注意が必要である。特にWikipediaは、一般的な情報をまず知るには大変手軽なものである。しかし、専門家の立場からすれば、誤りが多く含まれているし、包括的でない。したがって、これらの情報を卒業論文の一次的な参考資料にしてはならない。仮にこれらの情報をみたとしても、書かれている内容が真実なのかどうかを根拠にまでさかのぼって検証しなければならない。
勉強が足りないと、最初に見た情報を鵜呑みにしてしまう。これは、鳥の雛が最初にみたものを親と思うのに似ていて大変滑稽である。研究を深めていない段階である特定の見方のみに凝り固まるのは賢明ではない。Wikipedia等は見ないほうが論文作成にあたってはよいであろう。
6. 卒業研究作成の技術
(1) 論文形式をとる卒業研究(卒業論文)
ここでは3. でのべた大きなプロセスとは別に、論文形式をとる卒業研究(卒業論文)を執筆するにあたっての技術的な注意点について述べる。
1)文章
論文形式をとる卒業研究(卒業論文)における文章は、美文である必要はない。余分な修飾語は一切不要である。感情的文章、文学的表現も一切不要である。
① である調で統一する。
注意:「だ」調、「です・ます」調と混在させない。丁寧語や尊敬語を使わない。
② 体言止め(などの文学的表現)は使わない。
体言止めは、文字数がきわめて限られた新聞で多用される表現形式である。論文ではこのような表現は不要かつ有害である。
日本語では文尾で肯定か否定かが表現されるので、文尾が省略されると、肯定文なのか否定文なのかは判然としない。例えば「○○が重要。」と書かれている場合、厳密には○○が重要で「ある」のか、重要で「ない」のかは文末が書かれていなければわからないので、意味不明である。体言止めは、論旨を誤解の無いよう伝えなければならない論文には適さない。
③ 段落の前は一マス空ける。意味の切れるところで段落を適切に区切る。
段落冒頭は全角一マス空ける。これは、Wordの1行目の字下げインデント機能を使うことでできる。インデント機能を使っていない場合は、単に全角1マス分あければよい。これを行っていないことが非常に多いので注意されたい。また日本語は英語のように何マスも空けてはいけない。また非常に長い段落、一文しかない段落などをみかけるときもある。これも避ける。
④ 接続詞に注意する。
「しかし」について、逆接に使っていない場合はないかチェックする。また同じ段落内で「しかし」が何度も登場する文章をみることがある。つまり、同じ段落内で論理が二転三転しているのである。これは大変わかりづらいので同じ段落内で何度も登場しないようにする。「そして」はほとんど意味を成さないので、極力使わない。
⑤ 論文としてあまり使わない動詞
学生が書いた草稿に散見される表現に次のようなものがある。いずれも不適切である。
- 「紹介する」(※→紹介してどうするのかが不明確である。)
- 「見る」(※→見てどうするのかが不明確である。)
- 「調べる」(※調べて、結局何をするのかが不明確である。) など。
- 「~と考える」(文法的におかしいのと、このように書いたとたんに主観的表現となってしまう。どうしても推論の範囲を出ないのであれば、~と考えられる、~と思われる、とし、自分以外の者が考えてもそのように判断するであろうという意味合いの書き方にすること)。
論文は何かを明らかにすることを目的としている。したがって、「紹介する」「見てみる」「調べる」、「と考える」等は、原則として不適切な表現である。紹介して、見て、調べて一体何を明らかにしようというのか。「分析する」「明らかにする」などが適切な表現であろう。
⑥ 「ちなみに」「なお」で蘊蓄(うんちく)を語らない。
「ちなみに」「なお」という言葉に続いて、本論とは直接関係のないことを述べている文章をみかけることがある。しかし、このような文章は論文では一切不要である。
本論に関わる重大な内容であれば、「ちなみに」「なお」という言葉を使わず論理的に記述する。仮に補足説明にすぎない場合は、注記して述べればよい。
⑦ ?、!などは不要である。
日本語に?、!などの疑問符や感嘆符は必要ない。
