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2025.01.17

【レポート】Asia Pacific Conference 2024に研究所から3つのパネルが参加しました!

2024年11月30日(土)から12月1日(日)にかけて、Asia Pacific Conference 2024が別府市にある立命館アジア太平洋大学にて開催されました。今回は、アジア・日本研究所(AJI)を軸とした3つのパネルでの研究発表を行いました。以下は、パネルごとの報告です。


カンファレンスに参加したAJI関係の参加者とともに記念撮影

●Sustainability, Environmental Preservation, and Livelihood Development
●How Can Human and Artificial Intelligences Merge? Visions of Western and Non-Western Philosophical Perspectives
●Japanese Studies Beyond Dichotomies, between the Global and the National, Pre-War and Post-War, and Identity and Diversity

Sustainability, Environmental Preservation, and Livelihood Development

【発表者および発表タイトル】
  
・司会:Dr. Ho Thanh Tam(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員)
・Dr. Rongxuan Wang (立命館アジア・日本研究機構 専門研究員):“Grey Wastewater Treatment Using Trickling Filters and Constructed Wetlands: Removal of Organic Matter, Nutrients, and LAS”
・Dr. Nguyen Thi Thuong(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員):“Seashell-Enhanced Constructed Wetlands: A Sustainable Solution for Mine Drainage Treatment”
・Ms. Tran Huynh Bao Chau(岡山大学 博士後期課程):“Flooding and Depopulation: Villagers’ Strategies for Flood Adaptation in a Traditional Pottery Village, Central Vietnam”
・Dr. Ho Thanh Tam:“Sustainable Agriculture of Rice and Its Promotion Policies in Asian Countries: Considering the Area-Specific Dynamics from a Farming Perspective”

【パネル概要】
地球規模で急激な変化が進む現代において、環境の持続可能性、資源管理、生計の創出の間の複雑な関係性を理解することが不可欠です。このパネルの発表者の研究は、環境、特に水資源を保護するための統一的な取り組みであり、地球環境にとって重要な意義を持つとともに、世界の今後の繁栄への戦略的なステップでもあります。まず、Dr. Wang Rong Xuanは、散水フィルターと人工湿地を組み合わせた新しい処理システムについて紹介しました。このシステムは、金属や病原体を含む灰色廃水を効果的に処理するものです。次に、Dr. Nguyen Thi Thuongは、鉱山排水処理における人工湿地の基質として貝殻を活用する可能性に関する発表を行いました。彼女が採用するエコロジカルなアプローチは、貝殻廃棄物の環境負荷軽減と廃水処理コストの削減を同時に実現する可能性を持っています。続いて、Tran Huynh Bao Chau氏は、ベトナム中部の史跡に指定された過疎化が進む伝統的陶器村における農村生活と住民の洪水への適応戦略について調査結果を報告しました。最後に、Dr. Ho Thanh Tamが、日本と東南アジア(タイ、ベトナム)における持続可能な稲作の現状と推進政策について発表を行いました。

パネルセッションに登壇した4名の講演者(右から:Dr. Ho, Dr. Thuong, Ms. Tran, Dr. Wang)
パネルセッションに登壇した4名の講演者(右から:Dr. Ho, Dr. Thuong, Ms. Tran, Dr. Wang)

【各報告の概要】
  
最初の発表者のDr. Wangは、“Grey Wastewater Treatment Using Trickling Filters and Constructed Wetlands: Removal of Organic Matter, Nutrients, and LAS”(「散水ろ過システムと人工湿地を用いた灰色廃水の処理:有機物、栄養素、LASの除去」)と題した発表を行いました。

