西園寺公望が描いた未来を今に問う——記念シンポジウムを開催
2025年8月31日、立命館創始155年・学園創立125周年を記念し、「強い国にならなくてもいい、尊敬される国 日本になるべき—西園寺公望がみた未来—」と題したシンポジウムが、ステーションコンファレンス東京(東京都 千代田区)にて開催されました。会場には約340名、オンラインでは1,000名を超える方々が参加し、西園寺公望の思想と現代日本の課題を重ね合わせながら、未来へのヒントを探る内容に熱心に耳を傾けました。
本企画は、「昭和100年」という節目の年にあたり、立命館の学祖であり「最後の元老」とも称される西園寺公望の軌跡を辿り、彼の思想・哲学を現代に問い直す試みとして開催されました。西園寺が掲げた「自由主義」「国際主義」の理念は、戦後の「平和と民主主義」という教学理念へと受け継がれ、現在の立命館学園の根幹を成しています。
開会に先立ち挨拶をした学校法人立命館 森島朋三理事長は「昭和100年・戦後80年という節目にあたる今年、立命館は創始155年・学園創立125周年を迎えます。現在の混迷する世界と日本の状況下において、今こそ、学祖・西園寺公望の思想家・政治家・教育者としての生き方に学ぶべき時ではないか」と述べました。
シンポジウムでは、昭和初期の混迷と現代社会の状況が「相似形」に見えるという視点から、コーディネーターを務めた本郷真紹 立命館大学文学部特命教授の進行により、歴史・外交・教育の観点で議論が展開されました。
磯田道史氏(国際日本文化研究センター教授)は、生い立ちや明治初期の時代背景に触れ「西園寺公望は、旧態依然とした政治体制や力や感情による政治ではなく、理性と知識による政治を志向した。外交の面では『目測力』に優れ、国力に即した冷静な判断で国際関係を見据えた。」と述べ、歴史的背景と政治家としての素質を指摘しました。
元外務事務次官の薮中三十二氏は、「西園寺公望のフランス留学は『世界の中の日本』という視点を育み、彼は外交において国際協調を基軸に多国間関係を構築することの重要性を理解していた。また、教育では女子や庶民への学びを重視し、尊敬される国家の構築に向けた先見性を備えていた。現代にも通じる視野とバランス感覚が、今なお示唆に富む。」と述べ、実務経験に基づいた視点を提供しました。
西園寺公望の曾孫である西園寺裕夫氏(五井平和財団理事長)は、「曾祖父である西園寺公望は、合理主義と中庸の精神を軸に、極端な思想や行動を避け、調和ある社会の構築を目指した。政党政治を自由で平和な社会を実現するための手段と捉え、教育では身分や性別を超えた学びを推進し、国際社会で敬愛される人材の育成に尽力した。特に『国づくりは人づくりである』という信念は、彼の教育観の根幹を成している。立命館に引き継がれたその精神を、今後の教育にも反映していって欲しい。」と語り、国際調和や教育の重要性を強調するとともに、立命館への期待を述べました。
最後に、本郷教授は、古代史の専門家として聖徳太子との思想的共通点にも言及。外来思想を積極的に取り入れ、新しい国づくりを模索した姿勢や、戦争体験を通じて「協調」の道を選んだ聖徳太子の理念は、西園寺公望の合理主義と中庸の精神に通じるものがあると指摘しました。
西園寺公望は、「国づくりは人づくりである」との信念をもって、若き日に私塾「立命館」を創設しました。この言葉には、立憲主義や政党政治といった制度の整備だけでなく、それを支える“人”の成熟こそが、自由・平和・民主的な社会の実現に不可欠であるという強い思いが込められています。この精神は、立命館学園が掲げる建学の精神「自由と清新」や教学理念「平和と民主主義」として今に受け継がれています。建学の精神と教学理念に基づく「未来を信じ、未来に生きる」の精神をもった人材の育成に向けて、立命館はこれからも挑戦を続けてまいります。
本イベントは、学校法人立命館の主催のもと、公益財団法人五井平和財団、株式会社丸善ジュンク堂書店および株式会社文藝春秋の後援を受けて開催されました。