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2022.06.20
第5回ブックローンチを開催しました。ウェンディ・パールマン教授が自著『シリア 震える橋を渡って:人々は語る』について報告
6月9日(木)、立命館大学アジア・日本研究所と同中東イスラーム研究との共催でブックローンチを開催し、ウェンディ・パールマン教授(ノースウェスタン大学教授)自身が、好評を博した邦訳書、『シリア 震える橋を渡って:人々は語る』(原題:We Crossed a Bridge and it Trembled: Voices from Syria)について話しました。著者のパールマン教授は、中東政治研究を専門としています。また、教授は、ハーバード大学、ジョージタウン大学、ブラウン大学などで教育を受け、アラビア語を話し、アラブ世界で20年以上研究し、生活した経験をお持ちです。
パールマン教授は、自著を紹介しながら、シリアでは、これまでに50万人以上が死亡し、人口の半分以上が強制移住させられ、国が破壊されたにもかかわらず、こうした恐怖の経験は、シリアが(アメリカや日本から)遠く離れた国であるがゆえに簡単に無視されてしまうという問題点をつきつけました。この問題のもとで、同書は、シリアや中東についての予備知識を前提としていないかたちで書かれており、読者に求められるのはオープンマインドでこの問題に触れることだけであることが著者自身によって強調されました。
同書は、世界中で難民となった450人以上のシリア人から寄せられた証言を集め、それらの生の声が次第にまとまって、広く読まれるべき物語として結実したものです。パールマン教授は、こうした声を彼女独自のスタイルで表現しています。ブックローンチでは、まず、パールマン教授自身が自著を紹介し、そこから、証言として集められたシリア人自身の言葉を頼りに、シリア問題の起源、戦争へのエスカレーション、そして21世紀最大の人間の追放という現実が継続していることについて、力強い語りが展開されました。
また、教授の話は、説得力のある要約、悲痛で考えさせられるもの、心温まるもの、さらにはユーモアまで、さまざまなものを含んでいました。たとえば、ユーモアラスだが、悲痛な挿話としてこのようなシリア人の間の会話が紹介されました。「この動乱で最も重要で美しいことは、人々が『しーっ、静かに、壁には耳がある』という言葉がなくなったことだ」/ 「その通り。壁はもう残っていない」。最後に、パールマン教授は、次の言葉でブックローンチを締めくくりました。「シリア人は自らの物語を語れるようになるために、危険で痛みを伴う勇気ある旅をしてきました。私たちがすべき最も少なくそしておそらく最も重要なことは、聞くことです」。
質疑応答では、参加者がインタビューの方法について熱心に質問を投げかけ、パールマン教授はそれに対して、アカデミックなスタイルではなく、ジャーナリスティックなスタイルで書くことを選択した自らの経緯について真摯に応答しました。また、教授は、普段は学術論文を執筆するが、今回の著書は、ジャーナリストのようにリアルタイムで情報を発信するのではなく、大切なメッセージだと感じたことを声にするために、時間をかけて丁寧にストーリーを編み出したことで生み出されたことを強調しました。このほかにも多くの質問があり、残念ながら時間内にすべての質問を取り上げることはできませんでしたが、それだけ参加者全員が熱心にパールマン教授の話に耳を傾け、考える非常に有意義なイベントとなりました。この場を借りて、参加していただいた皆様にお礼申し上げます。
自著について話すパールマン教授
パールマン教授(自著とともに)
司会のDr.池端蕗子
パールマン教授と研究所メンバー