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2025.02.20

【レポート】AJI Global Symposium 2025を開催しました!今年のテーマは中東における紛争と国際政治、増大する移民と寛容な社会へ向けての課題

2025年1月25日(土)、AJIグローバル・シンポジウム2025「立命館発これからの平和創出と私たちの羅針盤:アジア・ 日本研究からの発信」を開催しました。2023年度までAJI年次国際シンポジウムとして開催してきたものを、昨年2024年2月から「AJIグローバル・シンポジウム」と改称して以来、2年目のイベント開催となりました。150名を超える方にご参加いただき、たいへん盛況なイベントとなりました。ご参加いただいた方々に、改めて厚く感謝申し上げます。

AJIグローバル・シンポジウム2025ポスター
AJIグローバル・シンポジウム2025ポスター

現在、シンポジウムの動画を配信しています。2025年3月13日までご視聴いただけます。見逃し配信については、次のリンクよりご登録のうえご視聴いただけます(https://www.ritsumei.ac.jp/open-univ/course/detail/?id=354)。この機会に是非ご視聴ください。

今回は基調講演者として末近浩太先生(立命館大学国際関係学部 教授/RARAフェロー)をお招きし、「中東・西アジアと世界の戦乱がやむ日:平和をめざす3つの視点」と題して、昨今のガザ/イスラエル紛争や周辺諸国(イエメン、イラク、レバノン)における紛争、そして、イスラエル、サウディアラビア、トルコ、あるいはイラン、シリアなどの諸国だけでなく、アメリカとロシアの存在が深く関与している現在の国際政治の陣営対立の構造などについて、その政治的・宗教的・歴史的な背景を含めてご講演いただきました。

末近先生は、UNICEFが発表した統計から2024年が紛争に巻き込まれた子どもの数がおよそ4億7,300万人に達し、人道上、史上最悪の年となった事実、そして、中東地域における紛争状況がそうした人道的危機の中心にあることを指摘するところから説き起こしました。それと同時に、中東諸国の紛争が中東地域のレベルでの対立構造に加えて、アメリカとロシア・中国を基軸とする世界政治における対立構造の深化の中で生じているという背景があります。末近先生から、パレスチナ問題はイスラエルとの対立関係でのみ完結する問題ではなく、以上の地域的・世界的な対立構造の歪みのなかで生み出されていることについて、ポイントを押さえながら、図を交えて、非常に明快にご説明いただきました。

基調講演を行う末近浩太先生
基調講演を行う末近浩太先生

また、以上の構造のもとで再登場したアメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領の政治手法が今後の世界の対立構造に与える影響へも論点が及び、法の支配の弱体化と対立構造の先鋭化の中で、パレスチナやウクライナが大国政治にますます翻弄される危険性についても指摘されました。講演の後半部では、対立関係に張り巡らされた今日の国際政治の状況を緩和する道筋についても議論が及びました。末近先生は、抑止力と法の支配によって対立関係を緩和することと同時に、対立とはそもそも何かを考える必要があることを強調しました。今後の中東情勢と国際政治のあり方を考えるためには、軍事的バランスを追求することや国際法的な規範の遵守の重要性を強調することはもちろん重要です。しかし、それとともに、安易な二項対立のもとで世界を切り取ることを回避することがより重要となります。末近先生は、国家間や国際的な陣営間の関係は二項だけで構成されるのではないこと、つねに、第三項が介入し、複雑な関係を複雑なままで平和的なかたちを追求していく行動と知性が重要であるという非常に興味深い視点を示し、講演を結論づけました。

基調講演に続いて行われたパネル・ディスカッション「急増するアジアの移民と寛容な社会創出の課題」では、アジア各国における移民の増加とそれに伴う政治的・経済的・社会的な状況について、本学の専門家の先生から非常に興味深い研究報告およびディスカッションを行っていただきました。

足立研幾先生(国際関係学部 教授)がパネルのチェアを務めました。パネルの報告者として、村上剛先生(法学部 教授)、辻本登志子先生(国際関係学部 准教授)、本名純先生(国際関係学部 教授)にご登壇いただき、それぞれの専門的知見から日本、韓国、インドネシアにおける移民をめぐる政治や法的制度の現状と課題などについて興味深いご報告をいただきました。

パネルの冒頭で問題提起を行う足立研幾先生
パネルの冒頭で問題提起を行う足立研幾先生

まず、足立先生からパネルの全体テーマに関連して、グローバル化の進展によって急増する国境を越えた人口移動とそれに伴い、受入国において生じる排外主義やポピュリズム的な政治の問題が深刻化していることについて説明が行われました。また、グローバル化を背景に、人口移動によって生じる政治・社会問題に対処し、寛容な社会を創出するための考え方や方法について多角的に検討するという課題に取り組むために、急激な人口移動が生じているアジア諸国をモデル・ケースとして考察することが重要であることも強調されました。

パネルで行われたそれぞれの報告タイトルは、以下の通りです。

・村上剛(法学部 教授):「アジア諸国からの移民に対する日本人の態度と政治」
・辻本登志子(国際関係学部 准教授):「韓国の移住労働者受入れに見る「外国人」と「国民」の権利の拮抗」(*ポスターに表記したタイトルから変更あり)
・本名純(国際関係学部 教授):「インドネシアにおける移民の政治利用」

