2014年度 優秀論文一覧

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スポーツ科学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
澤田 直宏 家光 素行 「クロレラ摂取が異なる運動様式による骨格筋のエネルギー代謝に及ぼす影響」
背景

有酸素性運動は脂質の利用を亢進させ,生活習慣病の要因である肥満の改善に有効であるとされている(Louche et al., 2013).
また,ラットに4週間の短時間高強度運動(HIIT)を実施した結果,骨格筋のミトコンドリア内の代謝関連酵素活性を増加させることも報告されており,HIITがエネルギー代謝能の改善に有効であることが考えられる.近年では,6週齢BALA/c雄性マウスを用いた14日間クロレラ摂取後の水中運動による運動継続時間は,コントロールマウスに比べて約2倍長くなるという結果が報告されており,クロレラの抗疲労効果が認められている(Mizoguchi et al., 2011).しかしながら,運動とクロレラとの併用効果における骨格筋のエネルギー供給関連酵素活性への影響は明らかでない.

目的

クロレラの長期摂取が異なる運動トレーニング様式によって骨格筋のエネルギー代謝に及ぼす影響を検討することを目的とした.

方法

10週齢のSD雄ラット80匹をコントロール群,クロレラ摂取群に加え,有酸素性トレーニング群,間欠的短時間高強度トレーニング群,レジスタンストレーニング群,各トレーニング+クロレラ摂取群の8群に分けた(各群N=10).最後のトレーニング終了48時間後に腓腹筋とヒラメ筋を摘出し,Cyctochrome c oxitase (COX)とCitrate Synthase (CS)およびPhosphofructokinase(PFK)の酵素活性を測定した.

結果および考察

本研究において,8週間の持久性トレーニングとクロレラ長期摂取の併用は,骨格筋のCS酵素活性を増大させることから,クロレラ長期摂取の併用は持久性トレーニング単独よりも骨格筋の脂質代謝をさらに亢進させる可能性が考えられる.また,間欠的短時間高強度トレーニングとクロレラ長期摂取の併用は,解糖系のPFK酵素活性や脂質代謝のCS酵素活性を亢進させたことから,単回運動による乳酸産生量の抑制および乳酸処理能が向上した可能性が考えられ,その結果,間欠的短時間高強度運動のパフォーマンスが向上したと考えられる.

結論

クロレラの長期摂取と運動トレーニングを併用することにより,骨格筋の糖代謝や脂質代謝に影響を及ぼす可能性が考えられる.しかしながら,その効果は運動様式によって異なることが示された.

主な引用・参考文献

Mizoguchi, T., Arakawa, Y., Kobayashi, M., Fujishima, M. (2011) Influence of Chlorella powder intake during swimming stress in mice. Biochem. Biophys. Res. Commun., 404(1):121-126.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
鳥取 伸彬 伊坂 忠夫 「小中学生におけるスタンディングスタートの前後足配置と足の使い方」
背景

陸上競技にはクラウチングスタートとスタンディングスタートの2種類のスタートがあり,児童においてはどちらのスタートであってもスタート時のパフォーマンスがタイムに影響をあたえることが報告されている(中野ほか, 1993).スタンディングスタートは左右足を前後に開く左右非対称の姿勢のため,選手は何らかの要因によって前後足の配置を決めている.また,スタンディングの姿勢からスタートを行う際にはスタート足となる最初に離地する足は前後どちらでも行える特徴がある(LeDune et al., 2012).しかし,前後足配置とスタート足がどのような要因によって決まっているのかについて検討された研究はみられない.

目的

小中学生において,配置する前後の足やスタート足における利き手・利き足の影響を考えることと,その前後足配置を入れ替えることがスプリントパフォーマンスへどのような影響をあたえるのかを検討することを目的とした.

方法

対象は陸上競技歴が1年以上の小学生15名,中学生18名とし,6m疾走,50m走を計測し,利き手・利き足,歩行開始足を確認した.6m疾走においては自然な足配置からスタートする試技を2回実施した後,足の配置を前後入れ替えてからスタートする試技を2回実施した.スタートは2枚のフォースプレート(テック技販, TF-4060-B)上に片足ずつ乗せた状態からとし,取得した床反力からリアクション開始,後ろ足離地,前足離地の瞬間を定義し,スタート後5mまでのタイムを4区間に分けて計時した.また,スタート時における水平進行方向と鉛直方向の合力における力積を算出した.

結果および考察

前後足配置について利き手・利き足・歩行開始足と関係はみられなかった.前後足配置を入れ替えたところ,4試技全てにおいて前足から離地を始めるか後ろ足から始めるかが決まっているものが33名中20名いた.スタート足が左右の足ではなく,配置時の前後の足で決まっていたことから,スタート足も利き足とは関係がないことが示唆された.
前後足配置を入れ替えた結果,号砲からリアクション,および両足が完全に離地するまでの時間には有意な差はみられなかったが,前足の離地から5mまでのタイムが有意に遅くなった(p < 0.01).両足とも合力力積においては足配置を入れ替えても変化がみられないことから,スタート時の力発揮の方向が変わったためタイムが遅くなったことが考えられた.

主な引用・参考文献

1. 中野正英・尾縣貢・真野功太郎 (1993) 短距離走のスタートに体力, スタートフォームが及ぼす影響
 ―小学5年生の場合―. スポーツ教育学研究, 13(2): 91-103.
2. LeDune, J. A., Nesser, T. W., Finch, A., and Zakrajsek, R. A. (2012) Biomechanical analysis of two standing sprint start techniques. J Strength Cond Res, 26(12): 3449-3453.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
河野 なつき 後藤 一成 レジスタンス運動と有酸素運動の実施順序の相違が脂質代謝に及ぼす影響
背景

近年我が国では,生活習慣病を引き起こす主な原因である肥満が著しく増加している.肥満の予防・改善には,運動によってエネルギー消費量を増加させることが重要である.現在,健康増進をねらいとした運動プログラムは様々な要因から構成されているが,その中でも運動の実施順序はトレーニングの効果に影響を与える重要な要因である.先行研究では,レジスタンス運動を行った後に有酸素運動を実施することで,有酸素運動のみを行うよりも有酸素運動中における脂質代謝は効果的に亢進されることが示されている(Kang et al. 2009, Goto et al. 2007).しかし,有酸素運動を実施した後にレジスタンス運動を行った際の代謝応答には不明な点が多い.さらに,先行研究では,運動中における脂質代謝のみに着目しており,運動終了後における脂質代謝の変化は検討されていない.

目的

レジスタンス運動と有酸素運動の実施順序の相違が、脂質代謝に及ぼす影響を検討すること.

方法

健康な男性8名(21.3 ± 0.4 yrs, 171.3 ± 3.5 cm, 63.4 ± 3.0 kg, 21.6 ± 0.5 kg/m2)を対象に,①レジスタンス運動(30分間)を実施した後に有酸素運動(60分間)を行う条件(RA条件),②有酸素運動(60分間) を実施した後にレジスタンス運動(30分間)を行う条件(AR条件)からなる2条件を異なる日に実施した.レジスタンス運動と有酸素運動の間における休息時間は10分間とした.また,すべての運動終了後には60分間の休息時間を設けた.運動中および運動後において,採血や呼気ガス採取,HR,RPEを測定し,各種パラメーターの経時変化を条件間で比較した.

