NEWS

2024.03.22

【レポート】国際コロキアムを開催しました!“Cross-Cultural Communication and Cohabitation among Multilinguistic Societies in Asia and the Pacific”

 2024年2月26日 (火) 、第5回国際コロキアム“Asian Paths of Civilization and Development: Promoting Post-COVID International Collaboration”を開催しました。本コロキアムは、2つの部に分かれ、2日間にわたって開催されました。第1セッションとして、“Cross-Cultural Communication and Cohabitation among Multilinguistic Societies in Asia and the Pacific”を開催しました。

 本コロキアムには、日本を含む6か国から多様な専門とバックグラウンドを持つ研究者が参加しました(インドネシア、マレーシア、韓国、パキスタン、オーストラリア)。開会に先立って、立命館大学アジア・日本研究所所長である小杉泰教授から参加者一人ひとりへの歓迎の意が述べられました。また、小杉所長は、第1セッションに関わる課題として、グローバル化によって、世界が画一化するのではなく、ますます宗教的、文化的な差異が先鋭化するなかで、コミュニケーションのあり方や共存のあり方を追求することの重要性を強調しました。くわえて、イスラーム経済をテーマとして扱う第2セッションに関わる課題として、現在の経済システムを超えるオルタナティブの経済思想・実践としてのイスラーム経済を明確に理解し、地域固有の発展のあり方を追求していくことの重要性にも話が及びました。

開会挨拶を行う小杉泰教授
開会挨拶を行う小杉泰教授

本セッションの司会は、竹田敏之准教授(立命館アジア・日本研究機構)が務めました。

司会の竹田敏之准教授
司会の竹田敏之准教授

 1人目の発表者として、Dr.李眞惠(立命館大学衣笠総合研究機構 助教)が登壇し, “Linguistic Challenges in Belonging: Russian-Speaking Korean Diaspora's Return and Education in South Korea”と題して発表を行いました。Dr.李は、旧ソ連におけるコリアン・ディアスポラ(朝鮮系住民)であるコリョ・サラムの現地での共存・社会統合の問題や、彼ら/彼女らの歴史的祖国である韓国本国への帰還に伴う社会統合の問題を専門としています。本発表では、ロシア語の使用集団であるコリョ・サラムの韓国への帰還を取り上げ、その際に生じる統合の問題に焦点が当てられました。Dr.李の発表では、とくに、韓国に帰還したコリョ・サラムの児童に韓国政府が提供する公教育では、子ともたちの低い学業成就度、バイリンガルの教員の不足、韓国語の言語教育に篇中した点などの教育のシステム上の問題などが示されました。ロシア語を母語としてきたコリョ・サラムには、韓国語ができるだけでなく、ロシア語を通じて韓国語を教えることができる教育スキルが要求されます。また、中央政府の地方政府に対する優位が地方政府の予算編成の限界を生んでいること、コリョ・サラムの児童教育のためのプログラムの持続性の問題が残されており、これはコリョ・サラムの選挙権不在ともつながることであると指摘されました。Q&Aでは、韓国内の地域自治体ごとにコリョ・サラムへの教育政策のスタンスが異なるかどうか、コリョ・サラムの帰還が韓国に与える問題などの質問が投げかけられ、活発な討論が展開されました。

発表を行うDr.李眞惠
発表を行うDr.李眞惠

 次に、キム・ソヨン(Soyeon Kim)氏(オーストラリア・モナーシュ大学 博士後期課程)が“Family Language Policy of Cross-Cultural Families in Australia and South Korea”と題して発表しました。彼女は、現在(発表当時)、異なる言語話者間で国際結婚をし、子どもをもつ家族内で行われる使用言語の選択や決定要因などに関する実証研究に関する博士論文を執筆中です。発表では、主に、英語話者と韓国語話者の関係の場合、どういった言語選択が行われる傾向があるのかという問いが焦点化されました。多くの場合、ホスト社会や将来性を考えて英語が選ばれますが、英語とともに韓国語を選ぶケースも増えつつあることが指摘されました。しかし、それでも、家庭内の第二言語として韓国語が選択されるかどうかは、家庭を取り巻く社会環境、夫婦間に存在する言語観、母親側にどこまで子どもへの言語教育が任せられているかどうかなどの複数の要因が関係していることが明らかにされました。Q&Aでは、キム氏の分析枠組の適用範囲や子どもの年齢が言語選択に与える影響などについて、参加者との間で活発な議論が交わされました。

