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2022.06.23

国際シンポジウムを開催しました!“Syrian Refugees in Their Calamities, Survival, and Future Lives: A Japan Roundtable”(基調講演:ウェンディ・パールマン教授〔ノースウェスタン大学〕)

 6月12日(日)、国際シンポジウム“Syrian Refugees in Their Calamities, Survival, and Future Lives: A Japan Roundtable”を立命館大学アジア・日本研究所(AJI)と同中中東・イスラーム研究センター(CMEIS)との共催で開催しました。また、本シンポジウムの開催は、Meridian 180 Global Networkのメンバーであるノースウェスタン大学と立命館大学の連携協定を背景として実現しました。COVID-19の流行後、はじめてノースウェスタン大学から直接代表者を迎えることが可能となり、そこで、中東研究の著名な専門家であるウェンディ・パールマン教授を基調講演者として招聘しました。

 まず、シンポジウムでは、末近浩太教授(立命館大学国際関係学部、CMEIS)の開会の辞をいただきました。それとともに、シリア紛争が発展し、武力衝突へとエスカレートした結果として、シリア国内や近隣諸国だけでなく、EU諸国が難民問題の渦中に巻き込まれていった経緯を説明していただきました。

 この問題を理解するうえで中東政治を専門とし、アラブ世界で20年以上の研究と生活を行ってきた経験を持つパールマン教授の議論は拝聴に値します。彼女の講演は、期待に違わず、あるいは、それ以上に有意義な内容でした(基調講演タイトル:“Studying Middle Eastern Politics from the US: General Reflections and Personal Experiences”)。講演の冒頭で、アメリカでの学者たちは、さまざまな事実に基づいて、パレスチナの側を支持しており、イスラエルに対して批判的であり、また、さまざまな抑圧的政権にも反対していることが強調されました。くわえて、アメリカの政治学者の間では、こうした政治的主張のレベルにとどまらず、これらの対外的な問題に関するミクロな研究の蓄積が進んでいるだけでなく、それらに基づいて、一般化可能な因果モデルを理解するためのマクロな洞察や質的研究を発展させており、高い水準を実現されているという点も指摘されました。

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講演を行うパールマン教授

 それに対して、パールマン教授のアプローチは、独自のインタビューを通じて人々が自由に語る声をすくい取り、かっちりと形式ばったインタビューでは決して明らかにできない事実に迫るものです。それに関わって、彼女は、若い研究者たちに向けて、インタビューを行うための重要な教訓についても議論しました。それによれば、いかにしてインタビューする相手の緊張を解きほぐしながら、将来の分析に役立つ記録を構築することが重要であることが強調されました。パールマン教授の非常に実践的で有益な講演後には、4名の参加者がコメントと質問を投げかけました。

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パールマン教授とのQ&Aセッション
(左上)吉川卓郎 教授(立命館アジア太平洋大学)/(右上)溝渕正季 准教授(広島大学)/
(左下)錦田愛子 教授(慶応義塾大学)/(右下)Dr.大庭竜太 (京都大学)

 続く第2セッションでは、同時代のシャーム地方 (歴史的・地域的なシリア) 以降を研究する若手研究者から発表が行われました。まず、Dr.佐藤麻理恵(京都大学)から“Syrian Refugee-Run Aid Organizations Helping Newcomers: Observations in Turkey”と題して、シリアにおける難民を中心とした救援組織の発展や、トルコからのシリア市民への越境的支援について発表が行われました。

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発表をめぐって意見交換を行うDr.佐藤とパールマン教授

 次に、Dr.池端蕗子(立命館大学衣笠総合研究所)が“Dilemma of Muslim Solidarity and the Syrian Refugee Crisis: The Case of the OIC”と題する発表が行われました。同発表では、国際関係の重要な側面の一つとして宗教を考慮に入れることで、国際的なウラマ・ネットワークが国際機関、政府、イスラーム社会とどのようにつながっているかが見えてくることが示されました。

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発表を行うDr.池端

 Dr.池端に続いて、Dr.望月葵(AJI専門研究員)が“Regaining Their Sense of Belonging and Livelihood: Syrian Refugees in Jordan and West Europe”と題して、発表を行いました。同発表では、シリア難民が母国以外の中東や西欧諸社会で生活をいかに再建できるかどうかが検討され、避難生活を送っている間、シリア難民の人々は宗教や文化的帰属意識に基づいた支援を享受し、日常生活の困難さに対抗するだけでなく、受け入れ側からも彼らの境遇に寄り添った支援が行われていることが示されました。

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発表を行うDr.望月

 その次に、4人目の発表者・Dr.渡邊駿(日本エネルギー経済研究所研究員)は、“Whither Democracy in Arab Lands? Reflections on Political Participation in Monarchial Systems”と題する発表を行いました。絶対君主制国家であるヨルダンに焦点が当てられ、君主制が政治的自由への度重なる試みを抑圧することによって統制力を維持しようと苦心してきた過程が描かれた一方で、市民の幻滅が広がり、そうした試みにも終焉が近いことが論じられました。

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発表を行うDr.渡邊

 5人目の発表には、ムハンマド・マスリ氏(早稲田大学)が登壇し、“Syria: No War Can Defeat Us”と題して、切実かつ個人的な経験に即した発表を行いました。マスリ氏は、シリアで実際に起きていることよく知らない日本人のために、非常に残酷な現実を映し出した映像も差しはさみながら、祖国での生活やシリア難民としての生活の実情を明らかにしました。

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発表を行うマスリ氏

 第2セッション終了後には、パールマン教授と発表者らの間で討論が交わされた後、会場の参加者からも数々の興味深い質問やコメントが寄せられました。

 本シンポジウムの最後には、小杉泰教授(AJI研究所長)から閉会の辞が述べられ、シリア問題についての様々な視点が交差する濃密な学問的な議論の場となったことが強調されました。

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(左)閉会の辞を述べる小杉教授/(右)シンポジウムについて意見を交わす小杉教授とパールマン教授