テクニック編

大学院進学のすすめ(主に海外進学対象)

1. 海外の大学院に進学する動機

一般的に、大学院に進学するにあたっては色々なモチベーションがあると思います。国際関係学部で学んだことをより深く勉強したい人がいるでしょうし、専門的な資格を取得するために大学院進学を考えている人もいるでしょう。例えば、国際機関の多くが修士課程(博士前期課程)以上の学歴を要件としているため、国際機関で働くことを目指している皆さんは大学院での学びについても考える必要があります。その先、一つの学問領域を極めたい人は、修士課程だけでなく博士課程(博士後期課程)をも見据えていると思います。

また、ある種のモラトリアムといった(やや消極的な)理由もあるかと思います。大学4年間でやりたいことが見つからなかったから、何となく大学院に進学してみようと思った、といった理由です。もちろん、ゼミでの議論に触発されてより深く学びたくなった人もいると思うので一概には言えませんが、自分の研究テーマに対する情熱がないと途中で挫折してしまう恐れもあります。個人的には、あまりお勧めできません。

それでは、国内の大学院だけではなく、海外の大学院に目を向ける理由にはどのようなものがあるでしょうか。海外の大学院の方が、関心があり大学院で学びたいと思っている研究テーマやアプローチが活発に議論されているから、あるいはそういった関心にぴったりの焦点を絞ったプログラムがあるから、といった動機がありえます。例えば、わたしが進学したイギリスでは国際関係学だけでなく、安全保障や国際政治経済といったサブ・フィールドに特化したプログラム、あるいは人権、開発や平和構築といったテーマを中心に組まれたプログラムを提供している大学院が多数あります。こうしたプログラムを設置している大学院では、選択科目が充実している場合が多いため、かなり専門的な(言いかえればマニアックな)学びができると思います。

あるいは、学部時代に留学してよい体験をしたので、再びその国・地域に住みたいと思うことも海外の大学院に進学する立派な動機になります。

2. 志望する大学院の選び方

さて、海外の大学院にチャレンジしたい、と決心したら次に考えるべきはどの大学院に出願するかです。一口に自分の研究関心・テーマに合致するような大学院を探すと言っても、なかなか大変な作業です。英語圏の国際関係学だけをとってみても、国家中心的・政策志向的・科学的な傾向が強いアメリカ/北米に対して、そうした傾向を現状維持と捉え批判的に乗り越えようとする方向性を有するイギリス/欧州といった、学説史にも絡む特徴の違いがありますし、そこまでいかなくても、年数や学費といった実際的な次元での違いもあります。

そこで、対象を絞り込むために活用したいのが、様々な媒体や団体が発表している世界大学ランキングです。こうしたランキングにはもちろん功罪がありますが、大学院選びの出発点にはなると思います。有名なものとしてはイギリスの高等教育専門誌Times Higher Educationが発表している「The Times Higher Education World University Rankings」やQS社の「QS World University Rankings」などが挙げられるでしょう。分野別のランキングを提供してくれるので、自分の研究関心・テーマにおいて評価の高い大学(院)を探すきっかけになります。イギリスに限って言えば、Guardian紙の「Guardian University Guide」といったものもあります。

これまたイギリスになりますが、国の研究評価制度「Research Excellence Framework」(最新版はREF 2021)を参考にするのも手です。研究面からその大学・大学院がどのように評価されているのが分かるので、とくに博士課程まで考えている人は必見です。

こうした方法で対象となる大学院を絞り込んだ後は、大学院のホームページを地道に回って情報を集める必要があります。そこで注意すべきは、プログラム毎に設定されている必修科目(コア科目)と選択科目にはどんなものがあるのかを確認しておくことです。シラバスが載せてあればチェックして下さい。実際に履修できる科目(やそのシラバス)を調べることで、自分がその大学院に進学した際に学べるものの輪郭が何となく描けると思います。

