専門編

国際協力の学び方

1. 国際協力を学ぶということ

国際協力あるいは開発問題を学ぶ学生の目的は様々であるが、ここでは将来国際協力、特に開発途上国(低中所得国あるいは新興国とも呼ばれる)への協力・援助関連の仕事に就きたいという学生のみならず、公務員、民間企業、海外協力隊や日本国内の地域おこし協力隊、その他分野(起業するなど)へ進む学生も想定して、学びのための手がかりを紹介する。

まず、第一に、開発途上国への支援・協力の理論と実践との関係について考える。歴史的には、第二次世界大戦後のおよそ 80年前に多くの植民地が独立し、自国の運営を担ったとき、先進国と新独立国(その後の開発途上国)との間の経済格差を緩和するために始まったのが今日で言う国際協力あるいは援助であった。そこでは開発のための計画策定や効果測定のための手法とその理論化が進展した。ゆえに実践志向の強い分野であり、理論から実践を見るだけではなく現実を観察しそこから理論を学ぶという姿勢が求められる。その意味で、常に大学の教室で学んだことを現実と対応させる努力が必要である。ただ、歴史的経緯、文化的背景の知識を持たずに拙速に実践へと向かうことは、時として大きな失敗を招くことも認識する必要がある。

次に国際協力が西欧諸国から問題提起され、活動が開始され、方向性が決められてきた経緯を理解する必要がある。経済開発、社会開発、人間開発と言った用語あるいはスローガンは基本的に欧米的価値観に基づいていることは事実である。例えば開発、協力、貧困、参加などはまず英語に development, povertyといった用語と概念があって、日本語の用語はそれらの翻訳である。用語の原文と日本語のニュアンスの間には微妙な、時には大きな差があるので、国際協力(この用語自体が日本独特のものであるとされる)を本格的に学ぼうとすれば、英語その他の言語の文献に当ることが不可欠となる。上に述べた実践の分野ということを併せ考えれば、実務、政策両面でこの分野をリードして来た世界銀行、IMF、アジア開発銀行、国連機関の文献は重要であり、批判的にという意味も含め検討することが必要である。

以上のように国際協力が欧米的価値観と概念、イニシアティブによって組み立てられてきたという事実を受け入れ十分その考え方を理解した上で、そこに留まることなく相対化し評価することが求められる。例えば日本の開発・援助の歴史、実績、価値観に照らし合わせて開発課題を批判的に論ずることも国際協力・開発援助を理解する手助けとなる。日本を含めアジア、アフリカ、中東、中南米といった地域の開発の歴史や経験について学ぶことは、学習への出発点を与えてくれる。その点で、中国あるいはインドといった新興国が、協力・援助を実施する側(ドナー)となって影響力を強めている点も注目すべき点である。

さらに国際協力に直接、あるいは間接にでも関わる者は、異なる言語、文化、慣習、制度を持つ人々とのコミュニケーションが必要となり、多くの場合それは英語(あるいはアフリカでは仏語、中南米ではスペイン語、中東ではアラビア語、そして重要度を増す中国語)で行われる。そのため開発途上国の人々との交渉、他の先進諸国、国際機関とのやり取りにおいて、開発に関わる諸概念、日本の経験や価値観などを日本語以外の言語(上記以外の少数言語も含む)で理解、表現する能力を持つことが不可欠である。

なお国際協力の対象となる分野は政治、経済、法律、社会分野から環境、ジェンダー、移民・難民問題、文化交流などと極めて広いが、国際協力に直接に携わるだけではなく、どのような道に進むにしても政治、経済、国際関係に関わる知識、さらに現地の情勢を理解する上では社会や文化への理解が求められる。それゆえ、政治学、経済学、社会学、法学、人類学さらに語学といった分野への理解をそれぞれの興味・関心にあわせて深めることも必要である。

2. 国際協力の目標(SDGs)と多様なアクターとの連携

今日、国際協力全般を理解する上で欠かせないフレームワークはSDGs(持続可能な開発目標)である。この目標達成のために、既存の二国間ODA(政府開発援助)、国連、世銀などの国際援助機関による多国間支援のみならず、NGOや民間企業さらに大学などの教育・研究機関の関与とそれらアクター間の連携が強く求められている。特に、民間企業によるCSR活動(企業の社会的責任)、社会起業家、フェアートレードなどは注目されている分野である。このように今後、国際協力を進めるためには、資金・技術・経験を有する多種多様な組織、人材の参加が必要であり、それら様々なアクターによる実践的な取り組み、成功と失敗事例の積み上げと教訓の活用が益々重要になってくる。

3. 学習の方法

国際協力は幅広い課題に柔軟に対応することが求められる分野であるが、関連する文献の多くは経済、政治、社会といった既存の学問的切り口から現実を見る傾向にある。そのような前提のもと、入手し易く学習の参考となる文献を以下に示す。また、国際協力の知識と経験は、実践の中でも得られるものであることから、国連などの国際機関やJICAなどの国内援助機関、NGO、民間企業が提供するインターンシップや国内外のボランテイア活動などに参加することは意義がある。

以下2冊は初学者向けに開発経済学、国際協力についてわかりやすく説明されている。
  • 黒崎卓・栗田匡相『ストーリーで学ぶ開発経済学-途上国の暮らしを考える』有斐閣、2016年
さらに進んだ学習には比較的最近のものとして以下の書籍があり、理論と実践の両面から幅広い視野を与えてくれる。
  • 荒木光弥『国際協力の戦後史』東洋経済新報社、2020年
  • 大塚啓二郎『なぜ貧しい国はなくならないのか 第2版』日本経済新聞社、2020年
  • 下村恭民『日本型開発協力の形成 政策史1・1980年代まで』東京大学出版会、2020年
  • 同上『最大ドナー日本の登場とその後 政策史2・1990年代以降』東京大学出版会、2022年
  • 戸堂康之『開発経済学入門 第2版』新世社、2020年
  • 佐藤仁『開発協力のつくられ方 自立と依存の生態史』東京大学出版会、2021年
また、服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』中公新書2009年は、1960年代にアフリカの小国ルワンダへ派遣された著者の国つくりへの情熱と苦労が感じられる好著である。加えて、毎年刊行される世界銀行の『世界開発報告』及び国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告』では、国際的な開発課題、新しい動向が紹介されている。
執筆者:嶋田 晴行
執筆日(更新日):2023年2月28日