アジア・マップ Vol.04
巻頭言(Vol.4)
『アジア・マップ:AJI Webマガジン』の第4巻を、お届けいたします。
世界中がこの瞬間も、AI革命のまっただ中にいて、学術研究や教育の分野でもその影響がさまざまな形で及んでいます。とはいえ、この「アジア・マップ」は、実直に、アジアの諸地域を専門とする学術的な研究者がフィールドや原典資料と接して得た知見や、フィールドと接する中でヒューマンマインドが感じ考えたことを報告するというスタイルを貫いて、皆さまにお届けしていきたいと思います。
AI革命が、特に人社系の仕事や研究を便利にする一方、そのような職業がなくなっていくような危機をもたらす、ということを、よく耳にします。仮にそうだとしても、研究という仕事はなくならないというのが、私自身の確信です。AIがすごいのは、人類の持っている「既知」の知識を、少なくともデジタルで捕捉可能な範囲であれば、高速に隅々まで探索して直ちに届けることができることです。しかし、「未知」のものを「既知」に転換して世界に発信するのが研究の仕事ですから、AIがまだ知らないことを知的生産する役割はなくならないだろうと思います。
むしろ、そのような研究の進展を、AIの側でも必要としているわけです。言いかえると、私たちの発信も、AIが捕捉できる情報の総量を増やして、AIのパワーに貢献することで、「時には間違ったことを言う」というAIの精度を高める結果になるだろうと思います。あるいは、そのように人類が持っている「既知」の総量と精度を高めるためにこそ、私たちの研究があるべきなのでしょう。
そのことを考えてみると、そもそも、研究というものはAI以前から、その役割を担ってきました。大学院教育でも、まだ誰も手を付けていない独創的な主題を発掘するよう、指導の先生方は院生さんたちに強調してきました。地域研究でも、「まずは、研究者が誰も行ったことのないところへ行って、誰も知らないことを調べてくるのが、研究のコアを作るのだ」と言われてきました。
そのようなフィールドに出かけることも、そこで暮らして現地の言語で交流し、ヒューマンマインドが発見したり考えたりすることをやがて文字にして発信する、というのは非常にアナログな仕事ですが、発信する段階ではデジタル化しなければなりません。また、文字にする時も、「未知」のものがわかりやすく読者の「既知」になるよう、工夫が要ります。
ということで、「アジア・マップ」は今年度も、自分たちの道を実直に貫き、進んで行きたいと思います。それには何よりも、執筆者の皆さまが、フィールド経験や長年の研究に基づいて、読者の皆さまに親しみやすい文体で、貴重な分析や解説、情報をご提供くださることが肝要ですので、その点で執筆者の皆さまに、幾重にも御礼申し上げます。
また、お読みいただいている皆さまからも、ご声援をいろいろな形でいただいて、編集部一同、いつも励まされております。厚く御礼申し上げます。
第4巻に入った今、これまで順次開発してきた企画やジャンルを練り上げつつ、さらに新ジャンルも考えて、執筆者、読者の皆さまといっしょに、「アジア・マップ」の道を歩んでいきたいと思います。
本誌第4巻でも、皆さまのご支援ご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
アジア・日本研究所長
小杉 泰
(2026/7/1記)