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2023.03.24

【レポート】「日中脱炭素都市フォーラム」を開催しました!(共催:アジア・日本研究推進プログラム「東アジアのグリーンリカバリーと炭素中立の実現に関する研究」[代表:周瑋生 教授])

 2022年12月23日(金)に立命館大学と浙大城市学院が共同で、都市の脱炭素化に向けた日中両国の先進事例を共有するとともに、国際都市間連携の強化やゼロカーボン・キャンパスといったパイロット事業に対する一層の促進方策の実行、および両大学の協力協定調印式の挙行を目的として「日中脱炭素都市フォーラム」を開催しました。本フォーラムはオンライン配信によるハイブリット形式で行われ、延べ2万人を超える視聴者が参加しました。なお、本フォーラムは、立命館大学アジア・日本研究所、立命館大学サステイナビリティ学研究センター、浙大城市学院商学院、杭州「双炭」研究センターの企画により、執り行われました。

午前の部「脱炭素都市学術ワークショップ」

 司会進行は、宮脇昇教授(立命館大学政策科学部)が務め、初めに本フォーラム実行委員長の周瑋生教授(立命館大学政策科学部)より本フォーラムに関する趣旨説明がありました。

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立命館大学政策科学部 周瑋生教授

 周教授は、「東アジアのグリーンリカバリーと脱炭素都市構築」と題して、立命館アジア・日本研究機構アジア・日本研究推進プログラムの「東アジアのグリーンリカバリーと炭素中立の実現に関する研究」研究プロジェクトの概要を紹介するとともに、本フォーラム開催の趣旨説明を行いました。新型コロナウイルス感染症という短期的な脅威と、気候変動という長期的な脅威に対する都市および人間社会の脆弱性から、世界の国々が利益と責任を共有する運命共同体であり、また先進国と途上国を交えたすべての国の協力のもと、解決策を議論すべきであると指摘しました。さらに東アジアは、同時に経済発展(貧困克服)、地域環境(公害克服)、地球環境(地球温暖化など)の3大課題に直面しており、新型コロナ禍を背景に、景気回復や気候変動への対応について、この未曾有の「危機」をバックスプリングとして、現代社会を「より強く、より環境に優しい社会」へと移行させ、気候目標達成のための重層的な構造(時間・空間・対策・結果という4軸の最適化)のもと、低炭素、循環、共生、安全、知恵を特徴とする「五位一体」脱炭素都市を構築することにより、持続可能な社会発展が図られることを述べました。

 午前の部においては、山地憲治教授(地球環境産業技術研究機構(RITE)・理事長)が「脱炭素に向けた取組みと都市の役割」と題して、基調講演を行いました。

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地球環境産業技術研究機構(RITE) 山地憲治理事長

 山地理事長は、地球温暖化対策に関する最近の動向について紹介し、日本の正味ゼロ排出のロードマップをモデル化して分析したうえで、原子力の上限とCO2貯留ポテンシャルに制限があると指摘しました。また、革新的な環境イノベーション戦略においてはエネルギー転換、運輸、民生、農業の各分野における革新技術の構成要素があることを述べました。革新技術を社会に応用することは、2050年までにカーボンニュートラルの達成だけでなく、その他の民生上のメリットも得られることを指摘しました。さらに、温室効果ガスの多くが産業と生活部門から排出されており、地球温暖化対策の基本構造は、緩和策、気候工学的手法、適応策の組み合わせであるべきだと強調しました。都市建設については日本の場合、民生・運輸部門の技術水準が高く、世界の脱炭素化に貢献できるとともに電子化やデジタル化による新たな省エネが期待できると述べました。

 続いて、沈満洪教授(中国生態経済学会副会長/浙江農林大学カーボンニュートラル研究院院長/浙江農林大学党委員会書記)が「脱炭素都市建設の経路と駆動」と題して、基調講演を行いました。

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浙江農林大学党委員会書記 沈満洪教授

 沈教授は、「脱炭素都市建設」という概念を正しく理解する必要があると指摘しました。脱炭素都市は、第一に都市部の炭素排出量を完全消滅させた都市というわけではなく、排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルのことである。また、すべての部門や業種(点的)をカーボンニュートラルの実現に向けさせるわけではなく、都市全体(面的)におけるカーボンニュートラル実現への取り組みのことである。さらに、カーボンニュートラルの実現は、必ずしも1つの都市内部だけではなく、都市が持つ社会的責任であると論じました。脱炭素都市の建設による炭素排出源の削減、炭素吸収量の増加および炭素取引制度の活用といった3つの柱を重視すべきであり、脱炭素技術と制度のイノベーションを推進しながら、脱炭素思考上のイノベーションも不可欠であると強調したうえで、システムの観念を指針にその思考と解決手法の応用が大事であることを述べました。