結果および考察

有酸素運動中における脂質代謝には,いずれの条件においても有意な差はみられなかった.しかし,運動終了後60分間における脂肪の利用割合は,AR条件がRA条件に比較して有意に高値を示した(P < 0.05).また,RA条件の有酸素運動中におけるHRとRPEは,AR条件に比較して有意に高値を示した(P < 0.05).先行研究では,レジスタンス運動を行った後に有酸素運動を行うことで脂質代謝の亢進されることが示されている(Kang et al. 2009, Goto et al. 2007).この研究結果の差異には,本研究と先行研究で,呼気ガス採取のタイミングの相違や,RA条件の有酸素運動中における糖代謝の亢進が関与していると考えられる.また,AR条件では,RA条件に比較して,運動後における脂質代謝の亢進がみられたことに加えて,有酸素運動中における主観的な疲労度が軽減されており,これらは,運動処方の観点から大きな利点である.

結論

上述の結果より,合計100分間の運動プログラムにおけるレジスタンス運動と有酸素運動の実施順序の相違は,有酸素運動中よりもむしろ,運動終了後における脂肪利用の貢献度に影響することが明らかになった.特に,有酸素運動を実施した後にレジスタンス運動を実施する方法では,レジスタンス運動を実施した後に有酸素運動を実施する方法に比較して運動終了後における脂肪利用の亢進することが示された.

主な引用・参考文献

Goto K, Ishii N, Sugihara S, Yoshioka T, Takamatsu K. Effects of resistance exercise on lipolysis during subsequent submaximal exercise. Med Sci Sports Exerc 39:308-315, 2007.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
三浦 一輝 塩澤 成弘 「神経支配帯位置変化を考慮した多点電極表面筋電図による筋出力推定の可能性」
背景

スポーツにおける動作は静的な運動と動的な運動が複雑に絡み合っている。静的な運動と比較して動的な運動では、筋長の変化や筋収縮の度合により神経支配帯の位置が変化する。神経支配帯は表面筋電図に大きな影響を与える。そのため、静的な運動中の関節トルクを推定する研究は多くあるが、動的な運動中の関節トルクを推定している研究は少ない。

目的

本研究の目的は,多点電極表面筋電図から神経支配帯位置変化を伴う運動における筋出力推定の可能性について検討することである.

方法

一般成人男性8名に対して、最大随意筋収縮の20%での等張性筋収縮を行わせた。関節角度0度から90度の範囲で筋収縮を行わせた。その際、多点電極表面筋電図、関節トルク、関節角度を計測した。表面筋電図から積分筋電図(ARV)の算出、神経支配地位置変化の推定を行った。

結果および考察

図1から以下のことが確認できた。関節トルクと積分筋電図における正負のピーク値の時間推移が類似していることが確認できた。また、神経支配帯の位置変化は全体的に筋の遠位部から近位部に移動することが確認できた。神経支配帯の位置変化と積分筋電図に対応があることから、神経支配帯の位置は筋収縮の度合によって変化することが確認された。

結論

本研究の結果、神経支配帯の位置変化は筋長変化だけでなく、筋収縮の度合も影響することが示された。また、神経支配帯位置変化の影響を考慮することにより、スポーツにおける様々な動作の多点電極表面筋電図を計測することで筋出力を推定できる可能性があると示唆された。

主な引用・参考文献

金子秀和・木竜徹・齊藤義明(1992)動的運動時表面筋電図からの神経支配帯位置の推定.電子情報通信学会論文誌,J75-D-Ⅱ(4):808-8152

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
長谷川 由佳 藤田 聡 「PNFストレッチングが静的・動的バランス能力に与える影響」
背景

PNFストレッチングとは,固有受容性神経促通法を用いたストレッチングであり,大幅に関節可動域や柔軟性を向上させることが出来るという特徴がある.PNFストレッチング後のパフォーマンスを評価した先行研究では,PNFストレッチング後にパフォーマンスが低下することが報告されている.また,パフォーマンスの一要因であるバランス能力とPNFストレッチングの関連性についても報告されており,PNFストレッチング後の静的バランス能力は変化しないということが報告されている.しかし,バランス能力とPNFストレッチングの関係を示した報告は少なく,また動的バランス能力との関係については検討されていない.

目的

PNFストレッチングが静的バランス能力及び動的バランス能力に及ぼす影響について検討した.

方法

被験者は運動部に所属していない大学生10名(男性6名,女性4名)を対象とした.被験者を2群に分け,クロスオーバーデザインにて測定を実施した.PNFストレッチング介入前後において,股関節屈曲可動域,静的・動的バランス能力を測定した.静的バランス能力の指標として閉眼片足立位バランステスト,動的バランス能力の指標としてStar Excursion Balance Test(SEBT)を用いた.

結果および考察

PNFストレッチング介入前後での閉眼片足立位バランステストの保持時間に有意差はみられなかった.また,ストレッチング介入前の股関節屈曲可動域が100°以下の群と100°以上の群に分けて閉眼片足立位バランステストの保持時間を比較したところ,統計学的に有意差はなかったが,100°以上の群において保持時間が向上する傾向がみられた.
PNFストレッチング介入後のSEBTは有意に向上した.PNFストレッチングによりハムストリングの柔軟性が向上したことがSEBTの向上に関連していると考えられる.また,ストレッチング後の股関節屈曲可動域の向上10°以下の群と10°以上の群に分けて,SEBTのリーチ距離の変化を比較したところ,10°以上向上した群のみSEBTのリーチ距離が有意に向上した.PNFストレッチングによる固有受容感覚器への刺激が筋の巧緻性を向上させ,動的バランス能力の向上に貢献したろ考えられる.また,PNFストレッチングと動的バランス能力との関係を検討した先行研究は存在しないため,本研究の結果は新規の発見である.

結論

本研究の結果より,PNFストレッチング介入後の静的バランス能力は変化せず,またストレッチング介入前の柔軟性が低い群でPNFストレッチング後の静的バランス能力が向上する傾向を示した.動的バランス能力については,PNFストレッチング介入後,有意に向上した.またPNFストレッチング後の可動域が向上した群で動的バランス能力が有意に向上した.動的バランス能力の向上には,PNFストレッチングによる柔軟性の向上と固有感覚受容器への刺激が関与していることが示唆された.

主な引用・参考文献

Kyoung-il Lim,Hyoung-chun Nam and Young-sim Jung(2014)Effects on Hamstring Muscle Extensibility,Muscle Activity,and Balance of Different Stretching Techniques.J Phys Ther Sci,26:209-213

健康運動科学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
古嶋 大詩 真田 樹義 「日本人成人肥満男女を対象としたサルコペニア簡易評価法の開発」
背景

サルコペニアは,加齢に伴う筋量,筋力の低下を指し(4),介護関連リスクや生活習慣病発症との関連が指摘されている.また,サルコペニアと肥満の合併をサルコペニア肥満と呼び(5),それらのリスクをさらに助長させる可能性が指摘されている.
サルコペニア肥満における診断基準は統一されていないが,これまでの先行研究では,筋量の基準値としてはサルコペニアと同様にDXA法によるSMIが用いられることが多い(1,2,3).
近年,国民に対して広く普及させることのできる簡易な評価方法を用いたサルコペニア診断法の開発が相次いでいる.しかし現在のところ,安価でかつ特殊な測定技術が不要なサルコペニア肥満の簡易評価法については報告を見ない.

