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2022.12.23

【レポート】立命館大学・オーストラリア国立大学公開講演会が開催されました!“Nuclear Weapons and Alliances: Theoretical Insights and Implications for Policy” (Prof. Stephan Frühling, November 17, 2022)

 2022年11月17日(木)、立命館大学アジア・日本研究所と国際地域研究所の共催で、立命館大学・オーストラリア国立大学公開講演会が開催され、ステファン・フリューリング先生(オーストラリア国立大学教授、アジア・日本研究所客員研究員)が核兵器の役割と米国の同盟をめぐる政治について、講演をなさいました。

ステファン・フリューリング教授
ステファン・フリューリング教授

 まず、フリューリング教授は、核兵器と米国の同盟国の役割について比較研究がほとんど行われていないことは問題であると指摘したうえで、米国の同盟国のなかには米国の核兵器の受け入れや核共有、さらには独自の核戦力の保有を主張する声もあるため、これは重要な問題であることを強調しました。また、この点に関して、フリューリング教授は、米国の同盟関係における核兵器の役割を理解することにとって、 「需要と供給」 という観点から米国の同盟関係を見ることがある程度有益であるという見方を示しました。ここでは米国の核戦力が供給側に、同盟国が核セキュリティを要求する点で需要側に位置づけられます。

 しかし、この枠組みだけでは、米国の同盟国とその後援者(米国)との間の実際の協力関係が国ごとに何故ゆえに異なるのかという点を捉えきれません。米国の同盟国は物理的秩序の不安定性を理由に米国の核の傘の下に入ろうとする一方で、自国内に米国の核兵器を配置することや持ち込むことには消極的であることが多い点をいかに説明したらよいでしょうか。フリューリング教授は、この疑問点に対してリアリズムと制度論(institutionalism)から説明します。リアリズムは、米国と同盟国間の対外関係の均衡や力関係の非対称性を反映したものが核兵器をめぐる協力関係に現れると見ます。また、制度論では、個々の同盟関係の固有の論理を形づくる構造化された相互作用や組織的な慣行が核兵器をめぐる協力関係に現れると見ます。

Professor Stephan Frühling
講演をするステファン・フリューリング教授

 フリューリング教授によれば、米国の同盟諸国の存在や、核兵器の使用決定における米国の独占的地位、また、冷戦時代の米韓同盟関係はリアリズムから説明できます。次に、それに対して、核兵器の使用における同盟国それぞれに固有の目的、米国とそれらの同盟国が核兵器の使用と目的について異なる見方を有する理由、米国の同盟国内が変容過程や緊張状態にあるときに核兵器と抑止力に関する議論が激化する理由、また、核兵器に関する米国側からの情報共有が増えた要因などについては、制度論の観点からうまく説明することができます。

 フリューリング教授は、制度論を取り上げながら、学問と政策の領域に与える示唆ついて次のように指摘しました。すなわち、核兵器は、同盟関係の拡大、戦略、目的についての共通の理解を生み出す重要なメカニズムであること、「ハード」な協力関係が「ソフト」(政策)面での合意の醸成ことを促すこと、核兵器をめぐる協力関係が強固な同盟関係に不可欠な信頼と共通の戦略的枠組みの鍵となること、最後に、米国の再保証は、米国の核戦力の構造、態勢、政策だけの問題ではない。米国から同盟国への再保証(reassurance)は単に米国中枢に関わる核戦力の構造、配置、政策だけの問題ではないということなどです。

 以上のポイントに基づいて、フリューリング教授は、核兵器に関する議論は、核兵器そのものを越えてく、米国と同盟国の間に合意を確立するのに格好の場を提供するがゆえに、米国と同盟国の目的に関わると指摘しました。このことから、教授は、地政学的な緊張関係が再び高まる21世紀における米国と同盟国間の課題が、米国の核政策にのみ関する協議を超えて共通の目的を設定することにあることを示しました。その上で、教授は、米国、オーストラリア、日本、韓国で構成されるインド太平洋地域における米国の核抑止力の評価、配置、政策を協議する共同協議の仕組みが必要であると提案しました。

 本講義の最後に行われたQ&Aでは、参加者からオーストラリアの事例から日本はどう学ぶのか、アメリカと同盟国の今後の課題、リアリズムのパラダイムなど、興味深くかつ活発な質疑応答が交わされ、本講義が締めくくられました。

Written by Yusy Widarahesty and Daichi Morishige (Doctoral Students at the Graduate School of International Relations, Ritsumeikan University)

>Attendees for this public lecture
Attendees for this public lecture

session
Q&A session

(文:Yusy Widarahesty and Daichi Morishige
(立命館大学国際関係研究科・博士課程後期課程))