⑧ 主語と述語、修飾語と被修飾語
主語と述語が対応していない文章にでくわすことがある。また、修飾語と被修飾語が対応していない場合がある。十分に気をつけてもらいたい。
また、主語としての「私」は論文では一般に使わない。論文は客観的事実に関する文章であるので、「私」であることは無関係のはずである。
主語・述語がうまく収まらないときは、態を変える(能動態から受動態へ)とうまくいくことが多い。
⑨ 読者に投げかけない。
「~ではないだろうか。」という文章を書いて、結論を読者に投げかけてしまうものがいる。自信がないのか、共感してもらいたいのか、その気持ちは理解できなくはない。だが、このような訴えかけのような情緒的な表現は論文には必要無い。「●●である」のか「●●でない」のか、はっきりと述べなければならない。
もし「●●である」「●●でない」とは断言できないような場合は、次のような表現を使うとよい。
- ●●であると考えられる。
- 必ずしも●●ではない。 など。
2)論文全体を通して
① 論理の繋がりに注意する。
論文形式をとる卒業研究(卒業論文)は全体を貫く論理がなければならない。だが、この論理が正しいかどうかは十分に気をつける必要がある。
全く意味不明な論理であっても、一見つながってしまう場合がある。基本的に目に見えたり、実験器具をつかって計測できたりするものを扱う自然科学においては論理の間違いはおかしにくい。例えば、「人間は二本足である。鳥は二本足である。ゆえに人間は鳥である。」という命題が間違っていることは論理を十分に吟味しなくてもわかる。これは常識であるし、現実に目に見えてわかるからである。
だが、社会科学は、目に見えないものばかりを扱う。法律、文化、政治、経済などの諸現象は、自然科学的な意味で把握することはできない。これらの現象は、人間の抽象力をつかって把握するものである。そのため、草稿では、正しくない命題があたかも正しいように書かれていることがある。それは論理の繋がりが十分に吟味されていないからである。
そのため、論文の構成・執筆にあたっては、十分な注意が必要である。最終的には、論理が正しく事実関係を反映したものであるのかどうか、指導教員から判断してもらおう。
② 章と章、節と節、段落と段落、文章と文章、それぞれの関係を明確にする。
漠然と章が構成されている場合が多い。各章の目的は何か、論文全体の目的に沿って、明確にする必要がある。そうでなければ、読者が論理的筋道を追うことができず、論文全体が空回りになってしまう。
そうならないためには、「はじめに」など、論文の冒頭において各章で明らかにすることを明確にしておく。さらに、各章のなかで、各節のねらいと関係をはっきりしてさせておくべきである。これは各章の冒頭ではっきりさせることと、それぞれの章で明記しておく方がよい。
以上のように、論文は常に今述べていることが論理的にどのような意味をもっているのかが読者にわかるようにしておかなければならない。その意味では、常にサインポストとなるような文章を入れておくことが必要である。
サインポストの例:
<章の冒頭部分に>
前章では○○について検討を行い、●●●が明らかとなった。これを受けて、本章では△△△の分析を行う。以下、各節では以下のような構成をとる。まず、第1節では・・・
これは例にすぎない。あくまでこうしたことをする目的は論理的筋道を読者に示すことにあるので、これが明確になっていれば書き方にはバリエーションがある。
段落と段落、文章と文章の意味については、一つ一つサインポストを示す必要はない。ただし、筆者本人は常に論理のつながりを意識しながら構成する。
③ 勉強したことを全て書く必要はない。概論ではなく、自分の研究内容を書く。
草稿で最も多いのが、教科書に書かれているような内容を第1章、第2章あたりで長々と説明しようとするものである。
例を挙げよう。例えば、「京都市の中小企業における環境経営の課題」をテーマにしたものがあったとする。よくある悪いパターンは、第1章で「環境経営とは」ということを延々説明するというものである。