目的

本研究は,日本人の成人肥満男女を対象に,簡易なサルコペニア評価法を開発するとともに,その基準に基づいたサルコペニア肥満と生活習慣病発症リスクとの関連を検討した.

方法

本研究は,日本人成人肥満男女47名を対象に,体組成測定,血圧測定,血液検査,および体力測定を実施し,ステップワイズ回帰分析によりサルコペニア評価法を開発した.また,その推定式から算出した推定値を基にサルコペニア肥満群と一般肥満群を分類し,サルコペニア肥満と生活習慣病発症リスクとの関連を検討した.

結果および考察

SMIを目的変数,身体計測値等,測定が容易な15項目を説明変数として用い,ステップワイズ回帰分析を行った結果,SMIの決定変数として,握力,下腿周径囲,性別の順で選択された.また,本研究におけるSMI推定値によって分類した一般肥満群とサルコペニア肥満群を比較すると,baPWV,血糖値,全身骨密度および両足骨密度において有意な差が認められた.これらの比較により,サルコペニアを伴う肥満は,肥満単独よりも,動脈硬化,高血糖,骨密度低下をさらに促進させ,2型糖尿病,狭心症,心筋梗塞,骨粗鬆症などの生活習慣病発症リスクに関連することが示唆された.

結論

本研究の結果,SMIの決定変数として,握力,下腿周径囲,性別の順で選択され,肥満者における簡易サルコペニア推定式が開発できた.また,一般肥満群とサルコペニア肥満群を比較すると,血糖値,baPWV,全身骨密度および両足骨密度において有意な差が認められ,生活習慣病発症リスクとの関連が示された.

主な引用・参考文献

(1)Baumgartner, R.N. (2000)
(2)Bouchard, D.R., et al. (2009)
(3)Kim, Y.S., et al. (2012)
(4)Rosenberg, I.H. (1997)
(5)Roubenoff, R. (2000)

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
廣田 侑幹 田畑 泉 「高強度・短時間・間欠的トレーニングが,主働筋の異なる運動の最大酸素摂取量に及ぼす影響に関する研究」
背景

トレーニングとトレーニング効果には一般的には特異性が存在する.例えば,トレーニングで用いた運動で動員された筋にのみ,ミトコンドリア等の酸化系タンパク質の発現量が増加し,トレーニングで動員されない筋では,それらのタンパク質の発現が増加しないことは,場所特異性と言われている.一般的には,主働筋が大腿四頭筋である自転車エルゴメータを用いてトレーニングを行った場合,トレッドミルを用いた走運動の最大酸素摂取量の増加は限定的だと言われている.しかし,最大酸素摂取量の限定要因は最大心拍出量なので,超最大(最大酸素摂取量の170%)の高強度・短時間・間欠的トレーニング(Tabata protocol)により心臓に十分な負荷をかければ,主働筋が異なる運動中の最大酸素摂取量にもトレーニング効果が現れる可能性がある.

目的

最大酸素摂取量及び総仕事量・走距離に対する高強度・短時間・間欠的トレーニングのトレーニング効果の特異性を明らかにする.

方法

立命館大学の健常な男子学生を対象に自転車エルゴメータ運動によるトレーニング実験を行った.トレーニングは170%V O2maxの強度の20秒間の運動を10秒間の休息を挟んで6~7セットで疲労困憊に至る運動を用いた。トレーニング群8名は3回/週の頻度で6週間 ,高強度・短時間・間欠的トレーニングを行った.トレーニング前後に自転車エルゴメータ運動・走運動・腕エルゴメータ運動中の最大酸素摂取量を測定し,最大酸素摂取量及び,測定時の総仕事量・走距離の変化の比較を行った.

結果および考察

本研究ではトレーニングによる最大酸素摂取量変化に関する結果に測定法上の疑義があると考えられた.そこで最大酸素摂取量測定時の総仕事量・走距離でトレーニング効果を評価した.その結果,自転車エルゴメータ運動の総仕事量は17.3±15.0%の有意な増加を示した(p<0.01).しかし,走距離及び腕エルゴメータ運動の総仕事量には有意な増加はなかったため,自転車エルゴメータ運動に対してのみトレーニング効果が見られることが明らかとなった.すなわち,走運動及び腕エルゴメータ運動の最大酸素摂取量測定時の仕事量には自転車エルゴメータを用いた高強度・短時間・間欠的トレーニングは影響を与えなかった.

結論

本研究では自転車エルゴメータによる高強度・短時間・間欠的トレーニングの効果が、自転車運動における総仕事量・走距離に対して特異的に現れることが明らかとなった.

主な引用・参考文献

Tabata, I et al. (1996) Effects of moderate- intensity endurance and high-intensity intermittent training on anaerobic capacity and VO2max. Med Sci Sports Exerc 28(10):1327-1330

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
天笠 志保 浜岡 隆文 「近赤外線時間分解分光法によるヒト褐色脂肪組織の評価の検証」
背景

調節性熱産生に関与するヒト褐色脂肪組織(BAT)は寒冷時や食後にエネルギー消費を亢進させるため,抗肥満や肥満関連疾患の予防として注目されている.BATの測定方法として,従来まではフルオロデオキシグルコース-陽電子放射断層撮影法/コンピュータ断層撮影法(18F-FDG-PET/CT)によるFDG集積が主に使用されてきた.しかし, 被曝を伴うことや寒冷負荷によりBATを活性化させる必要があるため被験者への負担が大きいこと, 測定機器が大型で高価であることなどが問題である.BATは微小血管とミトコンドリアが豊富であることから,近赤外線時間分解分光法(NIR-TRS)の指標である総ヘモグロビン[total-Hb]と等価散乱係数[μs’]を評価することでBATを評価できると考えられる.これらNIR-TRS指標と18FDG-PET/CTを用いたBAT活性値(SUVmax)との関連性について検討を行う.

目的

本研究の目的はNIR-TRSによるtotal-Hb及びμs’の評価をすることが,新たなBAT測定方法として使用することが可能であるか明らかにすることである.

方法

健常男性29名(23.3 ± 2.2 歳)を対象に以下2項目の測定を冬季に実施し,その関連性について検討を行った.
① 19℃の寒冷負荷を計2時間行い,その後18F-FDG-PET/CTでSUVmaxを評価した.
② 27℃の部屋でNIR-TRSを使用し,鎖骨上窩(BAT近傍部),鎖骨下(対照部位),三角筋(対照部位)の3部位のtotal-Hb およびμs’を測定した.送受光間距離は3cmとした.