 まず、東南アジアなどの地域で分散型廃水処理施設への需要が高まっている現状を紹介しました。次に、彼は、散水ろ過器技術についての説明に行いました。この技術は、電力消費が極めて少ないが、処理水の品質は中程度にとどまるという問題点が指摘されました。一方、人工湿地は、通気力が弱いものの、基質、微生物、植物の相互作用により栄養素を除去できる点で有効です。Dr. Wangの研究は、金属や病原体を含まない灰色廃水の処理のため、散水ろ過器と人工湿地を組み合わせたシステムを開発しました。彼の研究の目的は、(1)有機物、栄養素、およびアニオン界面活性剤の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸(LAS)の除去効果の検証と、(2)人工湿地における微生物群集の働きを評価することです。実験では、廃棄ガラス瓶と貝殻をリサイクルして製造したガラスフォームを基質として使用するものでした。人工湿地には、東南アジアで一般的で栄養吸収力の高い空芯菜を植える予定である点も示されました。このシステムは廃水処理と食料生産を同時に実現できる分散型システムであり、東南アジア諸国での将来的な応用が期待されます。

 2人目の講演者であるDr. Nguyen Thi Thuongは、“Seashell-Enhanced Constructed Wetlands: A Sustainable Solution for Mine Drainage Treatment”(「貝殻強化人工湿地:鉱山排水処理のための持続可能なソリューション」と題する発表を行いました。

 Dr. Thuongは、廃棄された貝殻の現状と廃水処理における再利用の可能性について研究成果を紹介しました。彼女の研究の主眼は、貝殻が鉱山排水処理用の人工湿地の基質として効果的に機能するかを評価することです。実験では水産業の副産物であるカキの殻を人工湿地に充たし、多年草のガマを植えた区画と未植栽の区画を設けました。比較対照として、石灰岩を満たした人工湿地でも鉱山廃水の浄化効果を調査しました。実験では、pH4.0で亜鉛(Zn)7.2 mg/L、鉄(Fe)40.0 mg/Lを含む合成および実際の鉱山廃水を、連続バッチモードで人工湿地に供給しました。結果として、4か月半の実験期間中、すべての人工湿地は亜鉛を92.2~99.0%、鉄を99.0~100%除去する高い効率を示しました。処理水のpH値は6.9~8.3の範囲で推移し、pH値の上昇に伴い重金属の除去率も向上したのです。特に植栽区では、硫酸塩濃度の低下と硫酸塩還元細菌の存在が確認され、植物根圏での硫化物形成による金属除去の促進が示されました。カキ殻ベースの人工湿地が示した高い金属除去効率は、高い有用性を示唆するのです。本研究は、廃水処理コストの削減と貝殻廃棄物の環境負荷軽減を同時に実現するエコロジカルなアプローチを示すものです。

 3人目の講演者、Tran Huynh Bao Chau氏は、“Flooding and Depopulation: Villagers’ Strategies for Flood Adaptation in a Traditional Pottery Village, Central Vietnam”(「洪水と過疎化:ベトナム中部の伝統的な陶器村における住民の洪水適応戦略」)と題した発表を行いました。発表では、洪水多発地域の住民が独自の方法で洪水への対策や準備を行ってきた現状が報告され、過疎化による人材不足、男女不均衡、地元の知識の弱体化によって、これらの地域固有の対処方法が損なわれる可能性について議論されました。

 彼女の研究は、ベトナム中部の歴史的遺跡に指定されている過疎化した伝統的な陶器村における洪水適応戦略を調査したものです。この村では伝統的な陶器生産の衰退によって地域経済が悪化し、若者の流出が進んだため、2009年にコミュニティベースの観光政策が導入されました。彼女を含む研究チームは、意図的サンプリングの手法で選定された地方当局と住民に対して、主要な情報提供者へのインタビューとグループ・ディスカッションを実施しました。こうした調査から、洪水と過疎化には直接的な関連はないものの、高齢者は家族関係を基盤とした十分なレジリエンスを有することが証明されました。また、この伝統的な陶器村では社会構造と生計手段が大きく変化し、村人たちは地域特有の環境と歴史を活かして洪水リスクの軽減だけでなく、洪水から便益を得る方法も確立してきました。現在、地域住民はグループでコミュニティベースの観光プログラムに参加し、短期的な利益を目指していますが、こうした方法は過疎化を止める決定的な解決策とはなっていないのが現状です。気候変動の影響で異常降雨がいつでも発生する可能性があり、古い家屋は定期的な点検とメンテナンスが行われていない場合、深刻なリスクをはらんでいます。住民は、洪水時の避難指示に従う意向を示しているものの、壊滅的な洪水が発生した場合の避難所の所在について主な懸念が残っています。さらに、長い間故郷を離れている若い世代が将来帰郷しても、地域の伝統的な知識が失われているため、適応が困難になるだろうという予想も示されました。

