《所長インタビュー》
ブルワー先生、英語論文執筆サポートプログラムを語る
―― ブルワー先生、昨年のサポートプログラム、お疲れ様でした。
ブルワー:非常に充実していて、とても面白かったです。
―― 先生は、英語教育、英語のエディターとして長いキャリアをお持ちです。少しご経歴をお話下さい。
ブルワー:英語の原稿を校閲する仕事は、もう30年もやっています。最初に来日したときは、英語の教師としてやってきました。ところが、質の高い英語校閲に対する需要が高いことがわかり、次第にそれが主な仕事となりました。大学、政府関係、会社のほか、個々の先生方の原稿を校閲してきました。
―― ご覧になる原稿は、専門分野としてはどんな分野でしょうか。
ブルワー:非常に広いです。人文・社会科学が多いですが、自然科学、応用科学の分野も工学から健康科学まで扱ってきました。私の技能というのは、長年の研鑽と実践で培われたものと言えます。
―― なるほど。英国の出版社の仕事もなさったことがありますね。
ブルワー:はい、ロンドンの出版社です。
―― 先生のご経験から見ると、日本人の書き手が英語で書く場合、何がむずかしいのでしょうか。
ブルワー:日本語と英語の文法や構文の違いから困難が生まれると想定なさっているかもしれませんが、そうではありません。知らないことはミスをしても、自分ではわからないのですから。それよりも、言いたいことを言うために適切な語彙を選ぶことがむずかしいと思います。だから、国際的な発表をしようと思うと、質の高い英文校閲が不可欠なのです。
―― 定冠詞の使い方とかでは、ないのですね?
ブルワー:違います。経験上言えるのは、相当に英語に熟達している日本人の方でも、表現したいことを表現するのにどの語彙がもっとも適切なのか、判断がつかないことがよくあることです。特定の文脈でしか使われない単語がありますから、辞書の意味だけではぴったりこないこともよくあります。
―― 論文のような学術的な書き物と、そうでない書き物の違いは何でしょうか。
ブルワー:学術的な書き物は、事実をそれなりに公式の形で、構造性と論理性を備えて表現するものです。そうでない書き物ならば、ニュースの報道などを別とすれば、個人的な表現でいいわけです。それと、学術的な書き物は、それぞれの専門分野のルールや表現方法に合っていないといけません。雄弁な表現とか、長々しい文章などは避けたほうがいいのです。
―― 美文もよくないわけですね?
ブルワー:執筆する方は知識を伝えようとしているわけですし、読み手は英語が母語とは限りません。そうであれば、シンプルで論理的で、真っ直ぐな表現がいいのです。
―― 今おっしゃった読者は英語が母語とは限らないというのは、大事な点ですね。母語の方が読んでもすっとわかるし、そうでない方にもきちんと伝わる表現であるべき、ということですね。
ブルワー:その通りです。自分の考えを論理的に、明確に、直接的に説明することは、完璧な英語を使うよりも効果的なのです。
―― 今の時代は、さまざまな言語文化圏の研究者が交流しますから、ネイティブっぽい表現よりも、文法的に正しくて知識について的確なほうがいいという点は、全く同感です。
ブルワー:学術の世界は、まさにそうだと思います。
―― 英語論文執筆サポートプログラムのお話をお聞かせください。
ブルワー:これはアカデミックな論文などを書くことをサポートするプログラムです。最初は、アジア・日本研究所が新しい英文ジャーナルを創刊するということで、そのために若手の皆さんを支援しようという趣旨で始まりました。
ガイダンスやワークショップをやって、論文の冒頭部分とかを書いていただき、皆さんが共通にどんなミスをするか、冗漫をどうやって避けたらいいかとか、レクチャーします。
その後は、一人一人面談して、それぞれの方の論文をだんだんに適切な表現、正確な文章になっていくようにアドバイスします。
―― 個人指導をするチュートリアルのやり方ですね?
ブルワー:そうです。
―― 参加者は、段階的にご自分の論文を作りあげていくのですね?
ブルワー:はい。このプログラムでやっているのは、文法的に正しい文章を書くだけのことではありません。スポーツにたとえると、それはルールを覚えて、ちゃんとプレーするという段階のことになります。しかし、コーチが教えるのは上手にプレーすることです。私たちのプログラムは、スポーツでコーチが指導するのと同じような効果が出ることをめざしています。
―― 手応えはどうでしたか?
ブルワー:昨年のプログラムでは、参加者の上達ぶりはすごかったです。やりがいがありましたね。
―― このプログラムのメリットは何でしょうか。
ブルワー:アカデミックな論文を書く技術を身につけるということに尽きるのではないかと思います。英語の表現力があがると自信がつきますし、自分の研究を発表する能力も高まり、そうするとキャリアアップにもつながると思います。
―― 今年のプログラム開始に向けて、参加するかもしれない皆さんにメッセージはありますか?
ブルワー:私たちは誰でもミスを犯しますが、ミスをするからこそ、学んで上達します。だから、このプログラムに来たら、ミスを恐れずどんどん書いていただきたいと思います。添削してもらって赤字が入るほど、上達もするのです。
あと、臆せずどんどん質問していただきたいということです。とてもフレンドリーな雰囲気でやっていますから、聞いた者勝ちですよ。
このプログラムは皆さんを助けるためにありますので、是非利用して下さい。待っています。
―― 今日は、どうもありがとうございました。