結果および考察

BAT近傍部である鎖骨上窩のみで18F-FDG-PET/CTにより評価したSUVmaxとNIR-TRSで測定したtotal-Hbとμs’の関連性が認められた(P<0.01).また,BAT検出者群とBAT非検出者群の比較においても鎖骨上窩[total-Hb]および[μs’]のみ有意な差がみられた(P<0.01).しかし一方で,対照部位である鎖骨下や三角筋においてはこれらの関連性は見られなかった.
さらに受信者操作曲線(ROC)解析では,total-Hbのカットオフ値が72.5(μM)であり, μs’のカットオフ値が6.3(cm-1)であった(感度87.5%, 特異度100%, 陽性適中率100%, 陰性適中率88.0%, 正診率93.3%).
NIRS-TRSを用いてtotal-Hbおよびμs’を評価することにより,BAT量を検出できる可能性が示唆された.

結論

本研究から,NIR-TRS は非侵襲的かつ簡便にBATを量的に評価するための新たな手法になりうる可能性が示唆された.

主な引用・参考文献

斉藤昌之, 大野秀樹 (2013)「ここまでわかった燃える褐色脂肪の不思議」

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
本田 寛貴 橋本 健志 「骨格筋細胞(L6)へのDHEAの添加が脂質代謝へ及ぼす影響」
背景

肥満はエネルギーの過剰摂取や運動不足が常態化した,現代社会における健康問題である.肥満は骨格筋内にエネルギー利用のために蓄積されている筋内脂肪の過剰な蓄積を引き起こし,インスリン抵抗性による骨格筋の糖代謝を減弱させる.デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)は糖代謝を亢進し,抗肥満効果を持つことが先行研究によって示唆されている.このことから,DHEAの抗肥満効果は糖代謝に限定されず,脂質代謝にも影響を与えることが考えられる.

目的

本研究では,DHEAの添加によって,骨格筋内で運動刺激によって誘引されるAMP活性化キナーゼ(AMPK)の活性化が生じ,脂質代謝関連タンパク質及び,ミトコンドリア関連タンパク質の発現量増加を引き起こすと仮説をたて,その検討をラット骨格筋由来細胞(L6)にて行うことを目的とした.

方法

本研究では,L6細胞を培養し,筋管形成がなされた後,DHEA添加による刺激を行った.その後,回収を行い,ウエスタンブロッティング法によって脂質代謝に関わるタンパク質発現の解析を行った.

結果および考察

L6骨格筋細胞へのDHEAの添加はAMPKのリン酸化(活性化)を誘発した.AMPKが活性化したのは,DHEAの添加によって細胞内のATP量が減少したことによるものと考えられる.また,AMPKのリン酸化によるアセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)のリン酸化も確認された.ACCはAMPKの下流分子であり,リン酸化されることによって,不活化され,ミトコンドリアへの脂肪酸の流入を亢進させる.さらに,本研究では,AMPKの活性化によって,中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解するadipose triglyceride lipase (ATGL)においても発現の増加が認められた.一方,ミトコンドリア関連タンパク質のVDACとSOD2の発現を解析した結果,ミトコンドリアの機能・増殖を亢進すると結論付ける結果は得られなかった.

結論

L6骨格筋細胞へのDHEAの添加はAMPKを活性化し,ATGLの発現を増加させることで,骨格筋内での脂肪分解を亢進することが示唆される.また,AMPKの活性化によってACCのリン酸化も確認された.ACCのリン酸化が認められたことによって,ミトコンドリア内でのβ酸化を亢進させる可能性が示唆される.

主な引用・参考文献

Sato et al., Nutr Metab,2012
Gaidhu et al., Am J Physiol, Cell Physiol,2012

スポーツ教育学コース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
廣松 千愛 海老 久美子 女子学生アスリートにおける野菜、果物摂取が肌状態、疲労感へ及ぼす影響
背景

平成24年国民健康・栄養調査によると,わが国の野菜類および果実類摂取量が20歳代において特に少なく,アスリートにおいてもその摂取不足が考えられる.一方,屋外で運動を行うアスリートは紫外線から受ける肌への悪影響が大きい.野菜や果物には肌状態を良好にする栄養素が多く含まれているため,野菜や果物を十分に摂取することは,多くの観点から美しい肌を保つことができると考えられる.若い女性が関心の高い肌状態(木本ほか,2013)と野菜,果物摂取の関連性に着目することで,女子アスリートの野菜,果物摂取を促す可能性が考えられる.

目的

屋外で部活動を行っている女子大学生ラクロス選手を対象とし,野菜や果物の摂取量と肌メラニン量と肌水分量,さらに疲労感と関連があるかを検討することを目的とした.

方法

対象は大学生女子ラクロス部員23名(21.04±0.71歳)である.季節,シーズン期による変化を観察するため,6月と9月に計2回の調査及び測定を行った.野菜,果物摂取に関する調査は食物摂取頻度調査(エクセル栄養,FFQg.Ver.3.5),疲労感に関する調査は自覚疲労症状調査(出村ほか,2001),生活習慣に関する調査(戸田ほか,2007)を実施した.また,肌状態の指標として,肌メラニン量(Mobile Skin tone TP20)および肌水分量(Mobile Moisture HP10-N)を測定した.

結果および考察

6月における顔の肌メラニン量とビタミンC摂取量および果実類摂取量に有意な負の相関が認められたが,肌メラニン量とビタミンC摂取量の相関から果実類摂取量の影響を取り除いたとき,肌メラニン量とビタミンンC摂取量に有意な相関は認められなかった.また,「気分の減退」に関する項目とビタミンC摂取量および果実類摂取量に有意な負の相関が認められた.

結論

身体活動量が多く,紫外線に曝されている時間の多い女子学生アスリートにとって,果物摂取によりビタミンCを補給することで,顔の肌メラニン量の抑制および気分の落ち込みを改善できる可能性が示唆された.

主な引用・参考文献

①出村ほか (2001) 青年用疲労自覚症状尺度の妥当性の検討.日本公衆衛生雑誌,48:76-84.
②木本ほか(2013)大学生の健康観と健康状況.研究論叢 第3部 63:279-290.
③戸田ほか (2007) 女子学生の疲労自覚症状の特徴と生活習慣との関連.名古屋市立大学大学院人間文化研究科 人間文化研究(8)

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
青山 桃 大友 智 バスケットボールにおける3on2の指導がゲームパフォーマンスに及ぼす影響の検討:スポーツ少年団を対象として
緒言

バスケットボールでは,オフェンスに加えて,ディフェンスの重要さは明らかである(吉田ら,2006).ところが,小学校学習指導要領(体育科)においては,オフェンスに関する指導内容は記載されているが,ディフェンスに関する指導内容は記載されていない.そのため小学校児童を対象としたディフェンスに関する研究はあまり行われていない.
しかしながら,スポーツ少年団においては,バスケットボールを競技として行いたい児童たちが集まってくる.このため,これらに児童にはオフェンス及びディフェンスの指導を行う必要がある.そこで本研究では,オフェンス及びディフェンスの指導を行うこととした.ディフェンスの指導をするにあたり,イーブンナンバーによる指導では,オフェンスのボール保持時間が長くなり,ディフェンスの練習機会を保障することができない.このため今回は3on2による指導を行った.
本研究の目的は,バスケットボールにおける3on2の指導がゲームパフォーマンスに及ぼす影響を明らかにすることである.特にスポーツ少年団を対象として行う.