 次に、立命館大学サスティナビリティ学研究センター長で近本智行教授(立命館大学理工学部)が「立命館大学の持続可能なキャンパス戦略」と題して、講演を行いました。

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立命館大学理工学院 近本智行教授

 近本教授は、ゼロカーボン・キャンパスの建設目標に関する立命館大学の進捗状況について、詳細に紹介しました。立命館大学は文部科学省、環境省、経済産業省とともにカーボンニュートラルを推進し、大学コアリションゼロカーボン・キャンパスWGの幹事大学として、太陽光などの再生エネルギーの使用やキャンパス内での二酸化炭素回収などの取り組みから、電力削減や自然環境との調和的な協力により、2030年のカーボンニュートラル実現に向けて努力していると述べました。また、本大学における学生の省エネ・環境保護意識を高めることや、20社の企業と協力してより良い脱炭素効果の達成に向けて取り組んでいることも述べました。これまで立命館大学の茨木キャンパスでは、二酸化炭素排出量の約30%削減を実現させた一方で、アジア太平洋キャンパスでは、1,270トンの炭素排出の削減が見込まれています。現在、立命館大学は浙大城市学院とともにゼロカーボン・キャンパス建設の方法論を検討しており、大学の各キャンパスから付属小学校までの脱炭素、ゼロカーボン、カーボンニュートラルの目標を実現するために努力しています。

 午前の部の最後は、申立銀教授(浙大城市学院国土空間計画学部)が「市民生活視点からの脱炭素都市構築」と題して、講演を行いました。

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浙大城市学院国土空間計画学部 申立銀教授

 申教授は、脱炭素目標の達成には、低炭素都市と低炭素ライフスタイルの構築が必要であり、また中国の持続可能な発展のためには必然の選択であると述べました。そして、低炭素ライフスタイルの全体像と具体像について「衣、食、住、行」の4つの方面から、ライフスタイル転換に科学的な管理が必要であると指摘しました。低炭素ライフスタイルを実現するための4ステップ(PDCA)を論じ、とりわけ、計画を実施する際の評価およびフィードバックの強化ならびに政策策定水準の向上によるライフスタイルの転換が、住民の幸福感と満足感を向上させると主張しました。

午後の部の「脱炭素都市構築フォーラム」

 午後の部は、協力協定調印式、基調講演、脱炭素都市構築の事業紹介と閉会の辞の4部構成で行われました。協力協定調印式では、立命館大学研究部 岡本慎也課長代理が司会進行を務めました。

 まずは、フォーラム主催者代表の立命館大学仲谷善雄学長と浙大城市学院羅衛東学長による挨拶があり、本フォーラム開催のお祝いや参加者への感謝の意を表しました。本フォーラム開催は、両大学の取り組みによって、国際的に脱炭素都市の建設および開発に向けた社会と大学の協力により、脱炭素化への道を模索するためのきっかけとなり、そして両大学の協力パートナーシップを深める第一歩になると述べました。

 続いて、静岡県川勝平太知事からの本フォーラム開催へのお祝いメッセージを趙昇涓さん(立命館大学政策科学部・韓国人留学生)が代読しました。今年が静岡県と浙江省の友好締結40周年の節目にあたり、互いに協力して脱炭素化を目指し、地球環境の回復に貢献したいとの気持ちを表しました。また、東アジア文化の伝統には天・地・人の三才の調和を重んじる思想があり、人類社会の低炭素化はその思想を実現する重要な通路であることから、これは日中両国の使命でもあると述べました。さらに、西洋型の開発主流の科学技術の活用法を改め、東アジアの文化ルネサンスを目指し、文化首都のプライドを持って「天・地・人」の調和を回復するために科学技術を活用すべきであると指摘しました。

 次に、後援者代表の京都市門川大作市長と杭州市陳瑾副市長がビデオメッセージで、本フォーラム開催へのお祝いの辞を表しました。

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京都市 門川大作市長

 門川市長は、今年が記念すべき日中国交正常化50周年の節目にあたり、両大学が日中脱炭素都市フォーラムを主催することについて高く評価し、最近の京都市の脱炭素都市建設に向けての取り組みについて簡潔に紹介したうえで、京都市は「京都議定書」採択の地として国が進める「脱炭素先行地域」に選定されたことを誇りに思い、本フォーラムをきっかけに杭州市との交流を深め、都市間の連携を一層強固なものにしていくべきであると述べました。