このような一般的説明は筆者のオリジナルなものでは決してない。この例でいえば、環境経営の教科書を勉強して、その内容をまとめたものにすぎない。
論文作成に取り組むにあたり、様々な書籍を読んでいくはずである。そのたびに、学生諸君にとっては新しいことを知ることになる。しかし、自分にとって新しいことであっても、科学的に新しいこととは限らない。むしろ教科書に書かれているような内容は、皆に知れ渡っている。
それゆえ、教科書に書かれているような一般的説明のために章をおこす必要は全く無い。どうしても書きたい場合であっても、本文であれば数行程度で十分であるし、本文でなく注で説明すれば足りる。何よりも、論文のテーマに直結する分析を本文中で詳しく展開しなければならない。
④ 提案は必須ではない
学生の卒業研究(卒業論文)において提案が必須だと思われているケースが少なくない。しかし、学術論文としての評価は実践的な提案が導き出されうるかどうかで行われるものではなく、まずは、事実認識として正確な判断がなされているかどうかによって行われる。また、提案を行うとすれば、論文内で検証されたことがらについて行うべきであり、なんら検証をされていない事柄について安易な提案を行うことは控えなければならない。
⑤ いつの時点のことかに注意する。また、暦年と年度の違いに注意する。
社会科学は基本的に歴史科学的側面がある。それゆえ、GDP(国内総生産)、人口その他、どのような数字であってもいつの時点かが明記されていなければならない。
統計資料の場合、暦年(1~12月)のものか、年度(日本の場合は4月~3月)のものかにも注意する。例えば、2010年のGDPなのか、2010年度のGDPなのか、はっきりさせることが必要である。
また、年次は年号(平成など)を用いず、西暦で統一する。理由は国際性が全くなく、日本をでれば意味不明であるし、いつの時点で変わるともしれないものだからである。
⑥ 用語を統一する。
長文を書いていると、ブレが生じ、用語が不統一になることが多い。特に重要な用語については必ず同じになるように注意する。
⑦ 感情的表現を用いない。個人的感想は書かない。
悪い例:「私がこのテーマを選んだきっかけは、学生時代に……という経験をしたからである。」
→これはたまたま自分が特定の経験をしたことを書いているだけである。仮にそのような経験が自分にとってのきっかけになったとしても、それはそのテーマ自体の重要性とは別の問題である。
悪い例:私は○○を訪れて、△△のように思った。
→個人的記録に過ぎなくなる。このような書き方は論文には一切不要である。主観的にではなく、あくまで客観的に書くことが必要である。
⑧ 反証可能性を確保するため、出所を明記する。
論文で明らかにされている事実が本当にそうなのか、客観的証拠が示されなければならない。論文では、誰が考えても、論文で書かれるとおりの主張になるということが示されなければならない。それが説得力というものである。
これを確保するために、注で出所を示すことが必要である。出所を明記することで、反証可能性を確保することができる。また同時に、出所が明記されていない点については、オリジナルな見解や発見であるということになるので、自らの論文のオリジナリティーを確保することにもつながる。
出所を明記すれば、他の論文や記事を参照してもよい。逆に、出所を明記しなければ剽窃(盗作)となる。
⑨ 剽窃(盗作)は厳禁である。
剽窃盗作は絶対に行ってはならない。剽窃とは、他人の論文の一部または全部を盗んで、自分のものとして発表することである。また、自分自身が要約したものであっても、元になった文献の出典を示さずにいれば剽窃になる。
プロの世界では、剽窃は厳しく罰せられ、場合によっては職を失う。それくらいに許されない、禁じられた行為である。学生諸君も同様で、厳しい処分が下される。
例えば、インターネット上にある情報を、一部であれなんであれ、注記無くコピー&ペーストしたもの、他人の著作を書き写したもの、図表を注記なく使用したものは、すべて剽窃である。このようなことを行った場合、警告無くF評価となる。
⑩ 誹謗中傷はしない。批判はすべきである。
