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2023.11.10

【レポート】AJI国際ワークショップ“New Challenges in Constructed Wetlands for Sustainable Wastewater Treatment”を開催しました!

7月16日、立命館大学アジア・日本研究所(AJI) 主催で、国際ワークショップ“New Challenges in Constructed Wetlands for Sustainable Wastewater Treatment”をハイブリッド方式で開催しました。本ワークショップの主な目的は、廃水除染のための人口湿地の管理と利用に関する情報と知識を専門家の間で共有し、廃水処理を強化するための戦略と技術について検討し、この分野における将来的な改善へ向けた解決策と課題を議論することです。本ワークショップには、アジアの諸大学および研究所、バングラデシュ、中国、インド、日本、スリランカ、ベトナムから8名の報告者が登壇しました。また、オンラインと会場の両方で多くの聴講者が参加しました。ワークショップは2つのセッションに分けられ、それぞれ、Dr.Nguyen Thi Thuong (立命館大学アジア・日本研究所 専門研究員)とDr. Dan A(中国・仲愷農業工程学院 准教授)が司会を務めました。

はじめに、AJI所長である小杉泰より参加者へ向けて開会挨拶が行われました。そのなかで、小杉教授は、水資源の危機とアジアの水質問題に注目し、水源保護の重要性と廃水処理にグリーン・テクノロジーを利用することが喫緊の課題であることを強調しました。また、小杉教授は、本ワークショップを通じて、専門家がさらに強固な関係を築き、今後も連携を強化していくことの重要性にも言及し、挨拶を締めくくりました。

第1部は、Dr. Danによる “Removal Optimization and Material Balance of Antibiotics from Freshwater and Seawater Aquaculture Tail Water in Constructed Wetlands”と題するプレゼンテーションから始まりました。彼女の研究発表は、中国と世界の抗生物質汚染水とその廃水、そして抗生物質汚染除去のための人工湿地の利用に関するものでした。発表では、中国広東省広州市の水産養殖廃水から抗生物質を除去するための、試験段階でパイロット規模のプラントとして人工湿地を利用する事例が紹介されました。具体的には、Dr. Danの研究は、人工湿地における抗生物質が最終的にどうなるか、また、その過程が微生物がいかに反応しているかについて調査するものです。研究結果として、抗生物質に汚染された養殖廃水は人工湿地によって効果的に処理されることが示され、抗生物質の除去メカニズム、微生物の役割、抗生物質の除去に関わる設定などについて明らかにされています。こうした知見から、Dr. Danは、廃水から抗生物質を除去するための実用的な規模の人口湿地の有効性を結論しました。以上の有効な研究結果を示す発表の後、参加者の間で質疑応答が行われました。

彼女の有益なプレゼンテーションの後、オンラインとオンサイトの両方の参加者が彼女にいくつかのコメントや質問をしました。

発表を行うDr. Dan
発表を行うDr. Dan

次に、Dr. Vo Thi Dieu Hien(ベトナム・グエンタットタイン大学 環境・食品工学部 グく学部長)が“Shallow-Bed Constructed Wetland System: A Promising Innovative Nature-Based Solution Towards Circular and Resilient Cities”と題する発表を行いました。発表では、屋根の上に人工湿地を構築するために、屋根上に浅床構造の人口湿地を応用する潜在的可能性について議論されました。くわえて、湿地屋根の性能や利点、および課題についても論じられました。結論として、湿地屋根は、将来性のある研究分野であり、有望なグリーン・テクノロジーであることが示されました。

発表を行うDr. Thi Dieu Hien
発表を行うDr. Thi Dieu Hien

続いて、Dr. Saurabh Singh(Swami Keshvanand Institute of Technology, Management and Gramothan in India)が“Design and Performance Assessment of Subsurface Constructed Wetlands for Pollutant Removal”と題する発表を行いました。彼の研究発表は、機械学習分析の導入による人工湿地の設計の最適化と、この技術の潜在能力を最大限に活用することによる汚染物質の除去効果の最大化に焦点を当てるものです。研究結果として、Dr Singhは、深い水平流を持つ湿地システムの設計が有機物質と栄養物の除去に有効であることを見出しています。さらに、この設計は、土地面積を確保することにも役立ち、特定の汚染物質の除去の必要性に応じた設計のカスタマイズにも役立つことを提案しました。

発表をするDr. Singh
発表をするDr. Singh

第1部最後の発表では、Nehreen Majed教授(バングラディッシュ・アジア太平洋大学)より“Towards Multifaceted Mitigation of Climate Change Impacts: Ensuring Sustainable Treatment Solutions with Constructed Wetlands”と題する発表が行われました。発表は、地球を守る義務、とくに水域を守る義務について再認識することを説き、次に、南アジア諸国や地球規模で気候変動の影響を緩和し、持続可能性を実現するための方法として、人工湿地を活用することの重要性を強調するものでした。また、重金属、栄養物、浮遊物質、有機物などの様々な汚染物質を処理するために、多様な種類の人工湿地技術を利用する必要性について議論されました。広く知られているように、人工湿地は、浮遊物質、栄養物、重金属の除去に効果的で、環境へのダメージを最小限に抑えることが知られています。また、年間1ヘクタールあたり1トンから10トンの炭素を隔離し、生物多様性を創出することで、気候変動を緩和する可能性もあります。Majed教授は、以上の観点から、人工湿地の利用が、特に開発途上国において、産業の拡大と気候変動の影響に直面するなかで、非常に有効な戦略的技術となっていると結論づけました。