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杭州市 陳瑾副市長

 陳副市長は、気候変動問題は全人類が直面している社会課題であり、都市は国際の利益と関連し、未来を展望する脱炭素行動の実験者とともに実施者でもあると指摘しました。また、杭州市は中国の低炭素都市パイロットプロジェクト都市に選ばれており、近年、杭州市が展開している多様な炭素削減事業による成果について紹介しました。さらに、杭州市と京都市は共通して豊富な歴史・文化遺産がある都市として、長年にわたる友好都市関係を一層強化していきたいと述べたうえで、脱炭素に向けた目標に協力を深め、共に人類の運命共同体を築き、未来をつくり上げていくことを望んでいると述べました。

 次に、立命館大学と浙大城市学院との協力協定調印式を行いました。立命館大学仲谷善雄学長と浙大城市学院羅衛東学長は双方の会場で登壇し、立命館大学―浙大城市学院学術交流協力協定に署名し、記念撮影をしました。

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羅衛東学長と仲谷善雄学長

 その後、立命館サステイナビリティ学研究センター近本智行センター長と浙大城市学院商学院党委書記王春波副院長が双方の会場で登壇し、浙大城市学院商学院―立命館サステイナビリティ学研究センター学術交流協力協定に署名し、記念撮影をしました。

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王春波副院長と近本智行センター長

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浙大城市学院側と立命館大学側の記念写真

 午後の部「炭素都市フォーラム」の司会進行は、張雷宝教授(浙大城市学院商学院・院長)が務め、孔鉉佑氏(中華人民共和国駐日本国大使館・特命全権大使)、小宮山宏教授(三菱総合研究所・理事長/第28代東京大学総長)、仇保興氏(中国都市科学研究会会長/元国務院参与,元杭州市長)が基調講演を行いました。

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中華人民共和国駐日本国大使館 孔鉉佑特命全権大使

 孔大使は、「ゼロカーボンシティ構築にむけた中国戦略と日中協力への期待」と題して、基調講演を行いました。人間と自然の調和を実現することが中国の近代化における重要な特徴の1つであり、また中日双方にとって気候変動に積極的に対応しながらグリーン低炭素発展の道を歩むことが脱炭素目標を実現するための重要な措置であると論じました。中日双方が脱炭素分野において、多くの探求と卓越した成果を上げていることや、中国が戦略的配置および構造改善の面で相応の政策を行い、際立った成績を収めたことについて触れました。また、国際的には「パリ協定」の署名・実施、「昆明宣言」の発効、グリーンな「一帯一路」の建設を推進し、なかでも浙江省では、各地での実践的な探索のうえでカーボンニュートラルを堅実に進め、先頭に立って都市の脱炭素発展の成功モデルの事例として提示されていると述べました。一方で、日本はカーボンニュートラル目標を設定し、低炭素グリーン戦略と産業政策を策定したうえで、一連の政策支援策を打ち出し、低炭素技術革新と産業化応用配置を積極的に展開していると述べました。日中間には脱炭素という課題において、多くの共通点と相互に参考にすべき経験があり、両国の持続可能な発展および世界の気候変動への対応に一層貢献するためには、中国と日本の協力が不可欠であると強調しました。

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三菱総合研究所 小宮山宏理事長

 小宮山理事長は「脱炭素社会の実現」と題して、「人類史の転換期」「『プラチナ社会』の展望」「脱炭素社会の実現」の3セクションに分けて基調講演を行いました。第一産業、エネルギー産業と循環型産業の変革は、「脱炭素社会」と密接に関係しており、再生可能エネルギーによって家庭、企業、製造、輸送などのエネルギー需要を満たし、また海陸植林、CCS(炭素回収・貯留)、DACS(大気中の炭素回収)などによってCO2を回収・貯留することができると論じました。「地下資源文明」から「循環型文明」への移行は、人類の歴史上、必要なステップであること、そして「脱炭素社会」の実現には、政府、企業、個人が一体となって取り組むことが必要であると説明しました。小宮山理事長は20年以上前に自宅を省エネ・新エネルギーに改修するという先駆的かつ具体的な取り組みを自身の事例経験として紹介し、「ゼロカーボン」目標の実現には様々なアクターが積極的に参加する重要性を強調しました。