方法

小学生のスポーツ少年団に所属している男子6年生1名,女子6年生3名,4年生2名,3年生1名,計7名であった.
期日は2014年9月9日から2014年10月7日の一ヶ月間で,週2回,40分程度の指導を行った. 3on2の7分間の指導をビデオカメラで撮影し,その映像をもとに,GPAIの分析手法を用いて,オフェンス力及びディフェンス力の分析を行った.

結果

今回の実験から,3on2による指導はオフェンス力及びディフェンス力にあまり影響を及ぼすことはなかった.しかしながら,全体としてディフェンスの技能発揮においては向上してく様子と,個人の結果から,小学校3・4年生の女子に関しては,オフェンス力及びディフェンス力が向上していく様子がうかがえた.

考察

これらの結果を生み出した理由としては,練習期間が短かったことが示唆される.鬼澤ら(2007)の研究では,約1か月の期間にオフェンスのみの指導を11時間行っている.本研究では,オフェンス及びディフェンスの指導を4時間ほどしか行うことができなかった.このため対象者たちが技術を習得しきれなかったものであると考える.

参考文献

鬼澤陽子・小松崎敏・岡出美則 高橋健夫・斉藤勝史・篠田淳志(2007)小学校高学年のアウトナンバーゲームを取り入れたバスケットボール授業における状況判断力の向上, 体育学研究.52:289-302.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
平井 一暢 岡本 直輝 中学生野球指導における生きる力の形成と指導方針の検証
背景

文部科学省が生きる力を育むための学習指導要領を制定した.野球を始めとするスポーツ現場では,スポーツ選手の中には不祥事や指導中の体罰,金メダリストが性犯罪を起こす失態まで起こしている事例がある.スポーツをすると,人間力が低くなるのかと思われる現状だ.果たして,スポーツによる生きる力の形成はなされているのか.

目的

本研究は,ボーイズリーグのチーム間において,指導方針によって選手の生きる力がどう変化するのかを明らかにすることである.また,今後の課題等も上げ,スポーツで生きる力を育む為にはどうすれば良いのかを言及する.

方法

本研究では文部科学省の生きる力を参考にアンケートを作成し,3つのボーイズリーグチームの選手に生きる力を測定するアンケートを実施した.その統計処理はSPSSを用いて統計を出し,新たな因子を算出した.新たな因子の変数をチーム間で求め,そのチーム間の差や違いを,指導方針などを参照しながら,考察を行った.

結果および考察

統計処理の結果,新たな5つの生きる力の因子を得た.それぞれの因子を「自己と向き合う力」「自信,信頼」「課題発見,解決能力」「役割認識力」「忍耐力」と名付けた.また,その因子を変数としてチーム間の差を求めたところ,指導方針によってチーム間に,有意差が生じたことを示した.その結果から考えられる生きる力を育むために,指導者に必要な事とは「練習を自ら進んで取り組める環境づくり」「選手同士の相互関係構築」「自主練習の計画的,積極的導入」「指示待ちをなくし,選手自ら気づき行動できる声かけ」「練習時以外の意識づけ」であると考えられた.

結論

スポーツによる生きる力の形成は可能であると考えられる.しかし,生きる力の形成具合は指導方針によって異なり,その指導方針が影響を与えることが明らかとなった.スポーツによる生きる力の形成を目標とする場合,チーム方針,指導者の意思疎通,保護者の理解など,そうした方針を整えることから始めなければならないと考えられる.時代が求められる力が生きる力であり,生きる力をスポーツで育むことができるとなると,学校教育以外でも子どもたちの育成に貢献できると考えられる.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
高畠 僚祐 佐久間 春夫 「聴覚刺激による自律神経系活動の変容がもたらす精神生理学的変化及び作業量の変化について」
背景

緊迫した状況下であっても普段通りのプレーをするためにアスリートは普段の練習からメンタルトレーニングを取り入れているが,中でも気軽に行える音楽を用いたものに私は着目している.しかしながら,音楽の影響に着目した研究には二つの問題点が指摘されている.第一にテンポ,音圧,音の高さ,ダイナミクス,音の種類などの統制がとれていない.
第二に呼吸の速度が自律神経系に影響を与えることが報告されているにもかかわらず統制が行なわれていない.そのため本研究ではテンポと呼吸数に着目し,検証を進めた.

目的

速いテンポや遅いテンポがもたらす自律神経系活動や高い集中力を必要とする作業への影響について検証すること.

方法

菜箸によるおはじき運び(2分間)とし,パーソナル・テンポ,速いテンポ,遅いテンポの3条件で実験を行い,テンポ音には呼吸数を合わせる形で行った.また,実験開始前後にはPOMSならびにCST検査,独自質問用紙の記入を行った.

結果および考察

パフォーマンス項目の3条件間での結果は有意差がみられなかった.1条件での回数の少なさ等の問題が考えられ,条件ごとの回数を増やすことが望ましいと考えられる.
POMSの結果とパフォーマンス,生理指標との関係からはHT条件とST条件の両方で有意差が確認されたことから心理指標はメトロノーム音と少なからず影響していることがわかる.しかし,全ての項目で有意差が確認されたわけではないので,更なる検証が必要であることが考えられる.
CSTとパフォーマンス,生理指標との関係からはHT条件で変動係数とLF/HFで有意差が確認されたがST条件で有意差が確認されなかったことから更なる検証が必要であることが考えられる.
独自質問とパフォーマンス,生理指標との関係でも多様な結果が得られたが,今回は各項目で感じ方を3段階でしか表現していなかったので,今後としては5段階等に増やすことでより正確性が増すことが考えられる.
パフォーマンスと生理指標の関係からはHT条件とST条件で少しではあるが相関がみられた.このことからメトロノーム音がパフォーマンスおよび生理指標に少なからず影響を与えるが考えられる.

結論

繊細な動きではST条件での関係性が多くみられ,テンポが遅いことで逆に集中することができ,パフォーマンスなどが向上する傾向がみられたと推測する.

主な引用・参考文献

渡辺謙・大石悠貴・柏野牧夫 (2012) 音のテンポと呼吸数の組み合わせが自律神経系に与える効果 信学技報 IEICE Technical Report,p.45-49.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
赤坂 真紀 佐藤 善治 「日本のバレーボール界における,トップレベル選手の育成システムの現状と課題」
背景

全日本男子バレーボールは,近年,盛り上がりに欠ける.その理由は,国際大会のテレビ放映などはあるものの,バレーボール自体がマイナースポーツであること,弱小チームであることなどが考えられる.しかし,1970年代から1980年代,オリンピックでメダルを獲得するほどの強豪国であった.日本が世界で勝てなくなった理由として多く挙げられるのは,ルールの改正による海外選手との身長差である.ルール変更で低身長の日本が活躍できなくなったとされている.しかし,世界との差は本当に身長だけなのか疑問に思った.そこで本論文では,身長差以外で課題として考えられる,日本の選手育成システムに注目した.

