EVENT

2023.01.26

Meridian180 Forum “Local Knowledge and Community Participation in Disaster Response”を開催しました!(1月26日(木))(使用言語:英語[同時通訳:日中韓インドネシア語]

1月26日(木)にノースウェスタン大学と共同でMeridian 180 Forumを開催しました。本フォーラムは英語で行われ、日本語、中国語、韓国語、インドネシア語の同時通訳が提供されました。以下に、各国語で作成したポスターのリンクを張っております。ご参照ください。ご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。以下に、フォーラムの開催レポートを掲載します。 そちらも是非お読みください。

英語ポスター

日本語ポスター

中国語ポスター(繁体字)

中国語ポスター(簡体字)

韓国語ポスター

インドネシア語ポスター

【レポート】Meridian180フォーラム「災害管理における『現地固有の知』とコミュニティ参加」

《背景》

アジアは災害が多発する地域です。そして、災害に襲われたとき、最も迅速かつ効果的な対応は、被災地の住民や地域社会からもたらされます。「仙台(防災)枠組(Sendai Framework)」や「グランド・バーゲン」のような様々な国際的な政策提言が災害対応のいわゆる「現地化」の重要性を強調していますが、この提言にはいくつかの問題があります。一言でいえば、最大の問題は、既存の地域の資源(assets)や能力、つまりは現地固有の知を政策の議論において真剣に考慮してこなかったことにあります。

アジアには災害に対応するための数千年の歴史と伝統があり、この年月を通じてアジアは豊かな知と経験を蓄積してきました。しかし、そのような歴史や伝統は、国際的な政策コミュニティでは認知されておらず、また、尊重されてこなかったという経緯があります。さらに、地域社会からも見過ごされることが多いことが確かです。国際的な議論では、現地化の課題に関連して、災害対応における現地の参加と意思決定、現地のNGOにより多くの資金が直接配分されることを保証する仕組みなど、様々なイニシアティブについて言及されていることは確かです。しかしながら、どの政策も現地固有の知の存在について真剣に考慮しておらず、地域の主体が持つ重要な能力と把握できていない状況にあります。

《議論の概要》

本フォーラムでは、災害対応に関して、ローカルな(現地固有の)知とグローバルな知の両者に関する様々な主題が議論されました。現地固有の知とは何でしょうか?それはどのように人命救助や災害の軽減に役立つのでしょうか?また、それはグローバルな知とどのように異なるのでしょうか?本フォーラムの最初の討論者であるDr.マヌ・グプタ(Manu Gupta)は、これらの問いを取り上げました。Dr.グプタは、政府がこれまでにどのように災害救援活動を監督し、規制を確立してきたのかについて概括しました。彼は、こうした「トップダウン」戦略が災害対応に適しているのか、あるいは、「現地固有の知」のほうがより重要なのかどうか問いかけました。そのうえで、現地固有の知の重要性は、以下の5つの観点から理解されると説明されました。すなわち、コミュニティにおけるリーダーシップの重要な役割、コミュニティのリスクと脆弱性についての理解、人々の行為主体性(agency)、コミュニティの資源の有効化することの重要性、誰も置き去りにしないということの重要性、です。

また、以上に示した問いは、Dr.ムハンマド・リザ・ルヌディンの発表でも焦点化されました。Dr.ヌルディンの発表では、特に、宗教団体を活用して現地固有の知を把握することの重要性について強調されました。インドネシア人は宗教に大きな価値を置きます。この背景のもとで、Dr.ヌルディンは、イスラム教の信仰に基づく組織がインドネシアの災害後のコミュニティをどのように支援したのか、また、どのような支援をしなかったかについて議論しました。

セッション1の最後の発表者であるキャロライン・リーブス氏(Caroline Reeves)は、グローバルな知と現地固有の知がどのように交差し、そして、それらが矛盾する場合に何が起こったのかという問題に焦点を当てました。リーブス氏は、1900~1928年の中国北部で感染が広がったペストに関する事例研究に依拠しながら、満州(1910~1911年)、山西(1918年)やその他の華北地域での感染の封じ込めのために、非地域の専門知識がどのように地域の文化的背景に組み込まれていったのかを示すことで、地域化に関する歴史的アプローチを展開しました。