発表を行うキム・ソヨン氏
発表を行うキム・ソヨン氏

 3番目の登壇者であるジュナイニー・カスダン(Junaini Kasdan)准教授(マレーシア国際イスラーム大学 准教授)は、“Understanding Cultural Disparities in Communication: Lessons Learned from Teaching Malay as a Second Language”と題する発表を行いました。ジュナイニー准教授は、効果的な言語教授法について研究を行っており、発表では、マレー語(とインドネシア語)の習得を効果的にする重要な要因として、現地の実際の文化的実践(食事、料理、お茶)が取り上げられました。発表では、マレー語を学ぶにしても、マレーシア、インドネシア、あるいはブルネイなどで使われている異なるマレー語系言語を学ぶ際に、名前につく敬称の意味合い、名前の呼び方、食事のマナー、お茶の多様な呼び方など、社会ごとに異なるニュアンスがあることが強調されました。そうした差異のことを知らないと、ときにコミュニケーション上の摩擦を引き起こす可能性があります。こうした文化間の差異への感覚を養いながら言語を習得するためには、具体的な現地社会における生活実践のなかで言語を学ぶことは非常に効果的であることが示されました。Q&Aでは、インドネシア語とマレー語の間の語彙の意味の違いや厚音の複雑な違いについて、参加者との間で、経験談を交えながら活発な議論が交わされました。

発表を行うジュナイニー准教授
発表を行うジュナイニー准教授

4番目にオンラインから登壇したDr.ヒナ・ジャムシェド(Hina Jamshed)(パキスタン・サヒワル国立大学 助教)は、“Words Without Borders: The Power of Urdu in Multiculturalism”と題して、どのようにウルドゥー語の使用を再評価しうるのかということについて発表をしました。発表では、パキスタンやインドで話されるウルドゥー語は、その言語の意義や歴史的な懐の深さが見えなくなっていることが問題として取り上げられました。Dr.ヒナは、様々なウルドゥー語で書かれた詩や寓話作品などを取り上げ、ウルドゥー語が歴史的に多様な宗教的・文化的な影響を取り込みながら形成されたことを強調しました。そうした歴史的過程のなかで、ウルドゥー語は、人間性、愛、正義などの普遍的な価値に通じる豊富な表現を保存・継承してきました。発表では、多様な文化が錯綜する南アジア社会のなかで、ウルドゥー語が一つの重要なコミュニケーションのための支えになりうることが指摘されましたQ&Aでは、パキスタンの大学でのウルドゥー語の使用者の規模や、ウルドゥー語を再評価するために現在なされている具体的な政策や実践などに関して有意義な議論が共有されました。

発表を行うDr.ヒナ・ジャムシェド
発表を行うDr.ヒナ・ジャムシェド

 本セッションの最後の登壇者としてDr.須永恵美子(東京大学附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門 特任研究員)が“Living with English as a Common Language: Multilingual Societies and Language Education in South Asia”と題して発表を行いました。Dr.須永の発表では、パキスタンにおける多言語使用状況のなかでの言語教育が直面する問題が取り上げられました。パキスタンでは、公用語として英語が使用され、ウルドゥー語が国語として位置づけられています。また、そのほかにもパンジャーブ語やスィンディー語などの多様な言語が使用されています。この多言語状況のもとで、英語とそのほかの言語との共存が問題となっています。発表では、パキスタンでは、国際語であり、公用語である英語の使用は、社会的地位の上昇にとって必須のものとなっており、学校教育においてウルドゥー語の保存よりも優先されていることが指摘されました。Q&Aでは、英語を学ぶ動機の背景となる今日の社会状況だけでなく、歴史的な背景や多言語状況のなかで要求される公的な言語教育政策と何かについて活発な議論が交わされました。

発表を行うDr.須永
発表を行うDr.須永

 以上の多様なテーマを扱うことを通じて、本セッションでは、言語使用を取り巻く多元的な問題状況が浮き彫りになりました。また、同時に、様々な言語使用の状況が直面する問題を共有することで、新たな視角やヒントを得ることができることが示されました。当日、ご参加いただいた皆様には改めてお礼申し上げます。

当日の会場の様子
当日の会場の様子