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2024.08.08
【レポート】 AJI国際ワークショップ開催!“The AJI International Workshop was held! “Perspectives of Wastewater Treatment Technology for Sustainable Pig Farming: Comparison of Problem Structures in China, Japan, and Vietnam”
8月3日(土)、立命館大学アジア・日本研究所(AJI)の主催で国際ワークショップ “Perspectives of Wastewater Treatment Technology for Sustainable Pig Farming: Comparison of Problem Structures in China, Japan, and Vietnam”を開催しました。本ワークショップには、日本、中国、タイ、ベトナムなどアジア各国の大学から7名の発表者が参加し、また、各国から多様な方々にご聴講いただきました。ワークショップは2部に分かれ、第1部ではDr. Nguyen Thi Thuong(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員) 、第2部ではDr. Rongxuan Wang(同 専門研究員) が司会を務めました。
開会に際して、小杉泰教授(立命館アジア・日本研究所 所長)より開会の挨拶が行われました。小杉教授は、国内外から発表者や参加者への歓迎の言葉を述べたあと、AJIの紹介と学術的な使命についても強調しました。くわえて、本ワークショップの目的について話した部分では、アジア全体の畜産業の持続可能な発展を達成する上での廃水管理の重要な役割を強調しました。最後に、今後も研究者間の連携を深めていくことの重要性について呼びかけました。
開会挨拶を行う小杉泰教授
第1部では、まず、Dr. Rongxuan Wangが “Insights into the Removal of Pollutants by Various Treatment Technologies from Swine Wastewater in China”と題して、中国における養豚の現状と豚舎汚水に対する種々の廃水処理技術の応用可能性について論じました。Dr. Wangは、嫌気性自然処理および複合処理を含む、異なる廃水処理プロセスを利用したいくつかの大規模な事例研究を行っています。また、中国の養豚産業の持続可能な発展を実現するために、豚舎廃水処理のためのグリーン技術の実施の課題と展望について報告が行われました。
発表を行うDr. Wang Rongxuan
続いて、Dr. Dan A(中開農工大学 准教授)が“Optimization of Substrate-Plant Combinations in Horizontal Subsurface Flow Constructed Wetlands and Their Microbial Responses: Enhancement of Livestock Wastewater Treatment and Greenhouse Gas Emission Reduction“と題して発表を行いました。Dr. Danの研究では、家畜廃水を浄化し、それらの温室効果ガスの流れを測定する能力について、水平地中流人工湿地(CWs)の6つの異なる基質植物の組み合わせを評価しています。また、16S rRNA遺伝子配列決定と分子生物学的分析によって、これらのCWsにおける家畜廃水浄化と温室効果ガス排出削減に影響するメカニズムを解明することを目指しています。Dr. Danが行った実験では、有機物と窒素はCWsにより効果的に除去されました。特に、セラムサイト砂とダンドク(Canna indica)を特徴とするCWsは廃水処理と温室効果ガス削減の両方で最高度の効果を示しました。
報告を行うDr. Dan A
次に、Dr. Obey Gotore(秋田県立大学 専門研究員)が “Challenges of Veterinary Antibiotic Pollution from Swine Farms and Possible Wastewater Treatment Options”と題する発表を行いました。Dr. Gotoreは、日本の畜産業において抗生物質が使用される現状と豚舎廃水からの抗生物質汚染の危険性を概説することから始めました。そのうえで、豚舎廃水中の抗生物質の処理に適用されてきた様々な方法について検討し、獣医用抗生物質の残留物は従来の方法では容易に除去できないという問題点を示しました。Dr. Gotoreは、吸着(adsorption)を含む最新技術がこうした残留物の除去にとって有望であることを提案し、活性マンガン種とバイオ炭を組み合わせた吸着法を用いた豚舎廃水からの抗生物質の除去が従来の方法よりもうまくいったことを示す彼の研究グループの研究結果を示しました。
発表を行うDr. Obey Gotore