セッション2では、異なる分野から3名の研究者が登壇し、それぞれの専門領域における治験に基づいて現地固有の知にアプローチし、現地固有の知を明確化するための最先端の方法について議論するものとなりました。まず、Dr.モリス・マルチュケ(Moritz Marutschke)は、人工知能(AI)に基づく言語モデルを駆使して、テキストデータに含まれる現地固有の知を抽出し、体系的に分析することで、社会資本を定量的に測定する方法について報告しました。領域専門家たちによって適切にキーワードが選択され、類似する語彙のリストが言語モデルを使用して計測されるとき、膨大な量のデータを効率的に使用し、分析することが可能となります。

次に、Dr.ジアン・パウエル・マルケス(Gian Powell Marquez)より、マングローブの保全と再生の伝統を利用した生態学的なアプローチから、災害対策における現地固有の知の重要性について議論がなされました。発表のなかで、彼は、フィリピンにおける沿岸保護の一環であるマングローブの再生をめぐる過去の失敗例に関して、政策の実施における伝統的な現地固有の知への視点が欠如しているという問題があることを明らかにしました。また、マングローブの再生の主な原因として、植林場所が不適切だったことや、植林されたマングローブの種類が間違ったことにあることが示されました。このことから、もし政策立案者が災害対策において、科学に基づく生態学的知識と現地固有の知に基づく生態学的知識の両方に取り組むことの重要性を認識していれば、マングローブの保全はうまくいっていたと考えられます。こうした取り組みを可能にするためには、長期的な計画を立てる人々の組織、経済援助を行うNGO、国内外の民間セクターを調整する地方自治体の間の三角関係が重要です。

最後に、Dr.ダニエル・ホートン(Daniel Horton)は、熱波で多くの犠牲者を出したシカゴ市の例を取り上げながら、コミュニティをベースとした参与型の研究を通じて、レジリエンスの構築の必要性について発表しました。発表のなかでは、熱脆弱性指標(heat vulnerability index)が算出され、熱波による死亡が貧困率の高さと関連していることが示されましたが、政治的な問題もあり、この指標は地方自治体のレベルで検討されなかったという問題が示されました。こうした問題を背景として、Dr.ホートンと彼の調査チームは、現地の植林団体と協力し、植林に適した場所を特定するツールとしてこの指標を活用してきました。その結果として、長期的な都市計画に必要な場所が特定され、保全されるとともに、将来の災害に対処するための都市の回復力が強化されたことで、満足のいく研究結果が得られました。このことから、現地固有の知の重要性に鑑みれば、行政機関が現地の声に耳を傾けることがいかに不可欠なものであるかがわかるでしょう。

以上、すべての発表を通じて、適切な災害対応を考えるためには、現地固有の知とグローバルな知の両方を扱う必要があることが示されました。この考え方は、両セッションに共通するテーマであり、また、この視点を得られたことは本フォーラムの重要な収穫となりました。

《本フォーラムの重要性》

このMeridian 180フォーラムでは、進化し続けるダイナミックな現地固有の知の価値が浮き彫りになりました。また、ローカルなレベルとグローバルなレベルでの専門知は、相互に競合するのではなく、結びつくことになるという点も強調されました。そのうえで、将来起こりうる危機に対処するためには、現地の知を持つ人々に特に目を向けながら、「社会全体」の戦略を採用する必要があることが再認識されました。また、これらの視点を得るうえで、今回のフォーラムは、学際的に現地固有の知にアプローチすることの可能性を示すものとなりました。様々な方法を組み合わせることは、現地固有の知についての議論を重厚にし、深めることに結びつきます。本フォーラムの企画者として、現地固有の知は、今後の災害対応に十分に活用していくべき重要な役割を握っていることが広く知られるようになることを願ってやみません。また、そのためには方法論を革新し、研究者が災害対策の研究に学際的なアプローチを導入していくことが重要であるという認識が広く共有されるようになればと思います。

セッション1meridian180
セッション1の様子

セッション1meridian180
セッション2の様子

セッション1meridian180
全体討論に参加された登壇者の先生方の様子