誹謗中傷は、客観的根拠無くして個人攻撃することである。これは「批判」とは異なるので行ってはならない。逆に、学問上、客観的根拠を示しての批判はむしろ必ず行わなければならない。
批判の例:「従来の研究においては△△について明らかにされてきた。しかしながら、□□についての研究はこれまで十分に行われてこなかった。」
→これは既存の研究の限界を示そうとした文章である。つまり既存の研究全てを、ある特定のテーマからみて不十分であることを指摘している。このような批判は大いに行うべきである。批判を通して、先行研究を乗り越えることができる。また(学術的)批判は、重要なものに対して行うべきである。あまり重要でない文献を批判しても殆ど意味がない。最も重要な文献について批判的に検討することができれば、研究は相当進んでいると言える。
⑪ 図表については注意が必要である。
データは1次資料を用いて自ら加工する。
統計から未加工のまま掲載するのは論外である。生のデータを示すだけでは、何が言いたいのか全くわからない。また、インターネットや報告書、その他からそのまま図表をとってきて掲載するのは、出所を示したとしても行うべきではない。自らの主張にそって統計を分析し、わかりやすく加工することが必要である。
特に図(概念を表した図やグラフなど)は余程のことがない限り、自作する。なぜなら、図は、作図した人の考えを体系的に再構成したものだからである。ある人の考えと全く同じになるのは本来ありえない。他の人がつくったものをもってくる場合は、自分の考え方にあわせて改良を加えることが基本である。
また、図や表を作成するにあたっては、参照した出所を必ず明記する。
書き方の例
- 出所:環境省(2008)28ページより筆者作成。
- 出所:木村(2005)28ページの図を加筆修正。
⑫ 「参考文献」を過不足無く示す。
論文を書く際に、具体的に参照した文献は、本文中に注を施し出所をしめし、かつ、これらの文献を全て「参考文献」であげなければならない。逆に、本文中、図表中で参照していないものを参考文献にあげてはならない。
悪い例:注で出所が示されていないのに、参考文献が論文末尾に掲載されている場合がある。これはレポートでよくみられる。これでは、参考文献に示された文献がどこでどのように参考にされているのか、全くわからない。この形式は誤りであり、論文形式をとる卒業研究(卒業論文)としては落第である。
3)論文の構成例
論文の理想的な構成例を以下に示す。論文形式をとる卒業研究(卒業論文)においては、「既存研究レビュー」と「研究の方法」をまとめて章にして、「先行研究と本研究の方法」としてもよいであろう。下はあくまで例に過ぎない。論文の構成については、指導教員と相談の上、各自決めてもらいたい。
※ここで書くのは・・・
- 論文の目的と研究課題(→ある意味結論の先取りでもある。)
「本稿の目的は・・・を明らかにすることである。具体的には次の3つの点を・・・したい。」など - 問題意識
- 記述順序
- 論文の目的、内容を照らし合わせて
既存研究で何がどこまで明らかになっているのか。
既存研究の意義と限界
論文の意義付け
- 用いる理論や方法論を記述
<具体例>
理論
アンケート方式
個別インタビュー
文献調査 - なぜこのような方法をとるのかを説得力を持って説明する。
- 具体的な分析
- ・起承転結の「承」部分
※「起」部分はすでに第1章で終わっている。「転」は論文には不要。
- 全ての論文を通した考察、結論
- 第1章部分で設定した研究課題に答えていることが必要。
- 研究、ヒアリングでお世話になった人への感謝の言葉など。
- 個人的感想や思いを書きたいことがあろう。それは、この「あとがき」に記述する。感想、感情的な部分も含めて書いて良い。
(2) 論文形式をとらない卒業研究および付属文書の作成技術
論文形式をとらない卒業研究の作成技術については指導教員の指示に従うこと。付属文書作成の技術は上記の卒業論文ないし論文形式をとる卒業研究に準じる。
更新者:中川 涼司
執筆日:2014年11月23日
更新日:2018年1月31日、2020年1月23日、2020年12月23日、2022年2月23日