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2025.11.13

【レポート】AJI国際ワークショップ開催開催!“How Can We Speak of War Memories Today? Reflections from Academic and Artistic Perspectives”

2025年9月6日(土)、立命館大学アジア・日本研究所主催で国際ワークショップ“How Can We Speak of War Memories Today? Reflections from Academic and Artistic Perspectives”を開催しました。

本ワークショップでは、「戦後日本における戦争・軍事をめぐる記憶と表象」をテーマに学術研究およびアート実践の両領域で活動する研究者・アーティストを招聘し、それぞれの取り組みを紹介しました。戦後80年が経過し、戦争体験の継承が困難となる現在において、戦争記憶といかに向き合い語り直していくかという問題について、学術とアートという異なる方法による知見と実践を共有することにより、多角的に検討することを目的としています。

当日は、日本および台湾から5名の研究者とアーティストを迎え、各自の研究・制作実践の報告を行いました。

開会に際し、まず小杉泰教授(立命館大学アジア・日本研究所 所長)より開会の挨拶が行われました。小杉教授は、国内外から発表者や参加者への歓迎の言葉を述べたあと、AJIの紹介と学術的な使命について紹介しました。そして、戦後80年が経過すると同時に世界的に国家間の緊張関係が高まる中で、かつての戦争をいかに語り継いでいくかを検討する本ワークショップの問題意識の重要性についても強調しました。

開会挨拶を行う小杉泰教授
開会挨拶を行う小杉泰教授

1人目の報告者で、本ワークショップのモデレーターでもあるDr.塚原真梨佳(歴史社会学・映像作家)は、まず、自身の映像作家としての活動と作品を紹介しつつ、研究者とアーティストが一堂に会し、互いの知見を共有する機会として本ワークショップを企画した経緯と意図を説明しました。そして、自身の近年の研究成果を“ The Media History of ‘The Yamato Museum’: Focusing on the Role of Local Communities in the Construction and Inheritance of War Memories”と題し報告しました。Dr.塚原の報告は、広島県呉市における大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)建設をはじめとしたローカルな記憶を掘り起こす実践が、戦艦大和をめぐる文化ナショナリズムにどのような影響を及ぼしたのかを明らかにするものでした。発表では、呉市におけるローカルな記憶の再構築と発信が、1990年代以降全国的には沈降していた戦艦大和をめぐる語りを賦活させたことが指摘され、文化ナショナリズムの構築過程におけるローカルな共同体の主体的な役割が明らかにされました。

発表を行Dr. 塚原真梨佳
発表を行Dr. 塚原真梨佳

続く2人目の報告者Park GwangHong氏(社会学)は“Dialogue Between a Korean Researcher and a Former Japanese Soldier – Towards Mutual Understanding Beyond Tension and Discomfort”と題して、旧日本軍の元兵士たちへのインタビュー調査について報告しました。Park氏は、大日本帝国の植民地支配下にあった韓国出身者として元日本軍兵士たちにインタビューを行う際に感じる「緊張」と「違和感」に焦点を当て、戦時下における被害/加害のポジションが対立する者同士による対話の困難さと可能性について論じました。発表の中で示された、韓国人であるPark氏との深い対話を通じて、植民地責任や戦争責任についての姿勢や考え方が徐々に変化していった元日本軍兵士の事例は、戦争の記憶をめぐる立場の異なる者同士の対話の重要性を提起する発展的な論点となりました。

発表を行うPark GwangHong氏
発表を行うPark GwangHong氏

3人目の報告者Dr. Joachim ALT(日本学)は、“‘War Anime’ and Victimhood Narratives: What Makes Peace Education?”と題して、戦争アニメが戦後日本における平和国家イメージの構築や平和教育に対しいかなる影響を及ぼしたかについて報告を行いました。Dr. ALTは1971年から2023年までに日本国内で製作された70本の戦争アニメを分析し、原爆被害および空襲描写の変化や作中における日本の被害者意識のナラティブには通時的な変化が見られることを指摘しました。そして、戦争アニメが教育・感情・記憶の交差する重要な文化資源であるとしつつも、日本の戦争アニメは、日本人の被害のナラティブに傾倒しており、加害の記憶や他者の視点が描かれにくいこと、平和教育において戦争アニメを活用するには、そのバランスを見直す必要があることが提起されました。

発表を行うDr. Joachim ALT
発表を行うDr. Joachim ALT

4人目の報告者である前林明次教授(サウンドアーティスト)は、“Media Art as an Attempt to Recreate What Has Been Excluded from Public Spaces”と題して、サウンドインスタレーション作品「103.1db」(2013)およびAR作品「AR朝鮮人追悼碑」(2024)について報告しました。「103.1db」は、在沖米軍基地周辺で採録されたヘリや戦闘機の音が4台のスピーカーによって暗闇の中で再現される音響作品です。また「AR朝鮮人追悼碑」は、2024年に群馬県高崎市群馬の森で朝鮮人追悼碑が行政によって撤去されたことを受け、AR技術を用いて撤去された追悼碑を仮想空間に再構築する試みです。Prof. 前林は、これらの作品の制作過程の紹介とともに、メディア・テクノロジーを用いたアートによって、現実を再構築し場所の記憶を想起させることが可能なのではないかと、戦争の記憶を語る上でのアートの発展的な意義について論じました。そして、国際関係の悪化や国内外の排外主義の高まりなど「現実世界が崩壊」しかけている中で、人間の「想像力」と「希望」が何よりも重要なのだと締めくくりました。

発表を行う前林明次教授
発表を行う前林明次教授

そして、5人目の報告者Dr. Hong JunYuan(映像作家)は、“Artistic Practice and the Intergenerational Translation of Atomic Bomb Memory”と題して、映像作品およびインスタレーション作品「義方」(2024)について報告しました。「義方」は、Dr. Hong氏の妻の祖父である林義方氏の広島での被曝体験と記憶を主題とした作品です。Dr. Hongは、生前家族にもほとんど語られることがなかったという林氏の広島での体験や記憶、そしてその思いを取材や調査を通じて追跡していきました。報告では、その取材および制作過程が紹介され、語られることがなかった戦争の記憶が「真実であった」こと、林氏の体験が「実在していた」ことが作品制作と展示を通じて示されたことが語られました。そしてDr. Hongは、芸術表現が歴史を「再構成」する手段であると同時に、「不在」や「沈黙」そのものを見つめる行為でもあるとし、アートによる戦争の記憶への接近の可能性と困難さについても言及しました。

発表を行うDr. Hong JunYuan
発表を行うDr. Hong JunYuan

また、質疑応答や全体討論では、研究者とアーティストという異なる立場から様々な質問や意見が出され、闊達な議論および異分野交流が行われました。そして、当事者不在の時代において戦争の記憶をいかに語り継いでいくかという共通の問題意識について、学術とアートが協働してアプローチしていくことの重要性が参加者間で共有され、本ワークショップは締めくくられました。