発表を行うProfessor Nehreen Majed
発表を行うProfessor Nehreen Majed

第2部では、最初に、Dr. Nguyen Thi Thuong(立命館アジア・日本研究所 専門研究員)が登壇し、“Constructed Wetlands Planted with Iris for Mine Drainage Treatment: Effects of Domestic Wastewater-Feeding on Removal of Multiple Heavy Metals”と題して発表を行いました。Dr. Thuongの発表は、生活排水と酸性の鉱山廃水から重金属を除去するための人工湿地の利用について議論するものでした。彼女の研究発表は、①重金属除去のためのこれらのシステムの処理性能を評価すること、②重金属除去におけるガマ(cattail)とアヤメ(iris)の植物の使用効果を比較すること、③人工湿地における重金属除去の経路を明らかにすること、などを目的としています。結果として、人工湿地は排水内のpHを増進し、溶解金属、硫酸塩、および有機/栄養汚染物質を除去するのに有効であることが示されました。また、人工湿地に花菖蒲などの観賞植物を利用することで、美しい景観や経済価値を生み出すことができることも提案されました。

発表を行うDr. Thuong
発表を行うDr. Thuong

次に、Dr. Obey Gotore(秋田県立大学 専門研究員)より、“The Applications and Performances of Biochar in Constructed Wetlands for Sustainable Wastewater Treatment”と題して発表が行われました。Dr. Obeyの研究発表は、廃水処理に人工湿地を利用する利点について強調するものでした。特徴的なのは、鉱山廃水処理のために、人工湿地の基盤としての農業副産物 (トウモロコシの芯)をリサイクル利用する点を示したことです。Dr. Obeyは、人工湿地でのバイオ炭トウモロコシの使用が栄養素と有機除去に対して有効に働くことを示しました。結論として、バイオ炭トウモロコシを利用する人口湿地では、排水除染のための費用対効果が高く、環境に優しい方法であり、後発開発途上国内の辺鄙な地域に適していることを強調しました。加えて、Dr. Obeyは、将来的に、鉱山排水処理にイオ炭トウモロコシを基盤とするシステムを利用する必要があると提起しました。

発表を行うDr. Obey
発表を行うDr. Obey

次に登壇したDr. Dissanayaka Mudiyanselage Shiromi Himalika Dissanayaka(スリランカ・ラジャラータ大学 農業工学・土壌学部准教授)は、“Constructed Wetlands:An Environmentally Friendly Approach to Treating Wastewater: A Review”と題して発表を行いました。発表では、異なる湿地植物を組み合わせた人工湿地による環境修復(phytoremediation)と、微生物を用いた汚染物質の除去についての研究報告が行われました。研究結果からは、湿地植物が様々な微生物の成長を促す大量の生物膜を生み出し、そのことが廃水中で働く植物と微生物の効果の発現に関係することが示されました。こうした研究結果から、廃水処理に際して微生物と植物が生み出す相乗効果を理解していく必要性が示されました。

発表を行うDissanayaka准教授
発表を行うDissanayaka准教授

最後の発表には、Dr. Tang Van Tai(ベトナム・ヴァンラン大学工学部 講師)が登壇し、“Novel Advanced Porous Concrete in Constructed Wetlands: Preparation, Characterization and Application in Urban Storm Runoff Treatment”と題する発表を行いました。発表では、豪雨によって流出した雨水から汚染物質を除去するフィルターとして使用される、一般的な多孔質のコンクリート版と先進的なコンクリート版について研究結果が報告されました。彼の研究では、多孔質なコンクリートのうえで湿地植物が非常によく育つことが発見されたとともに、先進的な多孔質コンクリート版に基礎をもつ人工湿地は、一般的なものに比べて、処理性能が良好な人工湿地の形成につながることが示されました。発表の結論では、人工湿地のために先進的な多孔質コンクリート版が、都市部の雨水の流出から汚染物質を除去するための有望な代替技術であることが明らかにされました。

発表を行うDr. Tang Van Tai
発表を行うDr. Tang Van Tai

以上の2つのセッションの後、全体討論を行いました。全体討論では、発表者の間で活発かつ有益な意見交換が行われ、また、聴衆からも多くの興味深い質問やコメントが示されました。また、国際的な学術研究のプラットフォームの形成を推進し、今後さらに連携を強化していく必要があることが参加者の間で共有されました。

全体討論の様子
全体討論の様子

最後に、惣田訓教授(立命館大学大学院理工学研究科)より講演者、参加者、主催者に対する謝意が送られるとともに、開発途上国における廃水処理の重要性と汚染水処理の課題が改めて強調されました。また、こうしたワークショップが国際協力とイノベーションを促進し、世界の水質汚染問題の解決に結びついていくという点に関してもお話いただきました。全体として非常に濃密かつ有意義な研究交流の場になりました。