 最後の講演者であるDr. Ho Thanh Tamは、“Sustainable Agriculture of Rice and Its Promotion Policies in Asian Countries: Considering the Area-Specific Dynamics from a Farming Perspective”‘「アジア諸国における持続可能な稲作農業とその推進政策:地域特性に基づく農業的視点からの分析」」と題した発表を行いました。彼女は、持続可能な農業、特に稲作が、グローバルな課題解決策として重要性を増していることを示しました。具体的な対策に必要な項目として、気候変動を緩和するための炭素隔離、収穫量向上のための土壌肥沃度の改善、農家収入の増加による農村部の貧困の削減、そして健康的で安全な食品への社会的要求への対応が挙げられます。

 これらを踏まえ、彼女の研究では、日本、ベトナム、タイの3カ国における持続可能な稲作農業の現状と発展、および関連する推進政策を比較分析しました。研究結果から、持続可能な稲作農業に対する農家の選好と採用状況は国によって異なることが明らかになりました。この差異は主に、各国政府が実施する推進政策の違いに起因するものです。また、持続可能な稲作が農家収入に与える影響も国ごとに異なることが判明しました。

 Dr. Hoの研究は、持続可能な農業の複雑なダイナミクスについて重要な知見を提供し、持続可能な稲作を促進するためには、各国の状況に応じた柔軟なアプローチが必要であることを示唆しています。

“How Can Human and Artificial Intelligences Merge? Visions of Western and Non-Western Philosophical Perspectives”

【発表者および発表タイトル】
・司会:Dr. Nobuyuki MATSUI(松井信之、立命館アジア・日本研究機構 准教授)
・Dr. Nobuyuki MATSUI:“Does Artificial Intelligence Love Knowledge? Philosophical Investigations on ‘Chaos,’ ‘Externality,’ and Intellect as a Gift”
・Dr. Minseok KWAK(郭旻錫、京都大学 講師)
・Dr. Felipe Cuervo Restrepo(京都大学 博士後期課程):“The Body Virtual: Phenomenology and Subjectivity in Virtual Environments”

【パネル概要】
 本パネルには、松井信之(立命館アジア・日本研究機構 准教授)、(京都大学 講師)、Felipe Cuervo Restrepo(京都大学 博士後期課程)が参加しました。このパネルは、AIの急速な発展と私たちの情報交換や創造の場面への浸透を背景として、人間が何かを理解するとはどういうことなのかを多角的に捉えることを目的として組織されました。チェアは松井信之が務めました。まず、松井からパネルの全体テーマの導入的説明が示されました。そこでは、伝統的に「論理的であること」や時間的な因果関係のもとで把握されてきた歴史的プロセスなどの理解のモデルと、Stevan Harnadが示した「記号接地問題」の議論について言及がなされました。「記号接地問題」では、人間が身体感覚に基礎を持つ形で基本的な言語(記号)を獲得し、その後の抽象的な記号理解が可能になるのに対して、身体を持たないAIでは言語を使った理解をすることができないことが示されました。しかし、本パネルでは、今日の生成AIの出現などを前にして、単に人間と機械を分かつ境界線を明確化するだけでなく、人間自身が再度、理解するということについて再考することで、AIがグローバルな影響を持つ時代における人間の多様かつ自由な思考の営みとは何かを問う必要があるという方向性が示されました。

 導入に続いて、Dr.松井は、“Does Artificial Intelligence Love Knowledge? Philosophical Investigations on ‘Chaos,’ ‘Externality,’ and Intellect as a Gift”と題する発表を行いました。まず彼は、哲学史の中で、理性と対極的な位置にある感情、非合理性、無意識などへの注目が20世紀後半から高まってきたこと、そして、それと並行するかたちでAI技術が発達してきたことに着目する必要があると指摘しました。この過程の中で、理性的に思考する存在としての人間の特権的地位の基盤が徹底的に揺らぎました。また、今日ではAIを批判的に検討する文脈において感情を持つことが人間の根拠とされますが、20世紀後半の哲学では、「感情」はどちらかと言うと合理的な人間像に疑義を突きつけるという位置づけを持ってきました。Dr.松井は、人間を超えたもの(脱人間)に囲まれていることが人間の理解の条件であることを強調しました。その過程で、近年のアフォーダンス理論の発展や郡司ペギオ幸夫の「天然知能」をめぐる

