NEWS
2024.07.18
第70回AJI研究最前線セミナー開催! Dr. トリシア・ウィジャヤ:“Pivotal Power of Small States to Save the International Liberal Economic Order: The Case of Indonesia”
2024年7月9日 (火)、第70回AJI研究最前線セミナーをオンラインで開催しました。今回は、Dr. トリシア・ウィジャヤ(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員)が“Pivotal Power of Small States to Save the International Liberal Economic Order: The Case of Indonesia”と題して発表を行いました。
Dr. ウィジャヤは国際政治経済学を専門としており、米中貿易摩擦をはじめとする大国間の競合関係に大きく左右される現代の地政学的経済秩序のなかで、小規模・中規模国家が世界秩序を形成するうえで果たす積極的な役割に焦点を当てて研究を行っています。彼女は、インドネシアを事例として取り上げ、とくに2010年以降、同国が自由貿易協定を一貫して重視する戦略を通じて、いかにリベラルな国際経済秩序の維持と発展に重要な役割を果してきたのかについて、非常に興味深い発表を行いました。
Dr.ウィジャヤは、国際政治経済学の学問分野における世界秩序分析の軸が米国や中国などの大国間の競合関係に置かれており、国際社会における小規模国家の役割が見落とされていることを指摘しました。同時に、小規模国家についての研究があったとしても、小国がリスク回避の行動を取るという前提で研究が行われてきたという問題点が指摘されました。しかし、彼女は、インドネシアのような小国はリスクを冒す行動を展開し、期せずしてリベラルな国際経済秩序の維持と発展に貢献してきた点を強調しました。
実際に、インドネシアは、ASEANや、東アジア地域包括的経済連携 (RCEP) やインド太平洋経済枠組み (IPEF) など、いくつかの地域的な自由貿易協定の枠組みに参加しています。その一方で、インドネシアは、他の中規模国家との様々な戦略的連携を通じて地政学的リスクを軽減しつつ、これらの既存の枠組みを活用して国家の発展のためのアジェンダを追求することに成功しています。
また、この背景には、インドネシアがニッケル生産において世界最大の国であることも働いている。よく知られてるように、ニッケルは、電気自動車 (EV) に使用されるバッテリーに必要な重要な鉱物の1つです。インドネシア政府は、未加工のニッケルの輸出を禁止し、自国の雇用を創出し、付加価値の高い輸出を促進するために、国内の加工・精製産業の開発を義務づけました。同時に、EV車の普及に向けた政策を推進しています。しかし、こうした国内産業保護政策は、中国関連企業のニッケル製品の輸入を制限しようとする米国からの影響力の増大を招いてもきました。このような大国間の貿易摩擦のなかで、インドネシアは、自国の産業を保護しつつ、国際自由貿易協定の枠組みに積極的に参加し、その枠組みを再構築することによって、これらの大国の影響力のもとで独自の舵取りを行い、リベラルな国際経済秩序のなかで独自の地位を確保しようとしてきたのです。
質疑応答では、上述のような経済戦略を採用する背景となったアジア通貨危機やリーマン・ショック以降の世界経済のなかのインドネシアの歴史、「リベラルな国際経済秩序」という概念と政治的自由主義との違い、世界経済における今後のインドネシアの重要な役割など、多岐にわたる活発な議論が行われ、Dr.ウィジャヤはそれぞれの質問に的確に答えました。
発表を行うDr.トリシア・ウィジャヤ
過去のAJI最前線セミナーについては以下のリンクからご覧いただけます。
https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/young_researcher/seminar/archive/