アジア・マップ Vol.04 | ウズベキスタン

《エッセイ》ウズベキスタンと私
ウズベキスタンの中のタジク語:サマルカンド・タジク語の世界

 
菱山湧人(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 ジュニア・フェロー)

 ウズベキスタンでは、ウズベク語とロシア語以外にも多くの人々によって話されている言語がある。タジク語だ。タジク語といえば隣国タジキスタンの言語と思われるかもしれないが、実はウズベキスタンにも多くの話者が住んでいる。特に、シルクロードの古都サマルカンドとブハラは、住民の多数がタジク語話者だ。

図1:ユネスコ世界遺産に登録されているサマルカンドのレギスタン広場。ウズベキスタンを代表する観光名所である。(2025年7月筆者撮影)

図1:ユネスコ世界遺産に登録されているサマルカンドのレギスタン広場。ウズベキスタンを代表する観光名所である。(2025年7月筆者撮影)

 私は言語学者で、ウズベク語と同じチュルク系の言語、特にロシアの少数言語であるタタール語やチュヴァシ語を専門としているが、近年はサマルカンドで話されるタジク語(以下、サマルカンド・タジク語)の研究も行っている。チュルク系の言語を専門とする私がサマルカンド・タジク語を学び始めたのには理由がある。

 2020年、大学の言語学ゼミで、のちに結婚することとなるサマルカンド出身の女性と出会った。彼女は母語のサマルカンド・タジク語、母国語のウズベク語、教授言語のロシア語に加え、外国語として英語、韓国語、日本語を母語レベルで操るマルチリンガルである。サマルカンド・タジク語はこれまでほとんど研究されておらず、彼女は自身の母語の文法記述を目指していた。私もゼミの先輩として彼女の研究を手伝いながら、この言語を少しずつ学んでいった。また、彼女の家族や親族はみなお互いにサマルカンド・タジク語で会話しており、彼らとコミュニケーションをとるためにも学習は必須であった。

 サマルカンドへはこれまで2回訪問している。初回は2023年3月、自分たちの結婚披露宴に参加するため、2回目は2025年7月、当時生後9ヶ月の息子のお披露目と義弟の結婚式に参加するためであった。いずれも結婚式の準備で忙しく、本格的なフィールドワークはできていないが、初回訪問時には家族の会話を録音することができた。文字起こししてその後の研究で活用している。

図2:豪華絢爛な結婚式場。サマルカンドの結婚式は盛大なことで知られ、数百人が参加する。(2025年7月筆者撮影)

図2:豪華絢爛な結婚式場。サマルカンドの結婚式は盛大なことで知られ、数百人が参加する。(2025年7月筆者撮影)

 ところで、タジク語はどのような言語で、サマルカンドのタジク語にはどのような特徴があるのだろうか?また、サマルカンドの言語状況はどうなっているのだろうか?本稿では、結婚を機にサマルカンドのタジク人たちとのつながりを持った筆者が、体験談も交えながらこれらについて簡単に説明する。

 タジク語はペルシア語の一変種で、インド・ヨーロッパ語族インド・イラン語派イラン語群に属する。話者は主にタジキスタンとウズベキスタンに住んでおり、ウズベキスタン国内では、冒頭でも述べたようにサマルカンドとブハラの2都市に多く住んでいる (Ido2007: 1)(図3)。

図3:ウズベキスタンにおけるタジク語の分布。主にサマルカンド (Samarqand) とブハラ(Buxoro) の2都市とその周辺に分布する。(https://joshuaproject.net/people_groups/15201/UZ)

図3:ウズベキスタンにおけるタジク語の分布。主にサマルカンド (Samarqand) とブハラ(Buxoro) の2都市とその周辺に分布する。(https://joshuaproject.net/people_groups/15201/UZ)

サマルカンド・タジク語は、ブハラ・タジク語などと同じくタジク語の北部方言に属する。タジキスタンの国家語である標準タジク語と比較すると、語や句は縮まって短くなっているものが多く(例:標準タジク語の karda istoda buda ast「彼はしていたそうだ」はサマルカンド・タジク語では kaysudas)、文はウズベク語の強い影響により、ウズベク語により似た構造になっている (Fayzieva 2024: 120-121)。