目的

多くのメディアやバレーボール解説者は,日本のバレーボールが低迷した理由に,ルールの変更による身長差を指摘している.しかし,ユースチームもシニアチームと同じ環境下プレーしているにもかかわらず,比較的アジア圏や世界でも力が通用しているという現状がある.そこで,これまでの指導の方法や選手育成システムを見直し,シニアチームが世界で勝つことが出来ない問題を指摘する.
また,近頃はマンガやアニメの影響で小学校や中学校でのバレーボール人気が復活しつつある.バレーボール人口が増えてきている現在,選手を発掘し,育成システムを確立していくことは,今後の日本のバレーボール界を盛り上げるために重要であると考えられる.そこで,世界と同等に戦うことが出来るトップレベルの日本人選手を育成するためのシステムや,指導の課題を世界の強豪国と比較し,今後の選手育成システムに関して若干の提言をしていくことを本論文の意義・目的とする.

方法

文献調査,聞き取り調査

結果および考察

幼少期に複数のスポーツを経験することで,運動生理学上のシステムの発達を促進させ,身体的にも技術的にも非常に高いレベルに到達できるということが分かった.日本の選手は,バレーボールに限らず幼少期からひとつの競技に執着する傾向がある.対して,アメリカでは,14歳ごろまで活発に複数のスポーツに触れる機会が設けられている.シニアでは経験の勝る日本が有利でも,シニアになると総合的に力をつけたアメリカに大きく差をつけられてしまうと言える.
また,V・プレミアリーグとイタリアのセリエAを比較した際,企業スポーツとプロスポーツとの意識レベルの差,自国選手を保護するか,競わせるかという違いがあった.イタリアのような,生き残りをかけた厳しい状況の中で,ある程度の保護を受けながら世界トップレベルの選手と競い合うことができる環境は日本にはない.

主な引用・参考文献

USOC. (2002). The Path to Excellence: A Comprehensive View of Development of U.S. Olympians Who Competed from 1984-1998 .Colorado Springs, CO: Author

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
松田 彩 三浦 正行 「大学生における食事摂取行動に関する意思決定バランス尺度の作成とその検討」
背景

近年,現代社会は快適かつ便利な住み良い環境となった.その一方でライフスタイルも一変した.それに伴って食事が不規則となり食行動も大きく変化した.とくに青年期の食行動には,問題があるといえる.また,大学生が健康を維持し,充実した学生生活を送り,さらには将来の健康を築くために食行動は重要な要因であると考える.そこで,大学生の食行動改善に必要な尺度を作成し,その信頼性と妥当性を検討する.

目的

大学生に焦点をあて,健康に良い食事を摂ることと自炊することについて意思決定バランス尺度とセルフ・エフィカシーを測定し,行動変容段階との関係を検討することとする.さらに,対象者を一定の栄養に関する知識を有する者とし,より正確に対象行動を研究することで本研究に新奇性を見出す.

方法

立命館大学スポーツ健康科学部に在籍する2~4年生(2014年度現在)で,栄養学に関する講義を年間15回受け,単位取得した者,食事制限を伴う疾病を罹患していない者に限定した100名に質問用紙を配布し,その場で回収した.そのうち,1人暮らしをしている者には自炊することに関する回答も求めた.アンケート調査は,2014年10月1日から7日で実施し,その後,各関連について検討した.

結果および考察

意志決定バランス尺度は,健康な食事を摂ること13項目,自炊すること10項目に選定した.これらは,高い内的整合性を持っており,確認的因子分析においてもともに概ね良好な構成概念妥当性が確認された.セルフ・エフィカシー尺度でも高い内的整合性が示された.また,意思決定バランス尺度,セルフ・エフィカシー尺度と行動変容段階の関係には有意な差が認められた(P<0.005).

結論

作成した尺度は,信頼性と妥当性は十分であると考える.また,先行動変容段階と意思決定バランス尺度,セルフ・エフィカシーは密接に関わっているという見解を支持する結果が得られた.よって,本研究で作成した尺度は,青年期の食行動改善に役立つ指標となり得る.さらに,食事提供においても,負担項目を除去した製品の提供が消費者にとって有効であるといえる.

主な引用・参考文献

・武部幸世(2005)女子学生の食生活習慣改善へ向けたトランスセオレティカル・モデルの適用に関する研究.
・脇本景子・西岡伸紀(2011)小学校高学年の給食関連行動に関する意思決定バランス尺度の開発.日健教誌,19(2):115‐124.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
上村 菜津子 赤沢 真世 学習意欲を高める授業
―対話を尊重する教師の働きかけに注目して―
背景

近年子どもたちの学力低下が問題となっていると同時に、学習意欲も低下しているといわれている。櫻井(1997)によると、子どもたちが自ら学ぶ意欲を育むためには他者受容感がもたらす「安心して学べる環境」を教室内につくることが重要であると述べている。 秋田(2014)は、授業の現場において「安心して学べる環境」は授業における対話によって生み出すことができると述べている。

目的

アンケート調査を用いて、子どもたちの学習意欲はどのような要素から構成されているのかという実態を把握し、実態を踏まえた上で参与観察を行う。そこで学習意欲を高めるために教師たちが授業の現場ではどのような働きかけ、言葉がけ、対話を行っているのか行われているのかを明らかにしていく。

方法

草津市の小学校の4年生と5年生に対して学習意欲に関するアンケート調査及び参与観察を行う。

結果および考察

アンケートの結果から、A小学校の児童は比較的学習意欲が高いことが分かった。またその中でも「安心して学べる環境」を表す項目と「協同学習」を表す項目が高かった。この結果から、授業でどのような働きかけが行われているかを参与観察で調査した。
もっとも特徴的だったのは両方のクラスに人の話を「聴く」環境があるということである。そのような環境が「安心して学べる環境」を生み出していると考える。「安心して学べる環境」がある教室は、授業中も発言しやすい雰囲気である。中にはみんなの前で話すことがはずかしいと思っても、協同学習の一環でグループワークなどを取り入れているから、そこで自己表現ができる機会があると考える。

結論

学習意欲を高めるためにはまず話を「聴き合う」環境をつくることが大事である。そうすることで、話し手に「自分の言葉が認められている」という受容感を与え学習意欲が高まる。また言葉がけ(ほめる、フィードバックを行う)ことは相手のことをきちんと見ていないとできない言葉がけであるので有能感を高めるだけでなく、他者受容感を高めることにもつながる。つまり相手を受け入れるような言葉を用いた対話や言葉がけが、学習意欲の向上に効果的であると考える。

主な引用・参考文献

秋田喜代美(2010) 教師と言葉のコミュニケーション 教室の言葉から授業の質を高めるために ㈱教育開発研究所
櫻井茂男(1997) 学習意欲の心理学―自ら学ぶ子どもを育てる 誠信書房 : 東京

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
和田 健吾 永浜 明子 「障がい者スポーツの阻害要因と発展への道筋」
背景及び目的

2013年の文部科学省「地域における障害者のスポーツ・レクリエーション活動に関する調査研究 報告書」では、障害者の定期的スポーツ実施率は健常者の半分以下であると報告されている。つまり、我が国のスポーツには障がい者と健常者の間に何らかの障壁が存在し、格差が生じているといえる。そこで、本論文では文献検討によって障がい者スポーツの現状や問題点を把握することで普及・発展を妨げる原因を明確にし、今後障がい者スポーツが発展する方法を考察する。