またコロナ禍を経て、オンラインの学位プログラムという選択肢にも新たな光が当たりました。もちろん、海外の大学院に進学する醍醐味の一つはその土地で暮らし、現地の人や世界中から来た学生と交わることですが、オンライン・オンリーのプログラムも質・量ともに向上しているので、選択肢に含めることも考えられるかと思います。

3. 海外の大学院に進学して得るものとは何か

国内外を問わず、大学院に進学して得る第一のものは高度な知識です。学部時代にも授業やゼミでの活動を通じて色々な知見に触れたと思いますが、大学院ではさらに専門的な勉強ができます。もっと知りたいという知的欲求に応えてくれるのです。また、海外の大学院ということで言えば、同じ学問分野であっても上述のように国や地域によって力点や特徴に違いがあるので、新たな発見ができるということも挙げられます。

また、ネットワークづくりという意味でも、得るものは大きいと思います。アメリカやイギリスなど英語圏の大学院を始めとして、海外の大学院の多くは非常に国際色豊かです。教員も生徒も世界各国から来ていることは珍しくありません。もちろん、国際関係学部も日本の大学としては非常に多様性に富んでいるとは思いますが、アメリカやイギリスにおけるランキング上位の大学院の場合、その数段上になります。そうした多様性のメリットは、教学的には複数の視点が確保されることで教室内での議論に幅と深さをもたらしてくれることなどが挙げられますが、なんと言っても世界中に友達の輪が広がることでしょう。異なる文化的背景を持つ学生達と交流することで自分の世界も広がっていきますし、卒業後もコンタクトを取り合っているケースも多いと思います。さらに、友人関係というだけでなく、自分のフィールドで意見交換ができる人が増えるという意味でも、大きな財産になるでしょう。

就職という意味でも海外の大学院に進学して得るものはあります。やや流動的ではありますが、大学院修了後に引き続き滞在し、就職活動をするためのビザを出す国は多いと思います。各国とも、修士課程、博士課程を修了した人達を高度な専門性を有するプロフェッショナルと捉えているためで、ここが日本における一般的な文脈(大学院に行く人=大学の先生になりたい人)とは異なるところです。さらに言えば、「ビジネスで使える」実務的なプログラムで学ぶ方が就職に有利かというと、必ずしもそうとは限りません。例えば、イギリスではビジネスとファイナンスのような新興国の学生に人気が高い修士課程のプログラムを数多く取りそろえていますが、そうしたプログラムを終了したら全員がインベストメント・バンカーになれるかというとそうでもありません。やはり、大学院では関心のあるテーマについてきちんと掘り下げた上で、そうして学んだことと、仕事として追求したいことがどのように結びつくのかを、自分の言葉で語ることができるのが大事かと思います。

4. 海外の大学院進学を目指す人たちへの(個人的な)アドバイス

最後に海外の大学院に進学する際に準備すべきことについて、いくつかアドバイスをしたいと思います。

具体的な出願条件はそれぞれの大学院のウェブサイトをご覧いただくとして、早めの準備が必要なものとして語学要件があると思います。とくにトップランクの大学院プログラムの場合、求められる要件も高度なものになります。言語によっては、各種テストの開催頻度が高くないものもあると思いますので、予め確認して計画的に勉強を始める必要があります。

また、英語圏の大学院の場合、推薦書を添付する必要があることが殆どです。通常は二通程度です。一通はゼミの先生にお願いするとして、もう一通をどうするのか、ゼミの先生とも相談しながら前もってお願いしなくてはなりません。

お金も大事です。学費だけでなく寮費や生活費など、国内の大学院と比べても多くかかります。アルバイト、とは言っても勉強が大変な上に、留学生は法的に上限が決まっていることも多いです。親とも相談しながら、どのようにファイナンスするかを前もって考えておく必要があります。

このように、海外の大学院に進学するにあたっては色々と考えるべきことが多いですが、得られるものの方がはるかに大きいと思います。是非検討してみて下さい。

執筆者:安高 啓朗
執筆日:2022年3月9日