発表を行うDr. Matsui
発表を行うDr. Matsui

 次に、Dr.郭旻錫が“On “Knowledge” in the Analects: Its Social-Philosophical Meaning”と題して発表を行いました。Dr.郭は、日本だけでなく、韓国の哲学史や中国哲学などの東アジア全体の哲学的動向を視野に収めた研究を行っています。今回、彼は、『論語』において何かを「知る」ということがどういうことなのかを哲学的に考察する発表を行いました。Dr.郭は、発表において、『論語』では「知識」を蓄積することではなく、人間関係のなかで展開していく「知る」という行為が重視されることを強調しました。論語の1節「朋有り遠方より来たる、亦た楽しからずや」はよく知られています。この節には、『論語』における「知る」という行為の基盤が人間関係にあることをよく示しています。また、Dr.郭は、『論語』において、自己や他者をよく知ることを中心に「知ること」がダイナミックに展開していき、様々な立場や視点から関係性を捉える理解のあり方が示されていることを論じました。

発表を行うDr. Kwak
発表を行うDr. Kwak

 最後に、Dr. Felipe Cuervo Restrepoが登壇し、“The Body Virtual: Phenomenology and Subjectivity in Virtual Environments”と題する発表を行いました。Dr. Restrepoは、もともとコロンビアやエストニアの大学院で哲学を収め、現在、京都大学大学院で日本哲学の研究を行っています。また、それだけでなく、分析哲学や記号論、また、ラテンアメリカ哲学など幅広い研究を行っています。今回の発表で、Dr. Restrepoは、デジタル化によるヴァーチャル空間の拡がり中で、ヴァーチャルなキャラクターや存在をそこにあるものとして理解するとはどういうことなのかを問いました。発表では、J・J・オースティンの言語行為論、和辻哲郎の風土論などを軸として、「世界」という暗黙の前提のなかで、私たちが物事に遭遇するという事態がまず最初に常に生じているということが強調されました。また、Dr. Restrepoによれば、こうした事態が「理解」に先立って私たちの思考の条件となっているがゆえに、「理解」の特権的な主体は存在しないということ、また、ヴァーチャルな対象物でさえも、その例外ではないことが指摘されました。

発表を行うDr. Felipe Cuervo Restrepo(写真前方)
発表を行うDr. Felipe Cuervo Restrepo(写真前方)

Japanese Studies Beyond Dichotomies, between the Global and the National, Pre-War and Post-War, and Identity and Diversity

【発表者および発表タイトル】
・司会:Dr. Ryo TSUNODA(角田燎、立命館アジア・日本研究機構 専門研究員)
・Dr. Marika TSUKAHARA(塚原真梨佳、立命館アジア・日本研究機構 専門研究員):“Significance of Home-Produced Weapons for the Japanese Defense Industry: An Analysis of Corporate Discourses on Developing the Japanese-Made FSX (Next generation Support Fighter) in the 1980s”
・Dr. Yusy WIDARAHESTY(立命館アジア・日本研究機構 専門研究員):“The Workers’ Self-Image as an Active Agent: Social Media and the Young Indonesian Labor Migration to Japan Phenomenon”
・Dr. Ryo TSUNODA:“Ideology and Social Movements of Ex-Soldiers in Postwar Japan: Focusing on the Issue of Military Pensions”

【セッション概要】
 このセッションでは、日本研究における多様なテーマと歴史的な時代を研究する研究者が、それぞれの観点から様々な論点を提示しました。それぞれの研究対象、時期は異なりながらも、相互に関連性がある論点が提示され、日本の複雑な歴史や社会の理解を深めることを目的としました。

本パネルの発表者(左から:Dr.角田、Dr.塚原、Dr. Yusyおよび竹田敏之教授(写真一番右)
本パネルの発表者(左から:Dr.角田、Dr.塚原、Dr. Yusyおよび竹田敏之教授(写真一番右)