方法

文献調査は論文と書籍で行い、論文はCiNii Articlesを用いて障がい者スポーツの阻害要因に関連するものを検索した。文献は論文、書籍ともに2000年以降に発表・発行された文献を用いる。また、その他、資料として文部科学省、厚生労働省、内閣府が開示している調査資料も用いる。

結果および考察

文献調査の結果、障がい者スポーツの阻害要因に「環境的障壁」、「経済的障壁」、「人的障壁」が存在することが明らかになった。
環境的障壁としては専門的な指導者不足や近隣のスポーツ実施場所の少なさ、経済的障壁としては障がい者の生活水準の低さ、人的障壁では人々の差別・偏見がスポーツ実施を抑制していることが明らかになった。
これらの障壁の根幹にあるのは、人々のもつネガティブな障がい者観である。したがって、脱施設化を図ることによって、この障がい者観を壊し、人々のノーマライゼーションの意識を高めることが、障がい者スポーツ発展を阻害する要因を取り除く糸口となるといえる。

まとめ

本研究で障がい者スポーツ発展の阻害要因として「環境的障壁」、「経済的障壁」、「人的障壁」の三つの阻害要因が明らかになった。そして、これらの3つの障壁のすべてにおいて、根本的な問題には人々の持つネガティブな障がい者観が関連している。したがって、今後は障がい者の生活環境を改善したうえで脱施設化を図り、既存の障がい者観を壊すことが重要である。

主な引用・参考文献

・ 藤田紀昭(2013).障害者スポーツの環境と可能性.創文企画.
・ 中島隆信(2011).障害者の経済学.増補改訂版,東洋経済新報社.
・ 安田ななえ,小西治子,弘中陽子,池島明子,永吉宏英(2006).障害者のスポーツ活動の現状に関する調査研究.大阪体育大学健康福祉学部研究紀要,(3),pp.63-76.

スポーツマネジメントコース

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
谷 麻衣子 小沢 道紀 「スポーツの社会的役割について
―プロ野球の楽天野球団を事例として―」
緒言

現代は、つながりが希薄化し地域共同体が成立しない社会である。単身世帯が増加とともに地域社会から孤立する人々も増え、地域共同体は弱体化し機能しなくなった。

目的

本論文では、つながりが希薄化した現代において地域と人、人と人を結びつける新たなコミュニティの紐帯として、スポーツがその社会的役割を担うと検討することを目的とする。

概要

先進工業社会では、人々が非常に興奮した態度で行動することが制限された。行き場を失った人間の興奮は、余暇活動が飛び地となり受け止める。そこで得られる楽しい興奮は実人生で得られるような興奮にとてもよく似ており、人間は自発的に求める。これにはスポーツも含まれ、ホイジンガが述べる人間の遊びの諸条件を満たしている。このようにスポーツは人間の興奮欲求を満たす手段の一つだと言える。
またテンニエスによれば人間が形成する集団はゲマインシャフトとゲゼルシャフトという2つに分けることができる。人間社会は次第に前者から後者の様な関係になっていった。これは日本における共同体の弱体化である。共同体弱体化に大きな影響を与えた時期は2つある。まず明治政府の地域信仰の基盤解体と土地所有制度と税制の改革が、共同体の精神世界の解体と人口の一時的流出を後押しした。次に第二次世界大戦後に、敗戦直後の農地改革と高度経済成長が大量の農村人口の都市への流入を促した。また全国的に人々の意識が画一化し、人付き合いの必然性が薄れたことで、地方の農村でも社会関係が都市化していった。このような過程を経て、日本の共同体は弱体化した。
そして現代は人々のつながりが希薄化し、社会的に孤立した状態で過ごす人が増えている。だがスポーツには一人ひとりに同質的感情を味わわせ、楽しい興奮とともに一体性を強める性質がある。この感情はゲマインシャフト的関係の集団の形成を促す。
これらを踏まえると、スポーツが果たすべき社会的役割はコミュニケーションを通して人と人のつながりを生み出し、ゲマインシャフト的な信頼関係に満ちた関係に近いコミュニティを形成することだと言える。
ここでスポーツの中でも日本人に馴染みの深い野球に焦点を当てる。明治時代に伝来した野球は、大学野球や高校野球を通じて全国に話題を提供し、人々を熱狂させた。戦後にはプロ野球が人気を博し、見るスポーツとしての地位を確立した。また初めは特定のチームに人気が集中していたが、近年では地方都市にプロチームが散らばり、地域内での共通の話題としての野球が存在している。このように野球は人々に共通の話題を提供し、共同体意識を形成する役割を果たしている。
野球を通じたコミュニティ形成の例としてプロ野球の楽天野球団を挙げる。楽天野球団は球場外のイベントも充実させるなど、様々な取り組みを行っている。チームを知るきっかけとしての場づくりを徹底し、そこでの経験価値をより高いものにしている。そして共通の体験をした者同士がコミュニティ内での共通の話題としてチームを位置づけることで、「一つのチームを応援するのだ」という共通の精神を生み出すことにつながるのである。この価値観はゲマインシャフト的関係の集団とよく似た性質を持っている。

結論

スポーツは人々に共通の話題を生み出し、人々の間にスポーツという名の利害関係のない共通の価値を生む。そしてゲマインシャフト的な関係のコミュニティ形成を促せるのだ。このことから、つながりが希薄化した現代において地域と人、人と人を結びつける新たなコミュニティの形成の役割をスポーツは十分に果たすことができる。またスポーツの役割を存分に発揮するためには、地域住民、地元行政、スポーツ組織が相互に関わり、支えあう必要がある。

主な引用・参考文献

エリアス・ダニング:大平章(2010)スポーツと文明化 興奮の探求(新装版).財団法人法政大学出版局:東京
ホイジンガ:里見元一郎(1974)ホモ・ルーデンス.河出書房新社:東京
テンニエス:杉之原寿一(1957)ゲマインシャフトとゲゼルシャフト(上).岩波文庫:東京

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
森下 倫孝 種子田 穣 「我が国のスポーツ組織におけるセカンドキャリア形成の現状と課題」
背景

アスリートのセカンドキャリアとして技術指導者や解説者といった仕事は世間の認知度は高いだろう。しかし、それらの仕事の受け皿は少ない。球団関係者として働くことも同様であり、こちらは選手としての能力以外のスキルが求められるのでさらに厳しいといえる。このようにスポーツ界で働ける数が限られているのであり、ほとんどのアスリートは競技を引退した後、競技と全く関係のない仕事に就かなければならない。

目的

現状の日本のセカンドキャリア教育システムが選手の充実したセカンドキャリア形成のためには不十分であるということを、現状システムの問題点、諸外国との比較、アスリートの意識の欠如を通して明らかにすること

