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2023.01.26

【レポート】AJI年次国際シンポジウム2023コア・セッション「都市の『公共空間』は誰のものか:日本・欧米の都市から」のレポートを公開しました!

2023年2月23日(木・祝),AJI年次国際シンポジウム2023 “Asia-Japan Research Beyond Borders: Asian Societies Striving for Secure and Sustainable Life”のコア・セッションとして「都市の『公共空間』は誰のものか:日本・欧米の都市から(Whose Public Space ?International Case Studies of Cities in Japan, Europe and the United States)」を、立命館大学アジア・日本研究所主催、立命館大学地域情報研究所共催で実施しました。本シンポジウムは対面とzoomの併用方式により、英語の同時通訳を使って行いました。開会に先立って、仲谷義雄学長(立命館大学)より、アジア・日本研究機構長として、本シンポジウム開催への祝辞と開会の趣旨についてお話いただきました。

開会挨拶を行う中島淳教授
開会挨拶を行う仲谷機構長(学長)と当日の会場の様子

【コア・セッション登壇者】
司会:森裕之(立命館大学政策科学部教授)

スピーカー・講演タイトル:
阿部大輔(龍谷大学政策学部教授):「観光政策再考:ポスト・オーバーツーリズムにおけるいくつかの論点」
矢作弘(龍谷大学研究フェロー):「ジェントリフィケーション:NY と大阪」
吉田友彦(立命館大学政策科学部教授):「高齢者の顕著な減少からみる都市空間の公共性:大阪府を事例として」
森裕之(立命館大学政策科学部教授):「人口減少・高齢化と大都市の行財政:京都と大阪の事例から」

 本シンポジウムの趣旨は、先進各国に共通する人口減少・高齢化の中で都市自治体が進めてきたツーリズム(観光政策)とジェントリフィケーション(富裕化政策)を再検討するというものでした。グローバル化の中で世界に広がった金融・情報・観光資本主義の巨大な波が都市における市民の暮らしを脅かし、あらためて「都市は誰のものか」が世界的に問われています。アフター・コロナのいま、この問題について議論し、もう一度「都市とは何か」を市民とともに考えることが大学にとっての大きな課題になっています。

 本シンポジウムでは、このような現代都市の経済社会動態を典型的に示してきたバルセロナ、ニューヨーク、大阪、京都といった都市を取り上げ、都市計画、経済学、行政学、財政学の視点から総合的に検証しました。それぞれの報告概要は次のようなものです。

 阿部教授は、国際的な観光客数の急増その他の観光に関する統計資料を示し、それによって引き起こされているオーバーツーズムの諸問題について主にヨーロッパの都市を事例に紹介しました。オーバーツーリズムの諸問題は多岐にわたり、市民がそれにどう対峙するのかが問われていることが指摘されました。その際には、観光そのものを忌避するのではなく、それとどう共存していく都市を目指すべきかが重要であることが提起されました。

開会挨拶を行う中島淳教授
講演を行う阿部大輔教授

 矢作氏は、都市でジェントリフィケーションが生じるメカニズムを経済学的に整理し、そこからニューヨークなどのアメリカの都市や大阪で起こっている都市の動態を紹介しました。ジェントリフィケーションは大企業・富裕者と一般市民との間の分断を引き起こし、激しい対立として顕在化します。それは市民の生活条件を脅かすものであると同時に、都市空間をも変貌させることが示されました。

開会挨拶を行う中島淳教授
講演を行う矢作弘氏

 吉田教授は、大阪で生じている高齢社会の諸相としての「多死社会」に焦点をあて、それがもたらす都市の空間的変化をGISの手法を用いて分析しました。とくに大阪は一人暮らしの高齢者がきわめて多い都市であることから、この現象は大阪において最も先鋭的にあらわれています。それが大阪のような大都市にどのような帰結をもたらすのかは今後の重要な研究課題であることが示されました。

開会挨拶を行う中島淳教授
講演を行う吉田友彦教授

 森教授は、都市自治体がツーリズムやジェントリフィケーションを推し進める背景にある都市財政の危機の諸相について、京都市と大阪市を事例に検討しました。これら二つの都市は財政がひっ迫している点では共通しているものの、京都市は過去の公的債務、大阪市は民生関連の経常経費によって生じていることが示されました。このことから、自治体の政策意思によって行財政のあり方は大きく異なるのであり、それはそこに暮らす市民の自治によって決まることが指摘されました。

開会挨拶を行う中島淳教授
講演を行う森裕之教授

 各報告のあとには、会場から非常に多くの質問や意見が出され、この問題に関する研究の意義や重要性があらためて確認されるものになりました。