 1番目の発表者であるDr.塚原真梨佳は、1980年代から1990年代初頭の、航空自衛隊の次期支援戦闘機(FSX)開発に関係した防衛産業界の動向について報告を行ないました。戦後日本の軍事技術開発に関する先行研究では、防衛省(庁)による防衛政策の歴史や大学などの科学者コミュニティにおける軍事研究を抑制する仕組みや論理が明らかにされてきました。しかし、軍事技術開発と兵器生産の担い手であるはずの防衛産業界は分析枠組みの外に置かれてきた。これに対しDr.塚原は、防衛産業企業関係者の言説を分析対象とし、彼らがいかにして日本の防衛に関与してきたのか、そしてなぜ一民間企業に過ぎない防衛産業企業が国防に協力するのかその行動原理を明らかにすることを試みるました。

 分析の結果、次期支援戦闘機開発において防衛産業が果たした役割と彼らの行動原理が以下のように明らかになりました。①防衛産業界は技術調査や開発、量産はもちろん企業間の交渉役など実務者としての役割を主に担っていたが、実際にはそれだけでなく、特に開発方法が検討されている段階で、兵器の開発方法や調達機種の選定という防衛政策や軍事戦略に関わる部分への意見を彼らの立場から強く主張する「国産開発推進派」としての役割も果たしていたこと、②彼らが国産開発を推進したのは自社利益の追求のみならず、自国産業における技術継承の重視や日本の防衛を担う防衛産業としての自負心といった要因があったことが明らかとなりました。

 以上の分析結果からDr.塚原は、防衛産業界は軍事技術開発の過程において単なる実務者や下請けといった役割を果たすのみならず、時に彼らの利害や理念に基づいて防衛政策や軍事戦略に関わる事柄についての意思決定に影響を及ぼすアクターであり、そして彼らの行動原理には、経済的利益の追求だけではなく、日本の自主防衛を担う立場に対する自負心や技術への自信といった技術者たちの信念や理想があったと結論づけました。

 次に、Dr. Yusyのプレゼンテーションでは、ソーシャルメディアがインドネシアの技能実習生に与える影響が議論されました。ソーシャルメディアは日本における技能実習制度へのポジティブなイメージを形成し、移住を促進する役割を果たしてきました。特に、Facebook、Instagram、YouTubeなどを通じて、実習生や卒業生が理想化された「日本の夢」を描き出すことで、若い世代の移住動機を刺激しているといいます。

 ソーシャルメディアは実習生にとって、心の癒し、成功の証明、自分を支えるための手段として機能している点が指摘されました。しかし、その華やかな投稿が現実の厳しい労働環境を覆い隠し、移住の現実と理想のギャップを広げる可能性があると懸念が示されました。こうした投稿は、ディアスポラ内外での「シミュラークル」として機能し、結果的にプログラムの普及を正当化する道具として利用されていると説明されました。

 最終的に、ソーシャルメディアが移住のプロモーションに寄与する一方で、実際の問題を覆い隠してしまう現状が指摘され、技能実習制度における本質的な課題への理解と改善の必要性が強調されました。

 最後に、Dr.角田の発表では、戦後の元兵士たちの組織である戦友会と軍人恩給に焦点を当て、戦後の課題に対する活動を検討しました。戦友会は主に親睦を目的とし、政治運動を避けましたが、軍恩連盟全国連合会(軍恩連)などの政治組織が軍人恩給の復活を目指し、ロビー活動を展開しました。戦前の軍人恩給は軍人とその家族の生活支援を目的とし、階級に応じた格差が特徴でした。戦後、GHQの指導下で恩給は廃止されましたが、1952年に制限付きで恩給が復活しました。

 軍恩連盟は軍人恩給のための政治的ロビー活動を行い、高官優遇を批判する声に対し、恩給を特権ではなく契約上の権利と主張しました。こうした軍人恩給と戦友会の関係性から①戦後民主主義と元軍人たちの複雑な関係性、②軍人恩給と戦友会活動の矛盾について指摘しました。