方法

文献調査

結果および考察

他の競技に先駆けてCSCというセカンドキャリア支援プログラムを設立したことはJリーグの功績といえ、セカンドキャリア支援という一つのモデルを他の競技に提示したという点で大きな意味がある。しかし依然としてアスリートたちの多くはスポーツ関係の就職を望む傾向があることや、プログラムの多くが進学や職業斡旋など引退期の選手を対象とした短期的な支援であること、JOCのプログラムに関しては支援を受けられるアスリートの数が限られていることなどが問題として挙げられる。セカンドキャリア問題に早期から取り組んでいる諸外国では支援の内容が長期的且つ、セカンドキャリアへの準備として学力の向上を促している傾向が見られた。我が国では高校から大学まで競技能力の高い学生アスリートはスポーツ推薦で進学することが一般的であり、アスリートのキャリアアイデンティティーは高まりやすい環境があるといえる。そのため我が国における今後のセカンドキャリア支援にはこのキャリアアイデンティティーへのより一層の配慮が必要である。また、アスリートという職業に就く以前の段階での一定数の学力の確保はセカンドキャリア支援がまだ未成熟な我が国では特に重要であると考える。

結論

我が国においてセカンドキャリア問題を根本から改善するためには長期的な支援の確立と,ファーストキャリアへの準備期における学力支援が必要であると考える。また、我が国ではセカンドキャリア問題はアスリート個人の問題として考えられる傾向があり、この問題に対して組織として取り組むための意識改革も重要であるということを明らかにした。

主な引用・参考文献

吉田章・佐伯年詩雄・河野一郎・田嶋幸三・菊幸一・大橋仁(2006)トップアスリートのセカンドキャリア構築に関する検討(第1報).筑波大学体育科学系紀要,29:87-95.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
細見 優太 長積 仁 「過去の動作経験認知が未経験動作における技術効力感に及ぼす影響」
—運動イメージの鮮明度に注目して—
背景

厚生労働省が発行する,国民健康・栄養調査(2012)によると,1回30 分以上の運動を週2回以上実施し,1年以上継続した運動習慣があるものは,国民の3分の2に留まるのが現状である.こうした,背景を踏まえ運動参加に要らしめる心理的要因について多くの研究がなされてきた.自己効力感(bandura,1977)は行動を起こす前にその個人が感じる「遂行可能性感」であり,行動に至る要因の1つとして考えられてきた.それを高める4つの下位要素のうち,「成功体験」「代理体験」は自己効力感を最も高める要因であるとされてきた.しかしながら,運動における未体験の動作においてどういった機序により効力感を高めるのか,実践的な調査が行われていない.そこで,本研究では未体験動作における自己効力感の向上の方略検討することにする.

目的

本研究では,未体験の運動動作における技術効力感の向上に,過去の運動学習経験の認知が影響すると考え,技術効力感の高まりの機序を遡り横断研究において明らかにする.
また,過去の動作経験と技術効力感の関係において,運動動作における運動イメージ鮮明度が調整すると考え,その鮮明度が技術効力感にどのような影響を及ぼすのか検討することを目的とする.

方法

本研究では,従属変数である,未体験動作における「技術効力感」に対して,「過去の動作経験認知」を独立変数として,「運動動作のイメージ鮮明度」を調整変数とし分析の枠組みを設定した.未体験動作の刺激映像の視聴を用いての質問紙調査を実施した.

結果および考察

分析の結果,過去の動作経験のある群がない群に比べて,動作イメージ後の技術効力感に有意に(p<.05)高い値を示した.体験イメージ鮮明度及び,観察イメージ鮮明度共に,技術効力感の変化量への調整効果は統計的有意差がみられなかったが,体験イメージの各群において,イメージ鮮明度が高いほど,技術効力感変化量の推定周辺平均が高い傾向がみられた.過去に経験した運動動作の整合性は,技術効力感に影響を与えないことが示唆された.

結論

本研究では,以下のことが明らかになった.
①過去の動作経験の認知が当該動作の技術効力感の向上に及ぼす.
②運動動作視聴における過去動作経験は無意図的に想起するのは難しい可能性があり,類似動作経験想起を促す必要性がある.
③課題動作と過去の動作経験の想起した内容との整合性には関係性はなく,記憶を想起することにより技術効力感に効果を及ぼすことが考えられる.

主な引用・参考文献

Bandura,A.(1977)Self-efficacy : Toward a uniffying theory of behavioral change.
Psychological Review, 84, 2:191-215.

氏名 担当教員 タイトル(テーマ)/ 活動概要
日外 康仁 山浦 一保 「苦情場面における第三者介入と改善対応が消費者の怒り抑制に及ぼす影響」
背景

現代は「苦情社会」といっても過言ではない.消費者庁(2014)の調査で,近年の相談件数は増加傾向にあることが報告されている. 消費者側の苦情のしやすさ(環境や個人特性)もその原因かもしれないが,サービス提供者側の対応・改善策の不十分さによるところも大きい.両立場の者が円満に解決できる方向性を示すことは,より望ましい消費社会をつくっていく上で有益であると考える.特に,苦情行動を起こす前の感情である「怒り」の抑制は重要である.ところが,この抑制を意図して第三者が介入する効果にGiebels & Janssen(2005)はポジティブな効果を見出したのに対し,湯川・日比野(2003)は第三者の介入が怒りを増幅させたことを報告するなど,一貫した結果は得られていない.

目的

本研究では,苦情場面における第三者関係者の介入に加え,その人物による改善対処法の有無が,怒りの抑制効果をもたらし得ると考え,それを検討する.

方法

調査対象 大学生113名の回答を得た(男性67名,女性46名;平均年齢19.23歳,SD=.85).
調査項目 苦情を生起しやすい状況を池内(2010)の研究を参考に選定し,場面想定法を用いた.具体的な状況としては,ホテルでのサービスに対する苦情場面を時系列で設定した(①サービスの違いに関する苦情生起場面:共通,②第三者:上司の介入の有無及び③状況の改善の有無を操作).
怒り感情 各3つの場面を読み進めると同時に各々の時点でホテルに抱く怒りの強さを,5件法で尋ねた.
許し傾向性 加藤・谷口(2009)の恨みと寛容尺度のうち,因子負荷量の高い順に各3項目を選定した.ホテルの再利用意欲に関する3項目を独自作成した(全て4件法).
怒りに対する認知 怒り経験に対する受け止め方について,12項目で測定した(日比野・湯川・吉田,2004,6件法).

結果と考察

介入(有・無)×改善(有・無)×場面(時系列3場面;被験者内)の3要因分散分析を行った.その結果,苦情場面における怒り感情では,改善による主効果(F(1, 109)=17.306, p<.001),及び改善×場面の交互作用効果(F(1.640, 173.865)=15.905, p<.001)が有意であったことから,状況の改善が強く影響することが示唆された.許し傾向性では,改善×場面の交互作用効果(恨み志向:F(1.640, 173.865)=15.905, p<.001ほか)が有意であったことから,状況の改善が影響することが示唆された.
以上の結果は,苦情場面においては,第三者介入に関わらず,最終的に改善策の提案が行われることによって怒りを抑制させる効果があることを示すものであった.これは改善による苦情者の期待のズレを是正させる可能性を高めることによるものと考えられる.

主な引用・参考文献

池内裕美 (2010) 苦情行動の心理的メカニズム.社会心理学研究,25(3): 188-198.



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