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中国都市科学研究会 仇保興会長

 仇理事長は、「建築、交通と廃棄物処理の3大分野からみた都市型炭素削減の道筋」と題して、講演を行いました。理想的なカーボンニュートラルルートの5つの特徴について、詳しく紹介しました。都市を主体としたカーボンピークとカーボンニュートラル戦略の実施を支持するには、多くの理由があると指摘したうえで、都市を5つのモジュールに分割することで、都市間の共通セクター、エネルギー、輸送、建築の観点から、中国の比較的大きな開発スペースと将来の開発方向について分析を行いました。また、気候変動に適応した建築物や、ポジティブエネルギービルなどのグリーンビルディング、コミュニティにおける「マイクロパワーサプライ」や「魚と野菜の共生」のための「総合的なカーボンシンク」などのビルシステムについて説明しました。例えば、さまざまな建物やシステムのアプリケーション・シナリオと事例、およびそれらの利点と課題について取り上げました。最後に、中国が国家のカーボンニュートラル目標を2060 年までに3ステップで達成することを確信していると述べました。

 続いて、田中良平氏(京都市環境政策局地球温暖化対策室・室長)が「2050年ゼロに向けた京都市の挑戦」と題して、京都市の脱炭素都市建設の進展状況について紹介しました。

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京都市環境政策局地球温暖化対策室 田中良平室長

 田中室長は、京都市の概況と近年の脱炭素都市建設をめぐる取り組みについて紹介しました。京都市の地球温暖化対策の歩みと実績について、2000‐2021年の間に、受け入れたごみの量は21年連続で減少となり、53%減の38万トンに半減していると述べました。また、人と公共交通優先のまちづくりを推進し、市内の移動手段における自動車の割合は約2割減り、公共交通機関の利用が3割程度増加したうえ、マイカーによる訪問者数も8割程度減少していると述べました。エネルギー消費量はピーク時と比べて約30%削減し、太陽光発電の導入量は10年前の13倍まで成長し、大きな成果があったと報告しました。さらに、京都市が去年策定した「地球温暖化対策計画(2021-2030)」について、2030年の温室効果ガスを46%削減するという中期目標達成に向けて「ライフスタイル」、「ビジネス」、「エネルギー」、「モビリティ」の4分野の転換について詳細に説明がありました。Q&Aでは、京都市における"脱炭素都市建設の過程で、市民はいかに参加するのか"と"いかに異なる区域の脱炭素建設を推進するのか"の2つの質問に対して、田中室長は、京都市は住民のライフスタイルへの転換を推奨し、住民が積極的に脱炭素商品を選択し、省エネ設備を採用するなどの行動によって、身近なことから自主的に参加できると応答しました。また、都市建設において各区域の協力が不可欠であり、特に、都市部と農村部の協力を通じて資源回収や再利用の効率向上を図り、資源の好循環をつくることが重要であると強調しました。

 次に、曽東城氏(杭州市発展改革委員会資源節約・環境保護処・処長)が杭州市の脱炭素都市建設の進捗について紹介し、質疑に答えました。

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杭州市発展改革委員会資源節約・環境保護処 曽東城処長

 曽処長は、杭州市が「双炭(ピークカーボンとゼロカーボン)」目標を達成するための6つの重点について紹介し、関連事例をもって説明しました。都市部の再生可能エネルギー回収分野において、杭州市と資源回収企業が共同でリサイクルデジタル知能アプリを開発したことについて取り上げました。「インターネット₊+資源回収」システムを構築し、すでに25万人の住民をカバーしており、1日350トン以上の生活ごみを回収して、年間累計1.1万トンの炭素排出削減を実現しています。Q&Aでは、近本教授の"杭州市はどのようにして歴史・文化とグリーン低炭素発展のバランスを実現するのか"という質問に対して、近年中国では「山水林田湖草沙」という空間要素総合開発のグリーン発展理念を推進しており、杭州の歴史・文化はその重要な構成部分として、空間資源や人の生活様式などの系統的な管理を通じて、脱炭素都市の建設に貢献することが必要であると応答しました。

 閉会の挨拶は、小杉泰教授(立命館大学アジア・日本研究所・所長)と韦巍教授(浙大城市学院副学長兼杭州市「双炭」研究センター・センター長)が、それぞれ本フォーラム開催に協力いただいた方々に感謝の意を表し、両大学と両研究機構の学術交流協力協定の結びにお祝いの言葉を送りました。双方が本フォーラムをきっかけに、交流と協力を深め、共に脱炭素都市建設領域における研究、人材育成と国際発信を通じて、その成果を持続可能な都市発展に寄与できるよう期待したいと閉めくくりました。

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立命館大学アジア・日本研究所 小杉泰所長

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浙大城市学院 韦巍副学長 

【日中脱炭素都市フォーラム・ポスター】

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