 例えば、「アフマドの買った本は家の中である」は標準タジク語で (1a) のようになる (井土 2012: 152)。「アフマドの買った本」は日本語とは語順が異なり、カッコ内の Ahmad xaridagī「アフマドの買った」が kitob「本」を後ろから修飾する(-i はイゾファと呼ばれ、後ろから修飾される名詞に付く)。dar xona「家の中に」では、英語の in にあたる前置詞 dar が用いられている。一方、サマルカンド・タジク語では (1b) のようになり、ウズベク語 (1c) や日本語と同じ語順になる(サマルカンド・タジク語の文法について、詳しくはFayzieva (2024), ファイズエワ (2024), Hishiyama and Fayzieva (2025a) を参照)。

(1)「アフマドの買った本は家の中である。」
a. kitob-i [Ahmad xaridagī] dar xona ast.
本-IZ アフマド 買った 内に 家 である
b. [Ahmad xaridagi] kitob xona-ba.
アフマド 買った 本 家-に
c. [Ahmad sotib olgan] kitob uy-da.
アフマド 買った 本 家-に

 サマルカンド・タジク語の話者は自分たちの言語を単に Tojiki(タジク語)と呼んでいるが、自分たちの言語が標準語と異なることは認識している。ウズベク語やロシア語からの借用語が多いこともあり、これらの言語が混ざった「ごちゃまぜな」言語だ、と感じている人もいる。

 公式統計によるとタジク人はウズベキスタンの人口の約5%を占めるが、実際には約25~30%を占めると推定され、サマルカンドではその割合は約70%に達するとする研究もある (Foltz 1996: 213)。義母によると、サマルカンドは中心部ほど(もとから定住民であった)タジク人が多く、郊外に行くほど(もとは遊牧民であった)ウズベク人が多くなるという。なお、妻は父親がウズベク人であるため書類上はウズベク人であるが、母親がタジク人であり、家庭でもっぱらタジク語が話されていたため、タジク語が母語になった。

 サマルカンドの街中では、ほとんどの場所でタジク語が通じる。2023年、コロナ検査証明書を取得するために検査に行った病院で、スタッフ同士がタジク語で話していたのが印象に残っている。また、2025年、サマルカンド駅の売店で筆者がタジク語で Ob hast mi?「水ありますか?」と聞くと、Hast. Kalonash mi, maydesh mi?「あります。(ボトルが)大きいのですか、小さいのですか?」とタジク語で返事が返ってきた。同じ少数言語でも、私が今まで研究してきたタタール語やチュヴァシ語の場合は公共施設や商店など家庭外ではほとんど使われず、若い世代の多くはお互いロシア語で話す。そのため、サマルカンド・タジク語の活力に驚かされた。若い世代も、お互いタジク語で話していた。サマルカンド・タジク語が活力を保っている理由の一つに、親族が大人数で(妻はいとこだけで50人以上いる)、親族同士のつながりが強いことが挙げられるだろう。ただし、年少世代はYouTubeでロシア語の動画をよく見ることもあり、ロシア語の方が得意な子供たちも増えているようだ。

図2:豪華絢爛な結婚式場。サマルカンドの結婚式は盛大なことで知られ、数百人が参加する。(2025年7月筆者撮影)

図4:サマルカンド駅構内。2023年3月撮影。表示はウズベク語、ロシア語、英語、中国語の4言語で、タジク語はない。2025年7月撮影。

 ウズベキスタンの学校教育は主にウズベク語またはロシア語で行われており、タジク語で教育を行う学校の数は限られている。そのため、サマルカンドのタジク語話者の多くはウズベク語とロシア語も話すトリリンガルであり、ウズベク語とロシア語で読み書きができる一方、標準タジク語に関する知識はほとんど持っていない。例えば妻は、ロシア語で教育を行う学校で学んだ。ウズベク語の授業はあったが、標準タジク語の授業はなく、聞いたり読んだりしたら大体わかるものの、話したり書いたりすることはできないという。

 サマルカンド・タジク語は話し言葉であるため、街中の案内表示や看板のような公的なものはもちろん、手紙や書き置きなどの私的なものに書かれることもほとんどない。しかし、近年はSNS(特に Instagram や Telegram)でサマルカンド・タジク語が書かれているのをよく見かけるようになった。サマルカンド・タジク語を話す人々はウズベキスタンで生活し、ウズベク語の教育を受けているため、サマルカンド・タジク語を書く際にはウズベク語のラテン文字とキリル文字が使用される。

図5:Instagram でのサマルカンド・タジク語表記の一例。ウズベク語のラテン文字で書かれている。上の行の意味は、「そうだ、私たちは同い年だ」である。(https://www.instagram.com/tojikoyi_uzbekiston/)