・村上剛(法学部 教授):「アジア諸国からの移民に対する日本人の態度と政治」
村上先生は、日本における選挙に関わる投票行動やその心理を研究しています。今回の発表では、そうした研究に関連して、日本における選挙と投票行動に対して移民の人々に対するイメージがどのような影響を与えてきたのかについて報告していただきました。報告では、日本において、主要政党は移民を政治的に争点化してこなかったという経緯が焦点化されました。日本国内の外国人労働者の人口比率は、国際比較で見ると、相対的に低いことが知られています。その背景の一つとして、政府が基本的に外国人労働者の受入と定住に対して消極的であったことが挙げられます。

以上の傾向を背景としながら、村上先生は、一方で、主要政党がいかに移民について言及をしてきたのかを調査し、その結果として、主要政党が「移民」を政治的に争点化することに極めて消極的であり続けている状況を浮き彫りにしています。他方で、以上のことは、日本に対する移民に対するイメージや認識が捉えにくいという問題が浮上します。この問題に対して、村上先生は、政府文書や各メディア報道において移民がどのような形で取り上げられているのかを量的・質的に調査するとともに、近年の移民研究において注目されている移民の出身国によって受入国側の人々の移民に対する感情が左右されるとする研究などを示しました。こうした研究を通じて、村上先生の報告は、公的には移民の受入に消極的であった中で、日本社会における移民労働者に対して緩やかに共有されているイメージや傾向をあぶり出すものとなりました。

報告を行う村上剛先生
報告を行う村上剛先生

・辻本登志子(国際関係学部 准教授):「韓国の移住労働者受入れに見る「外国人」と「国民」の権利の拮抗」
今回の報告では、韓国における外国人の移住政策について何が争点化しているのかお話しいただきました。韓国における移民政策は、20年来、雇用許可制という制度に基づいて展開されてきました。本制度は、国内企業に対して労働者不足があるときに外国人労働者の雇用を許可し、それに伴って、外国人労働者の雇用形態について権利保護を含めて定めるものです。しかし、それと同時に、本制度の運用は国内労働者の権利を保護するためになされ、実質的に外国人労働者の職場移動を制限するものとなっており、近年、その矛盾が問題となっています。

報告では、辻本先生は、韓国に移動する外国人労働者の出身国の内訳や就労職種についての近年の統計を示しながら、雇用許可制がそれらの人々の権利保護をどのように認めるように変化してきたのかについて議論が及びました。これまで雇用許可制のもとで権利が制限されてきた問題を受けて、同制度のもとで職場移動の正当な理由(給与支払の遅延や最低賃金以下の労働、ハラスメント、違法な住居の提供など)があれば離職を認めるという進展がありました。しかし、依然として、職場移動の正当性を調査する段階で雇用主の同意が必要など、障壁が残っています。辻本先生のご報告では、以上の問題が生じる背景として、韓国政府が雇用許可制を通じて労働者の権利保護という国際規範を実現しなければならないという要求と、国際競争力を高めるために外国人労働者を受け入れるという利害との間で制度を再編してきた中で、今日の状況に至っている点が強調されました。

報告を行う辻本登志子先生
報告を行う辻本登志子先生

・本名純(国際関係学部 教授):「インドネシアにおける移民の政治利用」
本名先生からは、近年のインドネシア政治における移民の争点化について報告をしていただきました。近年、中国の一帯一路政策を通じて、中国からの投資や経済プロジェクトがインドネシアに進出し、大量の中国人移民労働者が流入しています。また、それによって、現地住民との間で軋轢が生まれることで、反移民感情がローカルレベルで高まってきました。こうした状況を背景として、外国人労働者受け入れに対する反対デモが活発化しています。こうした反移民感情が中央政府のレベルにまで影響を与えるようになっています。

報告では、諸政党(イスラーム擁護戦線〔FPI〕、解放党〔HTI〕など)が反移民を掲げることで支持を拡大している状況について紹介されました。また、2024年に大統領に就任したプラボウォ・スビアント大統領が2019年次の大統領選において、反中国人移民を訴えるかたちで選挙戦を戦い、ジョコウィ大統領に対するネガティブキャンペーンを展開したことについても言及され、そのことがインドネシアにおける右派の人々からの支持を集めた事実が示されました。インドネシアは、国民からの直接投票によって大統領を選出する政治制度を採用しています。本名先生は、こうした政治の仕組みと絡まり合うかたちで反移民を政治的道具として活用する手法が現在拡大しつつあり、それによって民主主義の衰退という問題に直面していることを強調しました。

報告を行う本名純先生
報告を行う本名純先生

各報告は、移民労働者の人々の権利と現地住民との共生へ向けた様々な障壁や課題を浮き彫りにするものでした。各パネル報告の終了後、パネル・ディスカッションが行われました。争点は、今後の受入国側でいかに外国人労働者の権利への意識を制度的かつ倫理的に醸成していくのかが中心となりました。パネル参加者からは、国家間での権利保護に向けた調整、国内的な市民社会のアクターによるファクト・チェックや移民の人々とのコミュニケーションの活発化、国内の選挙制度の再編成の必要性などの角度から、寛容な社会の諸条件について意見交換が行われました。

過去の「AJIグローバル・シンポジウム」のレポートについては以下のリンクからご覧になれます:https://www.ritsumei.ac.jp/research/aji/global/archive/