第1部の最後の発表者には、Dr. 石本史子(静岡県畜産技術研究所 中小家畜研究センター 資源循環科 上席研究員)が “Current Status and Issues in the Treatment of Swine Wastewater in Japan:Towards the Development of an Innovative Nitrogen Removal Process Using Anammox”と題する発表を行いました。Dr.石本は、まず、日本の養豚の構造と排水管理の変遷を紹介し、中国、タイ、ベトナムなどの国では1~100頭規模の小規模農場が主流であるのに対し、日本では300~500頭規模の中規模農場と501~3000頭規模の大規模農場が主流であることを指摘しました。これらの日本以外の国では廃水処理に嫌気性消化技術が主流であるのに対し、日本では活性汚泥などの好気性処理が主流となっています。しかし、これらの方法による窒素除去効率は不安定であり、アナモックス・バクテリアを使った新しい窒素除去プロセスを使って、養豚廃水を処理することを提案しました。実験結果では、この方法による窒素除去効率の有意な増加と電力消費の低減が実証されています。
発表を行うDr. 石本史子
第2部では、最初に、Dr. Nguyen Thi Huong Giang(ベトナム国立農業大学上級講師)が“Challenges of Recycling Swine Wastewater in Vietnam to Approach a Circular Economy”と題して研究発表を行いました。彼女は、他分野での経済活動においても廃水リサイクルを促進することを目的とした、ベトナムの豚舎廃水管理に関する研究の総合的分析について報告しました。こうしたアプローチは、廃棄物の削減と水資源の持続可能な利用に貢献するものである。彼女の研究は、科学的証拠と実践から得られた様々な結果に基づいて、家畜廃水の再利用における重要な課題を特定するものです。また、彼女の分析では、農業の特性、気候条件、廃水処理技術、および農業における循環経済のための実践を現在の規制と政策と合わせて焦点を当てています。そのうえで、Dr. Nguyenは豚舎廃水と家畜廃棄物全般の再利用に関する具体的な政策と規制について提案する報告を行いました。
報告を行うDr. Nguyen Thi Huong Giang
次に、Dr. Ramesprabu Ramaraj(タイ・メージョー大学 准教授)は、“Achieving Carbon Neutrality through Anaerobic Digestion: A Study on Biogas Production from Swine Wastewater and Grass Silage”と題する発表を行い、養豚における廃水処理とバイオエネルギー生産のための嫌気性消化の利用について論ました。彼の研究は、特にゾウグラスサイレージと堆肥を使用した共消化が、有機物の分解とガス生産を促進することを強調しています。また、彼は、タイ、中国、日本、ベトナムで豚舎廃水の管理と処理に用いられている方法を比較調査し、これらの地域における最新の進歩と効率的な方法に焦点が当てられました。彼の研究は、堆肥を効率的にバイオガスに変換し、それによって環境への影響を減らし、再生可能エネルギーの取り組みを促進することによって、養豚における持続可能性を促進することを目指すものです
発表を行うDr. Ramesprabu Ramaraj
最後に登壇したDr. Nguyen Thi Thuongは、“Swine Wastewater Treatment Management in Vietnam: A Sustainable Approach Using Constructed Wetlands”と題する発表を行いました。彼女は、最初に、ベトナムにおける養豚産業と憂慮すべき廃水汚染状況について紹介してから、ほとんどの豚舎廃水が嫌気性消化によって処理されている事実に注目して、ベトナムの養豚廃水を処理するために使用される方法について概観しました。そのうえで、彼女は、処理後の廃水には排出基準を満たさない高濃度の汚染物質が含まれていることを指摘しました。これに対処するために、彼女はポストバイオガス廃水処理のためのグリーン技術としてCWsを使用することを提案し、簡単な操作、低コスト、高い生物多様性の価値などの利点を強調しました。また、彼女は自身の研究結果を発表し、ハマグリの殻で満たし、Ubon Paspalumを植えたCWsを用いた豚舎廃水の処理の有効性を示すことで、この処理システムの実践的な価値を明らかにしました。
発表を行うDr. Nguyen Thi Thuong
以上の研究発表の後、報告者と参加者を含めた総合討論を行いました。参加者からも多くの有意義な質問やコメントが提起されたことで、活発な議論が交わされました。さらに、報告者の間でさらなる国際的な学術的プラットフォームを広げ、将来の協力を強化していくという認識も共有されました。
閉会挨拶では、惣田訓教授(立命館大学理工学部)から、今回のワークショップの開催と成功について、報告者、参加者、主催者への感謝の言葉が述べられました。また、惣田教授は、各報告の要点をまとめ、アジア諸国における豚舎廃水処理管理の重要性、および、国際的な協力によって世界的な家畜廃水汚染問題に取り組むためのイノベーションを推進できることを強調しました。最後に、惣田教授は、すべての参加者の今後の研究の発展を願い、また、このテーマに関してさらに国際的な協力関係を広げていきたいとの期待も参加者へと伝えられました。
閉会挨拶を行う惣田訓教授
最後に、本ワークショップに貢献してくださったAJI主催者、講演者、参加者の皆様に改めて深く感謝申し上げます。