図5:Instagram でのサマルカンド・タジク語表記の一例。ウズベク語のラテン文字で書かれている。上の行の意味は、「そうだ、私たちは同い年だ」である。(https://www.instagram.com/tojikoyi_uzbekiston/)

図6:Instagram でのサマルカンド・タジク語表記の一例。ウズベク語のキリル文字で書かれている。意味は、「(彼の人生は)変化する!」である。(https://www.instagram.com/hilolaxon_sirojiddinovna/)

図6:Instagram でのサマルカンド・タジク語表記の一例。ウズベク語のキリル文字で書かれている。意味は、「(彼の人生は)変化する!」である。(https://www.instagram.com/hilolaxon_sirojiddinovna/)

どちらの文字を使うかは個人差があり、上の世代ほどキリル文字、下の世代ほどラテン文字を好む傾向があるという。妻の家族も Telegram のチャット(日本でのLINEグループのようなもの)でお互いにサマルカンド・タジク語でやり取りしているが、義父はキリル文字を使い、妻はラテン文字を使っている。なお、書く際にどちらを使うにしても、みなどちらの文字も読むことができる(SNSにおけるサマルカンド・タジク語の表記について、詳しくは Hishiyama and Fayzieva (2025b) を参照)。

 実はサマルカンド・タジク語を話す人々はウズベキスタン国外にも住んでいる。より良い仕事や生活を求めて海外に出稼ぎに行ったり、移住したりする人が多いためだ。日本にもサマルカンド出身者が少なくない。東京にはサマルカンド料理店が2軒もあるし、妻の親族だけでも十数人いる。移民の親は、子供にサマルカンド・タジク語だけで話す人もいれば、サマルカンドでしか使えないサマルカンド・タジク語よりも、ウズベク語やロシア語、英語などを覚えさせたいと考える人もいる。移民の間でサマルカンド・タジク語が今後どのように継承されていくか、という点も興味深い。

 私にとってサマルカンド・タジク語は、妻の母語であり、息子の母語になる特別な言語だ。これから一生の付き合いになるだろう。妻の親族とより深く意思疎通できるようになるため、引き続きしっかり学んでいきたい。また、研究もまだまだ始まったばかりで、やるべきことは多く残されている。まだ活力のある言語だが、今後はウズベク語やロシア語に押されて衰退していく可能性がある。後世にサマルカンド・タジク語を伝えていく一助となるべく、包括的な文法記述を目指して、これからも精進していきたい。

【参考文献】
Fayzieva, Zarina (2024) The verb system of Samarkand Tajik. Master’s thesis. Tokyo University of Foreign Studies.
ファイズエワ ザリナ (2024)「サマルカンド・タジク語:特集補遺データ『受動表現』『アスペクト』『モダリティ』『ヴォイスとその周辺』『所有・存在表現』『他動性』『連用修飾複文』『情報構造と名詞述語文』『情報構造の諸要素』『否定,形容詞と連体修飾複文』」『語学研究所論集』28: 1/63-63/63.
Foltz, Richard (1996) The Tajiks of Uzbekistan. Central Asian Survey, 213-216.
Hishiyama, Yuto and Zarina Fayzieva (2025a) Two possessive constructions in Samarkand Tajik.
Shigen: Tokyo University of Foreign Studies descriptive linguistic papers 20: 233-243.
Hishiyama, Yuto and Zarina Fayzieva (2025b) Samarkand Tajik written on social media. Bulletin of Center for Arts and Sciences Teikyo University of Science 8: 43-51.
Ido, Shinji (2007) Bukharan Tajik. München: Lincom Europa.
井土愼二 (2012)『タジク語文法便覧』仙台: 東北大学出版会.

【ウェブサイト】 https://joshuaproject.net/people_groups/15201/UZ [最終閲覧日: 2025/11/18]
https://www.instagram.com/hilolaxon_sirojiddinovna/ [最終閲覧日: 2025/11/18]
https://www.instagram.com/tojikoyi_uzbekiston/ [最終閲覧日: 2025/11/18]

書誌情報
菱山湧人 《エッセイ》「ウズベキスタンと私 ウズベキスタンの中のタジク語:サマルカンド・タジク語の世界」『アジア・マップ:アジア・日本研究Webマガジン』Vol.4, UZ.2.01(2026年00月00日掲載)
リンク: https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/asia_map_vol04/uzbekistan/essay01/